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2024.04.13
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死後の恋


若い頃挫折した『ドグラ・マグラ』の夢野久作著。
こちらはきれいなイラストがついていて、
まるで絵本のような装丁です。


出だしから「やはり夢野久作…」と思わされるような
読者の不安を煽っていくスタイル。笑



周囲から精神の異常を疑われている、
老人のように見える男性はとある事件により
一気に老けてしまった若者だそうです。
名をコルニコフと名乗りました。


ロシアの没落した貴族の出身である彼は、軍で
同じような境遇のリヤトニコフと話が合い
互いに気を許していたのですが、
ある日リヤトニコフがその家族を殺されたこと、
逃される際に持たされた宝石のことを
打ち明けられます。
コルニコフは宝石に造詣が深く、
それらはとても価値があることから
リヤトニコフがロシア皇室の一員と気づきますが
宝石にばかり気を取られて
リヤトニコフの悩みに真摯に応えられません。


そのうち共に戦地に赴くことになるのですが
先に撃たれたコルニコフに仲間は気づかず
そのまま進軍してしまい、
森の中で隊は銃撃されてしまいます。
痛みに耐え、敵に怯えながらそちらに向かい
静まり帰った森の中で、隊の全員が
むごい目にあったのを見つけます。


最もひどかったのはリヤトニコフの処遇です。
彼は実は女性で、暴行されたあげく
あの宝石を弾として体内に撃ち込まれていました。
そこで彼女がアナスタシア内親王と気付き、
彼女への想いを自覚し、体内から宝石を取り出し、
そして一気に老け込んだのだと。


これを「死後の恋」と呼び、この話を
聞いて信じてくれたら全財産を譲るという。
しかしその全財産というのが、
リヤトニコフの体内から取り出した
血まみれの宝石なのです。
ここまで話を聞いてくれていた日本の軍人
(彼に語りかける形式で綴られている)は
やはり信じず、宝石も受け取ってくれず…
「アナスタシア内親王殿下!」という
コルニコフの慟哭で終わります。


ここでようやく表紙の意味に気づきますね。
この女性はリヤトニコフで、
手に持つのはインペリアル・エッグで、
つまりロマノフ王朝のことだと。



この時代の文章は言葉選びや改行、余白などが
読みにくくてなかなか手を出せないのですが
(ライ麦畑でつかまえて、でも書きましたね)
この本はたっぷりとした余白や字間、
絵本のようにところどころ挿絵があることで
その読みにくさが解消されていて驚きました。


最初は老人の絵なので読む速度も遅かったのですが
軍にいた頃の話になると途端にイケメンになる
コルニコフや、少年兵を装うリヤトニコフに
現金にもどんどん読み込んでしまいます(^_^;)


そしてそして。
やはり文章のまま読んではいけない時代の話。
(そのまま受け取りがちな私)
もうね、ウェブ検索しまくって、
いろんな方のレビューを読みました。


多かったのは、宝石が本物なら
敵兵はリヤトニコフに撃ち込んだりせずに
奪ったのではないか、という指摘。
確かに、なるほど…とも思いましたが
これは一応、リヤトニコフがコルニコフに
宝石を見せたときに、この価値がわかる
人間は今はほとんどいない、というような
記述でフォローされている気もしてきます。


あとは、銃弾として撃ったなら
原型を留めているものだろうか? という指摘。
この時代の銃はわかりませんが
今の銃は旋条痕などつきますもんね…
しかしダイヤモンドならあるいは…


宝石についている血は? とも思います。
リヤトニコフの死から時間が経っているのであれば
血もどす黒く変色しているような気も…
しかしリヤトニコフの想いの強さが
まるで呪いのように赤赤と染めたのかも…


リヤトニコフの死のシーンが衝撃的すぎて
読み落としていたのですが、
リヤトニコフの想いが宝石を霊媒にして
コルニコフを呼び寄せた、らしいのです。
つまり「死後の恋」はリヤトニコフ→コルニコフ。
そう考えると、リヤトニコフが
「これを結婚資金にして血統をつなげ」と
親から託された宝石をコルニコフに見せたのは
「私と結婚して」という遠回しなプロポーズ?
とも思えてきてしまうのですね。


しかしそこを読み落としていた私は
コルニコフの宝石への執念を
リヤトニコフへの恋と誤解した、思い込んだ
コルニコフ→リヤトニコフ と思いました。
リヤトニコフがコルニコフのことを
仲の良い友人として見ていて、
それで秘密を明かしたのではないか説。


でもリヤトニコフが女の子だったことを思うと…
家から出され、女の身で軍に所属し
訓練やら戦闘やらで疲弊していたところに
イケメンで話の合う男性がいたら
コロッと恋に落ちてしまう気もするし…
うーん、結論が出ない。


宝石はただの銃弾だったのでは、という
レビューもあり、なるほどと思いました。
コルニコフは精神に異常をきたしていると
本人も認めており、話を聞いた誰もが
その宝石を受け取らない=価値がないわけで。
宝石が偽物、宝石が血まみれ、くらいは
忌避する理由として思い浮かびましたが
銃弾というのは私にはない発想でした。
つまりリヤトニコフは蹂躙されたのち
普通に撃たれたのを、コルニコフが絶望か
光の加減かで銃弾を宝石と見間違えたか…
しかし至近距離で撃たれたのなら貫通するのでは…
考えれば考えるほどわからなくなりますね。
だからこのときの銃の性能がわからないと…。


これは乙女の本棚シリーズらしいです。
つまり名作と呼ばれる古い短編に
今時の華麗なイラストを添えた感じでしょうか。
とっつきにくさが取り払われているのは
今回でよくわかったので、また機会があれば
借りてみたいです。


機会があれば…


(T_T)


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最終更新日  2024.04.13 08:37:06
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