Nij

2007.04.07
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カテゴリ: 短編小説





それが僕の、今日の風に対する感想だった。
肉体的な苦痛は全くなかった。強いて言えばたまに強まるそれが前髪を多少乱す程度で、それといって動く上で困るような障害はなかった。

それでもそれは確実に僕の体を風下へと押し込もうとして、まるでそれは向かい風ではなく、むしろ後ろから何かに吸い込まれているような感覚、というのか、状況の雰囲気みたいなものがそこにあった。

風穴の空いた横腹には冷たい春先の風が通り抜けていた。それは肉体的には不快なものではなかったが、逆にそれを心地よいと感じることに多少の不快感を覚えた。爆発した猫はもう風に引きずられ、さらに僕も少しずつではあったけれど前進していたから、僕と彼、あるいは彼女は、僕から見てだいぶ後ろの方で寝転がっていた。いや、それを猫として認めることができないのだから、寝転がっていた、というよりも、横たわっていた、のほうが表現として適当なのかもしれない。



煙はまだ僕を食べていた。目の前は今でもかすんでいたし、足元は見えなかった。匂いのない冷たい煙がもくもくと渦のように竜巻のように回りに回って、僕はなんだか眠たくなってきた。穴の空いた体に痛みはなかったけれど、それにもちろん精神的なダメージと呼べるような苦痛は覚えなかったけれど、なにかがなくなったような、そんな奇妙な空虚感ではなく、なんて言えばいいのだろうか、絶望感にも似た、ある意味では至福感にも似た、そんな気持ちを感じ取った。それは決して気持ちよいものではなかった。なんとなく物足りないような、そんな気がしたのだ。何かが、足りない。何か、が。




歩き疲れた僕は、座り込んだ。折れ曲がった体にある穴はわずかに変形した状態でそこに残った。猫を踏んだ右足は爆発でやけどを負っていて、しかしそれさえも、今はなんとも嬉しく感じたのだ。



時間が迫ってきたことを、僕はそれとなく感じた。でも僕は時間を気にすることなんてないし、もっと言ってしまえば、ここにいる理由さえもなかった。別に僕だって、ここにいたくているわけじゃない。だから僕は死滅をただのんびり待つことだってできるんだ。





やっと、誰かがこっちに向かってきたぞ。真っ黒の革のロングコートを羽織った大柄の男は、きっと僕を踏んで、それで僕の爆発で右足の裏を火傷して、風と煙に腹を涼しくして、それから座り込んで自ら死滅を待つことになるはずだ。





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最終更新日  2007.04.07 08:31:10
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