バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ: 書評
見出し:理系対文系の交わらぬ宴。

ヴィリエ・ド・リラダン著、斎藤磯雄訳『未來のイヴ』(東京創元社)

 この世のものとは思われぬ天上の肉体を持ちながら、下卑た世俗の魂しか持たぬ女性に、赦されたたった一度の恋をした貴族・エワルダ卿が、この恋の悩みのゆえにかつての知人である発明家エジソンを尋ねる。今生の別れの席で、この稀代の発明家の口から飛び出したのは、貴人の恋人から卑しい魂を抜き去り、お望みの肉体と魂を持つ気高き女性を供して見せようという途方もない提案…。
 SF小説とも違い、怪奇小説とも異なり、文学上の哲学的実験のようでもありながら、一歩間違えれば大衆娯楽小説にでもなりかねない、しかしこれは危うい境界線上に、狂い咲きのようにして花開いた、まさしく至高の文学的奇書に相違ない。
 リラダン版メフィストフェレスともいうべき、“架空のエジソン”の才気煥発にして嫌らしいこと(この辺の下りは、史実でもエジソンのライバルであったニコラ・テスラを“メフィストフェレス”に仕立てた映画『プレステージ』の原作『奇術師』との対比も面白いだろう)!!
 “メンロ・パークの魔術師”による人造人間(ちなみに、アンドロイドという言葉は、実はこの作品で初めて世に登場した)の構造の緻密な説明の事実関係を逐一吟味する必要が果たしてあろうか。想像をたくましゅうすれば未來のイヴが疑いなく動き出すことは申すまでもない。そして、延々と繰り返されるのは、理系対文系、エンジニア対詩人の、平行して交わらぬエゴのディスコミュニケーションの披露宴。その果てに訪れるのは、束の間の至福か、はたまた…。
 足音高く訪れた機械文明や技術至上主義への警鐘?貴族社会を浸食するブルジョワジーの権化たる産業社会への、リラダンの捨て台詞か?いやむしろ、構想という死霊に恋した作者の憑かれた執念、自身をエジソンおよびエワルダ卿に重ねながら取る暗澹たる、しかし稀にみる知のシナプスを縦横無尽に巡らせた一人相撲。
 人間の本質は、魂にあるのか。それとも肉体にあるのか。あるいは、その両方を備えなければ、愛し愛されるに値しないのか。少なくとも、結局我々は、飽くまで“リラダンのエジソン”から見れば、この世ではただの人形と戯れ、契っているだけのかも知れない。ともあれジャン=マリ=マティアス=フィリップ=オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン伯爵、負けて悔いなしである。天晴。(了)

著作です: 何のために生き、死ぬの?


未来のイヴ





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Last updated  2008/04/03 09:25:41 PM
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