おしゃれ手紙

2007.05.01
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カテゴリ: 昭和恋々

母がふだん使う鏡台は、奥の父と母の部屋にあって、髪油や白粉(おしろい)の匂いがしたが、縁側の姫鏡台には、匂いがなかった。
小引き出しを開けると、毛抜きや爪切りや耳かきや輪ゴムや・・・・そんな細々とした小物が入っていた。
晴れた朝は、縁側の姫鏡台が白く光り、雨の夕暮れには、鏡面に、壊れた樋(とい)の破れ目から、滴り落ちる雨が映っていた。
そして鏡の中で、小さな小さな庭の小さな樹たちは、緑に輝き、紅に色づき、やがて白茶けた枯れ枝に変わり・・・。
季節は楕円形の鏡の中に、ゆっくりと過ぎてゆくのだった。
「昭和恋々」久世光彦
・・・・・・・・・・


その家の前を通る時、箪笥の上のこじんまりと、たたずむ、姫鏡台に子どもの私は憧れた。
そのうちには、若い姉妹がいたので、普通の鏡台があったのだろうか。
それとも、その家は大阪から疎開してそのまま住み着いていたので、大きな鏡台が買えなかったのだろうか。
今となっては、分からない。
あんなにも憧れていたのに、長く忘れていた。

それから、30年以上たったある日、偶然、姫鏡台を見た。
それは、大橋歩の部屋が載った雑誌だった。
黒い鉄のベッドとベッドカバーは、手作りのシックなキルト。

姫鏡台は、そのシックな箪笥の上に鎮座していた。

ベッドもベッドカバーの箪笥も、姫鏡台も、絶妙のバランスだった。
そのどれが、欠けても、変わっても、アンバランスになると思うくらいに・・・。

どれも豪華なものではない。
けれども、どれも、存在感のあるものだった。
今の私は時々、その雑誌の切り抜きを取り出して眺めては、いつかは、こんな部屋に住みたいとため息をついている。

以来、骨董市で、姫鏡台を無意識に探している。

遠い子どもの日に見た姫鏡台、
大橋歩の部屋にあった、西洋の姫鏡台・・・。

どちらも憧れである。
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Last updated  2012.03.20 11:46:10
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