2006年05月20日
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カテゴリ: 連載小説



「今日、小池くんと会ったのよ」

 私は家に帰ってからカズヒロの写真にむけてそう話しかけた。

「小池くん、私のこと心配してた。ほっとけないって言って……」

 カズヒロが死んでから二年間、私は普段どおりに生活している。けれど、以前から私のことを知っている人から見たら、無理をしているように見えるのかもしれない。小池くんは優しいから、そんな私のことをほっとけないんだ。

 でも、私は思う。心配なんてしなくてもいいのに、と。


 今、私の部屋の中にはカズヒロの匂いが充満している。カズヒロの、甘い香水の匂い。私は、その部屋で一人、瞳を閉じる。
 すると、カズヒロが寄り添ってくる。
 カズヒロの手が、私の体に触れる。心臓がぎゅっとなる。



 カズヒロの手が背中に回り、私を抱き寄せてベッドに押し倒す。首筋に、カズヒロの唇を感じる。カズヒロは、軽いキスを何度も何度も繰り返す……。


 私はカズヒロのキスが好きだ。
 カズヒロにキスされる度に、彼の私への愛情が彼の唇から私の体に伝わってくる。まるで一つ一つのキスが愛しているというささやき声のようだと、いつも私は思う。

 私は、カズヒロがいれば他には何もなくていい。カズヒロがいるだけで、それだけで私は幸せだ。


 ……だから彼が死んだときに、私は決めた。これからも、ずっと、変わらずに彼のことを愛していこうと。
 私は、彼のことを愛している。彼の声も、仕草も、香りも……彼の全てが、私を幸せな気持ちにさせてくれる。彼の存在を感じているだけで、私は幸せでいられる。

 彼が死んでからも、彼の存在が私を幸せにしてくれるということは、変わらない。
 彼のことを思い出せば、私の中に彼の存在を感じる。だから、私は、今も十分に幸せなのだ。そしてこれからも、私が彼のことを愛しつづける限り、それは変わらないだろう。

 今、私はベッドの上で、カズヒロに抱かれている。カズヒロの腕に締め付けられている。カズヒロの唇を感じている。
 そうして、幸せに溺れている。

 私は願う。この幸せが消えないように、いつまでも抱きしめていて、と。


 私が願えば、カズヒロはそれを叶えてくれる。私のことを、ずっと抱きしめていてくれる。


 ……自分でもどうかしていると思う。死んだ人間を思いつづけて、記憶の彼に抱かれているだけで幸せだなんて。

 けれど、私は彼のことが忘れられない。彼の匂いを閉じ込めたこの部屋の中で、私は彼のことを思い出す。すると彼の存在が、私を強く抱きしめてくれる。
 実体が無くても、彼の腕は、こんなにも強く私の胸を締め付けることができるのだ。彼の唇は、私に愛を与えてくれるのだ。

 それだけで、私は幸せなのだ。








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最終更新日  2006年05月20日 21時54分15秒
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