ドラキュラ - コッポラがゴシックホラーを格調高い演出で一新 | ある偏狭な音楽的映画レビュー

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2013年02月07日

ドラキュラ - コッポラがゴシックホラーを格調高い演出で一新

(6)

カテゴリ：洋画

コッポラがゴシックホラーを格調高い演出で一新
ドラキュラ
BRAM STOKER'S DRACULA

1992年 127分
■ 監督：フランシス・フォード・コッポラ
■ 出演：ゲイリー・オールドマン、ウィノナ・ライダー
アンソニー・ホプキンス、キアヌ・リーヴス

- リクエスト作品レビュー -

開設1周年で募集しましたレビュー・リクエスト第２弾としまして

今月はeternal200177 さんがリクエストされました
『ドラキュラ』『フランケンシュタイン』にお応えしまして、

1992年に巨匠フランシス・フォード・コッポラが格調高く制作した
本作をご紹介したいと思います

なし崩し的に月一特集となりましたご容赦下さい(爆)

トム・クルーズ、ブラッド・ピット主演で映画化された

『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のヒットが記憶に新しいですが

最近の『トワイライト』シリーズの大ヒットで全米の欧州吸血鬼ブームが文化として
日本でも認識されるようになりました

このイケメン、美女たちの饗宴による倒錯的で官能に満ちた魅惑的なヴァンパイアは
今もなお人々を引き付きて止まない欧州怪奇伝説の崇高な様式に満ちています

歴史伝統に深い欧州に対するアメリカ人の憧れが形となった一つと言えるでしょう

この様な伝説がブームになる背景には一つには政治、社会不和があり
歴史から学ぼうとする社会の自然な動きに呼応した
社会現象の一つと捉える事が出来ます

日本でも事ある度『武将歴史ブーム』が起こる理由と似ていますね

しかし、どの熱狂的ブームもそうである様に多くは表面的魅力が話題になるだけで

『本質』はスルーされがちです

また、伝説を信じる一部の人達にとっては本質を探るような『ネタバレ』とも言える行為は
伝説の持つ高貴な気高さが失われるとして暗黙的なタブー事項でした

伝説と呼ばれるものの殆どが現代医学で解明出来るものである事を知っての事ならば
尚更でしょう

棺に入れた死体が生き返ると言うのは
神経症の患者を仮死状態で死亡したと誤診した結果と考えられますし

日光を嫌うという行為も光に当たると組織が壊死するという症状が
代謝異常症の患者に見られる反応に合致します

いくら過去の人々が病気に無知だったとしても
多くの場合人が衰弱していけば当然そういう難病だと捉える所と思われますが

その人物の生まれや育ちに不遜な点があった場合など
宗教的、一般的なタブーに当てはめて死後怪異すると考えられていた様です

その様な根拠なき迷信が人間が死後怪異するという恐怖で増長され
怪奇現象という形で伝説として拡がって行き

様々な形を通して怪異が語られて来た結果残されたのが
現代の怪奇伝説だと言えるのでは無いでしょうか

過去において欧州のホラー伝説とは未知のモノに対し
誤認と恐怖が創りだした思い込みが具現した姿そのものだと言えるでしょう

-STORY-

15世紀。神の名のもとにトルコ軍と戦うトラキア王ドラキュラは
勝利と引き換えに最愛の妻を失う

神の仕打ちを呪いながら悪魔へと身を落としたドラキュラは
それから3百年後トランシルバニア城にやって来た弁護士ジョナサンの婚約者で
最愛の妻に生き写しのミナを我がものにしようとする

-解説-

今回の映画化は、原作に忠実な映像化を目指しただけでは無く
92年公開時の最新の特撮合成技術を全てキャンセルして

1900年当時の視覚効果だけで出来る映画創世記の精神を大事にした
古典的撮影法を使用した意欲作でもありました

コッポラが映画に求めていたビジュアルは『影と錯覚』で
スタッフにはそれにつぎ込む『労力とイマジネーション』を求めました

例えば、列車の車内から見える外の景色は合成されたものではなく
窓の外に張られたスクリーンに映し出された背景を

全てインカメ (カメラ内合成) で撮影したものです

所々で見られる人間の動作では無い異様に感じる映像も
動作を逆に演じて逆回転で撮影する事による初歩的な映像効果によるもので

オーバーラップや2重露出の他は一切の合成を使用しない
舞台劇を演出する要領で撮影された作品である点が本作の大きな特徴と言えます

コッポラがこの様な撮影に望んだのは

既成の怪奇映画での原作小説の設定を好き勝手に変えて
恐怖を見世物の様に描くやり方に違和感を感じたからで

ドラキュラを血を吸う怪人では無く史実通りの悲劇の英雄として
ロマンティックで英雄的な、魂を失った男として描く事を決めたと言います

作品は宗教戦争に準する英雄のドラキュラが結果その為に妻を失った事で
堕天使ラファエルの様に暗黒面に堕ちて行く衝撃的場面から始まります

従来の怪奇映画には無い
善悪が存在する重厚なシェークスピア悲劇の様式が全編を覆います

本作の重要な要素のドラキュラの妻と生き写しの女性ミアとの悲恋は
純愛として描かれました

元々ホラーである本作にロマンティックで悲しい恋を際立たせる為に
コッポラは普段あまり演出しない

官能的で劣情に満ちた情熱だけで突き進む男女の情欲や
おぞましい程の欲情に満ちた場面を導入する事でその対比として

ドラキュラの悲恋を純粋なものとして浮かび上がらせました

ドラキュラ映画に付き物のドラキュラ退治の専門家であるヴァン・ヘルシング教授は
本作でも同様にドラキュラと対峙しますが

旧作でピーター・カッシングが演じた気品ある吸血鬼ハンターとは違い
『羊たちの沈黙』のレクター役でブレイクしたアンソニー・ホプキンスが演じる
猛獣狩りをする屈強で偏狭な男として描いています

ドラキュラ映画の中で固定されたキャラクター達のイメージを拭い去るような
独自の人物像を創り

ドラキュラは男でも女でも老人でも若者でもない官能的で異質な
何者か分からないものとして

人間側を熱病に取り憑かれた吸血鬼刈りに没頭するものとして

本作が従来の勧善懲悪を描く娯楽作では無い
原作に忠実な映像化を目指しました

本作の独特のビジュアルを構築したのは本作でアカデミー衣装デザイン賞に輝いた
石岡瑛子で、その活躍は衣装のみならず多義に渡り

コッポラ作品の『地獄の黙示録』日本版ポスターを手がけるなど
優れた視覚デザイナーとして活躍していました

コッポラは彼女に衣装デザイナーとしてだけではなく、全体の視覚的コンセプトを
決める事も求めたと言います

あらゆる象徴的絵画を見せて特にクリムトの『接吻』を指さしながら
これがドラキュラのイメージと説明したそうです

また、コッポラは『衣装をセット、セットは照明』と比喩してコンセプトを説明し
衣装を中心にセットはシンプルにして室内には想像を掻き立てる様な影を作り出して

キャロル・リード作品に近い画面を目指し衣装を際だたせる事を試みました

こうしてクリムト的な東洋的味わいを持った西洋絵画を観るかの
不思議な印象を持つ観客を異質な世界へ誘うビジュアルが誕生しました

コッポラはインタビューで
『この作品は、神の究極の責任と人間と神が変わる誓約についての話だ』と

『地獄の黙示録』の時に描いたアメリカ人が触れたくない事実の
続きをやっているようにも感じる言葉を残していますが

この年のアカデミー賞に輝いたそれぞれの作品を見ると
『許されざる者』の西部劇に『クライング・ゲーム』の欧州勢
『アラジン』のアニメーションなど、

映画史の伝統と技術を重んじた中での作品選びだった様にも取れる事から

廃れた技術を廃棄し同時に技術者のリストラを敢行する事で
技術が他国に流れ近代化を目指した代償に社会的な根無し草と化した当時のアメリカの悩みを

ハリウッドが象徴するような賞レースに見えるのは非常に興味深い事だと思います

ドラキュラ大好き少年だったコッポラが描いた
懐古趣味が花開いた魅惑の舞台劇が本作でしたが

MGMスタジオは古典映画の名門でその場所で当時の技法を忠実に再現した本作は
歴史や伝統、古典映画に対しても、時代と共に消えて行った技術の数々に対しても

最後のきらめきとなる作品と言えたのではないでしょうか。

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