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2022.05.31
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テーマ: 読書(8289)
本のタイトル・作者


現代生活独習ノート [ 津村 記久子 ]

本の目次・あらすじ

レコーダー定置網漁
台所の停戦
現代生活手帖
牢名主
粗食インスタグラム
フェリシティの面接
メダカと猫と密室


引用

人は何者かになりたいんです。誰かから信頼を得ている何者かに。たとえその信頼の中身が空洞でも、信頼を得ているという気分自体が妄想であるとしても。


感想

2022年134冊目
★★★

津村記久子さん。
大学生~就職したてのころ、心がくさくさして、トゲトゲした時、良い人になれない自分に嫌気がさして、もうキラキラしたきれいなものとか、感動とかそういうのどうでもいい、「これもう、あれだな?津村記久子しかねえな…」という気分の時によく読んでいた。
最近そういうことがなかったので(単に忘れていたともいう)なんだか久々に嬉しかった。

短編集。
基本的に怠惰で、人に誇れるわけでも見せびらかせるわけでもなく、淡々と日常を送る。
でもちゃあんと、やることやってんだぜ。
その自負と、でもたまに感じる「これでいいのか」という自己嫌悪と。
ここらへんの混ざり具合が、津村記久子気分、なんだよなあ。

エントリーしてくる就活生のSNSをチェックする役目を負った私が、疲れ果てて情報を取捨選択することが出来なくなる「レコーダー定置網漁」。
クラッカーと水、みたいなしょーもないご飯を記録した「粗食インスタグラム」。
この2つと、架空の地図を作り込む学生「イン・ザ・シティ」。


仕事で決断を繰り返していると、本当にもう、「もういやだ!」と思うことがある。
「ちったぁ自分で考えろや!!!!!」とキレたいんだけどそういうわけにもいかない。
取捨選択する作業って、地味に脳のリソースを奪う。
基本アプリが複数入ってずーっと動いているような。

だからもう考えたくなくて、選びたくなくて、決めたくない。

でも、そうはいかないものもある。

そう、食事作り。
夕食の用意が嫌で嫌で仕方がない。
なんかもう、夕食食べながら「明日の夕食何にしよう」って考えだしているこの瞬間に、絶望する。
ああ、また脳に負荷がかかってる。

家事もそう。
そこに置いてあるなにか一つの「モノ」が100の言葉で語り掛けてくる。
過程がばーっと頭に浮かんできて、それがしんどい。ほんとうに。

「レコーダー定置網漁」で、主人公はもうしんどいから古い海外ドラマを見てるんだけど、それが仕事で忙殺しているうちに放送終了していて、かわりにその時間帯で録画されていた番組をかわりに見ることに。
レコーダーのタイトルはあくまでも前の番組のままで、中身は何が撮れているか分からない。
その時の「今日は何がかかっているかな」と網を見に行くような感じ。

こういうのが、必要なんだよな。
予測不可能なものを、ぽんと飛び込んだものを、思いがけない出会いを楽しめる余裕。余白。
それを取り入れるこちらの姿勢。
人生に「必要」と「不要」で線切りして切り捨てても、どれだけ効率的にしても、それではつまらなくて。
未来に備えても、出来ることは限られている。

パニックになるりそうな時は「今」に集中しなさい、というよね。
自分の身体の感覚に、五感に集中しなさい。
今ここにいる自分を大切にする。

考えたくない。感じたくない。
前方から押し寄せるすごい量の情報にのまれないように、ばっさばっさ切り分けながら。
もうその剣をふるうのに疲れ果てて、腕を下ろしたくなる。

流れに身を任せると、どうなるんだろう?

どんぶらこ、どんぶらこ。
桃が流れてきたら。
お椀が流れてきたら。
それを切り捨てる前に、拾えるだろうか?
面白がれるだけの余裕が、あるだろうか?

この生活は、キラキラしていない。
ギラギラもしていない。
きりきりしているだけの、日々の暮らし。
それでも何とか、やっていくのだ。
試行錯誤を繰り返し、自分だけのやり方を見つけて。
そこにささやかな楽しみを、ちいさな喜びを見出して。
世界と折り合いをつけて、何度も「こんなはずじゃなかった」と思いながら。

けどこんな自分が、わりと好きだと思いながら。

これまでの関連レビュー

大阪的 (コーヒーと一冊) [ 津村記久子×江弘毅 ]
ディス・イズ・ザ・デイ [ 津村記久子 ]




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最終更新日  2022.12.04 00:09:47
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