じゃくの音楽日記帳

じゃくの音楽日記帳

2017.05.04
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第三楽章スケルツォ
この楽章も基本速めのテンポで、かつ大胆なテンポ変化がつぼを押さえていて鮮やかで、聴いていて非常に面白く、あっというまに終わってしまう感じでした。これほど魅力的な第三楽章はそう滅多に聴けないと思います。
第四楽章
エネルギッシュで、痛切な、すこぶる充実した音楽が聴けました。テンポは先行する楽章と同じで、基本速めの上で、大胆で頻繁な変化が次々に繰り出され、しかし決してせかせかしていなくて、心地よく聴けます。
それからもう一つ、全曲通じてですが特にこの楽章で強く感心した点が、音量の強弱の扱いです。本当に大きく出すべきところは大きく出し、そうでないところは節度をもった、ほどほどの音量で鳴らしてくれますので、うるさく感ずることがありません。先日のヤルヴィが所構わず全力を込めてがんがんと鳴らしていた(あるいは少なくとも僕にはそのように聞こえてしまった)のと対照的です。いたるところで、この節度を心得た音量コントロールが見事で、すごく説得力があり、いちいち感心・納得しながら聴いていました。
この音量コントロールの点で、格別に胸を打たれたのが、第四楽章で 3 回現れる、「拡大されたモットー」ともいうべきフレーズの、3回目でした。
まずはモットーと、「拡大モットー」の説明です。この曲では、打楽器のリズム(ダン、ダン、ダダンダンダン)に乗って、長調の主和音から短調のそれに変化する音型が、何回も何回も数え切れないほど鳴り響き、この交響曲のモットーと呼ばれたりしますね。この音型は、普通は 2 小節です。終楽章でも、 2 小節のモットー音型がいたるところに出てきます。そしてこれに加えて終楽章だけに出てくるのが「拡大モットー」です。終楽章冒頭の序奏の途中、第 9 小節目から、弦楽器のメロディにかぶさってくるかたちで、打楽器のリズムとともに、管楽器群により長い和音が 4 小節にわたって鳴らされます。この強烈な印象の「拡大モットー」は、この楽章にあと 2 回登場します。 2 回目は、曲の半ば過ぎの第 530 小節からの 4 小節。ここもやはり盛大に鳴り響きます。そして 3 回目は、曲の最後近く、第 783 小節からの、 7 小節です。この 3 回目の「拡大モットー」が鳴ると、後に残された音楽は、トロンボーンを主とした静かな挽歌と、短調の主和音の最後の強烈な一撃だけという、本当に最後近くの箇所です。この 3 回目の拡大モットーのあとには、通常の 2 小節のモットーも出てきませんので、この曲で鳴り響く最後のモットーということになります。(念のため、最後の一撃は短調の主和音のみですので、モットーとは違います。)
この3回目の拡大モットーを、僕はこれまでは特別に強く意識して聴くことはありませんでした。トロンボーンの挽歌が始まる前の、長く続いて来た強奏部分の最後、というくらいにしか思っていませんでした。今回の演奏も、特に構えることなく普通に聴いていたのですが、この箇所で、上岡さんは音量をかなり落とし、その音量変化を耳にした途端、もはや闘いは終わってしまったこと、いよいよ音楽の終結が近づいている、という意味が、「あぁそうか!」と直感的にまざまざと伝わって来て、胸に迫るものを感じました。これまで何回も聴いてきたこの曲で、そのような意味を身をもって実感というか、感得したのは、僕にとって初めてで、何とも素晴らしい体験でした。茂木健一郎さん流に言えば、強烈なクオリア体験でした。
後でこの部分のスコアを良く見たところ、この 3 回目の拡大モットーの長い和音の音量指定が、 1 回目 2 回目と、大きく違っていることを今回初めて知りました。もちろんマーラーですから楽器ごとに非常に細かく指定されていて3回が3回ともかなり異なるのですが、ざっくり言うと、 1 回目は、長い和音が ff で入ってデクレッシェンドしていき、次の小節で pp になります。 2 回目も、最初の 2 小節は先ほどと同じに ff pp にデクレッシェンドしていきます。ところが 3 回目は、 ff で入るのではなく、 fp で入ります。だんだん弱くなるのではなく、すぐに弱くなる。(打楽器群についてはまた違う音量指定になっています。これは長い和音についての話です。)従ってこの3回目をスコア通りに忠実に演奏したら、 1 回目 2 回目よりもかなり小さい音で響くはずです。マーラーは、 3
これはもちろん上岡さんだけがやっているわけではなく、程度・解釈の差はあれ、どの指揮者も皆やっていることだと思います。(他の指揮者がここをどう演奏しているかについては、この記事の最後の「おまけ」をご参照ください。)
しかしそれが今回初めて僕の意識に強烈なインパクトを与えたのは、曲が始まってからここに至るまでの演奏が、僕の心にビンビンと響いてくる内容の連続だったからこそですし、もちろん上岡さんが、音楽の流れの中でそういった意味をしっかり把握されていたからこそ、だと思います。つくづく凄いマーラーでした。
まとめ
全曲通じてのこの演奏の特質として、上に書いた 2 点、大胆かつ微細に、有機的に変化するテンポ感覚の素晴らしさと、非常に配慮された音量コントロールが光っていたことのほかに、もう一点挙げておきたい特質は、各声部の鳴らし方の方向性です。色々な声部をバランス良く鳴らして明晰に聴かせようとする方向(最近だとマイスター&読響がこの方向で素晴らしかったです)とはまったく異なり、ここはこの声部、次はこの楽器を前に出そう、というふうに次々にいろいろな声部・楽器にスポットライトを照らしていくように強調していくという、いわば劇的な方向でした。たとえばバスクラリネットが、あちこちで強調されていて、普通はあまり聞こえない第二楽章の最後近くなどでも大きな存在感を示していて、良かったです。こういうアプローチは好き嫌いが大きく分かれると思いますし、下手をすると平面的あるいはわざとらしくなってしまいますが、少なくとも僕にとってはそういう感じがせず、立体感・緊張感が保たれ、斬新で、ほれぼれしてしまいました。しかもこれらが(ちゃんと確認したわけではないですが)、おそらくスコアに則ってやっているということが素晴らしいです。
スコアを丹念に読み込み、それを大きく逸脱することなく、かつユニークな個性をしっかりと刻み込み、独自のマーラー像を築いていた演奏でした。 今回の 6 番は、自分にとって新たな発見が多々あり、とても充実した聴体験になりました。これからの上岡マーラー、大いに期待したいです。

○補足:
3 12 日の 6
3月11日 に錦糸町でこれを聴いた翌日、埼玉の川越のホールでの 6 番も聴きに行きました。前日と同じく、極めて充実した演奏でした。ただ川越のホールは、すみだトリフォニーホールのオルガン通路のような、舞台上でも舞台裏でもない特別な場所がないので、舞台裏のカウベルをどこに設置するのだろうと思っていたら、なんと1 階客席の中ほどの通路の左壁際に、カウベルとチューブラーベルをおいて、そこで演奏していました。やはりこれだけは普通に 舞台裏で鳴らしてほしい、と思いました。
演奏終了後は、前日と同じに、 5 番のアダージェットがアンコールとして演奏されました。
演奏が終わってホールから出るときに、丁度1階客席通路の チューブラーベルと カウベルを片付けに来ていたオケの奏者の方に、カウベルの発音方法をお尋ねしたら、親切に良く見せてくださいました。カウベルの中に垂らした紐の途中に白く小さな固いものが付いていて、紐を振ってカウベルの中からその白いものをあてて、音を出すという方法で、初日に見て思った通りでした。


○おまけ:3回目の「拡大モットー」、各指揮者の扱い

上岡6番を2日連続で聴いた印象は強烈で、その後しばらく6番にはまってしまい、色々なCDを思いのままに引っ張り出して、全曲を聴いていきました。一つの曲をこれほど短期間に集中して聴いたのは学生時代以来かと思います。どれ聴いても面白いです。折角なので、3回目の拡大モットーがどのように演奏されているのかを、注意して聴いたので、書いておこうと思います。
アバド/BPOは 3 回目の音量をかなり落としているのがはっきりわかります。バルビローリ/NewPOやベルティーニ/ケルンRSO、それからギーレン/南西ドイツRSOも同じで、かなり音量を落としています。忠実派、ですね。おそらく今回の上岡さんもこのタイプだったのかと思います。
指揮者によっては、音量をやや落とす程度、の場合もあります。ティルソン=トーマス/SFSOは、少し落とす感じです。シノーポリ/POもそんな感じ。バーンスタイン/VPOも、 多少音量を落としていますが、それでもついつい力が入ってしまう感じで、あまり落ちてません。それもまた良いですね(^^)。(余談ですがシノーポリは、弦のグリッサンドを随所でかなり強調していて、その点は上岡さんと似ています。上岡さんのグリッサンドはシノーポリよりもさらに目立ってました。)
3回目の拡大モットーに話を戻します。個性派もいます。テンシュテット/LPOは、 fp を、かなり明確に意識して、アクセントのように演奏していて、なかなかの効果をあげています。セーゲルスタム/デンマークNRSOは、打楽器の最初の一音だけが強烈に打たれ、二発目からはすぐに小さな音になります。(スコアでは、打楽器はfではいって、2小節目の中ほどからデクレッシェンドしていく指定です。)





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Last updated  2017.05.08 19:10:13 コメント(4) | コメントを書く


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