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2008.07.20
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カテゴリ: takasaki
僕は、しゃがみこむ自分の心と体を引きずるようにして、更衣室のドアを開け、階段を降り、裏口に向かう。

運転なんてできるかよ?
守衛さんに頼んでタクシーを呼んでもらう。
自宅の場所を告げ、シートにもたれ目を閉じる。

僕を打ちのめしているのは、もちろん疲労ではない。

タクシーを降り、家を見る。灯りのともったリビング。
莉花は、僕を待っていたんだな。
僕は立ち止まり、目を閉じ、深呼吸する。

もっと、落ち着いて、、ちゃんと。。
自分に言い聞かせる。

門に手をかけると、玄関のドアが開く。心配しきった顔で莉花が。
「お帰りなさい。車の音が、、聞こえたから」
「ただいま」
と言っては見るものの、僕は目をあわせられない。靴を脱ぎながら、体が揺らぐ。莉花が背中に手を添えてくれるのが分かる。
「先生、、」
僕は背中のまま、返事する。
「ん?」
「クマ先生から、、電話をもらったわ。柚子ちゃんのこと・・」
「ああ」

「僕には、、何もできなかったよ」
自嘲気味に言う僕。
「先生、、そんなことないわ。ちゃんと産むことができて、ユウコちゃん、とても、先生に感謝してると思うわ」
僕は、叫びそうになる。感謝なんて、、僕は柚子を助けられなかったのに。死なせてしまったのに。何も、、、本当に何もできずに。手を握り締め、力を込める。ここで、しゃがみこむわけにはいかないんだ。
ここで気を抜けばきっと、僕は莉花に、言ってはいけないことを口走ってしまうんだから。



泣き出しそうな顔で、莉花のほうを見る僕。
僕を優しい表情で見上げる莉花。その泣き腫らした瞳。
・・・柚子を、僕を思って、、なんだ。

僕は、たまらず、莉花を抱きしめ、、そして、力を抜き、莉花の体を滑り落ちるように、崩れ落ち、膝を折る。
莉花は、立ったままそっと、僕の頭を撫ぜる。
「泣いて、先生。柚子ちゃんがどれだけ大切な人だったか、私には分かってる」
その言葉に、僕は莉花にしがみついて、泣いた。

そして、僕は小さな莉花の腰に腕を巻きつけたまま、下腹部に頬をつけ言ってしまう。
「・・・子供あきらめよう、莉花」
「・・先生。。。」
僕は莉花を見上げ、
「お願いだ。まだ間に合う。だから、あきらめよう。僕からそんなに早く、、君を奪わないでくれ。」
莉花は、唇に縦に人差し指をあて、僕に黙るように示す。
「しーっ。・・聞こえちゃうよ」
優しく微笑んで、そっと下腹部に手を添える莉花。ゆっくりとしゃがみこみ、僕と目線を合わせ、僕の頭に両手を回す。
「ねえ、先生。柚子ちゃんが生き返るなら、先生は、柚子ちゃんの赤ちゃんを殺せる?」
「莉花。。」
莉花は、あやすように僕の髪をなぜ、目を見つめながら言う。
「先生が今、この子にしようとしてるのは、そういうことよ。それに。たとえ、あきらめたとして、私はその先何年生きられるかしら?」
「だけど。。。だけど、遺されるのは、、、僕なんだ」
情けないことを言う僕に、
「この子もいるわ。先生、・・私達を守れるのはあなただけなのよ。お願いだから、、、私と、この子を守って」
うつろに見上げる僕の目を、莉花はしっかりと受け止めて、うなずく。
「先生、私は先生を愛してる。あなたの子供を、、2人の子供を産みたい。私たちの子供に会いたい。殺すことなんてできない」

2人の子供に会いたい。
あの日、莉花を抱きながら、強く思った気持ちがよみがえる。

そして、今の、・・・莉花を失いたくない思い。

どれも僕。
僕は、一体どの僕に支配されるべきなんだ?

僕は、莉花の瞳を覗きこむ。
強い意志。
迷いのない願い。

莉花は僕の手を下腹部にあてる。
僕たちの子供。
莉花の、願い。

・・・消し去ることなんて、取り上げることなんて、できるはず、、ない、か。

まだ見ぬ小さな命に、僕は目を閉じ、心の中で謝る。
・・ごめん。

莉花の胸に頬を寄せる。
「ごめん。莉花。バカなこと言って」
「いいのよ。先生。何度でも迷って?当たり前だよ。どちらも、、私を愛してくれてるからだもんね」
莉花は僕を優しく抱きしめてくれる。

しばらくそのままいてくれた莉花が、僕に静かに尋ねる。
「ねえ、先生?」
僕は顔を上げる。莉花は僕を押し返して、僕の腕の中にもぐりこんでくる。
「交代してもらっていい?」
「交代?」
莉花はうなずき、
「私も泣かせて?」
僕は慌てて抱き寄せる手に力を込める。
「・・柚子ちゃん・・」
声をゆがめて震える莉花を抱きしめながら、僕も、また、泣いたんだ。


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最終更新日  2008.07.20 00:47:52
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