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2016年02月15日
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カテゴリ: 鈴木藤三郎
5、藤三郎、ニューヨークにて
藤三郎はニューヨークのアメリカ精製糖会社で一つのエピソードを残しています。藤三郎は出された砂糖をなめただけで、その産地と糖度を正確に言い当てたといいます。藤三郎は、藤山といっしょに会社の事務所の応接室に通されます。社長が技師長を伴ってやってきます。社長は、二、三の会話で、藤三郎が氷砂糖や砂糖の精製法を、独力で工夫してやって来たことを知って、非常に興味を持ちます。そこで、社長は聞きました。
「では、原料糖の産地や含有糖分の検定は、どういう方法でやりますか?」
「それは、眼で見て、なめてみれば分ります」「えッ眼で見てなめれば分る?本当ですか?」
「ハイ、日本人は、うそはつきません。」
「これは面白い。それでは、さっそく、それを一つやって見せてもらおう。技師長、すぐその用意をしてくれたまえ。」
「社長、そんなことはむだですよ。」
「なに君、日本の糖業発達の程度を知っておくのも、むだではなかろう。持って来たまえ」
 技師長が、給仕に一つの箱を抱(かか)えさせて帰って来た。その箱の中には、三十種類ほどの砂糖の標本瓶(びん)が入れてある。技師長は、その瓶(びん)を、藤三郎の前のテーブルに一列に並べた。瓶(びん)には、番号を書いた紙が張ってある。技師長は並べ終ると、その標本の産地と糖分量を記入した検糖表を社長に渡した。社長は言った。

 藤三郎は、無造作にいちばん端のビンを取って、中の砂糖をホンの少し手のひらにあけて、ジッと見てからチョットなめ、どこ産で糖分何パーセントという。藤山が、その通りに通訳する。藤三郎は、すぐ次の瓶(びん)の産地と糖分をいう。社長は、黙って聞いている。技師長も、まじめな顔で聞き入っている。九(ここの)つ、十(とお)、・・・誰(だれ)も、何ともいわない。ただ、藤三郎の言葉と、それを通訳する藤山の声が、応接室に響(ひび)くばかりである。藤三郎の実験が、ちょうど中ごろの十五、六まで行ったとき、初めからひと言も出さずに検糖表を見つめていた社長が、「オーライ!」と、ひと声叫ぶなり立ち上がって、その表をテーブルの上において、大げさな感嘆の身振りをした。技師長も、「オオゥ!」と、感嘆した。
「どうしたのです?もういいのですか?」
「三十のうち十五まで当れば、もうよかろうじゃないか!実に不思議だ、これを見給え」
社長が指さした検糖表の上のナンバー1からナンバー15まで産地はもとより含有糖分量も藤三郎の言ったとおりの数字が記入されていた。
社長「あなたは、いったい、どうしてこんな不思議な技術を会得されたのですか?」
技師長「われわれが精密な検糖機で、精密な検査をして初めて知ることのできるのと同じ結果が、なんの機械も使わずに即座に分るということは、理解ができない。」
 藤三郎は、これには何も特別の秘法がある訳ではない。自分は菓子屋の子として育って、四十余年を砂糖のにおいの中で暮らしてきた。精製糖の事業をやるようになってはもとより、氷砂糖でも菓子製造でも、おもな原料は砂糖である。その原料糖に含まれている糖分量の多少を見分けることは、営業の死活に関するほどに大切なことだ。だから、自分は十一歳で、家業の菓子製造に従事し始めたときから、もっぱらこれに心をひそめてきた。しかし、検糖機というような便利な物が、手にはいる時代ではなかったので、どうしても自分の目で見、舌でなめてみて、これを知るよりほかに方法はなかった。長年こうした経験を積んでいるうちに、いつともなく自然に、これらのことが、それだけで正確に分るようになって来たまでだ。自分のこの技術は、秘法はなく、多年の努力と経験の集積の結果なのです。
「検糖機で調べることは、もちろん、悪いことではないが、そればかりに頼っていると、機械が狂ったとき発見が遅れて、大変な失敗をする恐れがあります。機械には生命がありません。生命のない機械に、人間が使われるような結果を生じます。このことは、これからの文明国人が、十分に心しなければならないでしょう。」
 藤三郎のプロフェッショナルな専門知識・技術を知ることができます。また、現在、日本の職人の伝統技術がクールと賞賛されますが、その先駆けのようなエピソードです。





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最終更新日  2016年02月15日 05時58分02秒


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