仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2007.11.05
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カテゴリ: 東北
平泉に花開いた文化をどう理解するべきか。

平安時代の終わりの1世紀、京都では白河・鳥羽・後白河の院政の時代に、東日本には平泉の世紀が花開いた。東北史の中で唯一、東北一円を統一した政治権力であり、バックボーンとして宗教的理念で統一しようとした。これほど長期に、しかも組織的に地方の政治文化経済を充実させた歴史は日本にない。日本史で都以外で政権といえる実態をもった唯一の歴史だ。

南は白河の関から、北は外が浜(津軽半島)までの全域に統一政権を実現した。金色堂や紺紙金銀字交書一切経など、東アジアの仏教文化を最も華麗で贅沢な形で実現したのは、奈良でも京都でもなく平泉だった。

しかし平泉は奇跡ではない。金と良馬を産する豊かな東北に、学者や文化人を集められるような統一権力が現れたのだから。平泉を倒した鎌倉も、文化的には平泉にはるかに及ばない。

また、鎌倉のような武家政権が幕府とか柳営(りゅうえい)と呼ぶ政治的組織も、平泉が先駆的な役割を果たしている。初代清衡の政庁後の柳之御所は、漢語の柳営に由来する。中国では匈奴経営のための軍律の行き届いた第一線の陣営を細柳営と呼んだ。それで日本では幕府を柳営とも呼ぶのだ。その名で東北全土にわたる武家支配を実現したのが平泉だから、平氏政権や鎌倉の先駆なのだ。

すなわち、朝廷公家の歴史から武家乗れ騎士にてんかんするのは、平家や鎌倉からではない。まず東北で平泉が始めたものを、都や西日本がまねて、最終的には鎌倉が平泉を模倣した。そう理解すべきなのだ。

蝦夷と呼ばれ政治も文化も無縁と考えられた地から、かくも日本を揺り動かすような流れが始まった。まさに平泉の世紀と呼ぶにふさわしい。

平泉の仏教思想は、中尊寺建立供養願文にあるように、敵も味方も、獣も虫も、すべての命を供養し、法華経の功徳で地上極楽を実現しようとする、かなり明確な精神に基づいている。四代の肉体を現実に地上にとどめたことにもハッキリしている。おそらく京都経由でなく直接中国から仏典や書物も入り、知識人も集まっただろう。そんな中から高度な思想が生まれ、願文が現れたのでないか。

そして重要なことは、この理想がひとり平泉だけではなく、東北全体に行き渡らせていたこと。白河から津軽までの道には一町仏が並べられ、また平泉はこの道の中央に位置し、道は中尊寺の山内を通ったという。旅人は一町ごとに巡礼して中央の中尊寺や毛越寺に地上極楽の詣り納めをしたのだろう。また、東北の一万余の村には中尊寺を小さくしような分寺を置いた。このように責任政権が村単位に寺院ないし文化拠点を置いた例は他にない。



■出典 赤坂憲雄編『東北ルネサンス 日本を開くための七つの対話』小学館、2007年
 (第5章 はじまりの東北 =高橋富雄さんとの対話)

この本は「東北学」を提唱する民俗学者赤坂氏(東北芸術工科大)が七人の賢人と対話した記録集である。単なる地域学の対象空間の一つと見るにとどまらない、それ自体意味を持って完結した地域、あるいは時に原風景として時にアンチテーゼとして日本と日本人の心を形作ってきた地域、そんなのが東北ではないか。7つの角度から光を当てて、その原像を浮かび上がらせようとする興味深い対話集である。

高橋富雄さんは、20年以上も前に東北から説き起こす日本史を主唱された。中央から眺めた断片的な東北像ではなく、東北を中心に歴史を見ていく。古代の一時期、ヤマト中心の西日本と日高見や蝦夷の東日本とが2つの日本を形成していた。だから、東北を日本と日本史に定位させることでこそ、初めて日本を正しく理解できると主張されている。

戦後のある時期までは、中央中心の従来の史観にない発想は、相当の勇気があったのではなかったか。東北の歴史をまさに切り開いた高橋名誉教授の業績に、我々は学ぶところが多いと思う。

■関連する過去の記事
発進!平泉を世界へ! (07年9月30日)
骨寺村荘園遺跡 (07年2月26日)
都市平泉の予想図
平泉への道 (06年1月11日)
義経伝説と東北の歴史ロマン (05年12月8日)





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最終更新日  2007.11.05 23:19:40
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