遊心六中記

遊心六中記

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

茲愉有人

茲愉有人

Calendar

Favorite Blog

まだ登録されていません
2020.02.29
XML
カテゴリ: 観照
​​​​​​​​​​​​​​​
前年に京都府知事から合併勧告を受けて、 1958(昭和33)年4月に井手町と多賀村が合併して 井手町 が誕生した​ そうです。
井手町は前回ご紹介した京田辺市が木津川を境界にして西に位置し、北は城陽市、北東に宇治田原町、東に和束町、南に木津川市と境界を接しています。北・東・南は山に囲まれ、南山城平野のほぼ中央に位置しています。「全町の広さは東西約7キロメートル、南北4.5キロメートル、東西方向に細長くのびている」 (資料1) 地域です。

​​​1977(昭和52)年4月、 町の花に やまぶき 」、 町の木に「ひのき」 が制定されています。​​​

井手町のホームページのバナー部分を引用します。  町名の左に町章、右に町の花 が並んでいます。
この町章は 1968(昭和43)年1月16日に制定され、「い」を図案化したもの (資料2)

以前に井手町の史跡を探訪したときに、撮ったのが冒頭の汚水ふたです。
このふたに、町章は使われていませんが、代わりに 井手町の「井」の字が図案化され ています。井の字の間に 「やまぶき」が図案化されて いるのでしょう。

なぜ「やまぶき」なのか。
井手の里は、 奈良時代の貴族で政治家の橘諸兄が本拠地とした土地 です。高台に屋敷を構えていたとされ、今は「 橘諸兄公旧跡 」という碑が建立されています。橘氏の氏寺として井手寺(井堤寺)も建立しています。今は「 井手寺跡 」として遺跡が残っています。
井手の里には、日本六玉川の一つに挙げられる 井手の玉川 この玉川の堤に、橘諸兄が山吹を植えたと言われています 。町の花に山吹が決められた淵源はここにあるのでしょう。

余談ですが、 『続日本紀』聖武天皇の天平12年(740)5月10日の条 には、「 天皇は右大臣(橘諸兄)の相楽の別荘(京都府綴喜郡井手町)に行幸された 。酒宴を行なって宴酣(たけなわ)になった時、右大臣の男子で無位の奈良麻呂に従五位下を授けた。」と記録されています。 (資料3)
さらに、 天平15年5月5日の条 右大臣・正二位だった橘諸兄は従一位を授けられ、この時点で左大臣に任ぜられています ​政治家​として最高位についたことになります。​​

このとき天皇が行幸した別荘というのが、「 玉井頓宮 」と称される所です。「頓宮」は「行宮 (あんぐう) 」とも呼ばれ、 天皇の旅先に設けられた仮の御所 を意味します。天皇の行幸を迎える橘諸兄が井手の里に、頓宮を建てたということなのでしょう。「玉井頓宮」にあったと言い伝えられているのが「 六角井戸 」です。史跡として存在します。


​汚水ふたのもう一つのバージョン​ を見つけました。
外縁部分にあるふたを開ける際の手がかりとする孔の位置などが異なるものです。

「玉川」と「やまぶき」関連で、少し脇道に逸れます。
「玉川」は歌枕に なっています。世に六玉川と称されたのは、 (1)井手の玉川(山城国) 、(2)野路の玉川(近江国)、(3)野田の玉川(陸前国)、(4)玉川の里(摂津国)、(5)調布の玉川(武蔵国)、(6)高野の玉川(紀伊国)だそうです。一番最初に、この地の玉川が挙げられています。
井手の玉川は、相楽郡和束の山中を水源とし、井手を通り木津川にそそぐ川です。
京の都人にとっては、歌枕に詠み込まれる名勝の地と認識され、山吹を愛でに出かけてきたことでしょう。
かはずなく井出の山吹散りにけり花のさかりにあはましものを  古今集・春下・読人不知
 駒とめてなほ水かはむ山吹の花の露そふ井手の玉川  新古今集・春下・藤原俊成
 玉川の岸の山吹影見えて色なる浪に蛙鳴くなり 後鳥羽院集
「玉川」に「山吹」と「蛙 (かはず) 」が詠み込まれていれば、それはこの井手の玉川という認識になっていたそうです。 (資料4)
町の花に「やまぶき」が決められるのは当然の帰結とも言えそうです。 

この井手の玉川を訪れると、堤上の道傍には数多くの歌の案内標が設置されています。
また、玉川の下流部には桜並木もあり、季節を愛でる格好の地と言えます。環境省の「 平成の名水百選 」にも選ばれています。 (資料5)

江戸時代には、蔦谷重三郎(蔦重)が版元となり「諸国六玉河」として浮世絵を刊行していて、その中に「 諸国六玉河 山城 井手之玉川 」として取り上げられています。 (資料6)  参照資料にその浮世絵が掲載されています。

マンホールのふたからの連想としては、この辺りで終わりにいたします。

いずれまた、井手の里を訪れて、他の意匠のふたも敷設されているか、ウォッチングしたいと思います。町章を意匠に取り入れたふたもあるかも・・・・。

ご覧いただきありがとうございます。


参照資料
1) ​ 観光・歴史 ​  :「井手町」
2) ​ 京都府の市町村章一覧 ​ :ウィキペディア
3) 『続日本紀 全現代語訳』 宇治谷孟訳 講談社学術文庫 (上)p393、(中)p14-18
4) 『歌枕歌ことば辞典増訂版』 片桐洋一著 笠間書院 p262-263
5) ​ 平成の名水百選 ​  :「環境省選定」
6) ​ 歌川広重-5 

補遺
井手町 ​ ホームページ
橘諸兄 ​  :ウィキペディア
六角井戸・玉井頓宮跡(京都府井手町) ​  :「京都風光」

   ネットに情報を掲載された皆様に感謝!

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

こちらもご覧いただけるとうれしいです。
マンホールのふた見聞考  ウォッチング掲載記事一覧

探訪 京都・南山城を歩く 玉水から上狛へ -1 井手の玉川・大安寺旧境内附石橋窯跡
      8回のシリーズでご紹介しています。


​​​​​​​​​​​​​​​





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2020.02.29 16:05:41コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: