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沖縄県名護市辺野古の新基地建設是非を問う県民投票について、
下地敏彦宮古島市長が不参加を改めて表明するなど、
県が全41市町村の参加を呼び掛ける一方、
実施する方針の市町村は現時点で35にとどまる。
県民投票の事務処理拒否は、
憲法上も問題があると指摘する
木村草太首都大学東京教授が本紙に寄稿した。
沖縄県議会で昨年10月に成立した住民投票条例に基づき
2月24日、辺野古埋め立ての賛否を問う
県民投票が実施されることになった。
地方自治法252条の17の2は、
「都道府県知事の権限に属する事務の一部を、
条例の定めるところにより、
市町村が処理することとすることができる」とする。
今回の住民投票条例13条は、
この規定を根拠に、投票に関する事務は
「市町村が処理する」こととした。
なぜそうしたのかと言えば、
投票所の設置や投票人名簿の管理は、
国や県よりも地元に密着した市町村が得意とする事務だからだ。
つまり、今回の事務配分は、
各市町村に投票実施の拒否権を与えるためではなく、
あくまで県民投票を円滑に実施するためのものだ。
しかし、宜野湾市や宮古島市で、
県民投票の事務処理を拒否する動きが進んでいる。
この動きには、地方自治法・県条例のみならず、
憲法の観点からも問題がある。
一番の問題は、憲法14条1項が定める
「法の下の平等」に反することだ。
一部の市町村で事務執行がなされないと、
住んでいる場所によって「投票できる県民」と
「投票できない県民」の区別が生じる。
「たまたま特定の市や町に住んでいた」という事実は、
県条例で与えられた意見表明の権利を否定するだけの
「合理的な根拠」とは言えない。
したがって、この区別は不合理な区別として、
憲法14条1項違反だ。
この点、投票事務が配分された以上、
各市町村は、その区域に居住する県民に
投票権を与えるかどうかの
選択権(裁量)を持つはずだとの意見もある。
しかし、「県条例が、そのような選択権を認めている」
という解釈は、県民の平等権侵害であり、
憲法14条1項に反する。
合憲的に解釈するならば、
「県条例は、そのような選択を認めていない」
と解さざるを得ない。
この点については、昭和33年(1958年)の最高裁判決が、
「憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、
地域によって差別を生ずることは
当然に予期されることであるから、
かかる差別は憲法みずから容認するところ」
との判断を示していることから、
自治体間の差異は許されるのではないか、
との疑問を持つ人もいるかもしれない。
しかし、この判決は、
各自治体の条例内容の差異に基づく区別についての判断だ。
今回は、各市町村が自らの事務について
独自の条例を定める場面ではなく、
県条例で与えられた県民の権利を実現する責任を負う場面だ。
最高裁判例の考え方からも、
地域による差別は許容されない。
さらに、平等権以外にも、
問題となる権利がある。
県民投票は、県民全てに開かれた
意見表明の公的な場である。
県民の投票へのアクセスを否定することは、
憲法21条1項で保障された
「表現の自由」の侵害と認定される可能性もある。
さらに、憲法92条の規定する住民自治の理念からすれば、
「県政の決定に参加する権利」は、
新しい権利として憲法13条によって
保護されるという解釈も成り立ちうる。
このように考えると、各市町村の長や議会には、
県民の憲法上の権利を実現するために、
「県民投票に関わる事務を遂行する義務」がある。
議会が関連する予算案を否決したり、
長が地方自治法177条の原案執行を
拒否したりするのは、この義務に反する。
訴訟を検討する住民もいると報道されているが、
市町村が事務執行を拒否した場合、
裁判所も厳しい判断をする可能性がある。
もちろん、
「県民投票反対の市民の声を代表しなくてはならない」
との責任感を持つ市町村長や議員の方々がいるのは理解できる。
しかし、宜野湾市や宮古島市にも、
県民投票に参加したいと考える市民は多くいる。
そうした市民の声にも耳を傾けるべきだろう。
ちなみに、県条例は棄権の自由を認めているから、
県民投票反対の県民は、
市長や市議会議員に代表してもらわなくても、
棄権という形で抗議の意思を表明できる。
市民全員に棄権を強制することは不合理だ。
前回の参議院議員選挙では、
徳島県と合区選挙となった高知県で、
大量に「合区反対」と書いた棄権票が
投じられたことが話題となった。
今回の県民投票でも、
棄権票に「県民投票反対」と書いて、
強い反対の意思を表示することもできる。
宜野湾市で、千単位、万単位の
そのような棄権票が出れば、
大きな話題となるはずだ。
県民投票は、県民の重要な意見表明の機会だ。
沖縄県内の市町村長・議会議員の方々には、
ぜひ、県民の権利を実現する
憲法上の義務のことも考えてほしい。
(首都大学東京教授、憲法学者)
きむら・そうた
1980年、横浜市生まれ。
東京大学法学部卒業、同大助手を経て
2006年から首都大学東京准教授、
16年4月から教授。
主な著書に「憲法の創造力」や
共著「憲法の条件―戦後70年から考える」など多数。
本紙に「憲法の新手」連載中。
ブログは「木村草太の力戦憲法」。
ツイッターは@SotaKimura。