7月に入院し、あごの下から約15センチを切った。主治医の大阪府立成人病センターの鈴木基之医師(37)から声が出にくくなる可能性があると聞き、「めっちゃ不安だった」。しかし、声が出にくかったのは一時的で、ほっとした。
ただ左腕が思うように動かなくなっていた。肩にひっかかりがあり、右手で支えないと、ひじが肩までの半分程度しか上がらない。リハビリに2カ月かかり、その後もとっさの動きに不安が残った。
それでも、趣味で参加している地元のソフトボールチームは、やめなかった。守備位置は、ボールを投げる距離が長く、動きも激しいセカンドから、ショートやファーストに換えてもらった。走者脇に立つランナーコーチなど裏方の仕事を積極的にするようになった。大きな声は出せなくても、腕の振りで意思が伝わるからだ。
新たにハーモニカの練習も始めた。きっかけは、発声教室を運営するNPO法人「成喉(せいこう)会」の忘年会で、患者のT.N.さん(72)が披露した「上を向いて歩こう」の演奏だった。息を強く、長くはき出すことができず、口笛を吹くことすら難しいのに、ましてハーモニカなんて……。そう思っていただけに、衝撃を受けた。
T.N.さんは15年ほど前に手術を受け、食道発声の訓練になると聞いてハーモニカを始めた。K.M.さんの「めっちゃあこがれの人」になった。K.M.さんも最初は吹き方を全く知らなかったが、「春の小川」は、とりあえず通しで吹けるようになった。「いつか人前で披露したい」と思っている。
今年8月。夏休み中の地元中学校の校庭で、K.M.さんは早朝からソフトボールの試合に出ていた。チームは好調で、K.M.さんも打率5割を維持。この日も鋭くヒットを放って出塁した。次打者の安打の間に、二塁、三塁と一気に駆け抜けて生還、勝利につながる貴重な1点となった。K.M.さんを、チームメートが笑顔で出迎えた。
「おかえり!」
(患者さんのお名前は頭文字表記にさせていただきました。)
写真:練習を始めたハーモニカ。息を吸って出す音が難しいという

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