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2022.08.25
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テーマ: 読書(8289)

本のタイトル・作者



夜が明ける [ 西 加奈子 ]

本の目次・あらすじ


15歳で出会った「俺」と、「アキ」。
母親に虐待されながら貧困の中で育った「アキ」こと深沢暁は、巨躯に吃音で皆から浮いていた。
「俺」は、彼がフィンランドの映画『男たちの朝』に登場するアキ・マケライネンに酷似していることに気付き、彼にそのテープを貸す。
そして暁は「アキ」として、マケライネンを模倣して生きていく。

引用



でも、いつからかな、恨むことが負けだと思うようになった。恨んでたら、恨んでる側が弱いんだって。
強い人は恨まないんでしょう?弱いから、弱さの中にいるから恨むんでしょう?
誰かの、世界の優しさを信じられないのは、その人が弱いからなんでしょう?
(中略)
恨んだら負けなんだ。世界を恨んだら負け。負けるのは悔しい。もともと不公平なのに、その上に負け確定なんて、やってられない。どうしていつも、優しさをもらう側でないといけないの?
(中略)
でも、私は、もう、とにかく、踏ん張ってそうしたの。全力でそうしたの。
私は優しいんじゃない。私は誰も恨まない。ずっと笑ってる。
負けたくないから。
(中略)
これが私の戦い方なんだよ。


感想


2022年217冊目
★★★

映画を徹底的に真似る高校生男子。
ここらへんのところは楽しく読めた。
でもどんどん雲行きが怪しくなってきて。


重なり合っていた物語はふたつに分かれ、そしてもう二度と出会わない。
冒頭からそのことは述べられているのだけど、途中どこかで一度くらい会ってくれないかと思っていたので、悲しかった。

ノートの部分はミスリードなんだけど、これ結局アキはどうやってフィンランドに行ったんだろう…。パスポート取れたんだろうか…。
非合法な方法で取得する方法を教えてもらったんだろうか。
映画のロケ地なんかも知りようがなかっただろうし、いったいどうやって。

主人公の「俺」は、人生の坂を転げ落ちる。
甘やかされた男子高校生は、父を亡くし、就職した先のブラックさに心身ともにボロボロになる。
それでも、声を上げてはいけないのか。

最後の「助けてと言うこと」については、急に森が来てめちゃくちゃ喋ってすべてを浚っていくので、「いやあ、それはちょっと…」という展開だったのだけど(森は遠峯と似ているし、偶像化され過ぎているというか、私はこの2人より田沢のほうが好き)、それでようやく主人公は声を上げるんですよね。
そして最後に撮ることに戻って来る。

対照的に、アキの声はずっと小さかった。

そして声をなくしてしまう。

はじめからつらつら読んでいて思ったのが、「私はもう、誰かが痛い思いをしたり、ひもじい思いをしたり、辛い思いをする物語は、読むのがしんどい」のだということ。
年のせいだろうか。
それが架空の人々であることが分かっていたとしても、だからこそ、「なぜこの人をここに置かなくてはいけなかったのか」を考えると、暗澹とした気持ちになる。
わかりやすい、ふわふわした物語だけを咀嚼して生きていきたい気持ち。

でも、それでいいのかな。

ブレイディみかこさんの本に、イギリスでは生活保護制度の利用は当たり前で、恥ではないということがあった。
この命は神が与えたもの。生きているだけで自分は神から存在意義を与えられている。
だからその生命を維持するために必要な制度を利用することは、当然の権利だ。

それゆえ問題になっていることも山ほどあるのだろうけれど、「自分が生きることを求めること」、「助けて」と口に出して言えないこの世の中はいったいどうなっているんだろうね。
能力がないからだと言い、やる気がないからだと言い。
存在価値を認めない。生きていることを認めない。
努力が足りないのだと言い、自己責任だと言い。
許さないことで、助けないことで、罰を下す。
自分が懸命にしがみついている社会の規範から逸脱した者に。

でも本当は、優しくないこの世界に、自ら復讐しているんじゃないのか。

どうして、私が生きていることを、そのままに許してくれないの。
生きているだけで価値があるのだと、そう認めてくれないの。

―――どうしてわたしを、たすけてくれなかったの?

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最終更新日  2022.12.03 23:44:26
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