空想世界と少しの現実

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緋褪色

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美羽子 @ Re:小説、しばらくお休みさせていただきます。(09/16) お話をより良くする為のデータ移しや編集…
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蒼羽先生が少し辛そうな顔をする。何を考えているのでしょう。
好きな人の不安な顔・・・その表情を笑顔に出来たならば、どんなに嬉しいだろう。

先生。私は貴方の笑顔以外望まないわ。何も要らないから笑って!ただそれだけでいいの。望むのは貴方が幸せと感じる事。それが私の幸せなんだから・・・


神楽の呟き。不思議な子です。計算高く、他人の事などどうでもいいという人間が多い中、彼女はそうではないのだろうか。
私のような人間に、尽くしてくれるというのだろうか。

遥かに年下の女性にも拘らず、私を支えたいと願う神楽の覚悟に圧倒される。彼女なら自分を偽らなくとも、全てを受け止めてくれるかもしれない。

私を見つめる瞳。強い情熱を感じさせる。 想いを受け止めて下さい、 そう言っているかのようだ。

もう抗う事が出来ない。きつく彼女を抱きしめた。
あっ・・・ 小さなため息に近い声を出して、私の腕に抱かれる彼女は恋をする女性の表情だ。

別れた妻も初めて抱きしめた時、同じような表情をした。
未だに忘れられないなんて、情けないかもしれないけれど、本当に好きだった。
でも、もう終わり。私に想いを寄せてくれる神楽に、全てを預けてもいいのではないだろうか。



神楽さん。名花さんから お話を伺っております。
貴女が望むなら、私は神楽さんを妻として迎えたい。まだ世間に対する発表はしませんが、私の元に来て支えになってくれますか。
生涯の伴侶として、添い遂げてくれますか・・・


先生の言葉に耳を傾け、目を閉じて答えを考える。
彼のプロポーズ。私を必要としてくれるの、蒼羽先生・・・
嬉しくて涙が溢れてくる。計算高い私にも、こんな純粋な感情があったんだ。

彼の顔を見て答えを言いたい、そう思った。自ら体を離して顔を見つめると、彼も見つめ返す。覚悟を浮かべた強い瞳の色。名花もそうだった。
そしてお兄ちゃんも。護る覚悟を抱いた人の瞳は美しい光彩を放つ。

蒼羽、神楽


私を必要としてくれる限り、全力で尽くします。奥様の代わりではなく、先生が、世界でたった一人の神楽を必要としてくれるならば、喜んで妻になります。私の答えに先生は少し微笑んだ。



神楽さん、苦労を掛けると思います。ごめんね。院長婦人として、立場が上の人とのお付き合いもしなければならないし、しがらみも多い。ましてや職業が命を預けられる立場です。苦悩や葛藤を感じる毎日。そんな生活を共に送る事になりますよ。

彼の言葉。はい。全て分かっています。私は物心ついた時から、病院にいたんです。医療に携わる人間の葛藤と苦悩を、患者側の立場で見てきました。


「生きたいと願う強さが患者にないと、生き抜くことが出来ない。たとえ本当に僅かな期間でしか生きられなくても、此の世に生を受ける事は凄い事なんだよ。医者はね、その手伝いをしているだけなんだ。」

担当の循環器の先生に言われました。初めて大きな発作を起こしたときに言われた言葉は、今もまだ心に突き刺さるんです。
生きる事を諦めていた私に、強烈な激励でした。

循環器の初老の先生は、ご自身の娘さんを心臓疾患で、産まれてまもなく亡くしていた。その事を先生から聞いた時、生きなくちゃって思ったんです。両親の為に、そして自身の未来の為に。

世に産まれ出た後は苦悩の連続。だけど生の歓喜を知っている私にとっては、全てが感謝なんです。生き抜くこと宿命に抗う事は、自身に科せられた足枷が外れる瞬間でもあるんです。

先生との出遭い。それはきっと貴方の抱える宿命と私の宿命が、互いの足枷を外す為に出遭ったんだと想います。



神楽の返事。そうですね。医療に関わる人間にとって、こんな前向きな患者さんばかりならいいのですけど。
現実は厳しい。説明をしても理解が得られない事も多い。

informed consentまだあまり馴染みがない。横柄な医者の態度と、患者さん達の受身の姿勢。それが、治療者と治療される側の垣根を作っているんだ。
医療に携わるものは、手を貸すだけなんです。命の操作を自分達がしているなどと思うのは思い上がりに等しい。

生命の不可思議は医療現場で働いていても、未だ解明できない謎の事。生命誕生の原理は解明されても、生まれ落ちた命が、維持できるか保障などない現実世界。

本当にこれで良かったのだろうかとの自問自答。迷いや葛藤は絶え間なく続く。現実の激務と責任の重さに薬の力を借りないと、とても乗り越えてくる事が出来なかった。

苦しくて苦しくて、足掻いても何も変わらない現実。彼女とならそんな辛さを、和らげる事が出来るかもしれない。



神楽さん、貴女の出産に携わるように名花さんから依頼されました。父親である名花さん、そして医師の私の2人が貴女の出産に立ち会います。
何も心配は要りませんよ。元気なお子さんが生まれるように、医師として、そして未来の神楽さんの伴侶として手を貸します。

私と結婚して下さいますか、神楽さん。



瞳を見つめて静かな彼の言葉。はい、不束者ですが宜しくお願い致します。答えると強い力で抱きしめられる。女としての幸せを噛み締める瞬間。
私の初恋、こんな形で叶うなんて思いもしなかった。涙が溢れて止まらない。精一杯彼の為に尽くそう。心に誓う。

名花、ありがとう。心の中で彼女に呟いた。
私には2人の旦那さんがいる事になるのね。心の奥底で結ばれた名花という女性と、私を必要としてくれる蒼羽先生。必要とされる事、なんて幸せななんだろう。この二人とお腹の子のだけに生きていける幸せ。私は命を掛けてでも守り抜きたい。





私事ですが、本日××回目のバースデイ。(>д<;)
生命の話を書いている時に自身の誕生日迎えるとは、なんともいえませんな~!
本当は3人兄弟だったはずの私の運命。

産まれてすぐ長兄は亡くなった。今だから解かる母の苦しみ。大切に育んできた命が無くなってしまう悲しみ、自身も経験したしもう二度と味わいたくない喪失感。

命の重みは時に人を苦しめるけど、また人を癒すもの。そうであって欲しいと信じたい。

誕生日を迎える度に想い起して欲しい。命の誕生を喜ぶ存在がいる事を。
人として産まれ出る事、まるで砂浜の一粒の砂の中から選ばれてくる奇蹟なんだ。

産みだす側に覚悟がない。命を授かる事に面倒くさい、うざい、そんな言葉を吐く現代人に命の重みなど理解出来ないだろう。快楽に溺れ命を軽んじる人間はいつか滅びる。





想いと痛みへ





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Last updated  2007/10/30 03:07:09 PM
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