Nij

2007.03.30
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カテゴリ: 短編小説



暖冬ではなく、きっと春のはじめあたりに本格的な冬が来ると思っていた。そして過去の記憶を凍らせてくれると、そう信じていた。それでも雪は降っていない。それどころか目がチカチカするほどピンクの桜並木が、色を失くしたはずの世界を彩っていた。皮肉にも開花が早まったのだ。僕は路上のボコボコになったビールの空き缶を思いっきり蹴飛ばそうとしたけど、空振った。やりきれなくなって思いっきり踏むと、かかとの骨が死ぬほど痛かった。しかめた顔に心地よい風があたって、なぜだか自分だけが恵まれていないような少しずれた劣等感が背中をぞわりと撫でた。




甘い飴玉を吐いた。車道に転がると都合よく大型の車が来て、気持ちよく粉々に壊して行ってくれた。そうだ、現実もこうでなきゃ。


僕はまだ春を迎える準備ができてない。あと一週間ですべてを吐き出せ?無理に決まってるだろう。第一それを試みる能力すら今の僕にはないというのに。新しい希望と光と若い力を心にしまうには、奥のほうに詰まっている埃をかぶった古くて無駄でただ重いだけの思い出と呼べるほどきれいじゃない記憶を捨てなければならない。躊躇っているのか?そうかもしれない。できない、のではなく、しないのではないだろうか。そう考えると自分がとんでもなく愚かに思えそうだったから、やめた。僕は許されないのだ、過去という退屈をドブに放ることを。


影が重たいと思ったことはあるだろうか。僕はある。確実についてくる同じ歩幅と恰好悪くはねた髪の毛を振り放そうとするのは無駄だとわかっているから、人は影を重たいものと思わないのかもしれない、少なくともそれにはしっかりと意思と重さがある。確かに、それがあるからこそ人間は考え、生き、死ぬことができるのかもしれないが、しかしそれを考えても、僕はどうしてもこの影という影なる束縛からいち早く逃れたいと思うのだ。






夕日がいつまでたっても沈まないのを見ていると、僕は今日も頭が痛くなる。





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最終更新日  2007.03.30 18:12:36
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