偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2016.01.30
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カテゴリ: 銀輪万葉

 この処、山部赤人の歌碑を訪ねての銀輪散歩が続いていますが、本日の記事もその続編になります。今回は兵庫県相生市の万葉岬です。相生湾の東側に突き出た半島の先端は金ヶ崎と呼ぶのが正式な呼び方ですが、最近は「万葉岬」という名でも呼ばれているようです。因みに西側の岬は釜崎、その向こうが黒崎、そして赤穂御崎です。
 この万葉岬の高みにホテル万葉岬というのがある。元は国民宿舎相生荘であったが、今は民間に経営が移ってホテル万葉岬になっている。そのホテルの先の斜面に広がる椿園の中に2基の万葉歌碑がある。そのうちの1基が赤人の歌碑である。また、ホテルの手前にも赤人の別の歌碑が1基ある。これを訪ねようと28日にトレンクルを持って出掛けて参りました。1298歳の誕生日の記事が先行して、2日遅れの記事となりましたが、これは、けん家持が未だ1297歳であった28日の、つまり1297歳最後の銀輪散歩の記事であります(笑)。

JR相生駅ホーム (JR相生駅ホーム)

 最寄り駅の近鉄枚岡駅発が午前9時ちょっと前。相生駅到着が11時24分。2時間半程度かかったことになる。
 駅前でトレンクルを組み立てて出発。駅のホームには「万葉岬、南9km」という看板がありましたが、これは事前に地図で見当をつけた距離とほぼ近似していました。

JR相生駅 (JR相生駅)

相生駅の万葉歌の壁パネル(巻3-354) (相生駅の万葉歌の壁パネル)

縄の浦に 塩焼く火のけ 夕されば 行き過ぎかねて 山にたなびく
                          (日置少老 万葉集巻3-354)

 駅舎の壁面には上のような万葉歌を記載した写真パネルが掲示されていましたが、こういうものは、さすがに歌碑とは言わないのでしょうな。
 さて、トレンクルで走り始めての最初の仕事は昼食の店を見付けることでしたが、幸い直ぐに見つかり、先ずは腹ごしらえでありました。
 昼食後、どんどん南へ。相生市役所を過ぎた辺りで国道250号に出る。其処に公園がありました。立ち寄ってみると「相生の松」と相生ペーロン祭のオブジェとご対面。

相生の松 相生ペーロン祭のオブジェ (2)
(相生の松)          (相生ペーロン祭説明碑)

相生ペーロン祭のオブジェ (1) (相生ペーロン祭のオブジェ)

 公園の先は海で相生湾の最深部になっている。多分、かなりが埋め立てられたのであろう、海と言うよりも川に近い様相である。

相生湾 (1) 相生湾 (2)
(公園の水際の風景。左:山側、右:海側)

 海に沿って国道250号を南下。対岸に大型船の姿が見える。

相生湾 (4) 相生湾 (3)
(相生港・相生湾)

 鵜の群れも発見。
 今回見に行こうとしている歌碑の歌には鵜も登場しているから丁度良いと、早速に写真に収めました。
 赤人さんの歌では、和歌の浦では鶴、吉野では千鳥であるが、ここ相生の金ヶ崎、唐荷島では鵜なのである。

鵜 (1) (鵜と鴨)

鵜 (2) 鵜 (3)
(牡蠣の養殖棚に鵜の群れ)

相生市野瀬 (3) (相生道路地図・野瀬公園)

 野瀬公園では、相生で造られた船なんでしょうか。船の写真とその構造の詳細を記した石版を嵌めた碑が並んでいました。そして中央には大きなスクリューが展示されていました。相生ペーロン祭のオブジェもそうであるが、造船の町として発展して来た相生市ならではの展示である。

相生市野瀬 (1) (野瀬公園)

相生市野瀬 (2) (同上)

松崎清泉跡 (2) 松崎清泉跡 (1)
(松崎清泉跡)

 野瀬公園から2km余で鰯浜漁港である。野瀬公園を過ぎた辺りで自転車の小生を追い抜いて行った乗用車の後を白バイが追いかけ、停車を命じていました。どうやらスピード違反の取り締まりのようです。「ここは(制限時速)40キロですよ。」という警官の声が、そこを通り過ぎる時に耳に入りました。運転者は年配の男性、助手席にはその奥様と思しき年配の女性。まあ、ヤカモチには関わりのねえことにござんす。


鰯浜漁港 (2) 鰯浜漁港 (1)
(鰯浜漁港)

 鰯浜に到着。漁港を右に見て道は左へとカーブ。ここから道は登りとなる。上の写真は国道から漁港へと行く道に少し入ったところで撮ったものです。
 上の左の写真の正面奥に見えている山が万葉岬の高みである。写真からも山肌に貼り付いている上りの坂道が見て取れる。
 坂道の上りかけの処に牡蠣の直売所がありましたが、もう本日の分は売り切れたようです。まあ、これもヤカモチには関係ありませぬ。
 坂の途中に小さな神社がありましたので、立ち寄り、祠のある高みまで上ってみましたが、木立の枝が邪魔をして、鰯浜地区の写真撮影には不向き。

荒神社(相生市鰯浜地区) (荒神社・鰯浜地区)

 荒神社から空しく下りて来て、その付近から万葉岬の方を眺めたのが下の写真です。この道を上るのかと思うと少し気が重くなるのでありました。

鰯浜付近から万葉岬への急坂道を見る (万葉岬の高み)

万葉の岬入口 万葉岬への道
(万葉岬への入口)       (万葉岬への急坂道)

 かなり坂を上った処で万葉岬への道の入口(写真左)がありました。入口にある喫茶店も鮮魚店も営業はしていないようでシャッターが下りたまま。写真右のような坂道。途中でギブアップして自転車を押して歩きました。最近は早めに諦めて歩くようにしています。やり過ぎると後の息苦しさが長引くからですが、これも加齢変化ですかな。

万葉岬への道から鰯浜地区を望む (万葉岬への道から鰯浜漁港を望む。)

 高みから鰯浜地区を望見。写真右の森の向こうから回り込むようにしてやって来たのでした。右端っこに見えている高い建物が牡蠣の直売所ではなかったかと思います。

万葉岬の碑 (万葉の岬の碑)

 坂をほぼ上り切ると小さな空地があって、其処に「万葉の岬」と刻まれた石碑が立っていました。案内板には右に行くと「縄の浦赤人万葉歌碑」とあり、左に行くと「鳴島万葉歌碑」と辛荷島の赤人歌碑があると記されている。
 先ず右に行く。
 眼下には小舟が一艘。まさに赤人の歌碑の歌の「こぎ廻る舟は釣しすらしも」そのままの光景である。

万葉岬から眼下の海を見る 万葉岬から蔓島、赤穂御崎を望む
(万葉岬から、眼下には棚無し小舟。遠くには蔓島と赤穂御崎。)

 赤穂御崎と相生湾(縄の浦)を背に歌碑はありました。

万葉岬の赤人歌碑 (巻3-357) (1) (万葉岬の山部赤人歌碑)

縄の浦ゆ 背向に見ゆる 沖つ島 こぎ廻る舟は 釣しすらしも
                          (山部赤人 万葉集巻3-357)

万葉岬の赤人歌碑 (巻3-357) (2) (同上・副碑)

 歌碑の隣には東屋があり、そこから海岸へと下って行く細道もあるようだが、それは辿らない。元の万葉の岬の碑のある空地に戻り、少し坂道を上った後は、ホテル万葉岬の前まで下り坂である。

ホテル万葉岬(旧国民宿舎相生荘) (ホテル万葉岬<旧国民宿舎相生荘>)

 ホテルには用がない。今日は日帰りである。ホテルの先には椿園があり、沢山の椿が植えられていて、花が咲いている木もある。その入口の碑がこれ。

万葉岬の碑 (2) (つばき園入口にある万葉の岬説明碑)

 椿園の一番高い位置にある歌碑の撮影が、今回の銀輪散歩の主目的。この歌碑の歌は神亀3年(726年)9月15日に、播磨国行幸に随行した山部赤人が作った歌である。
 続日本紀によると、神亀3年の播磨国行幸は、9月27日造頓宮司を設置、10月7日に出発、19日に難波宮に至り、29日に帰京している。万葉集の題詞では9月15日になっているが、これは誤りで、10月20日以後28日以前の日でなければならないだろう。
 もっとも、万葉ウオークの下見のように、赤人さんも下見にやって来たのであれば、話は別であるが、もしそうなら、笠金村も歌を同日に作っているから、金村さんも一緒に下見にやって来たことになるので愉快なのだが(笑)。

万葉岬(金ヶ崎)の赤人歌碑(巻6-942~945) (山部赤人万葉歌碑)

 辛荷島 (からにのしま) に過 (よぎ) りし時に、山部赤人の作りし歌1首併せ短歌
あぢさはふ 妹が目離
(か) れて 敷栲 (しきたへ) の 枕もまかず 桜皮 (かには) 巻き 作れる船に 真楫 (まかぢ) (ぬ) き 我が漕ぎ来れば 淡路の 野島も過ぎ 印南嬬 (いなみつま)  辛荷 (からに) の島の 島の際 (ま) ゆ 我家 (わぎへ) を見れば 青山の そことも見えず 白雲も 千重になり来 (き) ぬ 漕ぎ廻 (た) むる 浦のことごと 行き隠 (かく) る 島の崎々 隈も置かず 思ひぞ我が来る 旅の日 (け) 長み
                             (山部赤人 万葉集巻6-942)

反歌3首
玉藻刈る 辛荷の島に 島廻
(しまみ) する 鵜にしもあれや 家思はずあらむ
                                           (同943)
島隠
(しまがく) り 我が漕ぎ来れば 羨 (とも)
しかも 大和へ上る ま熊野の船
                                           (同944)
風吹けば 波か立たむと さもらひに 都太
(つだ) の細江に 浦隠 (うらがく)
り居り
                                           (同945)

<(あじさはふ)妻に別れて(しきたへの)その手枕もしないで、桜皮を巻いて造った船に左右の櫂を通して、私が漕いで来ると、淡路の野島も過ぎて、印南つまや辛荷の島の、島の間から我が家の方を見ると、青い山の何処とも知れず、白雲も千重に重なって来て、漕ぎまわる浦ごとに、行き隠れる島の岬ごとに、何処にあっても欠かすことなく、私は思い続けて来た。旅の日数が長いので。>
  反歌3首
<玉藻を刈る辛荷の島で、島を回って魚をとる鵜であったならよかった。そうなら家を思わずにいられるだろう。>
<島陰を私が漕いで来ると、羨ましいことだ、大和へと上る熊野の船は。>
<風が吹くので波が立つのではないかと待機して、都太の入江に浦隠れしています。>

(注)あじさはふ=語義不明。目の枕詞。
   かには=船を造る時に防水のために木材接合部分に巻いた樹皮。
   印南嬬=加古川河口付近
   辛荷の島=兵庫県たつの市御津町の播磨灘沖合にある3島。
   さもらふ=じっと待機すること。
   都太=姫路市飾磨区今在家付近。船場川、野田川などの河口付近。

唐荷島と藻振鼻(左) 唐荷島と背後の小豆島
(藻振鼻<左端>と唐荷島)   (唐荷島と背後の小豆島)

 歌碑の前から辛荷島(唐荷島)が一望である。左手にはたつの市御津町室津の岬・藻振鼻が見え、右奥には小豆島がぼんやりと見えている。この日は少し霞がかかったような風景にて「うち霧らし」とか「春日の霧れる」などという万葉風の言葉が似合いの眺めでありました。

唐荷島(左・地ノ唐荷島、右・沖ノ唐荷島) (左:地ノ唐荷島 中央:中ノ唐荷島 右:沖ノ唐荷島)

鳴島万葉歌碑(巻12-3164 作者不詳) (1) (鳴島万葉歌碑)

 赤人歌碑から少し下った処にもう一つの万葉歌碑がある。

鳴島万葉歌碑(巻12-3164 作者不詳) (2) 鳴島万葉歌碑(巻12-3164 作者不詳) (3)
(同上)

室の浦の 瀬戸の崎なる 鳴島の 磯越す波に 濡れにけるかも
                             (万葉集巻12-3164)

<室の浦の瀬戸の崎にある鳴島の、磯を越す波に濡れてしまったことだ。>

 この碑の先の海、眼下に君島という小さな島があり、それがこの歌に言う「鳴島」だそうだが、写真は撮り忘れていたようでカメラにはありませんでした。

 本日はここまで。来た道を相生駅まで引き返し、JRで姫路駅まで行き、再びトレンクルを組み立てて、山部赤人歌碑を訪ねる銀輪散歩は続くのでありますが、それは明日の記事とします。






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最終更新日  2019.10.21 15:05:50
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