2013.09.23
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カテゴリ: 音楽のある日
どう書こうかと迷っているうちに、随分と時間が経ってしまいました。仕上がったのは12月22日で、3ヶ月も更新が滞ったことになります。でもこの記事は、画像も無いし伝えるのが難しい内容ながら、きちんと纏めておきたかったのです。

キザコ というのは、Stuttgart に住む古い友人。欧州方面で演奏活動を続けてつつ、 Musikhochschule(音楽大学ですね)で後進の指導もしています。日本に戻って来てリサイタルを開くことも、不定期ながらあります。歌は言うまでも無いけど、プログラミングが素晴らしい(興味のある方は、私のブログのバックナンバーに紹介してある筈なので捜して下さい。)ので、毎回楽しみにしているのですが、今年は気楽な里帰りということでステージの予定は無し。でも、マスタークラスをやる予定があるというので聴講に出掛けました。

こういうレッスンは、実はとても面白いものです。舞台での演奏を見る and/or 聴くのは楽しいけれど、それを作りあげ、仕上げて行く過程であるリハーサルは実演以上にスリリングだったりします。それと同じように、レッスンを通じて、素材としての歌と歌い手から指導者が何を引き出して行くのか、その過程の中で生徒の側が何に気づいて何を手にして行くのか、その現場に立ち会えるというのは、ある意味では仕上がった演奏を聴くよりも、ずっと幸せなことだったりする。

さて、この日のレッスン、生徒は3名、そのレベルはまちまち。取り上げられた曲はSchubert, Schumann, Strauss というドイツリートのメインストリームの曲達。実は有名すぎて、キザコが自分で歌う機会は少ないのではないかと思われる曲です。さて、そういう条件で、キザコがどんなレッスンをするのか、興味津々。

見たところ、キザコのレッスンには概ね3つのレイアがあると思います。ひとつは発声と歌唱の基礎の部分。例えば、自分の身体をパイプに見立てて、その軸上で響きが作れるのが良いとか、母音で音楽の流れを作って行って、子音はそこに引き寄せて発声するのだとか、まあ、この辺りは他でも言われることではあるけれど、第一線の演奏家として実践して来た人から言われると重みが違います。生徒達にも短い時間で浸透して、みるみるうちに声が変わって行くのがわかる。まあこういうのは言われて出来るというものではなく、試行錯誤しながら身につけるしか無いけれど、それが出来れば「ドイツリートをやると発声が悪くなる」というような俗説は誤りだという事はよくわかります。

次のレイアは歌詞の解釈と、それに伴う曲の作り方。例えばGretchen am Spinnrade (糸を紡ぐグレートヒェン)。これはそもそも暗い曲なのか?とキザコは問います。実はそうじゃない。初めて恋心を抱いて、自分の心の動きが理解できずに呆然としているグレートヒェン、思わず窓の外に彼の姿を探し求めつつ、でも糸車を回す手は無意識のうちに動かしている。そういう経験は誰でもあるでしょ?それは決して暗いものでは無い。(後に破局が待っているとしても。)グレートヒェンの心の動きをキザコは的確に解説し、それに応じた歌としての表現も示して行く。

そして3つめは、日本とドイツ(あるいは広範に捉えて、西洋と言っても良いかもしれない)の文化の違いと、そこから起こる人の行動の違い。Liebesliedにおける「私の心が私に命ずる」という表現と、その心に命じられて思う人に近づいて行く女性が、ふと我に返って驚く時のアクション。これを歌いながらのロールプレイとして体験させることによって、日本文化の中で育った者にはわかりにくい何かが、彼の国にはあるのだということを生徒に気づかせる手際!これを歌ったのは次の週からベルリンに留学するという女性で、曲は歌い込んで声もよく出ていましたが、このようなレッスン(そして求められたアクションが実現出来ないこと)はおそらくショッキングなものだったでしょう。でもこれは、起こるべき事が起こるべきタイミングで起きた、彼女にとってはこの上なく幸運な体験であったと私は思う。歌い方だけでなく、声に頼って歌いすぎる印象があった彼女の表現がすっきりと整理されて、声自体も随分と魅力的なものに変わりました。「情報は幾らでも手に入る時代だけれど、人がどのように暮らして、何を感じているのかは、行ってみないとわからない。それを体験できるのが留学だから、楽しんで行っていらっしゃい。」というキザコの餞の言葉が、彼女には浸みたと思われます。

と言うわけで、このレッスンは、見ている and/or 聴いている私にとっても心豊かな時間でした。芸大で学んでいた時代には、飲み会で「鬼のパンツ(例のフニクリ・フニクラの替え歌です)」を歌うようなお茶目な女の子(その当時も大変魅力的だったけれど)だったキザコが、何十年かの時間を経て様々な人生経験を積んだ上で、深みのある音楽を表現するだけでなく、その奥義を後進にシェア出来るだけの実力を持った人であることはとても嬉しいし、そういう素敵な女性と友達でいられるということを誇りに思います。次のチャンスがいつになるかはわからないけど、彼女が日本に来てリサイタルをする時には宣伝をすると思うので、是非聴きに来て下さいね。





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Last updated  2014.01.03 19:51:32
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