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2022.02.17
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テーマ: 読書(8289)

本のタイトル・作者



NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実 (宝島社新書) [ NHKスペシャル取材班 ]

本の目次・あらすじ


第一章 ある、ひきこもりの死
第二章 全国に広がる「ひきこもり死」
第三章 扉の向こうの家族
「"ひきこもりと社会”の現在地」/ジャーナリスト・池上正樹さん
第四章 親の死を言い出せない「子」たち
第五章 命を守るための模索
「本人のうしろから支える支援を」/「ひきこもりUX会議」代表理事・林恭子さん

感想


2022年038冊目
★★★★



いやあ、私ひきこもりの妹がいるので、当事者の姉なんですよね。
だからもう、セルフネグレクトの末に亡くなった人の弟さんとか、お父さんの手記とか、読んでいてすんごいしんどくて。
胸がつかえて、涙が止まらなかった。

本人が支援を受けようとしない。
それを支援につなげる難しさ。
なんとか助けを求めても、受けられる支援がない、こと。
病名がつかないこと。
「病気ではない」という「レッテル」。

熱海市の社会福祉協議会の方が、

ひきこもっている人の生活って、だんだん落ちていくんですよね。そのときに、どのタイミングで人に助けを求めるのか、というのが難しくて。本人にとっては、徐々に低下しているので、『よし、ここで助けを求めよう』って奮起するのが難しいんじゃないかって思うんですよね。


と言っていたのがわかる。
普通なんですよ。もう。それが、日常だから。


セルフネグレクトで、栄養失調で亡くなった方のお父さんが、35年にわたって付けていた手記。
そこに、

これから先、どうなるんだろう。何の変化もない毎日。こんな状態でも死が怖いのだろうか。死ねないだけの、生の存在


という記述があって、胸が締め付けられた。
私は、「家族」だったから。
母から同じ言葉を、何時間も何時間も聞いた。


どうしたらいいんだろう。どうすればいいと思う?
あの子はこのまま死ぬつもりなのかしら。
何が楽しくて生きているんだろう。

答えは出ない。堂々巡りの、本人不在の問答の繰り返し。
私は夫との結婚を前に家を出ることを決めた。
その時母は、私に言った。

これから毎日、あの子は誰と話せばいいの?
私はこれから、誰にあの子のことを話せばいいの?

でも、もう、私には受け止められなかった。

―――私の心配はあの子のことだけ。
―――あなたが東京で就職しなくて良かった。

でも、もう、私は私の人生を選ぶと決めた。
私は家を出た。
だから、弟さんの気持ちが、痛いほど、わかる。
罪悪感に押し潰されそうになる、その気持ちが。

弟さんは、「自分もいつ兄のようになるか分からない」と夜も眠れなくなるそうだ。
妹がカウンセリングに行けず、「誰か代わりの家族の人を」と言われ、行ったことがある。
その時に言われた。

「あなただけが、平気なふりをしなくていいんですよ」

同じ環境で、同じ親に育てられて。
あなただけが大丈夫なように振る舞わなくてもいいんですよ。
私は涙が盛り上がるのを堪えた。

ひきこもりが存在して、その親が存在して。
そしてそこに、きょうだいがいたら。
その子たちは、どうなったんだろう。
私は、そのことを思う。

親が働けなくなった後、親が亡くなった後のことを考えると、真っ暗闇が広がっているように感じる。
だから、なるべく考えないようにしている。
なるようにしかならない。私は、私ができることをするしかない。

何度も何度も、繰り返した。
どうして?
でも、もう、答えは求めない。

亡くなった方は、学生の頃から英語が好きで、生活に困窮して食べるものもままならず、その状況でも亡くなる寸前までNHKの「ラジオ英会話」のテキストを買って勉強していた。

やり直しがきかない社会。
一度踏み外すと戻れない社会。
その重圧と、その道しか舗装されていない社会で、生きていく辛さ。
誰もが、つらくて、しんどくて、もうこんな馬鹿らしいやり方を、やめたくて。
なのに、続けている。

最後に、本人の支援は「前から引っ張る」のではなく「後ろから支える」のだとあった。
階段ではなく、スロープ。
私は、目が見えない人の補助を思い出した。
その人の手を引くのではなく、私の腕を触ってもらう。

頑張れ、とずっと思ってきた。
妹に。妹とよく似た自分に。
頑張れ。頑張って、頑張って、生きていかなくては。
それは、暴力なんだろう。
私は何度、そうやって横暴にふるまっただろう。
妹に、私自身に。
ゆるされたいと、願いながら。

両親と妹は、「奇妙な安定」状態にいる。
時が止まったようなその世界。
永遠に続くような「今日」。

生きていてほしい、という積極的な言葉は、辛いだろうか。

それでもわたしは、あなたがいなくなると寂しい。




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最終更新日  2022.12.04 00:41:07
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