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カテゴリ: 書評
見出し:若さの残酷に共感できない、という凄惨さ。

レイモン・ラディゲ著、新庄嘉章訳『肉体の悪魔』(新潮文庫)

 若くないつもりでも、瑞々しさを失ったつもりもない。だが、文学にはよむべきタイミングという意味で、“読者の旬”というものがあり得るのだということを久しぶりに味わった。
ラディゲの『肉体の悪魔』を開くのは、15年ぶりくらいかも知れない。久世作品にあてられて、これまた恐いもの見たさのような感覚で久しぶりに手に取ったのだが、やはり、そこに映ったのは、共感はしないまでもどきどきしながら巧みな真理描写を追いつつページを繰ったかつてのあの高揚感を、いまやすっかり失ってしまった私の姿だった。
 月並みな言い方がだが、誰にも訪れるあの不安定な時期だからこそ読めた『肉体の悪魔』。己の内に飼う肉体の悪魔と闘ったいたから、主人公の、マルトの魔性が心で理解できた。作品の中に、曲がりなりにも身を置くことが出来た。それが、今はもうできない。ラディゲ、わずか20年の生涯の中で、その晩年(なんとグロテスクな表現だろう)でありながら同時に、突けば果汁の滴り落ちんばかりに充ちた“悪魔の年頃”であった16歳から18歳にかけて書かれた本作は、読者を選ぶ作品だったのに違いない。
 失いつつ得たものもある。かつてはメインディッシュの添え物としてほとんど記憶にも残っていなかった戯曲『ペリカン家の人々』の、きりりと締まったボリュームの中に詰められた、スリリングでスピーディな展開。そこに、嘲るような怜悧なエスプリが利いて素晴らしい。これは、もしかしたらこの年齢だからこそ珠玉として味わえるようになったのかも知れない。もっとも、これまたラディゲは私の年齢に遠く及ばない若き日にこの作品を遺したのであるから、本人がいかにそうした風評を嫌がろうと、早熟と呼ばずには溜飲が下がらぬというものだ。(了)


肉体の悪魔改版

著作です: 何のために生き、死ぬの? 。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





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Last updated  2008/05/20 01:24:54 AM
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