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2025年07月24日
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カテゴリ: 読んだ本



一番興味深かったのは、無償の善というものがあるのなら無償の悪というものもあるのではないかという命題である。青年はこれを実証するように、列車内から見ず知らずの男を外に突き飛ばすという理由なき殺人をおかす。退屈しのぎに蟻をつぶすなんてことは普通にやるのだろうけど、それと同じ感覚である。あの「異邦人」で理由なき殺人が描かれる前にすでにこうした犯罪が描かれている。殺人時の描写は極めてリアルであり、この青年の人物造形には「罪と罰」と影響を指摘する説もあるらしい。しかし、「罪と罰」の殺人には思考や論理があるが、こちらは全くの行き当たりばったりである。犯罪の告白を聞く女性が出てくることも「罪と罰」に似ているが、「罪と罰」では主人公とその女性との交流が大きな位置を占めているが、こちらでは女性とあっというまに交情をした後、その後どうしようかという形で物語は終わる。青年は自首したのか逃げたのか。読者はそこで突き放される。
結局のところ、最も印象に残るのは理由なき殺人で、こうしたものは案外と世の中に多くあるのかもしれない。迷宮入りになっているいくつかの殺人事件も被害者との接点がなく動機もないために、犯人にゆきつけないのかもしれず、電車の人身事故のいくつかも実際には後ろからの突き飛ばしによる殺人もあるのかもしれない。人込みの中での一瞬の行為なら事故として処理されてしまうこともあるだろう。
人間というものの不条理さはそのまま人生の、また世の中の不条理さにも通じる。
小説家としての筆力は大変なものだと思うが、後味はあまりよくない。





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最終更新日  2025年07月24日 18時03分05秒
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