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結構いろいろと苦労しました、このサイトのデザインには。まずいくつもの構想を紙に描いて、厳選した3つをパソコン上で描いて雰囲気をチェックして、一番良かったものを選んで、今度はそのひとつに集中して色合いを考えました。それから細かい画像のデザインをして、それを作って、メモ帳でタグを使ってそれぞれをつなぎ合わせました。ここで随分と苦しみました。横の端を揃えるには手動での調整が必要だったし、いくつものテーブルを重ねるとこんがらがりました。そして出来上がって、さあ楽天に移そう、と貼り付けてみれば、またまた大誤算。使えないタグやら楽天のややこしいタグ規制のためにずれが大発生。もううだうだ言いながら受験勉強そっちのけで頑張ってました。そして完成したこのデザイン、しかし、このデザインとも、今日でお別れです。いやもうやめ(この卒業式みたいな文体キモいしなんか、うん(とにかく移転します。更新頻度が低下している中で、ここまで重量なサイトをやってくのは結構無理があるので、見た目にも「あ、面倒くさそうだな」っていうサイトを作りました。コチラ。また楽天です。シンプルなサイトには最適な楽天。どうぞこれからもよろしくお願いします。(できればリンクどうぞよろしくb)イス川
2007.08.18
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1.シャワーを浴びる2.着替える3.顔を洗う4.コーヒーを作る5.トースターに薄めの食パンを2枚入れる6.食べる7.飲む8.スニーカーを履く9.外に出る10.公園を横切る11.猫とすれ違う12.飛行機を見上げる13.ポケットに両手を突っ込む14.自販機でコーヒーを買う15.半分だけ飲み、コンビニのゴミ箱に捨てる16.別ルートで家に向かう17.ふと思いついて細い路地に入る18.見慣れた道に出る19.君の家の前にいる20.君はもういない
2007.08.09
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どうもお久しぶてぃ、あ。どうもおひたし、あ。どうもお久しぶりです。ニャマムギニャマゴメナマクビ。生首。イギリスで勉強も忘れてバカンス気分です。イス川です。最近は悪いニュースばかりが僕のことを苦しめていますが、昨夜、たったひとつだけ良いニュースが僕の耳に飛び込んできましたので、テンション102%でお知らせいたします。182.5cmに身長が伸びました。ついに目標達成です。もう何もいりません。報告でした。追伸:体育祭の騎馬戦で、クラス代表の一番上の人に選ばれました。ごめんなさい。
2007.08.08
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波打ち際は、まるで地球におけるすべての呼吸という呼吸が一気にダウンしてしまったかのような静けさだった。海は平和だった。「夏になるとさ、腹のあたりが疼くんだ。なにかが震えるんだ」と僕は言った。それからこめかみを右手の親指と中指で押さえて(偏頭痛持ちの僕の癖だった)、浜の砂を蹴とばした。その隣にはトカゲがいた。彼は常用の真っ赤なキャップのつばを頭の後ろにずらして反対向きにかぶりなおすと、シャツの半袖を肩まで引っ張りあげた。地球は青い。それを事実として証明できるだけの要素が今の僕らの視界にはあった。海と空と砂だけだ。波に沿って歩いている僕らの前方には、かすかに赤く光るビーチパラソルが点々と光っていた。「それはお前にいったいどんな症状をもたらすんだい?」とトカゲは言った。僕は腹のあたりをシャツの上からギュっと握り、確認すると答えた。「そうだなあ、なんて言えばいいんだろう。強いて言えばそれはまるでアルバムみたいなものなんだよ。ある種のね」「まるで映画の名シーンを集めたようにね、見覚えのある光景と音が頭の裏側をゆっくりと走って行くんだ。カサついた音を背景に、僕の無意識にめり込んでくるんだよ」トカゲはほお、と言うと煙草を取り出した。僕は100円ライターで彼の煙草に火を点けた。「そりゃ、夏虫だな」彼は煙を吐くとニヤリとしながらそう言った。「夏虫っていったいなんだい?」ビーチサンダルの中に熱い砂が流れ込んでくる。僕はそれを受け入れた。サンダルで揺れる砂もまた、時の流れる早さを教えてくれる粒子状のアルバムのようだった。「夏虫ってのはな」とトカゲは言った。「名の通り、夏になるとやってくんだよ。花火を見たり、波の音を聞いたりすると、そいつはお前の頭の中に現れる。ソースはないんだ。いきなりポッ、と現れる。足の親指ぐらいな大きさだ」僕は右足の親指を見た。砂が絡んで、それは時の歪みに巻き込まれていた。時間は感情や思考なんかよりもずっと速く足を進める。「そして蝕むんだ。無意識の中に入り込んで、現在にいるお前の現在的な存在感を濁す。それからメロディーを流す。懐かしくてコーヒーの匂いのするメロディーを、だ。そのメロディーを発するとき、夏虫はほかの虫がそうするように体を震わす。それがまあ、お前の言ったいわゆる疼きだな。それはあまり愉快なものじゃない、そうだろう?」「うん、それは愉快なものじゃない。生まれる前の音楽をボロボロのLPで聴くようなもんだよ」と僕は言った。僕は煙草を咥えて、火を点けようとして、やめた。「オレも昔はあったよ」とトカゲは懐かしむように目を細めて、煙草の灰をぽんぽんと落とした。「あれは愉快なものじゃねえ、結構長い間にわたって苦しむことになるぜ。それでもオレからは、いつしかいなくなったな。今だって夏虫のもたらすあの虚しい空腹感はちっとも感じねえ。煙がうめえ。満腹だぜ」僕はトカゲの腹の中でぐるぐる回る煙を想像した。僕は我慢しきれず、咥えていた煙草に火を点けた。「ねえ、どうしたら夏虫を追い出せると思う?」と僕は煙草を咥えたまま尋ねた。「なんだって?」「どうしたら夏虫を追い出せると思うかい?」と、僕は右手で煙草を口から離して、もう一度尋ねなおした。「どうだろうねえ」トカゲはそう考えるふりをしているかのような表情を浮かべ、随分短くなった煙草を砂浜に落して、サンダルの裏でぐりぐりともみ消した。微かなヤニの匂いが潮風と一緒に前髪を流した。「きっと気持ちを整理することが大事なんだな。過去を忘れることは絶対にできない」彼はあくびをした。それから大きくくしゃみをした。「それにしても暑いな」「どういうことだい?もっと細かく知りたいな。しかしそれにしても暑いね」僕はあくびをした。あくびは移るんだね。実に愉快だよ。汗が気持ち悪い。トカゲは僕のあくびを見て、声を立てずに楽しそうに笑った。「どういうことかというとね、きっとお前の中ではなんとなく過去と、それから今も続いている現在の世界が混ざっちまってるんだ。そうすると、現在の時間にいたとしても、たまに過去の時間にいたお前が入り込んでくる。それが夏虫さ、これはあまりにもつまらないメタファーだけどな」そういうと彼は水平線の方を見た。やんわりとオレンジに染まりかけている空と、それを朗らかに跳ね返す海がそれぞれを気遣いあって、どんな糸よりも細くて繊細な線が、空と海とのはざまに薄っすらと横たわっている。僕は煙草を足もとに落して、火を消した。夕日の下をくぐりぬけてきた少し早めの夜の風が、皮膚の上にしがみついた汗の膜を少しずつ癒やすように剥がしていく。ふいに煙草と音楽が欲しくなった。でも、今日は煙草はもうやめだ。家に帰ったら音楽を聴こう。チャーリー・パーカーあたりなんか、こんな夕方には最適かも知れない。「いいか?」とトカゲは思い出したように言った。「しっかりと気持ちを整理するんだ。1年前のお前は1年前の箱に詰める。2年前のお前は2年前の箱に詰めて、そのむこうに置くんだ。しっかりガムテープで封をして、1年前でも1年後でもない時間を、お前だけがしっかり過ごす。侵入者を認めちゃいかんぞ。お前にお前はひとりだけだ」僕はこくり、と、足の親指ぐらいの大きさで頷いた。「わかったよ」僕は家に帰って、チャーリー・パーカーを聴きながら、脳みその中をしっかりと洗浄した。過去を忘れることは絶対にできない、とトカゲは言った。そのとおりだ、と僕は思う。しかし忘れられないからと言って、それに惑わされたまま今を生きてはいけない。僕はそれぞれの時の僕をそれぞれの箱に詰めて、封をして隅っこに置いておくんだ。***「夏になるとね、お腹のあたりが疼くのよ。なにかが震えるの」と彼女は言った。それから眉間を右手の親指と人差し指で押さえて(目の疲れやすい彼女の癖だった)、浜の砂を小さく蹴とばした。その隣には僕がいた。「それはきっと、夏虫だぜ」と僕は言った。それから水平線を眺めた。僕でしかない僕が、しっかりと今の砂浜を踏んでいる。彼女は首を傾げた。「それにしても暑いね」と、僕は煙草に火をつけた。
2007.07.22
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井戸の向こう側に沈んだ少年の話を書こうと思う。少年は実に勇敢だった。何十年か昔のことになるけれども、アフリカのある砂漠で、井戸が見つかった。煉瓦で丸く整えられたきれいな井戸だ。井戸のあるあたりは常に風が吹きっさらしになっていて、ほかのどこからも隔たりを持った誰も住んでいない土地だった。どんな学者にもそこにどうして井戸があるのかもわからなかったし、それにその井戸は限りなく深かった。何人かが井戸の探検に挑んだけれど、どれだけ命綱を長くしたところである一定の場所まで行くとどうしようもない劣等感や空腹感に襲われるのだという。それによって誰もが井戸から押し出されるような形で、唸りながら地上に戻ってくるのだ。井戸が発見されて1000日あまりたった頃、そこをある少年が偶然通りかかった。南の方から来た、右手の小指のない少年で、彼は彼が誰であるか知らず、彼が誰の子であるか知らなかった。彼は16歳だった。僕は昨日生まれた、と彼は額に流れる汗を真っ黒の袖で拭いながら言った。少年はどうしてこんな広大な砂漠に学者たちがいるのか不思議がったため、ある学者が井戸のことを教えた。すると少年は僕が潜ってみますよ、と言った。学者たちは目を丸くして少年を見た。「君にできるのかい?危険だよ。君が思っているほど簡単じゃない」「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」少年はそう呟くと学者に縄を頼みます、と残して井戸に潜っていった。少年は小柄だったため、スムーズに下へ下へと下りて行くことができた。それまで井戸の探検に挑戦した人は、太陽の光が見えるうちに例の巨大な黒い感覚に耐えかね、上に戻るというパターンが全てだったけれど、彼はその光が点よりも小さくなって、ポコリと音を立てて消えるのを見届けた。深くまで来たな。そう呟くと静かに流れる地下の湿気を肌で感じた。少年は光を見失ってから間もなく、横に続く穴を発見した。さらに下まで行くか、それとも横に行くか数秒迷い、彼は下に続く穴よりも随分広い横に続く道を選んだ。どれほど歩いただろうか。3時間かもしれないし、3日間かもしれないし、3年間かもしれなかった。少年の腕時計は止まってしまっていた。不思議と彼はほかのだれもが経験した粘り気のある毒々しい不信感を抱くことはなかった。代わりに心地の良い薄い膜が彼をある種の空気として包んでいた。あるいは少年はその膜によって、自己に対する嫌悪感から守られていたのかもしれない。そのためか、彼は少しも空腹感や疲労感というものを感じなかった。不思議な力が少年を包んでいた。やがて、彼は上に続く穴を見つけることになる。さて、僕はどうして今まで歩いてきたのだろう、上に戻ってしまうなんて。と少年は考えたけれど、もともと探検の目的は井戸の下がどのようになっているか知る、というものだったし、今さら分岐点まで戻って、さらに下に行く、というのも面倒だった。そんなことを座り込んで考えた末、少年は上を目指してのぼりはじめた。のぼりはじめてから地上の光がリコポ、と現れるまで、そう時間はかからなかった。少年は光を見つけると喜び、スピードを上げてのぼり続けた。体中汗だくで、彼を包んでいた不思議な膜は徐々に剥がれていった。少年は地上につくと、すぐさま周りを見渡した。砂漠ではない。そこにはかすかに文明のあとが残っていた。上半分がもがれたビルやら、永遠に息を吹き返しそうにない、斜めに立った電柱やらが揺れていて、霞みはじめた若かりし頃の記憶のような風が吹いていた。「やあ、いつ振りだろうね、君を見るのは」という声が聞こえた。少年は周りをぐるりと見て、それから頭上を見上げた。空には、死にかけて濃いオレンジ色に変色した巨大な太陽がうなだれていた。「ちなみに、僕は風だ。あるいは太陽の代弁者、かな」と風は言った。「いったい、何がどうなったんだい?」と少年は空に向かって尋ねた。まだ息が切れていた。一気に空腹感と疲労感が襲ってきた。「あと200年で太陽は爆発するよ。ポコリ、パチン…OFF、ってね。200年ってのは、簡単にいえば大した時間じゃない」風は答えた。「どうしてそんな急に…?」と少年は力のない声で尋ねた。風はなぜそんなことを聞くんだい?といった色をした声で言った。「急なんかじゃないさ、君が地面の奥底を歩いている間に3億年が経過していたんだよ。光陰矢の如し、ってね。君の歩いてきた井戸は、時間の歪みにそって掘られていたんだ。だからね、僕らの、もちろん君も含めてさ、僕らの今いるところっていうのは、時間と時間の間なんだな。ここでは何も変わらない。宇宙的には変わるよ?太陽は爆発する。それでも僕らには生もなければ死もない。風だ」「質問してもかまわないかな」少年は言った。「ああ、問題ないよ」「君は何を学んだ?」「悪くないね、そういう質問」そう言うと風は黙り込んだ。少年は弾がひとつだけ残っている古ぼけた銃を3億年ぶりにポケットから取り出すと、こめかみに銃口を当て、引き金を引いた。ポコリ、パチン…OFF、ってね。
2007.07.15
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夕日の方角に僕は彼を見つけた。背中には夕日が差していて、ひどく汗ばんでいた。右側には古びた線路があって、僕と彼をつないでいた。まっすぐ、ひたすらまっすぐにそれは夕日の向こうへと続いていた。隣町の高いビルの影がかすかに見えた。僕はオリビア・ニュートン・ジョンのアイ・オネスティ・ラブユーを口笛で奏でた。彼には聞こえてなかった。ぐっしょりと濡れた背中が追い風に冷やされて、僕はあることに気がついた。僕は彼を追わなければならない。一刻も早く彼に追いつかなければならない。おそろしく大きな喪失感を思い出した。まるで腹に大きな穴がぽっかりとあいたような気分だった。僕は慌てて駆け出したけれど、走るのは難しかった。というのも僕はサンダルを履いていたし、走ると腹の穴を風が通り抜けて、ヒューヒューと音をたてた。その音が鳴るたびに僕は無力感をこつこつと胸に溜めた。君はひとりではなにもできないのかい?と、頭上で泣きわめくカラスが僕にむかって嘲笑を掲げていた。プライドがいったいなんだと言うんだ。僕はそんなふうなことを感じるほどに追い込まれていた。世界で言う常識というのは結局人間が作った枠の内側にあるというだけのものであって、必ずしもそれが宇宙的に正しいわけではない、と僕は開き直ることにした。僕はサンダルを脱いでTシャツも脱いだ。自転車をこぐ買い物帰りの主婦はすれ違いざまに、人間だけが持っている、冷たくて露骨な嫌味な顔をした。不気味がっていて、それでいて笑っていた。カラスはますますうるさくなった。露わになった腹の穴の奏でる(あるいは叫ぶ)音はますます大きくなった。それをかき消すほどの叫び声をあげながら、僕は走った。ある瞬間、僕は彼と夕日と空と地面を除く、世界におけるすべてから抜け出したような感覚に触れた。僕は僕というひとつの個体になって、社会という強制的かつ永久的な束縛から逃れた。しかし僕は同時におそろしく細く深い孤独を手にした。僕は僕以外の入れ物を失ってしまって、急に夕日や彼に対する親近感のようなものを失った。僕はつながりを失った。ひとつの束縛から逃れれば、またある束縛に制御されてしまうのだよ、きみ。と、僕の心の中に棲むカラスが言った。僕はまだ耳の裏側に張り付いて離れようとしないさっきのカラスの嘲笑を、人差し指で拭って、ズボンで拭いた。うるさい。僕はカラスの遠い鳴き声を受け入れるしかないのだな、と、それは不本意ながらに思った。僕はやはりつながりを求めなければいけない。僕はやはり彼を目指さなければならない。ヒューヒューと奏でる腹の穴の痛みはもともと感じられなかったけれど、腹の穴に対する意識的な痛みと、カラスの鳴き声がもたらした、裏声のような鋭い痛みはだんだん和らいでいっているように思えた。しかし僕の腹には依然として大きな穴があいていた。虚無感よりも虚無ななにかがそこにはべっとりと付着していた。「まずい」と僕は下唇を噛んだ。夕日が沈んでしまう。太陽はその体をいつ闇に掻き消されるのかと不安げにゆらゆらと揺れていた。ほとんど見上げなくてもそのうっすらとした悲しみを手のひらで感じることができた。僕はペースを一気に上げた。彼は平然とした様子で同じペースを保っていた(もしくはそのように見えた。僕は彼の顔を見たことがないし、今の表情も見えない)。僕の体は夕日と対応しているのかもしれない。ふとそんなことを、薄れる意識の中で感じた。太陽は失われる。それと同時に僕自身も失われるのではないか。それは世界から失われるのではなく、僕自身から僕自身が失われるはずだ。手足の感覚がだんだん薄くなってきて、頭がボーっとしてきた。僕はがむしゃらに走った。ずっと小さく見えていた彼の背が僕と同じになって、僕は彼の肩を叩いた。「やあ」夕日は止まった。彼は振り向いた。「やあ、待っていたよ」と彼は言った。僕は今にもがらがらと音を立てて崩れそうだったけれど、不思議と息は切れていなかった。「待っていた?君は走ったじゃないか。君は僕から逃げていた」と僕が言うと、彼は残念そうな表情を隠したような少しきれいに濁った笑顔で答えた。「違うんだよ。君は僕を待っていたし、僕も君を待っていた。僕は君から逃げたわけじゃないし、もちろん君も僕を追いかけたわけじゃないんだ。僕らはそれぞれを待っていた」僕にはすべてが不思議に思えた。「君はいったい誰なんだい?」と訊ねた直後、僕は彼の顔も背丈も声も年も、すべてが僕であることに気がついた。彼は僕なんだ。「そう、僕は君だよ。同時に君は僕なんだ。わかるね?」と彼は言った。僕はその響きを耳の底にゆっくりと塗りつけるように頷いた。君は僕の影であって、僕は君の影なんだね、と僕はにこりと笑った。すると彼はこくりと頷いた。「だから僕らはそれぞれに戻らなくちゃならないんだ」と彼は呟いた。崩壊的な全身の痛みは幾分和らいできていた。僕は止まった夕日を見た。それから思い出したように腹を見た。穴はなくなっていた。べっとりとした虚無的な空白はいつしか乾いていた。僕はフウ、と息を吐いた。「ひとつ、いいかな」と彼は言った。「いいとも、なんだい?」と、僕は返した。「常に暴風の前にいる自分を想像するんだ。すさまじい向かい風をだよ。そうすればいつも何かを追えるはずなんだ。それは待つということにもなるんだけどね、君が僕に向かって走ってきたように」僕はこくりと頷く。彼は続ける。「ある場合には日々というのは、絶えまなく進行方向から溢れてくる局地的な向かい風に似ているんだよ」と彼は僕(彼の影)に言う。彼の影はそれを手のひらにそっと掬うと一滴も残さず喉を通した。彼の影(僕)はそれをしっかりと僕全体に染み込ませる。長く息を吐くと、彼の言葉が少しずつ僕を流れていくのが感じられた。空腹感は次第になくなる。景色はだんだん薄れていく。「それだけだよ、それだけは絶対に忘れちゃだめだ。良いことがあっても悪いことがあっても、思い出した時に目を閉じて自分を向かい風の前に立たせるんだ。それはすさまじい向かい風をだよ」僕は「うん」と言って、それから言う。「ありがとう」「いいんだ」と彼は言う。「それじゃあ、戻るとしようか」「うん」夕日が動き出した。僕は元の世界に、また辿りついた。汗なんて少しもかいてなくて、Tシャツも元のままで、サンダルも履いていた。僕がいる位置はしかし僕が彼に追いついた場所で、空や人やカラスは息をしていた。「やあ」と僕は彼に声をかける。足元の彼は、かすかに風にゆれて僕に答える。薄暗くなってきて、やがて僕は月を探しながら、彼におやすみ、と言う。それからライオネル・リッチーのストック・オン・ユーを口笛で奏でる。涼しい風がその音色を流す
2007.07.06
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なんていうか、やるせない毎日ですね。何もかもが中途半端な感じですね。いろいろと悪循環ですね。本は大量に読んでますね。サリンジャーはなかなか面白いですね。今一番はまってるマンガはジャガーですね。単行本で集めてますね。「好きな人いる?」ってクラスの女子に聞かれたので「うん、ルー大柴だよ」って答えときました。なんか文句あんのかコラ。
2007.07.06
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(半年ほど前に書いた面白くないボツ)@@@@@夕焼けが冷たい黒になる時間に、僕は毎日ラジオをつけた。宿題をしながら聞いて歌って外を見て、電車に揺られる会社帰りのサラリーマンにピースする。夕飯を終えて風呂から出て、冷たい黒空が静かな紫に変わると、僕はイヤフォンをつける。銀色のメタリックな四角くて古くさいけど味のあるラジオは広い窓から降りてくる広い広い星空を映して、そのボディーを美しくする。まだ夕焼けから吸収したあったかさが少しだけ残ってて、ボリュームを変えようと触ると、少し気持ちがいい。*今夜11時からチャンネルNIJでは、一夜だけの特別番組『星空模様のラヂオ』を放送するぜ!是非聴いてね!*さて、はじまりました!一夜だけの特別番組『星空模様のラヂオ』!この番組では、相手に届かなかったはがきの中で面白そうなものをピックアップして、無断でみんなの耳に届けよう!というものだぜ!一応本名は隠すから、もしかしたら本人も宛先人も自分のものだとは分からないかもしれないね!それじゃ、最初のはがきを見ていこう!ん?これは不思議だな!恋文でも手紙でもない。なんだか物語のようだぞ!男の子から女の子へのはがきだ!*レンズが空から降ってきたんだ。秋の木の葉のようにひらひらと夕焼けを通り抜けて、それは僕の右手にさらりと落ちた。薄くて冷たい、レンズだった。日の光を通すとアスファルトは虹色になった。レンズが光の形を変えて虹を作っていたんだとおもう。とにかく、僕はその不思議なレンズが大好きになって、帰り道をずっと虹色にした。家に帰って、風呂に入って寝る前に、窓の外を、レンズ越しに見てみた。そうするとレンズには君が映った。やさしく笑いかける虹色の君の顔に見とれて、僕は一晩そこで過ごしたんだよ。でも今日もそれを持って世界を虹色にしていたら、割れちゃった。破片はひらひらと空間を舞って雨上がりの湿った地面に落ちたんだ。僕は思ったよ、ああ、なんてことだろう、とね。上を見ると虹がかかっていた。虹の向こうに君を描いて、僕は走ったんだ。虹がどこにあるのかも分からないし、君がそこにいるのかも分からない。それでも僕は走ったんだよ。虹色の過去が見たくて。結局虹には辿りつけなかったけど、やっと分かったんだ。過去に色なんかないってね。これからの日々に色をつけていくことしか僕たちにはできない。だから僕はレンズを落としたところに戻って、破片をもっとばらばらに踏んづけた。で、家に帰ってこの手紙を書いたんだ。*??なんなんだろうね!でも、なんとなく、面白かったぞ!彼女に届かなかったのが残念だな!いや、彼女なのかな?はい、次のはがきは…*眠たくなったから、僕はラジオのスイッチを切って、ベッドに入った。全然、面白くない夜だった。
2007.06.23
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じめっとした朝風の吹き抜ける僕の部屋にはスプリングスティーンの曲が流れている。頭痛をさけて小さな音でそれは波を作っている。僕は眠くなる。僕は眠くなる。今日は雨が降りそうだ。薄い雨雲は僕にそれを教えてくれた。雨の前の匂いは好きだ。生きている。すべては呼吸をしている。部屋の窓の前に椅子を持って行って、座る。読んでいるヘミングウェイの老人と海はそろそろ後半にさしかかろうとしている。窓というひとつの絵画には線路と、その背景として動かずある古いいくつかのアパートメントとビル。それからその向こうには、薄っぺらい梅雨雲が少し濁らした冷たい朝日が見えている。直視できるほどにぼやけている。しかしすべては呼吸をしている。ライオネル・リッチーが甘いバラードを歌っている。僕は朝の風を浴びる。大きく息を吸って、眠りから起き上がる。ゆっくり、ゆっくりと。
2007.06.17
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6月になると、僕はますますわけの分からない混濁に足を引っ張られた。アジサイの顔がちらほらと見えるようになってきた、汚い川の濁流に沿って続く砂利道を傘をさして歩くと、終わりのないように見える地球ももしかしたらかげる日が来るのかもしれないな、と感じる。じめじめとした梅雨前の風が絶望感と深い深い深い穴を僕に届ける。赤い傘の端から滴る雨粒は今日も灰色で、それを見る僕の瞳も、きっと灰色なのだろう。僕を爆発へと導く感情のかたまりのように、爽やかなほど悪意に満ちた黄土色の早い早い流れが、川を氾濫へと誘っているように見えた。アディダスのスニーカーが雨粒を弾く。世界は終わるのか。傘はじれったくまとわりつく風に持っていかれた。不器用に叫ぶ僕の表情を、青い草に重なるアマガエルが嘲笑っていた。まるでそこになにもない場所があるような気分だった。そこと、今僕が立っている場所との温度の差が僕の表情をさらにゆがめて、耐えられなくなった僕は膝をガクンと折り曲げて道に伏した。冷たい砂利の味が、雨の匂いと一緒にずっと肺の中に残っていて、奇妙な心地よさに僕は身を任せた。どうせ世界は終わるんだ。流れ星のような一瞬の光を夢の中でつかみ損ねた僕らには、何も残されていない。きっち僕らはただただ世界の終わりを待つだけのアジサイで、僕はこの梅雨の間しか生きることができないんだと思う。紫やらピンクやらに染まってゆく老いぼれた星にすむ朽ち果てた人間たちを見るのは、おそろしく美しいものだった。「今に見ててよ、世界は美しく終わる」僕はひとつの巨大な雲で覆い尽くされた空にそう告げて、また砂利道に抱きついた。
2007.06.08
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「たまに、どうしようもなく自分の存在を否定してしまいそうになるときがある。どうして自分は頑張ってるのか、どうして自分は足掻いてるのか、なんとなく自分が愚かに思えてきて、どうすれば楽しくあれるのかな、って思うんだ」と、彼は言った。すぐ横をまっすぐに伸びる線路の向こうに見える夕日が眩しかった。「どうやって君はいつも復活するんだい?」僕は訊ねた。やんわりとした光を跳ね返す夕雲が心地よかった。「それはさ、空を見るんだよ」と彼は言って右手の人差し指を空に向けた。「今日は一日中月が見えてたね」こんなに大きく空を仰いだのはいつ振りだろう。崩れかけたマンションとか、カラスの群れが鬱陶しかったけど、それを忘れさせるほど空は大きかった。「空は偉大なんだよ」と彼は言った。「僕らよりももっと偉大なんだ。でも僕らはそんな偉大な空の一部なのさ。だから胸をはっていいんだよ」僕はなんだか楽しくなった。空は偉大、だ。彼は続けた。「それでさ、空を見てると、ああ、僕は生きてるんだな、何かのために生きてるんだな、っていうふうに実感するんだよ。空は、僕にどこに行けばいいのか教えてくれるわけじゃないけれど、確実に僕らには目指す場所があることを教えてくれるんだ。だから頑張ってる。世の中から溢れちゃわないように足掻くの、って無駄なことかもしれないけれど、もしかしたら何かがあるかもしれない。そうやって、人は苦しんでいくんだよね。それで知らず知らずのうちに何かを見出すんだよ、きっと」夕風が彼の前髪をそっと浮かせた。彼の笑顔は、空と同じ匂いがした。
2007.06.01
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今まで一度も味わったことのなかった、心臓がひんやり冷たいような、そんな刺激を受けて、僕はなんだか嫌になった。消えない不安と終わったレースと意味もなく続く道と頭の上の大きすぎる太陽。西から飛んでくる飛行機が日光を反射させて自らを光らせていた。夕方になると曇るこの地方の気候にもなれたけれど、やっぱり暗いというのはなんとも虚無的なものなのかもしれない。頭を垂れて歩くすべての日本人とわけのわからないことを延々と叫びながら走る異国人が不気味に混ざり合って、あまりにも不均等な世界がこの国には出来上がっている。そんなことを、変わりつつある風の重さで感じつつ、じっとりと汗ばんだ背中はそのままで、僕は今日も電車に揺られる。なんとも虚しい5月の土曜日。もらったたくさんの手紙。携帯についたおそろいのストラップ。部屋に飾ったツーショット。右手に残る3月のぬくもり。誕生日にもらった洒落たチョーカー。来なかったクリスマスプレゼント。貯めてた旅費。計画していた夏休み。スイス旅行のおみやげ。なにもかもが一瞬にして無価値になって、それで僕らをつないでいたすべてが無意味になった。涙が出ないことがここまで悔しいことだと、改めて確かめることができた。ベッドに仰向けになって倒れて、呻くことも叫ぶことも泣くこともできずにただただぼんやりと天井を見上げると、まるでいろんな映画のベストシーンをたくさん集めたような映像が次々映し出されて、ずしりと胸が重たくなった。カラスは鳴いた。孤独を鳴いた。一途な心とはあまりにも無力で、細い光は無情にも裏切られるものなのだと、今更ながらそんなことを思うのは、やっぱり遅すぎたのだろうか。人間っていうのは本当はみんな薄情な利己主義の塊で、人間関係というのはいつになっても希薄なものなのかもしれない。こんなに頑張ってるのはあるいは僕だけで、現実はもっとつまらないものなのかもしれない。だとすると僕はどうすればいいのだろうか。現実が分かったところで間違った自分を整える手段が見つからないまま、僕はまた誤りの一歩を踏むことになるかもしれない。何をしても集中できなくて、何を考えても何も思いつかなくて、20cmほど浮いているような不安定な感覚を持ち続けて、大型連休の後半は灰へと姿を変える。おわったよん☆
2007.05.05
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そしてすべてが終わったんだ。音もなく、それは色を失った。形を失った。感情を失った。時を失った。光を失った。僕はもうなにがなんだかわけがわからなくなって、それでもそれぞれが何なのか考えるのが面倒なほど気分が悪くなって、だから僕も形を失った。学ぶものなんて、なにもないんだなあ、と思うと、なんだか急にすべての存在が無意味なような気がした。どうしてこんなに頑張るのだろう。結局何も、変わらなかった。
2007.05.05
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満員電車で汗をかくサラリーマンたちの中で、僕らは再会した。名古屋行きの名鉄、快速急行ではち合わせたのは、僕が中1の終わりにイギリスに行くまで、小学校のころを合わせて4年間連続でクラスメートだったマコだった。連続でクラスメートとはいってももう僕が彼女を見なくなってから3年以上たってるから、最初はお互い気になっているだけだった。どこかで見たことあるような、という、そんな感じだった。鳴海の駅に着くと結構人が降りて、僕はシートに座った。向かいの席にたまたまマコが座って、やっぱりそうだ、という顔で僕を見た。「タクミ?」「おー、やっぱりマコ?」快速急行は、特急に比べて幾分揺れが少なく、お互い会話をしやすかったけど、堀田に着くと続々と人が入ってきて、僕とマコの間にはたくさんのサラリーマンとゲームをしている若い男の人と化粧の濃い30代の女性で埋まってしまった。それでも僕の胸はまだはずんでいた。マジでマコ?マコは、小学校4年生の時に初めて同じクラスになった。お互い苗字の最初の文字があ行だったから、隣の席になって、それから仲良くなった。偶然同じスイミングスクールに通っているということも、その頃知った。僕らの間には特に共通点というものはなかったけれど、なぜか気が合った。5年生のときには同じ委員会でポスターを作って、6年生の時は修学旅行で同じグループになって、僕らを含めて6人で、一緒に京都の街をぐるぐると回った。中学校1年生のときも同じクラスになったのは、本当に驚きだった。「おお!タクミじゃん!!!」といってマコは大笑いした、その年僕らはオレンジレンジにハマって、CDについていろいろと話したりした。休み時間にはいつも二人で合唱していた。夏のストーブは僕らにとってライブステージだった。みんなは僕とマコのことをラブラブなカップルだといって冷やかしたのだけれど、僕らは別にそういうつもりじゃなかった。僕が日本を離れると言った時、彼女は、小学生5年生の時に僕のことが好きだったことを教えた。僕も正直に、6年生の時にマコが好きだったことを教えた。昔のことだったけれどやっぱり恥ずかしくて、奇妙なすれ違いに大笑いした。夕暮れの帰り道を大笑いして、最後にマコは少しだけ、静かな月に涙した。金山に着くとまた人が少なくなった。マコはすごくきれいなっていて、変わっていない僕を思い出して少し恥ずかしくなった。それでもマコは僕のことをカッコイイって言ってくれた。彼女は神宮前で降りるのよ、といった。僕は名古屋で降りて、そこからまた地下鉄で20分だよ。とため息をつきながら言った。すると彼女はカバンの中からチェルシーを5個取り出して、僕にくれた。チェルシーかマコが昔から大好きだったアメで、どうやら今でも一番のお気に入りみたいだ。ありがとう、と僕が言った時に見せた笑顔は昔のままで、僕はうれしいような、さびしいような気持ちを感じた。神宮前についてドアが開くと、彼女は細い右腕をひらひらとさせて、電車から出て行った。チェルシーは懐かしいバタースカッチ味だった。空は今日も曇り空だった。
2007.05.04
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とある、駅のホーム。
2007.04.29
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なんとなく、ってこれは今になって気づいたことなんですけど、どう見てもブログじゃなくなってきてますね、このブログ。そもそも更新頻度の低下が著しいですし、僕の授業中のメール頻度も著しいですし、スナック菓子の購入も著しいですし、あまりイチジクは好きではないですし。で、やっぱりブログらしくあるためにはなにかしら面白い記事を書かなくちゃな、と思ったんですよ。右目を前向きに、左目を後ろ向きにぐるぐるまわしながら、上唇をブルンブルンさせながら、指をチョキチョキ鳴らしながら。しかしながら僕の頭の中にユーモアというやつはみじんも残っていませんでして、その代り数学の公式がずらりんとざっと3つぐらい敷き詰められているだけなんですよ。空虚感がむしろシンプルでスマートに見えてしまうほどガランとした1LDK。しょせん脳みそ10KB。とにかくそんな感じで過ごしているゴールデンウィークですが、ゴールデンのわりに金がないんですよ。関係ないですか?そうですか、はい。おとなしくしてます。盗みません。実を言うと、そろそろ今のサイトデザインに飽きてきたりしてるんですが、残念ながら時間もアイデアも知識も金もないんで、どうしようもないのが現実です。だから誰かお金ちょーらい。
2007.04.29
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今日はおそろしく天気が良くて、それが余計僕の心に寂しさを呼んだ。あと3ヶ月だぜ?こんなところで止まったらこれまでの13ヶ月間は全て無駄になってしまう。忘れてほしくないよ。あの時、一体僕らはなにを誓っただろうか。 電池の切れかかったiPodが涙を呼んで、僕はそれを我慢する。錆びたのはどっちの心でもなくて、二人の距離か。あるいは全ては勘違いなのか。 今日も僕は待受の君に囁くよ。「おはよう」
2007.04.29
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僕は誰なんだろう?僕はどうしてここにいるんだろう?そんなありきたりな疑問がやけに重く感じた春の終わりの雨の夜、僕は眠気を少しも覚えなかった。世の秩序を徹底的に嫌う自分は偏見的な意思を持っているのだろうか。そして果たして、僕の考えと常識、どちらが正しいのだろうか。雨はしとしとと屋根を撫でていた。僕はうとうとと、現実と夢との狭間をさまよっていた。15の夜がラジオから聞こえてきた。今のやりばのない気持ちがあまりにも歌詞に合いすぎていて、だから僕はラジオを切った。ベッドから起き上がって窓際の椅子に座ってカーテンを開けた。街灯のぼんやりとした灯りとクッションの柔らかい背もたれが僕の疲れを吸収していった。さて、どのようにして自らを正当化しようか。ヨーロッパの国王たちは絶対王政を続けるために、王権神授説を唱えた。それで彼らの権利はしっかりと正当化された。なんて無力なあがきだろうか。ルソーとロックは自然状態がどうやらと言った。ローマは細かく散った。時代は動いた。もっと新しい要素がいる気がした。今の知識では自分をうまくコーティングすることができない。そう思って僕は一度僕をリセットした。何を今考えているだろう。冷静よりもっと冷静に。僕は目を開けたまま全身の力をだらんと抜いた。あるいは、両目以外のすべての機能を一時的に停止した。踏切で点滅している赤い叫びが周囲の雨粒を照らしつづけていた。デジタル時計が12:00を知らせた。泳ぐ雲の狭間から濁った月が見えた。まばたきの頻度が増えた。多少の眠気を感じた。僕は誰でもなかった。僕は誰でもない。なんとなく格好良いセリフで、さも自分が世界一正しいかのように自分を飾って、それで得意そうな顔をしている。でも僕はなんだ?特別な何かを持っているわけじゃない。僕は、誰でもない。だとしたらいったい僕はどうして今ここにあるのだろうか。僕はどうして崩れないのだろう。どうして僕は自分の必要性も知らないくせに生きようと必死になっているのだろう。どうしても、僕にはわからなかった。ひとつだけ僕の右手の中に見えたのは、あまりにも時の流れが速すぎるからじゃないか、ということだった。その考えは、人間だれしも自分の存在価値を知らずに生きているという仮定のもとに成り立つものだった。めまぐるしく回りまくる日々に振り回されて、生きるので精いっぱいになったら、冷静に自分を考えることができなくなる。そうするとたまに僕のように、どうしてこんなに頑張っているのだろうか、と気づくことになるのだ。いやしかし、本来は逆であるべきだ。存在価値を見つけた上で、崖を登るようにがむしゃらに生きていくのが筋というやつだ。僕は混乱していた。どこが正しくてどこが余分でどこが間違っていてどこが足りない?第一僕の持つ考えの実体をつかむことができなかった。やがて雨は止んだ。やがて踏切は静まった。やがて空は晴れた。やがて月は光を取り戻した。やがて道を行く車の姿は消えた。やがて完全な闇が訪れた。奇妙な物体として僕が今椅子の上に座っているという感覚が、少ししびれてきた太ももから生まれてきたことは明らかだった。考えるのをやめようと思った。とりあえず僕はここにいるし、とりあえず僕は眠る。そうしないと宿題をやる体力がなくなってしまう。
2007.04.28
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まじめなバトン難しい(((◆相手の年齢の上限・下限どこまで大丈夫?特に。◆理想は年下・タメ・年上どれ?タメ ◆好きな異性の有名人を心ゆくまで書いてみてください和田アキ子尊敬しまくりです。◆こうなりたい!と憧れる同性の有名人を教えてください。ガリレイ◆恋愛は尽くすほう?尽くされるほう?夏休みの宿題は最後まで残すほう。◆デートするなら割り勘は当たり前? 財布と相談。◆彼氏・彼女が居たら合コンなんてありえない? いてもしない。面倒くさいです。◆恋愛の為に頑張れる事は?自然にあること。 ◆恋愛で相手に求めるものは?自然を失わないこと。◆理想のデートプランは?? 宇宙旅行5ヶ月間◆「恋愛には○○が大事」○○に入るのは?(二文字じゃなくてOK)ちょっとした酸味。◆自分より学歴等が上と下どっちがいい?どっちでも。◆今までで一番笑える恋愛エピソードをここで一つ。いやね、昨日さ、ブリッジしながら散歩してたらね、え?もちろん一人でだよ?それでね、そしたらね、犬のクソふんだpbgpwgrh(◆失恋したら聴くのは明るい曲?それともどん底まで堕ちる曲?シャワーの音◆友達の彼氏・彼女を好きになったらどうする?踊る。◆告白は自分からする?んー、場合に。◆好きな色は?特に。 ◆ケータイの色は?ベージュ。◆貴方の心の色は?混濁色残念僕がアンカー。
2007.04.22
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「ねえ、あなたって本当に不思議な人ね」と彼女が僕に言った。通算3928回目のそれだった。いつものトーンで、いつもの口調で、いつもの表情で、いつものセリフだった。彼女は少し興味深そうな顔をしながら僕を見る。そうするとやはり僕は少し恥ずかしくなって、目を伏せる。「どうして?」僕が聞くと、彼女は答えた。「だって、どうしてあなたは雨の日に傘をささないの?」期待はずれの問いかけだった。今までで3928番目に面白い質問だった。僕はうんざりして雨を感じながら、適当に答えた。「だって、面倒くさいじゃないか。傘をさすのって」彼女はくすっと笑った。明らかにそういう答えを期待していたのよ、という笑い方だった。「そうなの?でも濡れちゃうわ」彼女のさしている傘は薄いピンク色だった。それは少し小さくて、だから僕はその傘のしたに潜り込めなかった。第一、それ以前に僕らは傘を分け合うほどの関係を持っていなかった。なんだか僕はもっと雨に打たれたい気分になった。彼女は早く晴れてほしいと言って空を見上げ、僕はもっと降らないかなと言って雲を見上げた。何も変わらなかった。リズムは一定だった。「でも濡れちゃうわ」彼女は繰り返した。そして僕はその質問が終わったか終わっていないかもわからないほどのところで、瞬間的に返事をした。「そうさ、濡れちゃう」ひとつひとつの雨粒が小さかったから、雨音に対して僕らはそんなに濡れはしなかった。新品の制服が地球の汚れを集めた水をはじいていた。僕はそれらを手の甲で拭った。彼女は濡れていなかった。「ねえ、あなたって本当に不思議な人ね」と、また彼女が言った。僕は「どうして?」とは言わなかった。そうしたら彼女は黙った。雨の日の地下鉄は最悪だった。なんだか変なにおいがした。気持のよい雨の日の風とは逆に、なんだか閉じ込められた感のある匂いだった。とてもおとなしいとは言えなかった。暴れたくて暴れたくて、うずうずしている。僕と一緒だった。彼女は本山で降りる。「僕は高畑まで行くよ」というと、彼女はまた言った。「あなたって本当に不思議な人ね。あなたの家は栄にあるんでしょ?だったらどうして高畑まで行くの?」「それはね」僕は迷った。本当のことを言おうか、それとも事実よりも現実味のある軽い序^-句を言おうか、僕は迷った。「それはね、僕はだれか続き考えて。
2007.04.19
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雨は夜になっても止まなかった。正午過ぎから降り続いていた雨は、まるでひとつひとつのそれらがそれぞれの雨粒を持っていないかのように(雨という空から降る液体がひとつのまとまりであるかのように)、薄っぺらく、そして広く長い音が、区切りなく続いた。屋根のあるバス停でよかった。そう呟くと、彼女は冷えた両手に息をハーと息を吹きかけていた。バスの時刻表は、プラスチックのカバーで覆われているのに汚れ、文字はほとんど滲んでいた。そのため何時にどこ行きのバスが来るのかもわかりはしなかった。かろうじて見える20:35分発のバスは実に今から1時間近くあとで、僕らはため息をついた。「でもいいじゃない。帰ってもすることなんてない。だからこんな遅くに散歩に出たんでしょ?しかも傘もささずに」彼女は言った。それから両手の冷えを我慢するように顔をしかめ、その上から笑顔を敷いた。沈黙が続いた。音と言えば、さっきから少しも変わろうとしない水のカーテンが地面にヒラリと舞い落ちる音と、二車線にしてはあまりにも細すぎる、そばの古いアスファルトをたまに行きかう車の、カーテンで滑る音だけだった。それと、僕がバス停の壁を蹴る音。そんな音立ちの一連の合奏を聞き終えたなと僕が実感した瞬間、彼女が口を開いた。「ねえ、どんな動物になりたい?」彼女は時折、あまりにも不可解な質問を唐突に問いかける。質問の意味がわからないのではなくて、その質問をどういった気持ちから口に出しているのかが、わからなかった。いつも。僕はもう慣れていたから(それに面倒くさかったから)、その唐突で難解で、かつ簡単な問いに特別つっこむことなく、答えた。「バク、かな」僕は今の気分を言った。羊のほうがなんとなく魅力的だったけれど、先に口に到達したのはバクだった。「バク?またどうして?」彼女は予想もしなかっただろう僕の答えに目を丸くしながら尋ねた。僕は彼女の知りたいという渇望を満たすべく、なるべく賢くなめらかな解答を言った。要するに出まかせを。「バクもね、夢を見るんだ。しかも必ず同じ夢を。知らなかったろう?バクは意外と面白い動物なんだ。僕ら人間も夢を見る。ただそれはランダムで、必ず毎晩見れるとは限らないし、内容だってリクエストはできない。故に怖い夢や見たくもない過去においてきたはずの思い出の欠片にまで目を覆われるんだ。でもね、バクは違う。バクは記憶から夢を作り出さない。願望や恐怖で構成された夢を見ない。そして必ず一定で、必ず毎夜見るんだ」彼女はつまらなそうな顔をしながら、実はかなり興味があるのよ、という表情で足元を見つめていた。今日の彼女の靴は買って4日目だったらしいけど、あいにくの雨で、赤の部分も白い部分も、オシャレな紐も泥で一色に染まっていた。この世で一番美しい色だった。僕は壁を蹴るのをやめて彼女の横に腰をかけ、続けた。「そのバクが見る夢の内容なんだけど、これがまた奇妙なんだ。空を飛んでいる。これは全然奇特でもなんでもない。人間もよく見るオーソドックスな夢だ。でもバクの夢の場合は一味も二味も違ってるんだ」「まず、バクの体に羽が生えてるってこと。人間の場合は大抵両腕を翼にしているんだよね。僕は夢を見ないからわからないけれど、きっとそうだと思うんだ。でもバクの場合は、彼、もしくは彼女の背中に羽が生えてるんだよ?想像できないほど奇妙だと思う。そして空は空じゃない。空が地面なんだ。だから重力が地面に向かっているんじゃなくて、その反対ってこと。地面っていうのは牧草地帯とかただっ広い砂漠とかじゃなくて、都会。ぐにゃぐにゃと曲がった赤とか紫とか、とにかくカラフルな未来的な超高層ビル群が針の山のようにずらずらと敷き詰められているんだよ。それでね、そうそう、バクは街の方は向いていないからね?それはあくまで飛行における空の模様であって、事実地面かどうかはわからないけど、少なくとも飛んでいる間は、空。想像できそう?オッケー。で、飛行における地面がどうなっているかというと、まあ、空なんだ。だって地面が飛行における空だもんね、その反対さ。空という要素だけがバクの夢の中で可変のものであって、それは雨降りにもなるし、風吹きにもなるし、快晴にだってなる。雨の日なんか大変だよ?下から雨が降ってくるんだ。不思議だよね、重力は空に向いているのに、空から雨が降ってくるなんて。それからね…」「ねえ」そう言って僕の話を遮った彼女はこちらを見ていて、顔は多少紅潮していた。「どうしたの?」僕は尋ねた。僕は怒ってはいなかった。嬉しくもなかったけど。「バクの夢のことは大体わかったわ。でもどうしてバクになりたいと思うの?」彼女は幾分冷静になっているように見えた。化粧の下に透けていた怒ったような顔も、次第に薄らいでいっていた。「そりゃあ、夢を見たいからさ。不思議な夢をね。刺激のある夢を」「それだけ?」「うん、それだけ」また沈黙が訪れるかな、と思っていたら、彼女がことばを発した。ホッとしたような、繰り返しに疲れたような。「でもさ、本当にそれだけ?だって二回目からは少しだって刺激はないじゃない」僕は確かにそうだな、と思った。でも今さら引き下がれないなと消えそうなほど小さな舌打ちをすると、変わらない空模様を確かめてから答えを見つけ出した。「それだけだよ、本当に。刺激はあるさ。なくても、ある」もっともらしいと言えばもっともらしかったけれど、僕にとってそれはまるで使い切ってくにゃっとなったトイレットペーパーの芯のように軽薄で物悲しくて冷たかった。だから少しでもそれに熱と現実性と信頼性を奪えそうな可能性を得ようと、付け加えた。「天気は変わるし、僕も少しずつだけど変わる。だって確かにバクも僕らも年をとるじゃないか。外見の変化や寿命は違えどもね」彼女は納得したらしかった。バクは夢を食う、という話には一切触れなかった。むしろバクが好きだという作り話をはじめてからその言い伝えを思い出した僕としては、ありがたかった。バスが来た。僕たちの体はすっかり冷えていた。いつの時間も変わらぬ乗客の多さと、運転手の白けた面と、排気ガスの臭いはおなじみだったけれど、ただひとついつもと違ったことと言えば、バスの中のすべての人間(運転手も含めて)が、運動不足で太りすぎた中年のバクに見えたことだった。きっと彼女もそう見えたかもしれない。もしかしたら乗客にとっては、僕らがバクだったかもしれない。そんなスリリングな妄想を巡らせながら、僕らは一番後ろの席の右側の端で肩を寄せ合い、少しでも温かさを保ちながら、単調で終わりがなく、ゆるやかで生ぬるい雨音を子守唄に、夢のない夢の世界へと潜り込んだ。
2007.04.16
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従兄妹は、僕とはまったく別のタイプだった。年はさほど離れていなかったが、性格的な面ではあまりにも違っていた。むしろ僕らは相対であった、といっても言いすぎではない。従兄妹は14歳だったので、僕との差は一年だけだった。しかし彼女は―やはりそういう年頃なのかもしれないが―よく喋った。彼女において喋るという行為は、様々な筋肉を使って普段の状態ではない状態になることで音声を絞りだすという感覚ではなく、むしろそれが普通の状態だったのだ。喋っている時間よりも静かにしている時間のほうが(睡眠時間を除いて)圧倒的に長かった。僕はというとやはりその全くの反対なわけで、無駄なことを話すのが嫌いだった。「話す」行為自体は決して期待ではなかったし、むしろ情報を交換できるという意味では人間が在る理由の、あるいは目的の代表的なものだと考えていたから、特に消極的なわけではなかった。だから、あまり利益のない話はしない方だった。というのは、いわゆる「他愛のない話」というやつは、徹底的に嫌った。それも無意識的に。さっきも言ったとおり、僕の従兄妹はとてもよくしゃべる。一度、僕の家で留守番という形で彼女と二人きりだけになった時は死ぬかと思った。ターゲットが僕だけなのだ。親や彼女の親(僕の母親の妹)がいれば、少なくとも僕にマシンガンが向けられるのは3度に1度の確立なのだけれど、1度に1度だと、どう足掻いてみても、無駄になる。その時従兄妹がなんの話をしていたのかは全く覚えてはいないけれど、ひとつ、ある時彼女がいつものスピードで話したことを、僕は覚えている。それは本のことだった。全体的に見て僕と従兄妹は完全に反対の人間性というやつを持っているのだけれど、やはりすべての人間にはどこかしら共通点というものがあって、その「どこか」で繋がっているから人間は人間なのだと思う。僕と彼女における「どこか」は、ひたすら本を読むことだった。彼女は、話していないときはいつも本を読んでいた。それもきまって文庫本で、カフカの「変身」だとか、ヘミングウェイの「老人と海」だとか、とにかく古い本を読んでいた。日本の作家でいえば、彼女は芥川龍之介を愛した。それは作家として「愛した」だけではなく、その作品から見える人間性に恋をしたらしい。そう、彼女は言う。僕も芥川龍之介は大好きだったから、その点では大変話が盛り上がった。面倒になってきた。作品全体としての構想ができていなかったし、時間的にも体力的にも今パソコンの前でこういったことをしている場合でないことは、僕にははっきりとわかる。あとで襲ってくる罪悪感というやつを少しでも和らげるため、この作品は、もうおしまい。
2007.04.14
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「空が青いわね。まさに快晴」と彼女は空を見上げて、両手を広げて大きく息を吸い込んだ。僕には今日の空が「快晴」と呼べるほど綺麗なものには見えなかった。青くはあるその絨毯にはどこかぼんやりとした憂鬱感があって、なんとなくこちらがわにもう一枚の、少し汚れた透明の薄いヴェールがかかっているように感じた。くっきりと見えるはずの飛行機雲もどこか迷っているような様子がうかがえたし、なんといっても太陽の光がそのヴェールと雨上がりの水蒸気に分散しすぎて、まるでそれは太陽の光ではないようだった。人工的な光がシャワーのように降り注いでいる。まさにそんな感じだった。頭が痛かった。あるいはその僕の体調が、今日の空の見え方として映し出されるのかもしれない。本来それは青い青で彩られていて、曇ったヴェールもなく、脆くて美しい一枚の青空なのかもしれない。偏頭痛で空が変わるのだとしたら、しかしそれは僕がしっかりと睡眠をとれば毎日が快晴になってしまうことになる。いや、僕が睡眠不足を解消するなんてことはなにがあってもないのだろうけど。彼女は終始機嫌が良かった。「散歩をしようよ」と鼻歌交じりに僕の頬を後ろからつねられた時は、本当にうんざりした気分だったけど、晴れているような気がしたし、こう部屋のなかに閉じこもっていてもしょうがないような気がして、彼女と外に出た。僕はポケットに手を突っ込んでだるそうにしながら、なんとなく生きる力を失ったような雰囲気の両の目をごしごしと擦って彼女のあとを歩いた。ゆっくり、歩いた。僕は終始機嫌が良くなかった。それは偏頭痛が原因だった。「だったらもっと寝ればいいじゃない」と彼女はいつも言うけれど、実際そう簡単なものでもない。痛い時に寝れば多少良くはなるけれど、事前に寝ても偏頭痛は起こるというのが矛盾と矛盾の間に挟まれた少しの隙間にある事実だった。僕はその事実を見事にすくい上げたのだ。なんて素晴らしい!!僕は雨上がりの風の匂いが好きだったけれど、雨上がりの空気を通り越して落ちてくる、眠たそうな日の光が嫌いだった。なんとなく嫌そうに人を、影を照らすから、僕も嫌になってくる。そして偏頭痛が悪化する。小説を読みながら歩くのは少し両手首がだるいから、携帯音楽プレイヤーを上着のポケットに入れて、そこからイヤホンを取り出して両の耳にあてた。激しいロックのオンパレード。単調なラップの大洪水。そして偏頭痛が悪化する。はは!なんて素晴らしい!!僕は笑った。偏頭痛を取り除くことを望んだために笑ったのではなくて、笑ったがために片頭痛を取り除くことに努めなければならないことを悟った。だから、笑った。複雑に見えて実はそれぞれの糸の色がはっきり分かれている僕の中身を、ほどいていく手順を考えながらも、僕はそれをほどこうとはしなかった。
2007.04.08
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『マンゴーパフェみたいなヨーグルト』というヨーグルトを偶然見かけて、理由もなくそれを買ってしまうように、なかなか言葉だけでは、理屈だけでは説明できないことが生きているうえではたくさんある。むしろ、そこに存在する、あるいは存在した全てが理由なく生じて、そして目的もなく無くなっていくのかもしれない。勉強をする、と言って図書館に来て本を読んでいると、今年中学校に入学したらしい女の子が、僕の席の前の長机に座った。ポニーテールの髪の毛を弄りながら、彼女はカバンから真新しい「中学一年生」と書かれた社会と英語のテキストブックを取り出した。それから彼女は筆箱とノートも机の上において、勉強をはじめた。英単語の暗記をしていた。Homework - 宿題、Think - 考える。ズラリと並んだそれらの最後に、Train - 電車 電車男? とあった。思わず微笑んだ。理由なく、それとなく大ヒットしたドラマをTrainという英単語から思い浮かべて、それを思うがままに、いや、あるいは無意識的に、青いラメ入りのペンで書いてあった。もしかしたら全てに理由がないのかもしれない、とさっき言ったが、ひとつだけ、大きな事実として、しかし気付きにくい理由に伴って行われることがある。それは『生きる』こと。理由と言えばそれも『生きる』こと。『生きる』ために『生きる』というとてつもなく漠然とした関係にある二つの要素は人間がそこにある上で一番基本となるものだと思う。しかし人は時として、いや、常に、通常それを忘れていて、なぜかその向こうにある『生きる目的』を探そうとしてしまいがちだ。と、思う。『なんで僕は生きてるの?』という自らに対する問いにおける自身の答えを見出せず、むざむざと無駄死にする人が増えているけれど、『生きて』いることに、『生きる』以外の理由はあり得ないのだ。そこにほかの理由があってはならない。そう考えてみると、なにかと気が楽になったりするものだ。『生きる』ために『生きる』ことは、人が『生きる』上で一番大きくて深刻な負担なんだと深そうで浅い位置にある最も身近な事実を見つけることが出来れば、その他すべての悩みや勘違いが馬鹿らしく、そして浅はかで小さいものであることに気づくことができるだろう。カラスが鳴くのはただカラスが鳴くからであって、日が照りつけるのは、日が照っているから。そんな単純な、すべてにおける関係を普段は見つけられないから人は苦しんで、人は進化するんだと、僕は思う。そんなことを思いながら、「僕はね、食べたいから食べるんだ」だとか、「どうして勉強をしないかって?それは僕が勉強をしないからだよ」なんてわけの分らないことをぶつくさ言いながら、相変わらず『生きる』ことにある種の倦怠感を抱く、僕の毎日だ。という、作文の練習を兼ねた憂さ晴らしだ。 (笑)
2007.04.07
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踏んだ黒猫の奇妙な甲高い悲鳴に合わせてその肉体は爆発し、たちまち煙が僕を食べた。どこからか銃弾が飛んできて僕の横腹をえぐったけれど、特に痛みは感じなかった。その痛みを感じなかったことに大きな違和感を感じて唇をかむと、そっちのほうが痛かった。体は穴だらけで、煙がそこを通るたびにヒューヒューと気味の悪い音を立てていた。それが僕の、今日の風に対する感想だった。肉体的な苦痛は全くなかった。強いて言えばたまに強まるそれが前髪を多少乱す程度で、それといって動く上で困るような障害はなかった。それでもそれは確実に僕の体を風下へと押し込もうとして、まるでそれは向かい風ではなく、むしろ後ろから何かに吸い込まれているような感覚、というのか、状況の雰囲気みたいなものがそこにあった。風穴の空いた横腹には冷たい春先の風が通り抜けていた。それは肉体的には不快なものではなかったが、逆にそれを心地よいと感じることに多少の不快感を覚えた。爆発した猫はもう風に引きずられ、さらに僕も少しずつではあったけれど前進していたから、僕と彼、あるいは彼女は、僕から見てだいぶ後ろの方で寝転がっていた。いや、それを猫として認めることができないのだから、寝転がっていた、というよりも、横たわっていた、のほうが表現として適当なのかもしれない。煙はまだ僕を食べていた。目の前は今でもかすんでいたし、足元は見えなかった。匂いのない冷たい煙がもくもくと渦のように竜巻のように回りに回って、僕はなんだか眠たくなってきた。穴の空いた体に痛みはなかったけれど、それにもちろん精神的なダメージと呼べるような苦痛は覚えなかったけれど、なにかがなくなったような、そんな奇妙な空虚感ではなく、なんて言えばいいのだろうか、絶望感にも似た、ある意味では至福感にも似た、そんな気持ちを感じ取った。それは決して気持ちよいものではなかった。なんとなく物足りないような、そんな気がしたのだ。何かが、足りない。何か、が。歩き疲れた僕は、座り込んだ。折れ曲がった体にある穴はわずかに変形した状態でそこに残った。猫を踏んだ右足は爆発でやけどを負っていて、しかしそれさえも、今はなんとも嬉しく感じたのだ。時間が迫ってきたことを、僕はそれとなく感じた。でも僕は時間を気にすることなんてないし、もっと言ってしまえば、ここにいる理由さえもなかった。別に僕だって、ここにいたくているわけじゃない。だから僕は死滅をただのんびり待つことだってできるんだ。やっと、誰かがこっちに向かってきたぞ。真っ黒の革のロングコートを羽織った大柄の男は、きっと僕を踏んで、それで僕の爆発で右足の裏を火傷して、風と煙に腹を涼しくして、それから座り込んで自ら死滅を待つことになるはずだ。
2007.04.07
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難しいことなんかじゃない。この手紙を捨ててしまえばいいだけのことなんだ。しわひとつない手紙と向き合うのは、既に夜が更けてからの日課となった。ピンクでビニール製の封筒についたノリが、今だにかすかな粘着力を持っていた。ペリペリとその封筒を開けて、逆さにすると三枚の手紙と、さらに小さな封筒に入った彼女のプリクラがストンと僕の掌に落ちてきた。僕がその場所を離れることを聞いた彼女は、ひどく悲しげだった。寂しげでもあった。だから僕はプリクラちょうだい、と言った。そうしたら彼女は「えー、恥ずかしいよ」なんて言いながら、最後の日に、二枚のプリクラを手紙に添えて僕にくれた。その小さな封筒にもまだ多少の粘着性が残っていて、それからそれにローマ字で書かれた僕の名前と彼女の名前は、なぜか紙に滲んでいた。まるで上に雨粒が落ちたかのように。三枚の手紙は、丁寧な字で、少しの誤字もなく書かれていた。薄いピンクをしたミッキーマウスの便箋に小さく書かれた彼女の文字も、今見ると、もうなんの感情もこもっていないように見えてしまう。形だけの文章が面倒臭そうにそこに並んでいる。最後に彼女の気に入っていた有名な英文章が様々な色ペンで彩られてそこにあって、で、それから「ずっと好きだよ」。笑ってしまいたくなる感情を、腹筋でなんとか抑えて目をつぶって背中からベッドに倒れこむと、いつもの天井が目の前にあった。なんだか遠く感じて、それでも細かい模様までしっかりと確認することができた。騙されたのかと言えば、それは確かに、うん、一見妥当な形容に見えなくもないのだけれど、そう言ってしまったらまるで彼女がひとつの感情しかもっていないように見えてはしないだろうか。僕の立場だけに置かれて言えば、それはまさに「騙された」ような感覚が残るのだけれど、はたして彼女はどうだったのだろうか。僕は悪いことはしなかった。それだけは確かだと思う。でも、何かしたのか、と思い返せば、あまり自信がないのも確かだと思うんだ。彼女は面白くなかったのかもしれない。そうだとすれば、いや、そうだとしなくても、やっぱり彼女のあの言葉は正しく、そしてあの時そこにあるべきだったのだろう。「サヨウナラ」メールで送られてきたその活字体の、別れの言葉のあとに少しだけ文章が足してあった。「今、わたし泣いてるの」はっ、嘘だろう、そんなの絶対に嘘だろう。自己嫌悪に幾つかの快感を覚えたのもその時期だった。いや、今はもうないけれど。とにかくその件に関しては自分だけを責めることで少しでも彼女のことを、彼女の無邪気な部分を忘れようとしていた。シャワー室では彼女と歌った歌のみをさけて熱唱し、寝る前は恋愛ものでない、平凡で退屈な小説を読み続けた。難しいことなんかじゃない。この手紙を捨ててしまえばいいだけのことなんだ。畜生、そう言いながらも、体中に力を入れながらも、どうしてもその手紙をくしゃくしゃに丸めることはできずに、何かに固く守られた不思議でバカで孤独な記憶は、今もこれからも僕の脳にこびりついて離れない。
2007.04.07
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久しぶりに自転車に乗った。行くあてはなくて、ただただ街を走り回っていたら、見慣れない桜並木を見つけた。見えないほど向こうにある並木道の出口から吹いてくる風は春の暖かなイメージとは裏腹に今春特有の冷たくてなんだか灰色っぽい味のするものだった。花粉症の僕は風がやむまで、口をゴリラみたいにふくらませて息を止め、向かい風に立ち向かった。僕はあまり、サクラが好きではない。というよりも、感動しない。ありふれた感のある風貌と、秋に咲くコスモスの柔らかい白とは違った無機質で冷たくて薄い白は、あまり僕の胸の奥にある扉をたたこうとしない。弱弱しくてステキだ、と彼女は言ったが、僕にはそれが理解できなかった。雨が降れば縮こまって、風が吹けばすぐに散る。そんな生き方が気に食わなかった。「それがいいのよ、儚くも散ってゆく姿が凛凛しいの」彼女は長い髪を風になびかせながら言った。桜並木は長かった。見あきた風景に目を閉じると、自転車がふらふらと不安定になって、また目を開けた。ハンドルを握る僕の右手に落ちた一枚の花びらは一瞬のうちに手の甲からはがされ、音もなく後ろに飛んでいった。そして道路に落ちた。そして車に踏まれる。僕はあまり、世界が好きではない。というよりも、感動しない。個性を失った歩くロボットがひしめき合って擦れ合って、まるで陶器の食器にフォークを擦っているような、気持ちの悪い、やけに高い音を響かせる。人の手によって植えられ、人の手によって舗装された道路のわきで人の手によって描かれた景色としてみんなの目を引くサクラが、僕は好きになれなかった。そこにあるのは白いサクラの木々と、黒い道路と薄くぼやけた青空だけだった。道行く人はまるでそこにいないようで、しかし存在したいと叫ぶように、木々を見上げて笑っていた。僕は本当はこの景色にいないような気がしてきた。もしかすると夢を見ているんじゃないか?あるいはどこか別の世界にある大きなスクリーンの上からこの世界を見下ろしているみたいだった。浮かんでいるような、ETになったような不思議な気分のまま、一定運動を繰り返して無意識に自転車を運転していると、やっと出口に近付いてきた。風がまた―さっきのものよりもっと強い風がまた吹いてきた。するとサクラの花びらが吹雪みたいに散りだした。まるでこの一本の並木道がひと春を描き出しているようだった。春の終わりにあたる出口付近にはなにやら孤独を噛みしめたくなるような趣があって、幹と幹の間から80年代の、欧米の悲しげなメロディーが聴こえてきそうだった。僕には時間がないんだ。サドルから腰を上げて腹の筋肉に力を入れて、両足を強く蹴った。頬に張り付いたままはがれなくなったサクラの花びらが、並木道に覆われた止まった時間を、僕がこれから行くせわしなく流れる時間に連れて行った。
2007.04.05
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無口になっちゃうけど 恥ずかしかったけど それ以上に楽しくて それ以上に嬉しくて ベッドに寝転がりながらはにかんで 巡らす 春の暖かな繋がりを またね。
2007.04.04
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取り残された僕の時間だけが、友達から借りた卒業DVDの中には入っていなかった。なんてさびしいのだろうか。いっそ借りなければよかった。そう思わせたのはほかでもない彼女の泣き顔だった。卒業式に代表で答辞を読んだ彼女は、やっぱり僕には合っていなかった。だから僕は本当に日本に残るべきではなかったのだ。彼女には、僕は合わなかった。今なら、彼女がまるで別世界にいる人間のように思える。必死で鉛筆を握らないとテストで上位に入れなかった僕に対して、天才肌の彼女はすべてにおいて当たり前のように上位を奪った。なのに謙虚でふつうで、そこに僕は何かを奪われた。でも、そう、やっぱり僕には高すぎる人だったのかもしれない。少なくとも、昔の僕には。あるいは彼女はやはり僕のことを思って一緒にいたのかもしれない。すべてを知っているような気になっていた僕をも知り尽くして、まるで時を我慢するかのように。僕は耐えられなくなってDVDをパソコンから取り出した。もう無理だ。なにが?って、別に彼女の泣き顔を見ていられないわけじゃない。彼女は僕に見られてはいけないのだ。こんな劣等感があるだろうか。資格として僕がそこにいる価値が誰にでもなくその場所という時間に取り消されたこの劣等感を。感動、ではなかった。ジーンとくるその感はなんとなくそのような気がしたけれど、実際そうではなかったと僕は思う。それは何を隠そう僕の僕に対する嫌悪感であって、そして彼女に対する孤独感だった。彼女に対する孤独感?よくわからないが、ほかにことばが見当たらないのだ。彼女はまるで僕という存在を自分の中から放り投げたかのようにふるまっていた。僕のためのではなく、学校のための涙だった。僕は彼女の中にはいないようだった。彼女は決して僕のほうを見向かず、ただ涙の滴る自分の頬だけを見つめて、壇上に立ちつくしていた。畜生、卒業がなんだ。僕はやりきれなくなった。もう、嫌になった。どうすればいいのだろう。過去に戻ったところで彼女に失敗するのが関の山だろう。それでも僕は何かをしなければいけないという使命感を感じた。彼女のメールアドレスは知っていたけれど、きっと返ってはこないはずだ。送るにしても、なにを書けばいいのかもわかりはしない。中途半端な男だった。自分の残像に嘆いても、それに触れられるようにはならない。だから僕は言った。彼女の顔を僕の脳味噌から剥がし取るべく、泣き崩れながら、ひざまずきながら、僕は言った。「捨てさせてくれ」くしゃくしゃになった古いプリクラの上の君は、僕に微塵の興味も示さず、微笑んだ。*意味はわからなくたっていいんだ。
2007.04.04
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「あのね」と、普段滅多に自分からは話さない彼女が、僕が予約した、まずまずなレストランの席で言葉をはじめた。僕は「ん?」と、スペイン料理を口に詰め込んでいたために少し曇った返事をした。しっかりと目を見た。「あたし、たまに耳がなくなるのよ」彼女が食べていたのは、普通のラザニアだった。でも少し重たそうだった。僕の選んだ魚介類に比べてチーズやトマトソースをたくさん使って作られたその料理には、食後に確実に胃もたれを覚えるに違いない。そんなことを薄く考えながら聞いていたから、僕は彼女の言ったことがよくわからなかった。あるいはもし真剣に聞いていたとしても僕にはわからなかったかもしれないが、とにかく、僕は貝を飲み込むともう一度聞いた。「なんだって?」「だから、たまに耳を落とすのよ。いや、正確にいえば、耳が消える、かな」と、少し困ったような顔をした。「耳が消えるだって?もう少し細かく説明してくれないかな」僕は少しいやになった。回りくどい会話はあまり好きではないのだ。彼女は僕の要望を見透かしたかのように笑顔で言った。「それじゃあ、とりあえず全部話すね。簡潔に」ワインをグラスに注いだ僕は満足した。「うん、そうして」彼女は珍しく一杯のグラスワインを一口で飲み終えると、さて、といった表情で手を拭いて口を拭いて、ふうと息を吐くと話し始めた。「あたしね、昔耳だけのモデルをやってたことがあるの。そう、耳専門よ。それで耳の手入れだけは怠ったことがなかったのよ。自慢もできたしね。仕事は大して大きなお給料がもらえてたわけじゃなかったけど、そんなに無理もなかったし、収入は割合安定してたわ。でもある日のことだった。雑誌に載せるピアスの広告、まあ、それは結局載らなかったけれど、それに行ったの。確かね、名古屋の栄にある事務所だったわ。ピアスを見せてもらったけど、結構きれいだった。シンプルなデザインで、あたし好みだったわ。ピアスの穴は左だけ空けていたから、左の耳にピアスをつけて撮影した。その時のことよ、現像した写真には耳が写っていなかったの。もっと言うなら、耳だけが、映っていなかった。多少髪の毛も入っていたし、背景も見えていた。でも肝心の耳だけがぽっかりと薄暗い背景を残してどこかへ消えてしまっていたの。なんだか怖くなってすぐさまその事務所をあとにしたんだけど、どうやら遅かったみたい。それがきっかけだと思うんだけど、とにかくそれからなにかが狂ったのね」そこまで言うと彼女は、僕がその話の間に頷きながらグラスに注いだワインを少し口に入れた。早く続きが聞きたかったけれど、落ち着いて待った。直に彼女は話を続けた。「最初はものすごく違和感があったわ。だって耳がなくなるんだもの。一週間に2、3日ぐらいの頻度で、朝起きると耳がなくなっているの。はじめのうちは鏡を見なくちゃあるのかないのか分らなかったけれど、今はもう目が覚めた瞬間分かるのよ。そうよ、決して音が聞こえないわけじゃないの。ちゃんと周りの音は聞こえてる」「だったら何か不便なことでもあるのかい?」「そうねえ、確かに言ってみればそんなこと?って言われちゃいそうかも。でもきっとつまらなくはないわよ」彼女は冷めたラザニアの最後の一口を食べ終えた。「それは日によって違うし、二度同じ場所へ行くことはないわ。急にね、波みたいな音が聞こえてくるの。そうすると電池が切れる、っていうか、まあ言ってしまえばそんな感覚が耳だけを覆って、次の瞬間違う世界へ飛んじゃってるの。でもね、なんていうかなあ、意識だけはあるのよ。それと視界ももともとの場所と、行先両方を見ている感じ。うん、首をかしげてもしょうがないと思うわ。あたしだってよくわからないんだもの。それでね、今まで行ったことのない場所へ必ず飛んで行ってしまう。この間一緒にレストランに行った時も、実は一時的に海辺に行っていたの。返事はできていたと思うわ。重なっている意識がふたつにずれるだけだから、要するに、ひとつの体で、ふたつの世界とふたつの意識に存在してる、って感じね」「不思議な話だなあ、きっとその奇妙な感覚は体験者にしかわからないだろうね」僕は首をかしげながら言った。「あたしもそう思うわ。別にいやってわけじゃないんだよね。ただ良いことだとも思わないけど」ははは、と、二人で笑うと、僕らはウェイトレスにレシートをくれるよう頼んだ。それから代金を支払って、席を立った。お酒が少し回り始めていて、なんだか良い気分だった。彼女の耳は、きれいだった。
2007.04.01
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季節を描写するという行為について、彼はこれまで深く考えることがなかった。いや、それ以前に「描写する」という、文章を書く上で最も重要であり軸となる行為自体をそれとして捉えたことがなかった。彼は「書く」行為そのものから無意識のうちに「描写する」という行為に=(イコール)を結んでいた。彼は書いてみようと思った。それを意識して、この季節を書いてみようと思った。あるいは僕には作文能力がないのかもしれない。それを確かめるのも兼ねて、春という季節を描写してみることにした。春という季節はそれほど好きではなかった。寒くない秋が好きな彼は、春という季節に今があるからという理由で季節という大きなオブジェクトを描写するのではなく、自分の気まぐれな希望と、退屈な時間をなんとかしてつぶそうというだるい意識の中から、自然と自分の文章を文章として見つめて書こうと思っていたのだ。『風はまだまだ冷たかったが、廊下で大きな窓のカーテンを開けて寝ころぶと、そこに風はなく、毛布よりなによりも暖かい空間が出来上がった。あるいは、僕はそれを空間と呼ぶべきではないのかもしれない。しかしそれ以上のことばが見当たらないし、視覚的ではなく、直感的に僕はそれを空間ではないと見抜いたから、僕は僕の目を信じることにする。雲がいつもより白く見えた。いつも必ず雲の下のあたりに浮かんでいる影は今は全く見えず、ひたすら真っ青と真っ白の世界に、点のようにぼうっと輝く太陽が見えた。これが空、か。僕はうとうととしはじめていた。両手を頭の後ろにしいて寝ていたから、なんだか両手の末端がしびれてきた。僕は起き上がって窓側を向いて胡坐をかいて、深呼吸をした。別に春の匂いとか、そういったものは感じなかった。少しカビ臭いだけ。それだけ。高校生の声が聞こえた。あるいは若返ることを夢見ている年増の女性たちかもしれない。癖のある、というよりも、癖をわざとつけているように聞こえるキンという甲高い、ぬめぬめとした耳ざわりのあるその声を聞いていると、季節は関係ないような気がしてきた。夏になれば脱いで、冬になれば着る。なんだか人は季節というものを敬いすぎているような気がしてならない。しかし実際はどうだ、誰一人としてその季節に対する感情を抱くものはいないのだ。もちろん僕も、そうだ。もしくは、そうだった。春はさわやかな季節であるような気がしてきたし、今までの人生でそれを毎年実感していたはずだったけど、こうやって冷静に季節を見つめてみると、大してさわやかでもない。ただ単に、暑くもなく、寒くもないだけだった。中途半端な線が割合好きな僕も、この季節には感動しなかった。ただ、嫌いなわけでもない。好きな季節は?と、今の僕にそんな質問が来たら、僕は迷わず「境目」と答えるのではないだろうか。今までの憂鬱な季節を終えたことで得るある種の達成感と、また憂鬱となるにも関わらずなにかしら輝いて見えるような気がする次の季節への期待感が混ざり合ってなんにもない平らでまっすぐな感情がくねくねと心臓を突き破る感覚を味わうのが、好きだ。やっぱり僕は、それが好きだ。季節の移ろいというのは、人の老いよりもずっと早く感じるものだ。雲があっという間に窓から見えなくなるように、きっと僕らも、そんなふうにして時間というなにとも比べようのない感覚だけが、ボーっと過ぎていくわけである。』彼はその文章をあまり好まなかった。自分らしさがない、と笑った。そもそも春という季節はそういったものなのかもしれない。描写しようがないのかもしれない。結果彼の書いた文章は事実の描写よりも自分の考えと、むしろ心の描写が目立っているように思える。彼はもう一度笑って、まだだいぶ残っているタバコを灰皿にぐりぐりと押し込んだ。鳥のさえずりが、聞こえたような気がした。
2007.03.31
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今日も空は無情にも青かった。見上げた僕は喉仏がなんとなくつっかかったような気がして、また俯いた。どうしてだ、どうしてこんなにも暖かい?暖冬ではなく、きっと春のはじめあたりに本格的な冬が来ると思っていた。そして過去の記憶を凍らせてくれると、そう信じていた。それでも雪は降っていない。それどころか目がチカチカするほどピンクの桜並木が、色を失くしたはずの世界を彩っていた。皮肉にも開花が早まったのだ。僕は路上のボコボコになったビールの空き缶を思いっきり蹴飛ばそうとしたけど、空振った。やりきれなくなって思いっきり踏むと、かかとの骨が死ぬほど痛かった。しかめた顔に心地よい風があたって、なぜだか自分だけが恵まれていないような少しずれた劣等感が背中をぞわりと撫でた。甘い飴玉を吐いた。車道に転がると都合よく大型の車が来て、気持ちよく粉々に壊して行ってくれた。そうだ、現実もこうでなきゃ。僕はまだ春を迎える準備ができてない。あと一週間ですべてを吐き出せ?無理に決まってるだろう。第一それを試みる能力すら今の僕にはないというのに。新しい希望と光と若い力を心にしまうには、奥のほうに詰まっている埃をかぶった古くて無駄でただ重いだけの思い出と呼べるほどきれいじゃない記憶を捨てなければならない。躊躇っているのか?そうかもしれない。できない、のではなく、しないのではないだろうか。そう考えると自分がとんでもなく愚かに思えそうだったから、やめた。僕は許されないのだ、過去という退屈をドブに放ることを。影が重たいと思ったことはあるだろうか。僕はある。確実についてくる同じ歩幅と恰好悪くはねた髪の毛を振り放そうとするのは無駄だとわかっているから、人は影を重たいものと思わないのかもしれない、少なくともそれにはしっかりと意思と重さがある。確かに、それがあるからこそ人間は考え、生き、死ぬことができるのかもしれないが、しかしそれを考えても、僕はどうしてもこの影という影なる束縛からいち早く逃れたいと思うのだ。夕日がいつまでたっても沈まないのを見ていると、僕は今日も頭が痛くなる。
2007.03.30
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村上春樹「螢・納屋を焼く・その他短編」 芥川龍之介「羅生門・鼻・その他短編」 アレックス・シアラー「世界でたったひとりの子」 やったぜ。
2007.03.30
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つつく刺激に惑わされると、どうやら運命という根拠のない夢を信じたくなってしまうようだ。 ぬるくなったペットボトルのお茶が喉を通らないほど苦しくて、僕は笑ってみた。ありえない。そう考えるのが普通だろうし、そう思おうともした。けれども無意識的に発する欲というか、希望は心の奥の方でゴソゴソとなにかのドアをノックした。 気が付けば昔懐かしい場所が近くなっていた。はしゃぐ高校生の叫び声を掻き消すように古い車両はやかましく唸り、春の暖かな風を切ってくねくねと走った。
2007.03.29
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「腐ってやがる」と僕は言った。淀んだ雨雲が空気を閉じ込めている。肌触りの悪い春の風が左の方から吹いてくる。これは、不快だ。そしてあまりにも不公平だ。彼女は僕の右隣にいた。風の強いこの季節にワンピースとか、ありえない。今朝そういってやったら、彼女ははにかむ、というよりも少し意地悪そうにけけっと笑ってから「いいの。あたしは寒くないから」と僕に言った。こういうことだったのか。僕はもう、ガクガクと震えていた。それは寒さだけが原因ではなかったけれど、別に恐怖も不安もなければ、震えるほど嬉しいことだってなかった。ただ僕の身体は芯から小刻みに動いていた。もう、寒い。僕はホットコーヒーを飲んでいて、彼女はガリガリ君を齧っていた。わけが分からなかった。背中をくっつけ合わせて座っている僕らの二つの世界はまるで季節が正反対のようだった。ひとつだけ共通してるのは、僕から見て彼女の背中が温かいということと、反対に彼女から考えて僕の背中が温かいはず、だということだった。そんなことを考えていたらホットコーヒーが冷めちゃって、それにガリガリ訓をわずか一分足らずで食べ終えた彼女はもう立ち上がっていて、僕はまた極寒の世界へと堕ちていった。雨がまた降ってきた。
2007.03.25
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イギリス時間の今夜7時(日本時間24日の4時、かな?)に、ロンドンを出発します。2年ここで暮らしていたという実感もなければ、もう終わるという実感もないんですね。ただその「帰る」っていう事実だけがぬけてるだけであって、それからくる不安やら期待やらっていう気持ちはあるんです。事実だけを僕は事実として受け入れられない、という、まあ、簡単に言えば複雑な心境なわけです。でもまあ、なんといおうが日本に着けばそこでの新しい生活がはじまるわけですし、特に焦ってその事実を自分で確かめようとはしないつもりです。気はどうしても早まってしまうけど、きっと日本に帰って事実を受け入れればまた違った不安や期待が出てくるはずです。っていうなんともわけのわからないことを考えならがら、僕はまたしても12時間のフライトに苦しむわけです。中部国際空港に来てね☆(日本時間24日20時ぐらいにつきます)
2007.03.23
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2.羊の話空はただ青かった。あくびをする羊が一匹、地平線の向こうまで続いていそうなほど広い牧場に座っていた。ツヤの良い白い毛をした羊の頭からは二本の長くて、これもまたツヤのあるクリーム色の角が伸びている。眠そうな顔は崩された前足に半分以上隠れていて、前髪が春の風に靡いていた。羊はまたあくびをした。今まで誰にもあったことがなかった羊は当然愛することも愛されることも知らなくて、だから何も感じなかった。風が気持ち良い。少し肌寒い。それだけしか感じなかった。昨夜はひとつのカップルを夢の中へといざなった。羊には、どうして人が愛し合うのか分からなかった。だから陥れた。羊には彼らが今どこにいるのか分からない。でもきっと馬鹿な人間はこの世界からの脱出方法を見出すことはできないだろうと思っていたから、今日もいつもの日常を送っていた。鳥のさえずりが耳に障って、向こうに見える小さな小屋の中でコーヒーを飲んでいる羊飼いの老人が目障りだった。羊は、春の匂いの中で眠りについた。羊も夢を見る。それは羊にとってはごく普通で当たり前のことなのだけれど、人間から見れば不思議なことだろう。羊が夢を作るのに、どうして羊に夢が見れるのだろう。羊は知っていた。誰が本当に夢を作っているのか。そして誰が夢を見ることができないのかを。全てを知り尽くした二本の角が、眠った羊のあくびと合わせて、ゆっくりと動いた。
2007.03.22
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1.夢の中の話「じゃあ、どうすればいいっていうのよ!」羊女(ひつじおんな)がそう喚くと、羊男(ひつじおとこ)はすこしも心の平静を崩さずに、目を細めて、すぅと息を吸ってから静かに呟いた。「羊を探せばいいじゃないか」「何を言っているの!?羊!?羊を見つけて私たちはここから抜け出すことが出来るというの!?バカいってんじゃないわよ!!」羊女は肩まで伸びた髪の毛を振り乱してまた怒鳴った。羊男は片方の眉と唇を軽く上げて薄く笑って、また表情を無に戻して話を始めた。「じゃあほかに何をすればいいっていうんだい?第一夢に入るために一緒に羊を数えようといったのはほかならぬ君なんだ。そう、僕が今ここにいるのも君のせいってわけ。柵を越える羊を数えたよね、だから今度は僕らがこの世界で羊を見つけて、柵を越えて帰すんだ。そうすればきっと僕らは元の世界に戻れるはずだよ」羊女は羊男になだめられて少しだけ冷静さを取り戻し、憤慨したところでなにも起こらないことを悟ると小さな声で言った。「わかったわ、そうしましょ。この世界で、一匹ずつ羊を探す。そういうことなのね?で、どうするの?一緒に行動するのか、それとも別々にか」羊女がそう尋ねると、羊男は少し考えてから答えた。「とりあえず二人でこの世界の大きさと、土地のついての知識を得ようじゃないか。きっとこの一本道を歩いていけば村かなにかに出るはずだから、そこでまず情報を集めよう。そこからは別々だ。いいかい?」「わかったわ。それじゃあ、まずは人との出会いを目指しましょう」霧はますます濃くなってきた。掻き分けて進む二人はだるそうには見えたけれど目は確実に光っていて、夢の世界から現実へのドアを探していた。
2007.03.20
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「羽ばたきかたを忘れたのかい?」「羽ならそこに、あるだろう」「君ならそこに、いるだろう」僕は飛びたかった。濁った過去を思い出すように僕は背中にある二本の白い羽を撫でて、スニーカーの音を鳴らせて土を蹴った。「それじゃ、だめだよ、素足じゃなきゃね」僕はスニーカーを脱いだ。それから靴下も脱いで、もう一度ジャンプした。両腕をバタバタと動かして。「それじゃ、だめだよ、手足を動かすんじゃなくて、羽を動かさなきゃね」僕は四肢の力が完全に抜けるまで目を瞑った。分かったような気がしたから、また、跳んだ。こんどは何も起こらず地面に落ちて、力のなくなった足は重力でさらに重たくなった体を支えきれず、僕はへなへなと座り込んでしまった。「まだ、だめだよ。呼吸が整ってないんだ。羽に意識を集中させて、心の中をいったん空っぽにするんだ。軽すぎて重たくなるまで、まぶたを下ろして、指先まで透明にする」僕は言われたとおりにした。目を閉じて深呼吸をして、体中を空っぽにしてひらひらと空を舞う僕の体と羽を思い描いた。そして、少し土色になってきた足の裏を地球から離した。結果は失敗だった。「はて、どうしてだろうか」男は首をかしげた。僕も片眉を上げて首をかしげた。「普通はね、今ので飛べるはずなんだ。素晴らしいフォームだったんだよ。もしかしたら僕よりも上手だったのかもしれない。それほどセンスがあるのになあ、どうしてだろうか」「どうして、なんでしょうね、まだ余分なものが心に残っているとか」男は顔を僕の方に向けると、目を丸くした。それから口元を少しゆるませてふふん、と笑うと、僕に言った。「君、嘘ついたことあるでしょ?」それじゃあ、空の飛び方は知れないんだ。
2007.03.20
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風の声が別れを告げたとき、君はなにを感じたのだろうか。今日は曇りだった。なんだかじとっとした嫌な空気だったけれど、心はすがすがしかった。教室はいつもと同じにおいがして、膜で覆われた、感じない実感を掬おうとしていた。「来週、行っちゃうんだよね」君から話しかけてきたのは、おそらくそれが初めてで、そう、最後だった。一月の終わりにはこの学校を去る、それは僕にプレッシャーとしてのしかかる一方、学期末テストから逃れることができるという、無意識的に動いてしまう安堵感というものが溢れていた。「そうだよ」「来週、行くんだ」彼女の声は震えていた。女子と二人で帰路を歩くのは初めてだったから僕も多少は緊張していたはずなんだけれど、その僕よりも彼女の顔はこわばっていた。いつもよりもゆっくり落ちていく夕日が汗ばんだ僕の背中を柔かく照らしていた。ツインテールの君の髪の毛の香りが僕を酔わして、小さい川の流れが止まったような、心地のよい気分になっていた。道端に早めのタンポポが一輪咲くように、君の笑顔は、切ない笑顔は空を赤めて、春を早めて、僕の心を震わせた。夕焼けは僕らを置いていった。一番星を見上げるベンチに座る僕たちにあったのは薄っぺらな沈黙と、濃くて悲しい寂しさだった。孤独が怖くて、そんな僕がどうしようもなく感じた。愛されようとしている自分が、どうしようもなくバカに思えた。月が隠れた。僕は最後に簡単な別れの言葉を君に告げると、君の手が置かれた僕の手を君の手に置いて強く、強く握ると、僕は君の眼鏡を取ってまっすぐ顔を見て、微笑んだ。それから僕は眼鏡を返してうしろを向いて、カバンを持った右手を肩にのせるような格好で、そこを去った。君の涙声には振り返らなかった。僕も泣いていたから。君とは、それから一週間会話をしなかった。鳥の鳴き声が珍しくきれいな朝、僕は空を飛んだ。残した君に微笑んで。
2007.03.19
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霧雨の舞う金曜日の夜だった。午後九時に家を出て、僕と友達二人で、街に下りていった。週末ムードのいつもの通りは僕のみるそれよりももっと明るく、空に飛び回る星たちをうれしそうに見ていた。1530年から経営しているらしいパブに入った。十畳もないほどの狭いパブに、たくさんの人が入っていた。仕事帰りのサラリーマンが歌っていた。上品な紳士と淑女がワイングラスを回していた。高校生ぐらいの若い女の子がへそを出して彼氏を誘惑していた。「ねえちゃん、ビールひとつ」この国ではもうお酒の飲める年である16歳の友達はラージサイズのジョッキに溢れた黒ビールをチビチビと、美味しそうにすすっていた。15歳の僕はレモネードを頼んで、周りの人たちに合わせるように、ビールを飲んでいるような真似事をした。良い雰囲気だった。あいにく席がなくて、白い壁にもたれかかって話した。窓から見える、街を行く露出度の高い服をまとった女の子の話、パブの天井からぶらさがってる裸電球の魅力、とにかく、他愛のない、面白くもない話をさも面白そうに話した。グラスの中にあった氷までなくなって、僕らはパブをあとにした。カウンターには新しく二人の客が入っていた。一人は190cmぐらいの大柄な男で、黒いシルクハットと濃い目のベージュのコートを羽織って、ピカピカの革靴を履いていた。もう一人は165cmぐらいの小柄の男で、乾いた唇とむき出しになった黄色い八重歯が印象的だった。どちらもシャーロック・ホームズに出てきそうな、そんな古い雰囲気のある男だった。夜は更けていた。あちこちで騒ぐ連中に時々叫びながら、僕らは帰路を辿った。ほこりとタバコの煙で曇った街灯と、趣のある大聖堂のステンドガラスのねじったように歪んだ優しい光が道と浮く雨を照らしていた。[ あのねのね ]昨夜、パブに行ってきました。一緒に行った人のビールを分けてもらったからか、帰りはきつかった。空が回りそうなほど眠たくなりました。でも、楽しかった。
2007.03.17
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小雨の午前中。雨の匂いをふたつの肺で感じながら歩く彼の背中には、大きな傷跡が会った。どんな厚い服を着ても見えてしまう、古い傷跡が。信じられないことに、背中にある一本の大きな傷は、知らないうちにそこにあった。雷が掠ったわけでもなく、通り魔にのこぎりを振り上げられたわけでもなく、ごく普通に。通り行く人が、後ろに行ってから振り返って彼のことを指をさす。そんなとき彼は大量の冷や汗を全身、勿論傷跡も含めてかく。顔面が蒼白になって、あるいはこの顔は自分のものではないのではないだろうか、と思うような不思議な感覚に陥る。ある日、彼はひとりの女性に出会う。彼は女の人に話をするのはあまり得意なほうではないからかたくなっていたけど、その女性は気軽に彼に声をかけてくれた。だんだん仲良く、なっていった。仲が良くなっていくにつれて、彼はひとつの新しい感情を覚えた。彼は恋をした。彼女を探し、彼女を見た。そして、少しして二人は…。傷跡があるということ以外はなんの変哲もない、普通の物語。そう、普通の物語。
2007.03.16
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リオという少年と、サキという少女がいました。リオは15歳でした。サキは16歳でした。二人は面識はなかったけれど、話したことなら何度もありました。未来に期待を寄せたものです。もしかしたら、と。もしかしたら、過去にも未来にも、二人には関係があるのかもしれない、と二人は信じました。そうするとそれぞれが道を楽しく歩くことができたし、そこにいる理由がひとつ増えました。二人は幸せでした。*現実は泥の波のように二人を飲み込みました。大人になった二人はそれぞれの泥の中でもがいてもがいて、溺れながら仕事をしました。そのうち社会という煙に巻き込まれた二人はそれぞれのことを完全に忘れ、でこぼこのベルトコンベアの上から振り落とされないように、必死でした。春の昼でした。30歳のリオは疲れて散歩をしていました。古くなった安いスニーカーを真新しいアスファルトに擦らせながら、何かを探していました。すると、反対側から、というのはリオの正面から、背筋の伸びた女性が歩いてきました。スーツを着たサキは、仕事のできる大人になっていました。コツコツとハイヒールの音をならせて、31歳のサキは歩いてきました。二人は互いに目もくれずにすれ違いました。それから五回サキの靴音が響いて、二人は同時に振り返りました。懐かしい匂いがしたのです。辺りを歩く都会の人たちは歩く足を止めませんでしたが、二人を繋ぐ時間はぴたりと止まりました。それでもリオには女性が遠い世界にいるお金持ちに見えたし、サキからは男性がとんでもなく貧乏で自分とは何のかかわりもない男に見えたから、また、二人とも進行方向を見て歩き始めました。お互いは忘れていました。約束を。運命を。*ねえ、とっても悲しいお話だと思いませんか?と、すれ違った見ず知らずの女性に尋ねたなら、きっとあなたは変質者と間違えられます。曖昧な記憶の答えを手に入れることに急ぎすぎたが故に、あなたの探し求めているものは一層色薄くなるんです。
2007.03.15
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庭に来た春。
2007.03.14
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長かった、といえば確かに長かったのかもしれませんし、短かった、といえば短かったのかもしれません。ついに、短編小説が100作目を迎えました。思い返せば、最初の短編「ファーストフードショップ」をJUGEMの方で書いたのが去年の5月末でしたから、もうかれこれ10ヶ月も書いてるんですね。不思議だなー、と、今になって思います。楽天で会った皆さん、JUGEMの時から読んでくれていた皆さん、本当にありがとう。これからもよろしくね(はあと)というわけで、100作目だから…とか考えてたんですが、やっぱり普通な感じにしよう、と思いました。夢の外の僕が見た、夢の中の彼女僕の書いてきた文章のうち、ほとんどがノンフィクションなんですが、今回のものも、ベースはノンフィクションです。半分はフィクションですね。要するに半分は妄想でできあがってるってことなんですがね☆と、まあ、どうまとめればいいのか分からないのですが、とりあえず、はい、ありがとうございましたー!(完全に日記の書き方を忘れました)
2007.03.14
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僕の狭い部屋にポツンとあるイスにもたれかかって、中二の学年文集を久しぶりに読んだ。中三のはじめにはもう僕のそばからいなくなってしまっていたから、一緒に文集を作ったのはその一年だけだった。もう一年も見ていないから、僕には君が遠い遠いところに行ってしまったような気がしてならなかったのだけれど、君の、誤字のちらつく文章を眺めていると、やはり僕にも君といた頃があったのだ、となんだか安心するような、夢を見ているような不思議な気分になる。また会いたい。なんていう、まあ言ってしまえば夢を現実にしたくなる衝動と同じようなものが僕の目の前にぶらぶらと下がってきた。でも、本当に会えるの?なんていう、まあ言ってしまえば現実を夢にコンバートするときに生じる不安みたいなものが募ってきて、そのまま僕の胸を一杯にした。ねえ、僕らはいつ会えるの?誰も答えを知らないって分かっていたから、自分だけで答えを探した。*公園のベンチの隅っこに小さくなって座っていた。今の僕には不安はなくて、それよりもっと大きな期待と緊張が僕の体中をぐるぐるぐるぐる巡って、顔からは笑みが絶えなかった。携帯電話で時間を確認して、そろそろかな、なんて考えながらそれをジャケットのポケットにしまって、俯いて目を瞑って、少しだけ深めに息を吸ってから顔を上に向けて「ふうー」と息を吐いてから、雲の泳ぐ春の空を見るために目をパチリと開けると、その明るい背景よりももっともっと明るい、懐かしい君の顔があった。「久しぶりだね、元気?」勿論僕は驚いたけれど、うれしくて何秒かそのまま上を見上げていた。それからベンチから立ち上がって、改めて君を見た。「うん。元気」*それは夢なんかじゃなかった。僕の右手は確実に君の左手を握っていて、君の左頬は本当に僕の右頬にくっついていた。甘い時間は思っていたよりも早く速く過ぎて行って、君はずっとずっと大人になっていた。*「また、会えるかな」少しも変わらない僕のセリフが夜の星に跳ね返る。「会えるよ。ってか、会おうよ」ちょっとどころか、凄く僕よりも大人になった君の声が、力強く街灯の灯りを揺らした。あの頃と一緒だった。右手を握る君の頬は赤らんでいて、僕の心は満ちていた。それを満たす感情がどんなものであろうと、僕は良かった。ただ君といれて、ただ君を見てる。それだけで十分だった。なのに、それさえも、神様は許してくれない。僕に我慢できないことを、君はできる。強い人だ。僕はそんなふうに、改めて思った。「じゃあね。また会おう」*夢から覚めたいと思ったことは、一度もない。だってそれは現実にもなるものなのだから。一日だけ見た君の目の中にあったものを探しに、僕はまた君に会いに行くよ。その涙は、悲しみではなかった。僕は幸せだった。*****捧げる記念の百作目。
2007.03.13
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わりあい家の中が好きな僕に対して、君は外が好きだった。「散歩が、好きなの」五歩ほどスキップをして僕の前に出て、振り返った君がそういった。寒いだけ、と言いかけてやめたのは、マフラーに突っ込んだ口を外に出すのが面倒くさく感じたから。揺れる粉雪に濡れる肩も気にしないで歩いた。「どうして好きなの?」なんて聞かなかったけれど、君は僕の気持ちを見透かしたかのように答えだした。「あのね、散歩って意外と冒険っぽいの。なんていうか、いつもの道を歩くんじゃなくて、知らない道を歩く。それが楽しいんだよ。特に晴れた日はね」僕はだんだん疲れてきて、足が上がらなくなってきた。そうするとスニーカーがアスファルトにすれてザー、ザー、と音を立てる。君はスキップで変わらず軽快な音を奏でる。この音が好きだ、そう思った。景色はあくまでバックグラウンド。青い空と舞い散る雪があって、一定のリズムから、たまに君の歌声が聞こえる。たまに僕も入って、いつの間にか散歩ライブが始まっている。これが好きだった。「散歩、いこ?」はじめはホントに嫌だった君の決まったセリフも、知らないうちに気にならなくなっていた。どっちかというと乗り気な感じで、「おう」と言うと僕はいつものマフラーと手袋とジャケットを羽織って外に出た。冷たくて甘い散歩道に。だんだん疲れてきて、足が上がらなくなってきた。そうすると古くなったスニーカーがアスファルトにすれてザー、ザー、と音を立てる。雑であまり綺麗じゃない僕の音を綺麗なバックミュージックに仕立てる君のスキップは聞こえなかったけれど、僕はマフラーからかわききった口を出して、大声で歌った。あの日君と歌った歌を、大声で、歌った。それから泣いた、冬の散歩道。
2007.03.12
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友達の家までの。
2007.03.11
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2007.03.11
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「今日はどうだった?」と僕の帰りを待っていた君の問いに、僕はいつものように答えた。「今日は、いろいろあったさ」「いろいろって何よ」具体的な出来事というものを朝からなぞって人に説明するのは得意じゃないし、いろいろ、といえばそれで分かるんじゃないのかな。そう思いながら、僕はもう一度呟いた。「いろいろだよ」怒ったふりをする君の顔もかわいい。そして僕はそこにいる。それだけの事実があれば十分じゃないか。多彩な色と太さの糸ががむしゃらに絡み合った僕の人生の中の今日という日のつまらない一日を話すよりも、こうやって君の顔を見つめていたほうがずっと良い。でも君にそれを言うのはあまりにも恥ずかしすぎるから、そんな幸せなもどかしさを僕の目の前から追い払うためにタバコの煙を吐いた。「いろいろあったのね」そうやって全てを見透かしたように軽くにやけて僕のことを見るから、僕は耐えられなくなって、頭痛を我慢するふりをした。きっと、それも見透かされてた。いろいろあったんだ、本当に。疲れなのか快い脱力感なのか分からない奇妙な感覚と匂いを皮膚の周りにじっとりと感じながら、僕は今夜も風呂へと急ぐ。
2007.03.11
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