じゃくの音楽日記帳

じゃくの音楽日記帳

2010.02.04
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カテゴリ: 演奏会(2010年)
1月23日ティアラこうとうで、藤岡幸夫指揮による東京シティフィルの定期演奏会をききました。曲は、

 吉松隆:鳥たちの時代
 メンデルスゾーン:交響曲第三番「スコットランド」

吉松作品を積極的に紹介している藤岡さん。僕は藤岡さんを聴くのも、吉松さんのオーケストラ作品を聴くのも、これが初めてのコンサートで、しかも「タリスの主題による幻想曲」も聴けるので、楽しみにしていました。土曜の午後3時開演で、良く晴れた青い空の下、会場に到着しました。

ティアラこうとう

川縁の広い公園の一角にあり、都会の中にしては閑静で落ち着いた雰囲気があり、なかなか良い立地です。ホワイエは大きなガラスで採光良く、近代的ながら温かい雰囲気がして、素敵な空間です。客席は1200弱で大きくはありませんが、割合に良く響き、いい感じのホールです。

「タリス」がすばらしかったです。
通常の弦楽合奏配置の後ろ、少し高くした段の上(通常は金管とかが乗る位置)に、総勢9人の第2群の弦楽合奏が配置されていました。この第2群の奏でる静かな和音の響きに、教会風の雰囲気がとても感じられ、第1群の弦楽合奏とのバランスもうまくいっていて、魅力的でした。この曲を以前に確か大友/東響で聴いたときは、これほどの印象はありませんでした。今回はちょっと驚くほどの美しさ。藤岡さんは、音楽が高ぶる所ではやや加速するスタイルで、音楽の流れをうまくまとめていました。

続いて吉松さんの「鳥たちの時代」。吉松さん初期の、鳥の3部作の最後を締める作品です。第1作の「朱鷺によせる哀歌」が弦楽合奏とピアノ、第2作の「チカプ」がフルートの大合奏です。そしてこの「鳥たちの時代」は、ピアノや沢山の打楽器を含む3管編成の大きなオーケストラですから、前2作を統合してスケールアップした編成ですね。しかもこの曲の冒頭の、翳りを帯びた弦の和音と、それに続く木管のさえずりは、それぞれ「朱鷺」と「チカプ」の冒頭を思い起こさせます。すなわちそれら2作品をふまえてから、その先に歩み出すという感じでしょうか。この曲、とにかく響きが気持ちよいですし、内容的にも前向きのパワーが強く感じられ、大好きです。



さて「鳥たちの時代」の演奏終了後、藤岡さんの招きに応じて、客席から吉松さんが立ち上がり、舞台に登り、藤岡さんと握手を交わしました。吉松さんの席が自分の席のかなりそばだったので、あれっ吉松さんすぐそばだったんだ!とびっくりしました。ここでプログラムの前半が終了して休憩となり、吉松さんはそのままお帰りになりました。休憩後のメンデルスゾーンは、ちょっとオケの弱さが出てしまった感じでした。

コンサートが終わってホールを出ると、もう陽射しはだいぶ傾いていました。少し回り道をして、公園の中の小径を散策していると、ほどなく夕闇がせまってきました。

ティアラこうとう裏の公園

吉松さんの「鳥たちの時代」は、日フィルの委嘱により、1986年に作曲されました。作曲者自身のプログラム・ノートによると、「現代音楽の混沌の森から飛び立ち新しい翼を模索する鳥たち、そして、日本フィルという鳥たちに寄せる頌歌」ということです。1986年といえば丁度、先日のぐすたふさんのコメントにあったように、ペルトが注目されはじめ、タルコフスキーが逝った、あの時代ですね。

僕がカメラータのCDでこれら吉松さんの作品を初めてきいたのは、多分90年代前半だったと思います。それまで耳にしなかった斬新な響きに、強烈な印象を受けたものでした。

作曲からまもなく四半世紀がたとうとしています。

吉松さんは、独自の音楽で混沌の森から見事にはばたき、今や日本を代表する作曲家のひとりとして飛翔していますね。

そして現代音楽自身は?
難解の袋小路のどんづまりから、80年代以降、吉松さんのいう「世紀末抒情楽派」をはじめ、いろんな作曲家が、さまざまなやり方で、なんとか現代音楽の絶滅を回避しえたのは、何よりのことでした。21世紀、現代音楽の不死鳥のような飛翔を願いたいものです。

そしてオーケストラは?
日フィルに限らず、オーケストラをとりまく事情は、80年代の当時も厳しかったのでしょうけれど、今は、もっともっと厳しそうです。。。今回の「鳥たちの時代」の演奏に、パワーというか、勢いというか、そういったものが今ひとつだったとすれば、こういう時代のせいもあるのかもしれません。

鳥たちが逆境にめげず、さらなる高みへの飛翔を続けていける未来を、願うばかりです。





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Last updated  2010.02.05 10:26:57
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2010年代、という時代  
ぐすたふ さん
じゃくさん、こんばんは。記事、興味深く拝見しました。

「鳥たちの時代」残念でしたね。私が先日、関西フィルで聞いた時は、じゃくさんの言われる「力」は藤岡さんの棒の中にあったように思いましたけれど・・・ここらあたり、アウェーのつらさ、かもしれません。

この曲、おっしゃるように、80年代の終わり、という時代の音を宿しているのかもしれませんね。ペルト、グレツキのヒット、そしてグレゴリオ聖歌の突然のリバイバル。そうそう、エニグマというポップグループの出現、もありました。そして、天使というキーワードが降ってわいたのもこの時。映画ではタルコフスキーもありましたが、「ベルリン天使の歌」もこの時でしたよね。

あの時、世界の底では何かが動いていたのだろう、と思います。

2010年代という時代が始まっていますが・・・・仰るように、この時代に新たな鳥たちが羽ばたく、その姿を見逃したくはないものです。 (2010.02.07 20:53:07)

Re:2010年代、という時代(02/04)  
ぐすたふさんこんばんは、コメントありがとうございます。

>・・・ここらあたり、アウェーのつらさ、かもしれません。

きっとそうでしょう。今度は藤岡/関西フィルを聴いてみたいです。それにしても、今回の演奏会で僕の中の「吉松スイッチ」が久々に作動してしまいました。交響曲を1番から順に聴きはじめたところです。あらためて、吉松サウンドに心地よく浸っています。

>ペルト、グレツキのヒット、そしてグレゴリオ聖歌の突然のリバイバル。そうそう、エニグマというポップグループの出現、もありました。そして、天使というキーワードが降ってわいたのもこの時。映画ではタルコフスキーもありましたが、「ベルリン天使の歌」もこの時でしたよね。

いやー、なつかしいですね。グレツキも良かったですが、エニグマにはもう完全にはまりました。あれは音楽史に残る(笑)アルバムでしょう。「ベルリン天使の歌」も、僕が映画館に見に行った数少ない映画のひとつです。

>2010年代という時代が始まっていますが・・・・仰るように、この時代に新たな鳥たちが羽ばたく、その姿を見逃したくはないものです。

ややとしを感ずるこの頃、どこまでついていけるかわかりませんが、バードウオッチングし続けていきたいです。

(2010.02.09 00:48:21)

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