「クラークの一年」太田雄三著p148-152
クラークの第18信 キャプテン・ウィリアム・B・チェーチルあて。1876年11月19日付。発信地、札幌。
親愛なる弟へ。
あなたのよい手紙とイラストテイテド・クリスチャン・ウィークリー〔絵入りキリスト教週報〕のはいった貴重な包みありがたく受け取りました。今日私はそれを私の聖書を読むクラスの生徒たちに配りましたが、うまいぐあいに、神の摂理か、私に書面で「聖書を教えてくれるよう」請願した16人の気高い若者に対してその新聞が16部ありました。私は明日の朝、農学校の授業を聖書の一節を読み、学生たちと一緒に主の祈りをとなえることによって始めようと思っています。今日、学生たちはみんな出エジプト記第20章の最初の17節〔モーゼの十戒〕をあやまりなくとなえることができました。このように、日本政府の統制下にあるすべての学校、大学では法律によって禁止されているにもかかわらず、聖書は札幌農学校において一つの教科書になったのです。
神は私に黒田長官に関して特別な恵みを与えてくれました。黒田長官は東京にある日本政府の最も勢力のある高官の一人であり、北海道においては彼の意志が最高の権威を持っている人です。 この夏、長官と一緒の旅行中、私は彼と宗教について自由に語り合い、最後に農学校で聖書を使用する許可を求めました。彼は、個人的には異議はないけれど、法律と政府高官の意向の手前、聖書使用は禁止せざるを得ないと答えました。私は彼に、聖書は書物中の最善のもので、日本でも遠からず他のすべての文明国におけるようにきっと聖書が教えられるようになるに違いない、長官が彼の新設の農学校に聖書を導入するのを許せば、大いに彼の誉れとなるだろうと言いました。彼はそれに対して、私が聖書の含む真理を学生に教えるのは構わないが、聖書をみんなの前で読んだり、個人的使用のために聖書を配ったりするのは困ると言いました。私は、それは非常に残念だ、というのは、 私は既に聖書を30冊持っている から、でも命令には従います、と答えました。 それから 約一ヵ月後長官は私を呼んで、学生によい道徳教育を施してもらいたい と言いました。 私は、自分は聖書に絶えず言及せずに道徳を教えることはできない 、だから道徳を教えると長官を怒らせるようなことになるのではないかと恐れる、と答えました。翌日、彼は 聖書の使用禁止は撤回する、思うようにやってよろしい と私に言いました。それで私は手持ちの聖書を配って、それらを活用することにしました。さて、注意することがあります。あなたはこのことが全然新聞に出ないように気を付けて下さい。そうでないと波風が立つかも知れません。ご承知のように日本は台風の国ですから。
私は当地における自分のすべての仕事においてすばらしい成功を収めつつあります。そして4か月間に農学校を組織し、整備することにおいてさすがの私にも可能とは思えなかったほどのことをやり遂げました。農学校の通常の仕事(これはとても順調にいっています。)の他に私は250エーカーの広さのすばらしい農場の管理を全く任せられています。この農場にはアメリカ産の家畜、道具および機械が完全に備わっています。そして、私はこれまで東洋において作られたどれよりもすぐれた畜舎を作っているところです。私は好きなように物を売り買いし、人を雇う完全な権限を持っています。そして、一年の通常経費として計上されている1万5千ドルのお金の幾分なりとも会計から引き出すためには私の公印が必要です。
このようにたくさんの仕事、たくさんの影響力、たくさんのお金、十二分の健康に恵まれている私が、もしとても幸せに感じないとしたら、私はとても恩知らずのやつということになるでしょう。もちろん、私とて故国にいる愛する家族との陽気なおしゃべりや楽しい交わりを楽しみたいとは思います。でも私はこれまでの神の恵みにより日本で過した時に対して非常に感謝の念を持っています。
私たちはいま図書館に使う建物を建設中です。私たちはすでに相当の数の教科書、百科事典等を持っています。あなたは何らかの形で私たちが興味深い宗教的読み物を手に入れてくれるのを助けてくれることができますか。例の週報の製本したものはありませんか。もし開拓使気付で私宛てに送られてくれば、私は一箱分の宗教関係の読み物を送る費用の一部として50ドル喜んで払いますし、それらの書籍がちゃんとラベルをはられ、農学校図書館に納められるように取計らいます。
非常に快適な秋のあと、冬がこの15日に吹雪とともに始まりました。この吹雪はまだ凍っていない土の上に2フィート1インチ〔60cm〕のやわらかな毛布をひろげました。しかし、雪は急速にとけています。それで、私たちは戸外での仕事のためにあと少し好天に恵まれることを望んでいます。
私たちは今月7日の選挙でヘイズとホイーラーが当選したというニュースに接したくて、またマサチューセッツでの選挙の結果を知りたくてうずうずしています。でもクリスマスまで、あるいはひょっとすると、1877年1月10日まで希望を抱いて待たなくてはなりません。
あなたの監督保護のもとにある妹たちによろしく。私が彼女たちからの手紙を待っていると伝えてください。
あなたの健康と幸福を祈ります。
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