じゃくの音楽日記帳

じゃくの音楽日記帳

2010.04.05
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3月30日、31日とインバル/都響のマーラー3番を聴きました。両日ともサントリーホールです。

  指揮:エリアフ・インバル
  メゾソプラノ:イリス・フェルミリオン
  女声合唱:晋友会合唱団
  児童合唱:NHK東京児童合唱団

僕がインバルの3番を聴くのは、1994年、東京芸術劇場での演奏会以来です。オケは同じく都響でした。その時、強烈なネガティブな印象が、胸に焼き付いてしまいました。とりわけショックだったのは、第3楽章最後近くでのホルンとトロンボーンの斉奏の楽節(練習番号30~31)の演奏中に、独唱者が入場してきたことです。しかもここで独唱者は、遠慮がちにしずしずと出てくるのではなく、風を切るように実に堂々と登場してきました。その光景が目に焼き付いてしまいました。こういうやり方に出くわしたのはこのときが初めてで、とても驚きました。(その後にも、ごくわずかしか遭遇していません。)

この楽節、アドルノが「神の顕現」と呼んだところです。僕としても非常に重要視しているところで、そのあたりの思い入れは昨年の日記に書きました。(この日記の最後にリンクを張っておきましたのでご参照ください。)ともかくこの1994年のときのインバルは、演奏中に独唱者を入場させることで、ここの音楽の意味を意図的に破壊しているのではないか、と僕は感じました。また、ここだけでなく、演奏全体としても、自然というか愛というか、そうした崇高なものを讚美する方向と正反対の方向、そういう崇高なものへの志向性を否定するような方向の音楽づくりが随所に強く感じられ、僕は大きな違和感を抱きました。その音楽づくりがもっとも凝縮された形で僕の心に突き刺さったのは、終楽章の最後近くの静かな金管コラールの直前、フルートソロからピッコロソロに受け継がれるパッセージ(練習番号25)です。ここがまるで、戦禍か何かで廃墟と化した都市の瓦礫の中から立ちのぼるような空虚な響きにきこえ、僕には衝撃的でした。もしかしたらインバルは、何か、「現代社会に生きる我々はもはやマーラーの描いた自然讚美に安穏と浸って暮らしてはいられないのだ」という、現代社会の状況に警鐘を鳴らすというメッセージを込めたのではないかと考えたりしました。

果たしてインバルの意図がそのようなものだったのかどうかはわからないし、僕のまったく的はずれな感想なのかもしれませんが、ともかく僕にはそのように聴こえてしまったんです。そしてよりによって3番という、マーラーの中でもひときわ生命肯定的な曲で、そういうメッセージを伝えなくてもいいのではないか、こういう3番は僕は聴きたくない、と思ったものでした。

それから16年ぶりです。インバルの3番がそのときと同じような方向を目指すものなのかどうか、いささかの不安を抱きつつ、今回の3番演奏会にやってきた次第です。まず今回は、30日の演奏会(都響第695回定期演奏会)について書きます。

ホールにはいって楽器配置を見ると、チューブラーベルは残念なことに舞台上に普通に置いてありました。このベルをスコアの指定通り児童合唱とともに高いところに置く指揮者は本当に少なく、コバケンと、昨年小田原フィルを振った三河正典氏などがその貴重な例です。

さて配られたプログラムを見ると、紙がはさまれていて、コンマスは当初の矢部さんから四方恭子さんに変更、となっています。矢部さんは体調でも崩されたのだろかと思いましたが、オケが入場してきたのを見ると、矢部さんはトップサイドに座っていらっしゃいました。変更の理由は不明です。

オケの入場とともに、合唱団がP席部分(舞台とパイプオルガンの間の席)に入場してきました。第一楽章の開始前に合唱団が入場するのはかなり珍しいです。全曲を集中して一気に演奏しようと言う意気込みがなければしないことでしょうから、これはインバル相当気合いが入っているなと思いました。P席の前2列に児童合唱が座り、そのうしろ3列に女声合唱が座りました。そしてP席最前列の中央は一つだけ座席があけてあります。独唱者が座る場所でしょう。その独唱者はまだ登場せず、インバルだけが登場し、いよいよ演奏開始です。

第一楽章が始まりました。これがものすごい速さ!オケはいささかついていけず、ティンパニーは1箇所かなり目立つところで入り損なって抜け落ちたり、木管のアンサンブルが結構乱れがちになったり、浮き足だった感じでした。続く第二楽章も相当な速さで、落ち着きがありません。

ようやく第三楽章は通常範囲のテンポになりました。そしてポストホルンはうまいし、これで演奏が落ち着いてくるかと思ったのですが、なんだか今ひとつしっくり来ません。。。さらにこの日の聴衆には無神経な人がいて、ポストホルンが美しい歌を歌っているときに飴の包み紙をがさがさとあける音が響き渡りました。やれやれ。

第三楽章最後近く、演奏中での独唱者入場はなく、ちょっとほっとしました。

第三楽章が終わったあと、異変が発生しました。インバルが指揮台から降りて、舞台裏に引っ込んでしまったんです。これは異例なことです。前もって合唱団を演奏開始前に入場させておいたくらいですから、もともとはここで引っ込むつもりはなかったことでしょう。それが何らかの理由(体調不良など?)が発生して、裏に引っ込んだのだと思います。オケ、合唱団、聴衆の皆が待つこと2~3分でしょうか、ようやくインバルが再登場してきました。それとともに独唱者がP席部分に現れました。このとき、聴衆の若干名から拍手がおこってしまいましたが、すぐに鳴りやみ、あとはずっと静かなうちに独唱者が最前列中央に到着しました。このあと第四楽章ですから、独唱者は座らず、立ったままです。

そしてここからの第四、第五、第六楽章はアタッカでと指定されています。アタッカの緊張感を保つためには合唱団の起立・着席のタイミングが重要で、指揮者の工夫が現れるところです。今回のインバルは、合唱団の起立のタイミングは第四楽章の終わり近く、独唱者が歌い終わる少し前でした。そして着席のタイミングは、第五楽章の最後近く、児童合唱が最後のビンーバンーのフレーズを歌い始める直前の約2小節の休み(練習番号10の冒頭部分)のときでした。以前書いたように、この着席のタイミングはシャイーがやっていた方法で、僕がもっとも理想的と考えているタイミングです。(なお合唱団が座るときに独唱者も一緒に着席しました。)

この着席のタイミングは、いうまでもなく、第五楽章から第六楽章へ、静寂と緊張感を最大限にたもったまま移行するための方法です。インバルはそれを目指した。ところがところが、この大事なところでも、またまた飴の包み紙をがさがさあける音がホール内に響き渡ってしまいました。いくらなんでも、ここで飴を出しますか?!勘弁してほしい。。。

そして終楽章。各奏者は一生懸命弾いているし、管の首席の皆さんなど、かなりいい音を出していて、部分部分では感心します。そして16年前に僕が感じてしまったような意図的な否定的メッセージ性は、さいわいにも感じられなかったです。しかし、それなら良い演奏だったかというと、音楽が何故かまとまらず、ちっとも盛り上がらないんです。そしてそのまま、曲は終わってしまいました。。。これほど自然の息吹が感じられない3番は、ちょっとないほどです。どうしたことでしょうか。16年前とは違った意味で、またしてもがっかりしてしまいました。やはりインバルに3番は合わないのだろうか。。。

結局きょうのインバルは、気合はすごくはいっていましたが、体調がものすごく悪かったのではないかと推測します。きっとそのために、オケのアンサンブルが乱れてしまったのではないでしょうか。インバルが指揮する都響のマーラーは、いつもはすごくアンサンブルがぴしっとしているのに、今回ほどぴしっと決まらないのも珍しいことです。(と言っても、すごく目立つミスは第一楽章のティンパニの落ちくらいで、あとは大きな乱れはないのですが、ともかく音楽がまとまらず、ふくらまないんです。)そして悪循環的に、一部の聴衆の無神経なノイズが、事態をさらに悪化させてしまった。そういう演奏会でした。

・・・これでは明日も期待できないなぁ。都響とともに3番の超名演を聴かせてくれたベルティーニも、草葉の陰で泣いているのでは、、、などと思いながら、足取り重く帰路につきました。

ところが、ところがです。翌31日の演奏会は、これとまったく違いました!!これについては改めて近いうちに書きたいと思います。


なお、第3楽章演奏中での独唱者の入場については、
2009年12月6日の記事 「井上道義/OEK&新日フィルのマーラー3番その1金沢公演」 を、

また合唱やチューブラーベルの配置、および合唱団の着席のタイミングについては、
2009年11月9日の記事 「小田原フィルによるマーラー3番」 および、
2009年12月10日の記事 「井上道義/OEK&新日フィルのマーラー3番その2富山公演」 を、
ご参照ください。






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Last updated  2010.04.06 00:39:26
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