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2021.06.11
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カテゴリ: 読谷村



沖縄本島中部西海岸に古い歴史を持つ読谷村「字渡具知集落」があり、約7000年前の縄文時代早期には集落の南東部に位置する「東原(あがりばる)」地域には既に人類が生活していました。伝承によると「字渡具知集落」の発祥は比謝川流域にある「渡具知東原遺跡」から更に東側にある「潟原(かたばる)」と呼ばれる地域(現在の読谷村古堅)に人々が住み始めた事とされています。「東原」にあった「ムラヤー/村屋」は現在で言う公民館にあたる建物で「字渡具知集落」の中心地で現在は「ムラヤー跡」の石碑があります。


(東井戸/アガリガー)

度重なる洪水で集落が流された事から、「字渡具知集落」発祥の家であるニーヤ(根屋)を残して現在の高台に移住しました。「ムラヤー」の北側に「東井戸(アガリガー)」があり、祠は東側に向けられて建てられています。「字渡具知集落」は中心地であった「東原」、現在の渡具知公民館がある「前原」、渡具知泊城がある「西原」、渡具知の浜周辺の「裏牛原」、その北側の「木綿原」、「前原」の北側に隣接する「中原」、そして更に北側にある「中道原」の7つの地区で構成されています。


(渡具知東原遺跡)

「字渡具知集落」南部を流れる比謝川のほとりある「渡具知東原遺跡」では沖縄で出土例がない曽畑式土器(熊本県周辺で出土される土器)が見つかり、その下の古い地層からは発掘当時(1975〜1977年)では沖縄最古の土器となる爪形文土器が見つかりました。「渡具知東原遺跡」の発見によって沖縄の土器文化の源流が約5000年前(縄文時代前期)の曽畑式土器に辿れる事がわかったのです。また、当時沖縄最古の土器として約7000年前(縄文時代早期)の爪形文土器の頃まで一気にさかのぼる事となり、沖縄考古学会では戦後最大の発見と称されました。


(東原遺跡のチンガー)

(東原遺跡の産井戸/ウブガー)

「渡具知東原遺跡」の麓に「チンガー」があり「渡具知鎮御井戸」と彫られた石碑にはウコール(香炉)が設置されています。かつて「チンガー」はつるべ式井戸でしたが、現在は井戸跡のみ残されています。「チンガー」に向かって左側には古いニービ石造りの霊石が祀られています。更に左側には「産井戸(ウブガー)」が隣接しており、祠内には「産井戸」と記された石碑とウコールが祀られ、前方に半円型をした井戸跡があります。「東原」地区で子供が生まれると、この井戸から産水を汲んで健康祈願をしました。かつて東原遺跡の丘陵から水が湧き出ていましたが、現在は拝所として水の神を祈る聖地として崇められています。




(今龍宮/イマルーグー)

(渡具知昔泉井戸)

「渡具知東原遺跡」の東側にある森の中腹に「東ヌ御嶽(アガリヌウタキ)」があります。「野奴実嶽(ヤノミノ嶽)」とも呼ばれ、神名は「ヒキツカケカサノ御イベ」と称します。昔から「字渡具知集落」の「東原」地区では神が宿る御嶽の森として祈られ"腰当て"として崇められてきました。「東ヌ御嶽」の南側の岩壁には「今龍宮(イマルーグー)」と呼ばれる竜神宮が祀られ、隣接する比謝川河口周辺や西海岸での豊漁や航路の安全が祈られていました。さらに「東ヌ御嶽」の森麓には涸れた古井戸があり「渡具知昔泉井戸」と彫られた石碑とウコール(香炉)が設置されています。現在は水は湧きませんが水の神に祈る拝所となっています。


(旧日本軍特攻艇秘匿壕群)

「東ヌ御嶽」の森の麓はいくつもの鍾乳洞の壕があり、沖縄戦における旧日本軍特攻艇を秘匿格納するために利用されていました。旧日本軍の特攻艇は「マルレ」と呼ばれベニヤ板製の全長5.6m、幅1.8mの一人乗りモーターボートに250kgの爆雷を艇尾に積んで敵の艦船に体当たりする自爆兵器でした。現在6基の壕が確認されていますが、中には土砂の堆積や岩盤の崩落が著しいものがあります。原型のまま残る壕は4基あり「旧日本軍特攻艇秘匿壕群」は過去の過ちを学ぶ歴史的遺産として非常に重要となっています。


(地頭火ヌ神)

(ミーガー/旧ガー)

「字渡具知集落」の「東原」地区の西側に「地頭火ヌ神」があり、祠内には霊石とウコールが祀られています。琉球王府時代の地方役人(地頭)と結びついた火ヌ神を「地頭火ヌ神」と呼び、この拝所は「字渡具知集落」の守護神として崇められる土地の神様です。更に「東原」と「中原」の中間には「ミーガー(新井戸)」と「旧ガー(旧井戸)」を祀る祠があります。現在、それぞれの井戸から水は湧き出ていませんが、霊石とウコールが祀られ水の神様に祈る聖地として拝まれています。


(カンカーモー)

(カンカーモーの石碑)

「地頭火ヌ神」と「セクルディドゥビーチ」の間にある海沿いの森は「カンカーモー」と呼ばれ、北側の麓には石碑が建立されています。「カンカー」とは「見張る」と言う意味で、この森は集落外からの悪霊を退散させる力がある守護神の森となっています。沖縄各地で「島カンカン/島カンカー」と呼ばれる悪霊退治の重要な祭事があります。集落の東西南北の入り口に左巻きの縄を張り、豚肉や骨を括り付けて悪霊を集落に呼び込まない行事で「字渡具知集落」ではこの「カンカーモー」は祭祀の中心地だったと考えられます。




「字渡具知集落」の東側に「中原」地区があり、その最東端に「中原神の石碑」が北向きに建てられています。この地点は東側の「読谷村古堅」との境界線で、かつて「トロッコ列車」の線路が敷かれていました。嘉手納製糖工場と各地のサトウキビ収穫地域を結ぶ鉄道で「中原神の石碑」の地点は南は「嘉手納」方面、北は「残波岬」方面、西は「字渡具知集落」とトロッコ列車の線路の三叉路となっていました。因みに、トロッコ運搬が始まるまではサトウキビは渡具知港に集められ船で那覇に運んでいましたが、鉄道が開通してからは船便は天候のリスクも理由に廃止されたのです。


(渡具知ビジュル/地母神)

(渡具知ウカミヤー/神殿)

(渡具知ウカミヤーの火ヌ神)

「字渡具知集落」の中心部にある「前原」地区に渡具知公民館があり、敷地内の「字神殿」には「渡具知ビジュル(地母神)」があり、祠には3基の霊石柱が祀られウコール(香炉)が設置されています。「地母神(ちぼしん/じぼしん)」とは母なる神を意味しており、一般的な多産、肥沃、豊穣をもたらす神の事を示します。更に、隣接する「渡具知ウカミヤー(カミアサギ)」の建物内部には神殿があり、天地空を祀る3つの火ヌ神が設置されて拝まれています。「カミアサギ」は集落の守護神が祀られる神聖な場所で、集落の「字渡具知ノロ」により守護神が招かれ祭祀が行われる聖域となっています。




(西ヌ御嶽の石碑)

「字渡具知集落」北西に位置する「裏牛原」に渡具知の浜があります。この浜沿いに「西ヌ御嶽(イリヌウタキ)」が祀られており「裏牛原御嶽/裏牛ヌ嶽(ウラウシヌタキ)」とも呼ばれています。御嶽には霊石とウコール(香炉)が祀られており、頭上には「西ウラウシノ嶽 神名ナデルワンヅカサノ御イベ」と彫られた石碑が建立されています。「西ヌ御嶽」の北東側に位置する「木綿原」地区では、箱型石棺墓を伴う弥生時代の「木綿原遺跡」があり国の指定を受けています。


(木綿原遺跡跡の記念碑)

(渡具知木綿原遺跡)

「字渡具知集落」の北西端に位置する木綿原ビーチ沿いに「木綿原(もめんばる)遺跡」があります。この遺跡は沖縄に埋葬があったという最初の証拠遺跡で、昭和52年の調査で約2200年前(弥生時代)の沖縄県貝塚時代の7墓の「箱式石棺墓」と17体の化石人骨出土しました。各々の石棺には複数の遺骨が納められ、4墓の石棺から13体の被葬者が確認されました。棺内の遺骸は伸展葬による埋葬法がとられ、骨の上には摩滅したシャコガイが置かれ、当時の人々の死者に対する精神生活が垣間見ることができる貴重な資料となっています。


(渡具知の浜)

「渡具知の浜」は約7000年もの長い歴史の中で人々の営みを見つめてきました。縄文時代からの人類進化、「字渡具知集落」の発祥、三山戦国時代、琉球王国時代、薩摩侵攻、沖縄戦の米軍上陸、米軍による土地接収、戦後の復興と続いた沖縄において「字渡具知」は歴史の転換機を迎える主要な土地として名を残しています。現在は平和な浜の集落として、沖縄本島各地よりマリンスポーツ、BBQ、潮干狩りなどを楽しむ人々の憩いの場となっています。「渡具知の浜」からの夕陽は特に美しく、我々にはかけがえのない平和と幸福を守り、後世に継承してゆく大切な責任があると再確認させられるのです。






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最終更新日  2022.03.06 23:33:44
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