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February 25, 2008
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カテゴリ:
● 読んだ本●




「聖なる黒夜」 柴田よしき著 角川書店



単行本  文庫本上・下







■あらすじ


捜査一課の係長、
麻生龍太郎が朝方に事件の連絡を受けて現場に着くと

被害者の韮崎誠一(東日本連合会春日組の大幹部)
がバスタブの中で死んでいた。


これは非常事態だった。

抗争事件に発展する前に犯人を捕まえないと
戦争が始まってしまう。

マル防の及川たちも出張って
捜一と強力体制を取り、
捜査本部が設置された。


麻生が及川に促されて連れて行かれたのは
韮崎の資金作りをしている山内練の家だった。

山内は韮崎が殺された事を知って
大量のアルコールを摂り
まともに話し合える状態ではなかった。



10年前に大学院生だった優男の山内を逮捕して
起訴したのが麻生だったからだ。

しかし、
山内の事件は女子大生障害未遂で初犯でもあり
執行猶予が付くと踏んでいたので、


すぐに更生するだろうと思っていたのだ。


美しい女顔の山内を刑務所なんかに放り込んだら
どんな生活が待っているか解っていた麻生は

山内を早めに自白させようと
空調施設の壊れた真夏の暑い部屋で

泣き続けて頑固に否認する青年に
苛立つ神経をなだめながら落としたのだ。


所が10年後に会った山内は
暴力団の大幹部の韮崎の愛人の一人であり、

暴力団の資金を作る土地転がしや
株取引をする裏方の人間になっていた。


麻生は山内がそこまで転落した理由が気になり
調べ始めた。

そこに見えて来たのは
自白よりも証拠で詰めて行くのを心情とした
麻生が目差していた理念を覆すものだった。


そして韮崎事件の追及によって暴かれた
闇に葬られた悲しみが次々に麻生を見舞う。



韮崎を殺したのは?
山内が転落した理由は?

自分の信念は?
己がどんな人間なのか?

麻生の進む先に未来はあるのだろうか?









■感想

辛い内容だったので、読み切るのに時間が掛かった。

でも、濃い内容だと感じたので頑張って読んだら
最後には声にならない長いため息が出た。

「ああ、なんてこった・・・」
そんな濃い思いの詰まったため息が出た。



始めは、男性同士の絡みのシーンが
事細かに綴られている所が多くて参ったのだが、

多分これは必要な描写なのだろうと
私にしてはすごく頑張って読んだ。

だって読み飛ばしたら
大事な所で話しが見えなくなるかもしれない。



「人は愚かな生き物で、
 それでも地べたを這いずって生きている。」


大きなくくりとしての感想はこれ。



人の愚かさは恨み辛みを生み出し、
人が人を裁くことで難しさは増強されて行く。


憎しみは憎悪を生み、
憎悪は仕返しを生み、

仕返しは犯罪を生み、
人の心を蝕んで堕ちて行く。


冤罪は
その人とその家族と関係者を全て巻き込み

取り返しの付かない事実ばかりを生み出し、
取り返しの付かない人生を生み出す。


人はほんの少しでも油断すると
大きな間違いを犯す。

だからと言って
私のようにいつもビクビク生きる訳には行くまい。



悲惨な事実の積み重ねで
物語は悲壮感と重厚感に貫かれ、

複雑で説明出来ないほどの情況に
悲しみと憎しみ連鎖が連なり、

それで出た最後のため息
「ああ、なんてこった・・・」



この本を読んでいる間中
ずっと重かったのだが、

淫乱でヤクザの片棒を担がされている練が
それでも私は好きで、

幸せになって欲しいと
ずーーーーっと思っていた。


練は本質的に良心を持っていて
抗いがたい運命に翻弄され

暗転の人生で自暴自棄になりつつも
それでも人を憎み切れず

諦めつつも心の中に大事なものを抱えて
ずっと大切にして来たのだと思った。

だから練の所業も余り気にならず
その健気さと心もとなさに魅かれて
この人だけは幸せになって欲しいと思った。

私は健気な人に惹かれるんだなぁ。


主人公の麻生はとてもストイックで
淡々とした感情の人で正義感があり
安心して読んでいられた。



結局の所、
悲惨な事件が沢山扱われているのに、

悪党が沢山出てくるのに、
私自身は憎しみを感じる事が出来なかった。


ただ、悲しみが渦巻いている。
そんな感じ。





読み応えは予想を遥かに上回り、
手応えのある話を読みたい方にはお勧めします。










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Last updated  February 26, 2008 10:12:15 AM
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