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[小松帯刀] カテゴリの記事
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小松帯刀と西郷、大久保の対立を実証するのは困難
よしさん、初めまして、やまももです。 私は原口泉著『龍馬を超えた男 小松帯刀』の203頁～204頁を引用し、そこに書かれている小松、西郷、大久保の3人が薩摩藩のリーダとして相互に役割分担を担いながら「それが集団として大きなカになつて時代を動かすエネルギーになっていったのです」という指摘を紹介しました。 しかし、またこの原口泉著『龍馬を超えた男 小松帯刀』の186頁～187頁には、つぎのようなことが書かれています。 「現に前に見たように、薩土盟約の約定書は、大政奉還、公儀政体の創出に向けた両藩の協力を謳っています。／この盟約締結に先駆けて、薩土が前項で述べたような討幕の密約を結んでいることは大いなる矛盾ですが、締約のほうは個々人の私的な会談という性格が強いので、やはり公式の薩土提携は薩土盟約です。／では、なぜ薩摩は、薩長同盟と路線の違う薩土盟約盟約を結んだのでしょうか。／それは、大久保、西郷らが無血革命は成功せず、事態は大政を奉還するだけの『倒幕』ではなく、武力で幕府勢力を壊滅する『倒幕』のほうに動くと踏んでいたからだと思われます。大政奉還が、武力をともなわない建白行動によって達成されるとは思ってもみなかったのです。／つまり、薩摩藩がこの盟約に期待したのは、来るべき武力討幕のときに備えるためでした。薩摩藩には、大政奉還建白の失敗がもたらすであろう局面打開ないし挙兵の機会と、土佐藩の武力援助等を期待して、いざというときに土佐藩の援助も得たいという思いがあったわけです。／そのための薩土盟約でしたが、西郷、大久保がはなから進言による大政奉還など実現Lないと踏んでいた一方、帯刀は、あくまでも最初は、その大目標を目指したと思われます。この点に、この三人の同志間にさえ微妙なずれが生ずるという、問題の難しさがうかがえます。」 しかし、この原口泉著『龍馬を超えた男 小松帯刀』は、「三人の同志間にさえ微妙なずれが生ずるという、問題の難しさがうかがえます」と推測していますが、小松と西郷、大久保との間で明確な意見の対立があったとする史料的根拠はどこにも示されていません。 それどころか、拙文「小松帯刀は西郷、大久保と意見が対立したのか？ 」で紹介しましたように、慶喜が二条城で大政奉還慶の大会議を開き、小松帯刀がそれに賛同の意を表明する直前、薩長芸の３藩の会議が慶応3年10月8日(1867年11月3日)に開かれ、薩摩藩からは小松帯刀、西郷隆盛、大久保利通が会集し、武力による「政変」の決行を確認しただけでなく、同日の10月8日 小松、西郷、大久保３人の連名で、「国家の為に干戈(かんか；武器、戦い)以て其罪を討ち奸兇を掃攘し、王室恢復の大業相遂げたい」との願書を中山忠能、正親町三条実愛、中御門経之宛てに出しているのですが、このようなことは原口泉著『龍馬を超えた男 小松帯刀』は触れていません。 ですから、小松と西郷、大久保の間に生まれ育ちや現在の身分・立場上の違い等から微妙な心理面での違いがあったのではないかと勝手に想像することは可能かも知れませんが、史料に基づいて実証的に「意見の隔たりがあった」と言い切ることは難しいように判断するのですが、いかが思われますか。
2008年11月18日
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小松帯刀は西郷、大久保と意見が対立したのか？
篤姫ドラマを見ていますと、小松帯刀（瑛太）は、平和を願って国内の争乱を極力避けようと考えており、徳川慶喜の武力打倒を目指す西郷（小澤征悦）、大久保（原田泰造）との間に意見の相違が次第に生じるようになったと描いています。篤姫ドラマで、副主人公ともいうべき小松帯刀をそのように平和を求める人物にすることは視聴者の共感を得る上で間違ってはいないと思いますし、これまで同志的関係にあった登場人物たちの亀裂や対立を描くことも物語を盛り上げる上で必要なことかもしれません。 しかし、脚を悪くして薩摩に残ることになった薩摩藩家老の小松が懸命に努力したことが、薩摩藩内で国父・島津久光（山口祐一郎）等に平和路線を説くことなどではなく、なんと天璋院（宮崎あおい）の身をくよくよと心配し、妻のお近（ともさかりえ）からアドバイスされて天璋院の母親のお幸（樋口可南子）に会いに行き、天璋院の薩摩への里帰りを促す手紙を書いてもらおうとしたり、そのために久光に許可を得ようとすることだったのにはガッカリさせられました。 篤姫ドラマにおいて、小松帯刀が肝付尚五郎と名乗っていた頃から、彼が娘時代の天璋院すなわち於一（おかつ）と親しい関係にあったように描いていたその創作上の工夫がこんなチッポケで意味もないエピソード作りに結びついていることにはあきれてしまいました。また、いまの時代のママさんたちなら、嫁いだ娘が住んでいる場所で戦争が起りそうだと知ったら、大慌てで娘に電話を掛けて「危ないから早く帰って来なさい」と言うのは当然のことでしょうが、薩摩の武家の母親としてのお幸さんが娘に嫁ぎ先から里帰りを促すなんてことはとても考えられません。今回のエピソードで、お幸さんという人物造形に歪みを生じさせてしまい、いささか残念です。 ところで、史実として薩摩の小松、西郷、大久保に間に意見の対立が生じたのでしょうか。まともな歴史書を読む限り、そんなことを書いているものは存在しません。３人は相互に上手く連係プレーを取り、国父の島津久光の承認を得ながら、幕末の変転極まりない困難な情況に臨機応変に対応していきました。 薩摩藩の島津久光は、慶応3年5月(1867年6月)の四侯会議で、幕府にこれまでの失政を反省させた上で、勅命によって長州藩への寛典処分を行おうと考えました。しかし、この四侯会議は慶喜の都合のいいように利用されるだけで終わって解体してしまいます。そのため、久光の慶喜に対する不信は増大し、慶喜との決別の意思を固めます。さらに久光は、英国との接触から幕府との武力対決即外国からの干渉とはならないと判断します。こうして薩摩藩は武力を背景にして慶喜を将軍の座から降ろす方策を練り始めます。 慶応3年5月27日(1867年6月29日)に薩摩藩の小松、西郷らは土佐藩の板垣退助、中岡慎太郎らと武力倒幕を密約します。しかし、土佐側で山内容堂が武力発動に反対しため、土佐藩としては山内容堂名義で慶喜に大政奉還建白書を提出することの承諾を薩摩側に求めます。薩摩側は、方法は異なるが慶喜から将軍職を奪うことでは一致すると判断し、7月1日に土佐藩による大政奉還建白書提出を正式に承認します。 しかし、薩摩藩は慶喜を武力で討つ政変の準備も続けています。それが慶応3年10月成立の薩長芸三藩出兵協定でした。このとき、小松帯刀は芸州藩家老の辻将曹に武力を動員するつもりであることを打ち明けています。そして、同年10月8日に討幕の宣旨を小松、西郷、大久保連名で中山、正親町三条、中御門に請願し、13日には討幕の密勅が下っています。 この薩長芸三藩出兵協定については、佐々木克『幕末政治と薩摩藩』（吉川弘文館、2004年10月）によりますと、慶応3年10月8日(1867年11月3日)に、薩長芸の３藩の会議が行なわれ、薩摩藩からは小松帯刀、西郷隆盛、大久保利通が会集し、「三藩軍兵大坂着船之一左右次第、朝廷向断然之御尽力、兼而奉願置候事」との約束どおり「政変」の決行を確認しただけでなく、「以下にみるように、彼らはついに「政変」に続いて、慶喜・幕府の出方次第では武力討幕の挙に移ることをも、ここに具体的な行動目標として掲げるにいたった」としています。 すなわち、同じこの10月8日 小松、西郷、大久保３人の連名で、「王室恢復の赤心を貫徹し、千戈を以て其罪を討し、好兇を掃壊して、国家長久の基を開」くために 「義挙」を決意したから「相当の宣旨」を降下されたいとする願書を中山忠能、正親町三条実愛、中御門経之宛てに出しているのです。 なお、小松、西郷、大久保３人が連名で中山忠能、正親町三条実愛、中御門経之宛てに出したこの願書とは、瀬野富吉著『幻の宰相 小松帯刀伝』下巻（小松帯刀顕彰会、1985年7月）の59頁～60頁に載っている「請願書」のことと思われますので、下に掲載しておきます。 請 願 書 皇国内外之御危急不可謂の状態別紙趣意書を以て申上候通に而、宝祚(ほうそ；天子の位、皇位のこと)の存亡に相拘り候御大事の時節、苟安(こうあん；一時の安楽をむさぼること)を偸んで傍観黙止すること仕り難く、国家の為に干戈(かんか；武器、戦い)以て其罪を討ち奸兇(かんきょう；悪人)を掃攘し、王室恢復の大業相遂度(あいとげたく)、制すぺからざるの忠義暗合会盟(あんごうかいめい；偶然に一致して盟約を結び)断策義挙に相及侯に付、伏冀(ふしねがわ)くば相当の宣旨降下相成候処、御執奏御尽力被成下度奉願候。 慶応三年丁卯十月 小 松 帯 刀 西 郷 吉之助 大久保 一蔵 中 山 前 大納言様 正親町三條前大納言様 中 御 門 中納言様 瀬野富吉は上記の史料について、「まず請願書に／幕府の措置の誤りを列挙して、その罪状は明らかで、心根が正しくないので、武力に訴えてその罪を討ち、王政を古の正しさにかえし、国家長久の基礎を立てん。／と述べ勅命降下の請願書を提出した」としています。 しかし、鹿児島からの出兵が遅れたことや、慶喜が慶応3年10月13日(1867年11月8日)に京都二条城で開いた大会議で土佐藩の大政奉還建白書を受け入れ、翌日には朝廷に政権の返上を申し出たことから、この密勅は意味を失います。 以上紹介した史実からも小松と西郷、大久保に表立った意見の対立などなかったことはご理解いただけると思います。
2008年11月13日
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小松帯刀と薩摩藩英国留学生
だびでさん、初めまして、やまももです。 先月(8月)の拙ブログに「瀬野富吉氏の『幻の宰相 小松帯刀伝』について」という拙文を書きましたが、今日(9月30日)になって、同拙文にだびでさんから「『幻の宰相 小松帯刀伝』は10月に宮帯出版社から再版されるそうです。定価は1995円だそうです」とのコメントを寄せせていただきました。貴重な情報をありがとうございました。なお、いただいたコメントに株式会社・宮帯出版社のＨＰのＵＲＬhttp://www.miyaobi.com/も付記して下さっていますが、そのＨＰの近刊案内に瀬野富吉氏の同書も紹介がされていますね。 それで、だびでさんから瀬野富吉著『幻の宰相 小松帯刀伝』に関するコメントをいただき、同書に小松帯刀と英国留学生との関係が書かれてあったことを思い出しました。なお、9月28日放映のＮＨＫ大河ドラマ「篤姫」第39回目「薩摩燃ゆ」で薩英戦争の交戦の模様と鹿児島の街を焼かれて嘆き悲しむ小松帯刀（瑛太）が描かれていましたが、実際の小松帯刀は薩英戦争後に薩摩藩の家老として藩を戦争の痛手から回復させるためにつぎつぎと手を打っていますが、その一つが留学生派遣だったのですね。それで、瀬野富吉著『幻の宰相 小松帯刀伝』に基づいて英国留学生派遣の経緯について下に要約して紹介したいと思います。 瀬野富吉著『幻の宰相 小松帯刀伝』によりますと、「薩摩藩で欧米先進国へ留学生を派遣することは、島津斉彬の構想であった」そうですが、「斉彬が急死したことで、計画は一時挫折」してしまいます。しかし、「文久三年(一八六三年)七月の薩英戦争によって、西洋の文明が進歩していて、武器も精巧であることを痛感した薩摩では、英国と和平が成立すると、彼と親交を結んで文物の輸入、科学技術を導入しようとする気運が起」ります。そんな時に、長崎にいた五代才助(後の五代友厚)が「海外留学生派遣の建言書を作成して藩庁に上申」したので、小松たちはこれを採り上げ実施に移すことになったそうです。 なお、五代才助は薩英戦争のときに英国艦船に拿捕された天佑丸の船長で、その後「自発的に英艦の捕虜となって横浜に連れ去られた」そうですが、「その後講和が成立したので、英領事より釈放され」、「江戸、熊谷など転々として隠れていたが、長崎に潜入して、川路要蔵の変名で、長崎の酒井三蔵商店という富豪に潜んで」いましたが、「このころ長崎の英国商人トーマス・グラバーと懇意になって」、そのときに留学生派遣の構想を話したことが小松帯刀の耳に入ったそうです。すなわち「たまたま家老小松帯刀が汽船購入や通商関係でグラバーに会ったので、五代の話が出る。ここで小松と五代ほ再び会うことになった。五代は小松に亡命のいきさつを話し、罪を謝するので、小松は脱藩罪赦免を藩公に許してもらうことにしたのである。／五代が抱いている留学生派遣の構想は、帯刀もグラバーに依頼していたことで、全く意見が一致したので、これを藩庁で具体化させるため、五代の意見を上申書として起草し、藩庁に上申するように勧め」たそうです。なお、「小松は造士館掛で教育の責任者であり、御改革御内用掛と御勝手方掛りで予算決定の責任者でもあるから、留学生の費用も薩藩の費用を充てることができ」たとのことです。 こうして「元治元年十一月下旬、英国留学生派遣の裁可が藩主父子よりおり」、同年3月22日に「英国留学生十九名を載せた『オースタライエン号』は羽島沖を出帆して香港に向かった」そうです。 なお、鹿児島中央駅前にこの薩摩藩英国留学生をモチーフにした「若き薩摩の群像」という像があり、五代友厚(後に大阪商工業の基礎を作る)、森有礼(初代文部大臣となり文教の発展に力を尽くす)、寺島宗則(外務卿となって外交で活躍)、村橋久成(北海道開拓使となり、サッポロビールの生みの親となる)、長沢鼎(米国に渡り、カリフォルニアで広大な葡萄園を経営し日本人ワイン王と呼ばれる)等17名の若き姿を見ることが出来ます。しかし、薩摩藩から英国に派遣された留学生は19名で、一緒に薩摩藩から派遣された高見弥一(土佐藩出身)、堀孝之(長崎県人)の両名の姿はこの群像の中に見ることは出来ません。なぜなのでしょうか。なお、「若き薩摩の群像を完成させる会」のＨＰ中の「『若き薩摩の群像』から外された2人のプロフィール」という文章がありますが、これをご覧になってどう思われるでしょうか。鹿児島に住む関西人の私としても、ぜひこの2名の像を「若き薩摩の群像」に加えてもらいたいものだと思います。
2008年09月30日
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瀬野富吉氏の『幻の宰相 小松帯刀伝』について
なかめぐさん、こんばんは、やまももです。 なかめぐさんは瀬野富吉氏の『幻の宰相 小松帯刀伝』をぜひ入手したいと思われながらも、残念ながらいまのところまだ未購入とのことですね。なお、瀬野富吉氏の同書については、鹿児島県日置市日吉町吉利にある小松家の菩提寺の清浄寺の住職さんから教えてもらわれたそうですね。その清浄寺のご住職のお話によりますと、この本は「瀬野さんが書き上げた当初は全く売れず、山積みになったままだったそうです」とのことですね。 瀬野富吉氏は元日吉町教育長を勤められた方だそうですが、郷土の偉人でありながら多くの人から忘れ去られている小松帯刀という人物の業績を今に伝えようと書かれたのが『幻の宰相 小松帯刀伝』だったそうです。この労作は1987年に第13回南日本出版文化賞を受賞しています。また瀬野富吉氏は小松帯刀顕彰会準備委員として銅像建立にも尽力しておられます。この銅像は1994年に鹿児島市の宝山ホール前に設置されましたが、去年の12月にさらにこの銅像の原型を再利用した小松帯刀像が清浄寺にも立てられたそうですね。きっとなかめぐさんもご覧になったことと思います。 そんな小松帯刀のことが急に全国的に知られるようになったのは、言うまでもなくＮＨＫの「篤姫」ドラマで小松帯刀（小松家の養子となる前は肝付尚五郎）が篤姫ドラマのボーイフレンドとして登場することになったからですね。古書店の書架で埃をかぶっていた瀬野富吉氏の『幻の宰相 小松帯刀伝』もいまでは非常に入手困難な本となってしまいました。 しかし、清浄寺のご住職が「ＮＨＫ篤姫の中で二人は幼馴染ですが、実際はそういった繋がりはなかったそうです。帯刀を何とか有名にしたいという脚本家の方の配慮からそういう設定になったそうです」と話しておられるように、当時の記録からは二人の繋がりを見出すことはできませんし、また宮尾登美子さんの原作『天璋院篤姫』にも登場しません。 しかし、ＮＨＫの「篤姫ドラマ」公式サイトで田渕久美子氏は「薩摩藩の若き家老であり、西郷や大久保にも匹敵する働きから最初の宰相とまで呼ばれながら、歴史に埋没したヒーロー、小松にもスポットを当ててみたい」とコメントしています。また江戸城大奥にいる篤姫（天璋院）のみにスポットを当てていては幕末期ｋ変革の動きに重要な役割を果たした薩摩藩の動きをドラマで生き生きと描くことはできません。そのことから、同藩の家老として活躍した小松帯刀にもスポットを当てることにしたのでしょうね。 ですから前回の篤姫ドラマ32回目の「桜田門外の変」でも、「突出」を計画する薩摩の若き藩士たち動きを知って藩主の忠義とその父親の久光に知らせ、彼等の決起を引き止める対策を考えさせる重要な役割を小松帯刀に与えていましたね（史実では、藩主の忠義の小姓である谷村昌武が藩主父子に「突出」の情報を知らせているようです）。
2008年08月12日
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小松帯刀の活躍と島津久光の指導力 その２
海音寺潮五郎『西郷と大久保』(新潮文庫、1973年6月)に、文久元年(1861年)、大久保利通が精忠組(薩摩藩の若手改革派グループ)の同志の奈良原幸五郎から小松帯刀がなかなかの人物であると聞かされる場面があります。なお、その頃まだ藩政の中枢にいなかった大久保は、精忠組の力となってくれる有能な人物を家老にしたいと思っていたのですが、「家老にしても不思議のない門閥の人である必要がある。しかし、才能のある者は家柄がなく、家柄のある者は才能がない」ということで、困りきっていたのです。 奈良原は、小松帯刀のことを「学識もごわす。志もごわす。時勢眼もごわす。最もめずらしかのは、身分の高いに似ず、年の若いに似ず、威張屋でなかことでごわす。史書の中の人物評によく、賢を愛し、寛弘にして人を容ると書いてごわすが、帯刀殿のことを言うたかと思われるほどでごわす」と高く評価しました。この話は大久保に「旱天に遠雷の音を聞いた」ように思われました。 大久保は小松帯刀と何度も会って人物を確かめ、精忠組のために彼をぜひ家老職に就けたいと考えるようになります。それで、久光の側近である中山中左衛門に小松帯刀のことを伝え、中山から久光に推挙してもらいます。久光も小松帯刀を召出して会って気に入り、五月に小松をお側役、中山をお小納戸にします。海音寺潮五郎によると「お側役は官房長官、お小納戸は官房主事と思えばよかろう。いずれも君側にあって機密を司る役だ」とのことです。 なお、芳即正『島津久光と明治維新』(新人物往来社、2002年12月)では、久光が側近を小松、中山等によって固めていく過程をつぎのように紹介しています。まず、藩主忠義の藩政補佐役をしていた斉興が安政6年9月12日(1859年10月7日)に死去した後、文久元年2月18日(1861年3月28日)に江戸幕府より久光を藩主参勤留守中の補佐役とする通達が出され、久光はこのときに名実ともに薩摩藩の実権を握り、藩主の忠義からも「国父」と称されることになります。その後、側近を小松、中山らで固めるのですが、そのことを芳即正は同書でつぎのように書いています。「そのころ藩政の中枢、特に久光の側近に進出していたのが中山中左衛門と小松帯刀であった。精忠組の中心として大久保や堀がいたが、彼らは身分が低く、特に藩政の中枢にいたことはなかった。これが、彼らの泣き所であった。中山は父が山崎派の儒学者で、斉彬に仕えて虎寿丸のお抱守になった。中左衛門は天保四年（一八三三）生まれで大久保より三歳年少、斉彬の小姓だったが、斉彬死後、君側を遠ざけられていたのを、久光が藩主後見となってから、再び久光の小姓となる。その後、久光の信任を得て小納戸に進み、『権勢内外を圧する有様』（『有馬新七伝』）であったという。ただ度量が狭く寛容の心がないところから、人望を失い、薩英戦争後、失脚する。 小松は天保六年（一八三五）、喜入領主肝付家に生まれ、安政二年、一時、江戸で斉彬の小姓を務める。翌年、吉利領主小松家の養子となり、小松尚五郎と改名、のち帯刀清廉と改めた。斉彬の側近に仕えていたが、その後、波止場係に左遷されていたのを文久元年五月、久光の側役となり、以後、名門革新派として大久保らが最も頼りとする人物となる。 その間、小姓児玉や小松と同じ組仲間であった奈良原繁などの紹介で、中山・小松と大久保・掘らの誠忠組リーダーとの間に連絡ができ、久光側近がにぎやかになってきた。こうして文久元年十月、久光による人事の刷新が行なわれる。」 久光の人事刷新のなかで、家老島津久徴が家老職を免職になり、その腹心の蓑田伝兵衛や市来正之丞も左遷されています。逆に精忠組のメンバーが藩政の中枢に進出し、大久保利通も勘定小頭格から一躍御小納戸に昇格しています。
2007年04月15日
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小松帯刀の原良の別邸跡見学
みなみ風さん、こんばんは、やまももです。 みなみ風さん、拙ブログへまたコメントをいただき、本当にありがとうございます。また、拙ホームページの「向田邦子の鹿児島の家」もご覧下さったようですね。 私は、この向田邦子に関する拙文を書くために「ＮＰＯ法人かごしま文化研究所、ＮＰＯ法人かごしま探検の会が発行した『向田邦子 かごしま文学散歩』を大いに参考にさせてもらったのですが、なんと みなみ風さんが「あの冊子の半分はわたしが書きました。みんなで取材して、おかげさまで、なかなかのベストセラーです。買って読んで、さらに歩いてくださって、大感激です」と書いておられますね。私は、それを読んでどっと冷や汗が出てきてハンカチ王子ならぬハンカチおじさん状態になりましたよ。 それで、新たに「かごしま探検の会 みなみ風」をキーワードにして検索エンジンで調べましたら、そこから「NPO法人 かごしま探検の会」「木家へ ようこそ （かごしま文化研究所のページ）」や「みなみ風日記」などを探し出すことが出来ました。とても意義のある取り組みをいろいろしておられるようですね。私も機会があれば参加させてもらいたいものです。 ところで、「かごしま探検の会」では、2007年2月のまち歩きで小松帯刀屋敷跡にも行っておられるようですね。「立派な石垣の残る小松帯刀の屋敷跡。今は個人宅となっています。坂本龍馬も何度か訪れたことのある屋敷です」とのことで、参加された方の評判も良かったようですね。 それで私も小松帯刀の屋敷跡を見学に行きたくなり、今日（4月14日）、バスを乗り継いで「かけごし」のバス停まで行き、そこからすぐ近くにある原良の小松帯刀邸跡まで歩いて見学に行って来ました。 また、瀬野富吉『幻の宰相 小松帯刀伝』で原良の小松帯刀邸のことを調べてみましたら、小松帯刀がこの屋敷に坂本龍馬を２回住まわせていることが分かりました。 1回目は慶応元年(1865年)です。元治元年10月21日(1864年11月20日)、勝海舟が幕府の軍艦奉行を罷免され、神戸の海軍操練所が閉鎖されたとき、西郷隆盛が勝海舟に依頼されて塾頭の坂本龍馬以下塾生約30名の身柄を大坂の薩摩屋敷に引き取っていますが、小松帯刀は慶応元年5月1日(1865年5月25日)に坂本龍馬等を連れて鹿児島に帰り、同年5月16日(1865年6月9日)まで原良の小松別邸に住まわせています。 その翌年の慶応2年(1866年)にも、薩長同盟成立後、小松帯刀は伏見町奉行配下に襲われて手傷を負った坂本龍馬とその妻のお龍さんを伴って京から鹿児島に帰り、同年3月10日（1866年4月24日）に原良の小松別邸に宿泊させています。なお、その後、龍馬夫妻は霧島栄之尾温泉へ行って保養していますが、これが日本最初の新婚旅行と言われているものですね。 みなみ風さん、「これからもどんどん交流いたしましょう」との温かいお言葉に大喜びしています。こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。
2007年04月14日
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小松帯刀の活躍と島津久光の指導力 その1
瀬野富吉の『幻の宰相 小松帯刀伝』（小松帯刀顕彰会、1985年7月）によりますと、小松帯刀は天保6年10月14日（1835年12月3日）に喜入領主の肝属主殿伴兼善の第3子として誕生し、安政3年1月27日に小松家の養子に入り、吉利領主となっています。 そんな彼が薩摩藩の家老となったのが文久2年12月24日（1863年2月12日）のことだそうですから、その時の彼は満年齢でまだ27歳という若さだったのです。それだけではありません、彼はその時に御軍役掛、琉球掛、唐物取締掛、琉球産物方掛、御製薬方掛、造士館演武館掛、御改革語内用掛、御勝手方掛、砂土原掛、蒸気船掛をも兼任することになり、薩摩藩の政治・軍備・財政・教育・商工の全てをその双肩に担わされたのです。 小松帯刀が若くしてこのような重職を担うようになったのは、もちろん彼が優れた能力の持ち主だったからでしょう。また彼が生まれた肝属家や後に養子となった小松家は薩摩藩藩の家老職の家柄でありました。しかし、従来ならば彼のようにまだ30歳にもならない人物がこんな重職を担うようなことは有り得なかったと思います。 幕末という動乱の時代だからこそ彼のような優れた若い力が求められたのだと思いますし、また当時の薩摩藩に彼の力を見抜いて大抜擢する鋭い眼力を持ったリーダーが存在していたことも忘れてはならないと思います。そんなリーダーが島津久光だったのです。 島津久光と言うと、私などは廃藩置県が決まったときに自分の屋敷で花火を打ち上げて怒りを表現したという頑迷固陋なイメージしかなかったのですが、芳即正の『島津久光と明治維新』(新人物往来社、2002年12月)を読んで随分と認識を改めさせられました。 芳即正は『鹿児島史話』（高城書房、2006年9月）に載せた「幕末における島津久光の真価」という論考で、島津斉彬亡き後に薩摩藩主となった忠義の父親である島津久光についてつぎのように書いています。「斉彬の後継者島津忠義は、斉彬の弟久光の子で、斉彬の婿養子として藩主の座につきますが、時にようやく十九歳。七十二万石の大名の座につくことなど、夢にも思わないことでしたから、それらしいしつけや教育も受けておらず、俄か仕立ての薩摩藩主として頼りないことおびただしい、という状態だったと思われます。もしこのままだったとしたら、斉彬の事業も一時のあだ花として消える可能性大であった、といってよいでしょう。ところが天は薩摩藩を見捨てませんでした。久光の存在であります。」「その久光が、斉彬亡き後の薩摩藩の実質的指導者となり、斉彬の遺志をついで、藩主名代として活動するのであります。折から、条約調印問題から火を吹いて、文字通り真の幕末激動の時代がはじまります。その時藩主ではないものの、『国父』（忠義が久光に贈った称号）久光が薩摩藩の実質的主権者として活動するものであります。もし久光がいなかったり、体力の関係で活動できない状態であったとしたら、果たして忠義が斉彬の遺志をついで幕末の日本をリードできたかどうか。まず不可能だったでしょう。あるいは西郷隆盛や大久保利通ら、いわゆる誠忠組と称される青年藩士がいたから大丈夫だ、という考えがあるかもしれませんが、周知のように水戸藩や長州藩の例を見る時、果たして藩士らだけが一致して反幕勢力をリードし、幕府の息の根を止めることができたかどうか不安であります。」 芳即正は、久光の指導の下に薩摩藩が「終始藩を挙げての統一行動」ができたから「倒幕・王政復古運動の中核」となれたのだとしています。すなわち、西郷隆盛や大久保利通たちの幕末におけるあの大活躍も、島津久光が「大名でもなく、したがって無位無官の身でありながら自ら兵を率いて上京、朝廷の命によって幕政の改革を行おう」という「破天荒な行為」を大胆に開始し、またその過程で強力な指導力、統制力を発揮したから可能であったとしているのです。 小松帯刀が若くして家老に抜擢されたことや、また幕末の政治の表舞台で大活躍できたことも、やはりまた薩摩藩の実権者としての島津久光のリーダーシップを抜きにして語ることはできないでしょうね。
2007年04月11日
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小松帯刀と篤姫
来年放映のＮＨＫ大河ドラマ「篤姫」について、脚本を担当する田渕久美子が「薩摩藩の若き家老であり、西郷や大久保にも匹敵する働きから最初の宰相とまで呼ばれながら、歴史の中でとりあげられることの少なかったヒーロー、小松帯刀にもスポットを当ててみたいと思っています」と語っています。 右側に掲載した写真はその小松帯刀の銅像で、鹿児島市の宝山ホール前にあります。なお、瀬野富吉が小松帯刀顕彰会準備委員としてこの銅像建立のために尽力していますが、同氏は『幻の宰相 小松帯刀伝』上下巻（小松帯刀顕彰会、1985年7月）で第13回南日本出版文化賞を受賞しています。また、同銅像の台座にはつぎのような「明治維新の推進者／小松帯刀像銘文」が刻されています。 「この像は京都ニ條城会議で真っ先に筆をとって署名し、 将軍徳川慶喜に大政奉還を勧告、王政復古を実現させた 小松帯刀の功績をたヽえる像である。 時に小松三十三歳・慶応三年（一八六七）十月十三日で あった。」 ところで、ＮＨＫの大河ドラマ『篤姫」の原作である宮尾登美子『天璋院篤姫』には小松帯刀は登場して来ません。実際に両者には何等かの接点はあったのでしょうか。先ほど紹介しました瀬野富吉『幻の宰相 小松帯刀伝』上巻に「小松帯刀清廉略年譜」がありますが、それによりますと安政2年5月18日（1855年7月1日）に藩から江戸詰めを命じられ、同年9月3日（1855年10月13日）には斉彬の命により小松家跡目を継ぐために帰国しています。そうしますと安政2年8月頃には江戸にいたようですね。 なお、篤姫が大奥輿入れのために江戸薩摩藩の芝公邸に到着したのが嘉永6年10月29日（185年11月29日）で、実際に江戸城で将軍家定と婚礼を挙げたのが安政3年12月18日（1857年1月13日）です。小松帯刀が江戸にいた安政2年8月頃、彼は斉彬の御近習番、奥小姓だったそうですから、芝の藩邸で両者は顔を合せた可能性はありますね。しかし、それ以降、小松帯刀の主たる活躍の場は薩摩や京であり、江戸には文久2年（1862年）に久光のお供をして行ったことが１回あるだけのようで、もちろんその時に大奥にいる篤姫と顔を合せるなどということはなかったと思われます。 そうしますと、ＮＨＫの大河ドラマでは篤姫と小松帯刀とが顔を合せる場面はほとんどなく、篤姫は江戸城大奥、小松帯刀は薩摩、京で活躍する場面がそれぞれ独自に描かれることになるようですね。
2007年04月09日
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小松帯刀にもスポットライトを
ＮＨＫドラマホームページの 「『篤姫』放送前情報」 で、脚本を担当する田渕久美子が「勝海舟、坂本龍馬、徳川慶喜、和宮といった魅力的な群像に加え、今回は、薩摩藩の若き家老であり、西郷や大久保にも匹敵する働きから最初の宰相とまで呼ばれながら、歴史の中でとりあげられることの少なかったヒーロー、小松帯刀にもスポットを当ててみたいと思っています」と語っています。 小松帯刀（こまつたてわき 1835年10月14日～1870年8月13日）について、田渕久美子が「歴史の中でとりあげられることの少なかったヒーロー」と書いていますように、彼の名前をご存知の方はそう多くはないと思います。なお、平凡社の『世界大百科事典』では「小松帯刀」のことをつぎのように解説しています。「江戸末期の薩摩藩家老。諱(いみな)は清廉。大久保利通ら誠忠組の指導者となり，島津久光に随従して上京，公武の間を周旋し，1864年(元治1)の禁門の変の処理，66年(慶応2)の薩長同盟の締結，翌年の将軍徳川慶喜の大政奉還の勧奨など，つねに藩の代表者として活躍した。ついで藩主忠義を説いて倒幕出軍を実現し，さらに版籍奉還･藩政改革に当たったが，大阪で病没。」 彼は、このように幕末から明治の激動期にかけて、薩長同盟締結、慶喜への大政奉還勧奨等で重要な役割を果たした人物なのですが、明治2年（1870年）にまだ34歳の若さで他界しているため、西郷隆盛や大久保利通ほどにはその名前を知られなかったのだと思います。 来年から放映されるＮＨＫの大河ドラマ「篤姫」で、この小松帯刀にもスポットライトが当てられるのはとても有意義なことだと思います。特に主人公の天璋院篤姫の活動の場は江戸城大奥という極めて限られた空間に限定されており、彼女と大奥だけに目をやっていますと、幕末から明治にかけての社会の大きな変動の中で新たな道を模索し苦闘する様々な人々の生々しい姿を充分にながめることが出来ないと思います。そのことは、原作の宮尾登美子の『天璋院篤姫』を読んだときに痛感させられました。私は、残念ながらこの作品から当時の時代についての歴史的認識をあまり深めることが出来ませんでした。 それで、私もこのブログでの視点をこれからは小松帯刀に移し、少しでも当時の歴史的状況についての歴史的認識を深めて行きたいと思っています。
2007年04月02日
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