320life

PR

プロフィール

ノマ@320life

ノマ@320life

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

2021.11.17
XML
テーマ: 読書(8190)
本のタイトル・作者


騙し絵の牙(1) (角川文庫) [ 塩田 武士 ]

本の目次・あらすじ

出版大手の薫風社。
社歴20年、カルチャー雑誌『トリニティ』の編集長をつとめる速水は、頭を抱えていた。
部下のいざこざ、会社の内部抗争、低迷する雑誌の売上げ、本離れ―――。
本を愛し、文芸を愛し、編集者として生きることを誇る速水には、会社が効率化のために紙の書籍を切り捨て、作者を使い捨て、ひいては本の読者を失うこの状況を作り出していることが耐えられない。
『トリニティ』の存続のため、作者のご機嫌取りに内部政治に営業にと、粉骨砕身する日々だったが―――。

騙されているのは、誰?

引用


「我々にとっては厳しい時代ですよね」
「そんな、タダで遊べるようなくだらないゲームに貴重な時間を使って……。みんな本当に何にも考えてないんでしょうね」
高杉は珍しく強い口調で話した後、バツが悪そうに笑った。感情的になったことに、恥ずかしさを覚えたようだ。だが、速水にはその気持ちがよく分かった。丁寧につくられた小説が見向きもされず、ゲームにしろ、動画にしろ、安くてお気軽な時間潰しにシェアを奪われ続けている。


感想

2021年271冊目
★★★★

2018年本屋大賞6位。

面白かった。

映画化されたから、文庫本で大泉さんが表紙や口絵の写真になっているのかと思ったら、この小説は雑誌『ダ・ヴィンチ』の企画で大泉さんあてがき(役柄にその俳優さんを想定して描くこと)だったんですね。
私の脳内の速水さんはもうちょっとシュッとした感じでして…。
たぶん速水=『ジェネラル・ルージュの凱旋』の速水先生を自動的に思いうかべちゃうからだろうな。

はじめ、タイトルと表紙の感じから、映画「嘘八百」みたいなのを想像していた。
「弱い立場の人たちが、悪いやつなんかに偽物の絵を売りつけて牙をむく話」だと思って読み始めたら中間管理職のおっちゃんが主人公のムネアツ出版ストーリーだった。

紙の本、電子の本。雑誌の衰退、読者の減少。リアル書店の低迷、ネット書店の隆興。図書館との関係。
本好きなら胸躍るワードが散りばめられていて、「そうか、そういう問題が」とトリビアも身についてお得な感じ。

私も図書館ヘビーユースするし、ネット書店で買っちゃうし、雑誌は読まなくなった…。
これから、本はどうなるのだろうね。
「本」っていう単語を説明する時、それはきっと「文字が書いてある画面・一連のコンテンツ・ボリュームの集合体」みたいな意味になっていって、「昔は紙に文字が書いてあって、それを束にしたものを本といったのだよ」と言って「嘘だあ」と返される日が来るのだろう。

一方でその「ローカルさ」や「オフラインさ」が、検閲や発禁の時代にはまた、蘇りそうな気もする。
そんな時代は御免だけれども。

速水が英語ニュース聞いたり英字新聞読んだり、本編に関係ないところでえらい英語勉強してるなあ、偉いなあと思っていたらラストでその理由が明らかに。
私は英語を勉強している理由のひとつが、そのうちに、人口が減少していく「日本語」では商売にならず、海外の小説を翻訳で読めなくなるのでは?と思っているから。
まず間違いなく、数は減る。

速水は逆。日本のコンテンツを世界に売りに行くために、英語を勉強している。

冒頭のシーンと結末のシーンが対になっていて、「それであの冒頭シーンは速水視点じゃなかったのか」と納得。
とってつけたような速水の過去は正直「ここまで来てそれはいらんかな」と思ったんですが…。本編のモノづくりストーリーが良かっただけに。

関西人は話に「枕」を必要とする、仕事のストレスは報われるか否かだ、という文に納得。
速水の丁々発止のやりとりが読んでいて楽しくて、自分もこんなふうにウィットに富んでピンポンのラリーみたいに返していけたらなあと夢想する。

先日、社長とお話する機会があったのだけど、その時に速水みたいに話そうとしてただの痛い奴になった。
鍛錬が必要だ。

これまでの関連レビュー

罪の声 [ 塩田武士 ]
デルタの羊 [ 塩田武士 ]




にほんブログ村 にほんブログ村へ






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2023.01.01 17:31:20
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: