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2024.12.12
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カテゴリ: 書籍
​​ 「笑いがこみあげる時」 ​​

2019年ごろ、佐藤愛子さんの本が面白く楽しくて、まず書店の棚にある文庫本を買いだめと言えるほど買って、夢中で読んだ。
これは精神病院の閉鎖病棟に数ヶ月入院しているあいだの無聊(ぶりょう)を慰めるために読み始めたのがきっかけで、退院出来たらたくさん買って読もうと期待していた。




特に佐藤愛子さんの本は文春文庫でさえ文字が大きくて読みやすく、裸眼でも充分読めたからなおのこと親しみを持てた。
人は生活に慣れて来ると、気持ちの余裕から、利己的になるものかも知れない。この私がそうだったようで、興味の対象が軍事・外交などに移っていく。軍事のことに興味を持つのが良くないというのではないが、何かそういう勇ましい気持ちが湧いて来てしまうのが、私自身にとっては問題だと思うのだ。

佐藤愛子さんの著書に興じた頃は、オートバイの雑誌、カタログ本を買ったりもして、心が素直だったような気がする。
小心な私にしてそうなので、実業界などで活躍している人は相当な自信過剰と思われる。まあ大ざっぱに言って「押しの強い人」と言えるのだろうが、私のような一介の庶民からすると「あやかりたくなぞない人」となる。

それで、私は例えば訪問してくれる看護師さんに対しても、知らずのうちに己れの主義主張を通そうと意見を述べるようになっていった。
人は存外そんなものだといわれるのかも知れないが、私は必ず後悔することとなる。「何んでまた偉そうな意見を言ってしまったのか」とやや自己嫌悪にもなる。


読書もその一つだ。知らずのうちに軍事・外交に強く関心が向くと、持ち前の保守思想が頭をもたげ、もたげたまま、ある種国粋主義に気持ちが昂ぶって、勇ましい心になり続けていることに気づく。

閑話休題。佐藤愛子さんの著書の一冊にとてもおかしくてゲラゲラ笑いながら何回か読んだエッセイがあるので、抜粋要約してみたい。もちろん、私が笑いころげても、ほかの人にはピンと来ないかも知れず、それは仕方ない。ただ、何ゆえか妙に笑いをこらえようにもこられきれぬほどおかしいことはかなりあると思う。笑いがこみあげる内容は人により異なろうが、もしかすると、たいていの人がおかしがるシチュエーション(局面、状況、場面)などが共通項としてあるのかも知れない。
このおかしさは、私の世代ではクレージーキャッツのギャグが当てはまる、または似ていることもあった。

忘れぬうちに例示してみる。遮断機の降りた踏切で、複数の人が立ち止まり待っているという設定である。そこへ植木等(うえき・ひとし)氏扮する派手な衣装の男がダンスを踊りながら皆の前に近寄って、上体を後ろにそらせて、遮断機をくぐり始める。皆々、怪訝そうに見ていると、植木氏がせきたてて皆にもリンボーダンス遮断機くぐりをやらせようとする。

何人かが植木氏にならって遮断機をくぐるうち、ハッと我れに返ったように、とがめる顔つきで植木氏を睨む。悪ふざけをとがめられたと気づいたか、植木氏が「あ、これはお呼びでないね。お呼びでない。こりゃまた失礼しました」とあやまったあと、皆ハラホロヒレハレと妙なセリフを言うか、「アーアー・・・」と力が抜けてふらふらになるかしておしまいである。

この『お呼びでない』は、毎週ほとんど私たちを裏切ることなく優れておかしく、私は兄と一緒になってバカ笑いして、楽しんだものだ。
さてそろそろ佐藤愛子さんの著書の内容に入る。




では以下抜粋要約。
『老い力』「何がおかしい」より

◆テレビのお笑い番組を見ていると、わーッわーッとさもおかしそうな笑い声が入っている。番組によっては盛り上げるためにわざと笑い声のテープを挿入したりするようだが、わざとの挿入ではない、ということを示すために笑っている観客を映し出している場合も少なくない。

なにがおかしい ! という気分である。私はちっともおかしくないのだ。こんなわざとらしいギャグ、おふざけになぜ笑えるのか、ふしぎでならない。皆が笑っている前で、ひとりムッと坐っているというのも、なんだか妙なものだ。



バスは商店街を出外れると、いきなりグーッと右折した。それに従って乗客たちはまるで申し合わせたように一斉に左に傾く。運転手はさっきの口喧嘩のために機嫌を悪くしているらしい。曲り道に来ると急激に、エイッとばかりにハンドルを切るのである。しばらく真っ直ぐに走ったら、バスは急に左折した。乗客はまた一斉に右に傾く。次は右折、左に傾く。運転手を怒鳴りつけた老人は怒り顔のまま。おしゃべり小鳥さんは囀(さえず)りつづけたまま。金色のウニ頭、部分カツラのおじさん、セットしたての二人の中年婦人たち――マスゲームさながら、一様に右に傾いたり、左に傾いたり。運転手自身も傾きながらハンドルを切っている。

私のミゾオチの下の方に、ポツンと一粒のアブクが浮き出た。と思ったらそのアブクはプクプクと上ってきて、のどの下あたりでパチンと割れたと思ったら、笑いの輪が広がった。何ともいえない、いうにいえないおかしさがきた。思わず「ふフッ」と笑いが洩れた。
何がおかしい、何もおかしいことはない、と自分にいい聞かせるのだが、笑いはやまない。誰も笑っている人はいない。みんなマジメに(運転手の怒りに従って)右に傾いたり左に傾いたりしている。
私の肩は小刻みに揺れはじめた。

何がおかしい、何もおかしいことはない。そう思えば思うほどおかしさがこみ上げてくる。笑いと闘いながら私も右へ傾いたり左へ傾いたりしている。それがまたおかしい。


あんなに困ったことはなかったと人に話したら、その人はポカーンとして、「それ、どうして ? なぜおかしいの ? 」という。
「どうしてといわれても・・・・・」
私は絶句した。
「わからない ? おかしくない ? 」
としかいえない。
「わかんない。説明してよ」
「だからねえ、つまり・・・・・」
いおうとしたがいえなかった。
ユーモアは説明するものじゃない。感じるものなのだ。感じる人もいるし、感じない人もいる。感性の問題だ。名人落語のおかしさは洒落(しゃれ)やオチにあるのではなく、噺(はなし)の「間(ま)」に潜んでいるおかしさであろう。それは感じるものであって「わかる」ものではないのである。だから「ユーモアって何ですか ? 」と真顔で質問し、真顔で答えている人を見ると、私は笑いたくなる。

四十五年前、父の葬儀の時のことだ。寺の本堂での読経の真っ最中、私は突然笑いがこみ上げてきて閉口した。私が坐っている遺族席の前に、一人の若い坊さんが太鼓の前に坐っていて、読経につれて叩きながら、時々、叩くのをやめてお辞儀をする。それまで私はハンカチを目に当てて父の死を悲しんでいたのだが、涙と涙の間にふとその様子が目に止ったのだった。
太鼓は坊さんの膝(ひざ)の前にある。そこでお辞儀をすると、坊さんは頭で太鼓を叩くことになる。あっ、ぶつかる ! と思った途端、坊さんの頭はスイと太鼓をよけて右の方へ低頭した。
読経と太鼓はつづき、またお辞儀の時がくる。また坊さんの頭はスイと太鼓をよけて右へ向く。
その時私は姉が隣でハンカチを握りしめ、肩を慄(ふる)わせているのに気がついた。
顔を見ると真っ赤になってこみ上げる笑いを怺(こら)えている。まことに人間は泣きながら笑える高等動物であることを私は身をもって知ったのだった。◆
以上抜粋要約。まことに独断勝手ながら、佐藤愛子さん、ありがとうございました。

〇引用文献〇
文藝春秋刊、佐藤愛子さん著『老い力』(文春文庫)





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最終更新日  2024.12.12 18:58:15コメント(0) | コメントを書く


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