昨日の銀輪散歩で見掛けたクマゼミです。
大和川へと向かう恩智川べりの小さな公園の桜の木にとまっていました。
木陰のベンチでパソコンのキーボードを打っている青年が居て、少し言葉を交わしましたが、作業のお邪魔をしてはいけないので、水分補給の休憩の後、蝉を撮影して、その場を離れました。
クマゼミは午前中に鳴き、午後からは殆ど鳴かない。これに対してアブラゼミは午後から夕方にかけて鳴く。これを「蝉時計」と言うそうだが、時計にしては実に大雑把なものではある。
我々が子供の頃は、クマゼミは少数派でアブラゼミが隆盛であったように思うが、温暖化の所為か、近頃は逆転して南方系のクマゼミが圧倒的に多数である。この蝉は大型で飛翔力も優れているから、ニイニイゼミやアブラゼミが飛び越えられない大きな川も飛び越えて容易にその繁殖の場所を拡大することができる。
近頃は、熊が人里に現れ、熊に注意、という看板がやたら目に付くが、蝉の世界もクマが席巻しているようだ。アブラゼミなど蝉の世界でも「クマに注意」が囁かれているそうな(笑)。
ところで、万葉集に蝉が登場しているのかと言うと、登場しているのであります。しかし、「蝉」という言葉というのもあるが、他は全て「ひぐらし」という言葉である。このことから、万葉の頃は蝉はヒグラシしかいなかった、という論も成り立つのだが、虫の分類などに関心のなかった万葉人にとっては、蝉の種類などはどうでもよく、全て「ひぐらし」と呼んでいたかも知れないから、何とも言えない。
秋に鳴く虫を全て「こほろぎ」と呼んでいた万葉人のことであるから、ありえないことではないだろう。
それはさて置き、「ひぐらし」の歌を見てみると、アブラゼミやクマゼミの鳴き声では歌の感じにそぐわず、ヒグラシの「カナカナ・・」という鳴き声でなくてはならないという感じの歌が殆どではある。
隠
りのみ をればいぶせみ 慰むと 出で立ち聞けば 来鳴くひぐらし
(大伴家持 万葉集巻8-1479)
(屋内に引きこもってばかりいると、うっとおしいので、気を晴らそうと外に出て立って聞いていると、やって来て鳴くヒグラシよ。)
黙然
もあらむ 時も鳴かなむ ひぐらしの 物思ふ時に 鳴きつつもとな
(万葉集巻10-1964)
(何の物思いもない時に鳴いてほしい。ヒグラシが、物思いしている時に鳴いてしようがない。)
ひぐらしは 時と鳴けども 恋ふるにし
手弱女
我は 時わかず泣く
(万葉集巻10-1982)
(ヒグラシは今が時だと鳴くけれど、恋のせいで、かよわい私は時をかまわず泣き続けています。)
暮影
に 来鳴くひぐらし ここだくも 日ごとに聞けど 飽かぬ声かも
(万葉集巻10-2157)
(夕方の光の中に来て鳴くヒグラシは、こんなに毎日聞いても、飽きない声だ。)
萩の花 さきたる野辺に ひぐらしの 鳴くなるなへに 秋の風吹く
(万葉集巻10-2231)
(萩の花の咲いている野辺にヒグラシが鳴いている折、その折に秋の風が吹く。)
夕されば ひぐらし来鳴く 生駒山 越えてぞ吾が来る 妹が目を欲り
(
秦間満
万葉集巻15-3589)
(夕方になるとヒグラシが来て鳴く生駒山を越えて、私はやって来たのだ。妻に逢いたくて。)
石走
る 瀧もとどろに 鳴く蝉の 声をし聞けば
京都
しおもほゆ
(大石蓑麻呂 万葉集巻15-3617)
(岩の上をほとばしり流れる激流が音をとどろかせているように、響き渡って鳴く蝉の声を聞くと都のことが思われる。)
恋繁み 慰めかねて ひぐらしの 鳴く島かげに いほりするかも
(万葉集巻15-3620)
(恋の思いがいっぱいで、慰めようもなく、ヒグラシの鳴く島陰に仮廬を結んで旅寝することだ。)
今よりは 秋づきぬらし あしひきの 山松かげに ひぐらし鳴きぬ
(万葉集巻15-3655)
(今から秋らしくなるようだ。山の松の木の陰でヒグラシが鳴いたよ。)
ひぐらしの 鳴きぬる時は をみなへし 咲きたる野べを 行きつつ見べし
(
秦八千島
万葉集巻17-3951)
(ヒグラシが鳴く頃には、オミナエシの咲いている野辺を行きながら、見るのがよろしい。)
この日は大和川畔まで走ったのみで、引き返しましたので、左程の距離を走っていません。往復路の途中の恩智川沿いにあった喫茶店、かつては不思議なご縁で、万葉ナナの会などという集まりを持った喫茶店、Cafe de nanaも閉店になった後、これをつぐ新しいテナントも入っていないようで、シャッターは下りたままでありました。
(大和川、石川との合流点。中央、奥から流れ込んでいるのが石川)
ヤカモチの南方面への銀輪散歩では珈琲休憩によく利用した喫茶店であるが、今はそれも叶わず、毎度素通りである。これに代わる喫茶店は未だはっきりとは決まっていない。恩智川沿いの道から少し外れると喫茶店も色々とあるにはあるが・・。
本日は、蝉と万葉のお話でした。
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