月夜茶会

月夜茶会

2005.11.07
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ルシフェル・ナナリ
 英国神聖国教騎士団筆頭騎士にして一年戦争全般を通じた人類側トップエース。
 最終決戦となった第六次倉木山会戦で魔王ヴォルデモードを一対一の決闘の末撃破、人類の勝利を決定づけた生きた英雄であることは、この世界では子供でも知っている。
 人類最高の魔法騎士ランクトリプルSFLを持つ、文字通り世界最強の魔法騎士。
 別名、黒き魔女。


ルシフェル・ナナリの日記より
 洞峰での攻勢は失敗。国連派遣部隊4万名全滅。生還者なしの報に接したときは気が遠くなる思いがした。
 海兵隊のキース准将も戦死。
 あのセクハラはイヤだったけど、人間的には憎めない人だった。

 これで何度目かわからないけど、お葬式の準備も手慣れてきた。
 死に接することに慣れていく自分に気づく。
 グレンジャーも「騎士辞めて葬儀屋になってやるわ」と自嘲気味に笑っていた。 
 お昼頃、Yが来る。
 やっぱり、この季節にこの服は暑い。ちょっとはしたないかなと思ったけど、相手はY、女の子だし。
「ごめんなさい。ちょっと服、脱ぐね」
「じゃ、外、出てるね」
Yはそういって天幕から出ようとするから、私は「いいじゃない。女の子同士なんだし」って、止めた。それ自体、普通だと思った。
けど、Yはものすごく怪訝な顔をして、私に言った。
 「ルシフェル、わかってる?」
 「何を?」


 まさか。

 私は思わず笑ってしまった。
 だって、周りの人たちも「彼女」っていってるし。どこからどうみても女の子じゃない。

 何の冗談なんだろう。



 ぐにゃ
 「!凸凹○×凹凸!」
 なんだかすごく柔らかい、そんな感触がして、ユーリは声にならない悲鳴を上げた。
 Y、ホントに痛そう。
 ということは……

 答えは一つ。

 ……うそでしょ?

 っていうか、私、なんてことしちゃったんだろ。

 生まれて初めて、掴んじゃったんだ。

  ……その……オトコノコを。
 しかも、女の子だと思っていたから、色々、その、男の子には決していえないようなことまで、私、男の子にしゃべっていたってこと!?

 その後、私はどうしたのかよく覚えていない。
 私の魔法攻撃の直撃を受けたYが3キロ先の湖で目を回して浮かんでいるのが発見されたのは、このことがあってから3時間後だったってことだけは、はっきりいえるけどね。






桜井美菜子の日記より

 朝、ニュースで魔法騎士のルシフェル・ナナリさんが退院したと報道していたから、お昼休み、瀬戸さんと一緒に水瀬君に感想を聞いてみることにした。
 「ルシフェルさんが退院したそうだけど」
 「うん。よかったよ。治りが遅くて心配だったんだ」
 「どうしてだったのかしらね」
 「いろいろあったんだよね……」と、水瀬君は窓の外を見ながら遠い目をした。
 「水瀬君って、ルシフェルさんとは」と、瀬戸さんも興味があるみたい。
「水瀬君って、ルシフェルさんとは」と、瀬戸さんも興味があるみたい。
 水瀬君が黙ってカバンから取り出したのは、お昼食べる前にカバンにしまっていた手紙。
 よく見ると国際郵便。きれいな字で水瀬君の名前が書かれていた。
 「差出人の所」
 「?」
 差出人はルシフェル・ナナリ。
 「知り合いなの!?」
 「友達」
 水瀬君はあっさりとしたものだけど、驚いたな。
 ただ、魔法騎士同士だと思っていたからふった話題だったのに、まさか知り合いだったなんて。
 「中、読んでいいよ」
 「え?でも」
 「別に公表されて困る内容じゃないもん」
 私たちは誘われるままに手紙に目を通した。
 何と中身は日本語。
字がすごくきれい。
 「ルシフェが日本語の練習にって書いてきたんだ」
 中身は近況や水瀬君から送られたお菓子に対するお礼って所か。
 『明日、ようやく退院できます。左腕のリハビリも無事に終わって何の支障もありません。最初は騎士生命も終わりかなと思っていたけど、水瀬君が熱心にヒーリングをかけてくれたお陰です。本当にありがとう。』
 「……水瀬君?」
 「何?」
 「熱心にヒーリングって、どういうこと?」
 「朝、学校に行く前にロンドンまで飛んでいって、ヒーリングかけてから登校していたんだ。そのこと」
 「はぁ!?」
 何千キロ離れていると思っているのかな。この人。
 「別にウソ言ってるわけじゃないよ。僕の場合、ロンドンまで5分もあれば行けるもん」
 「……パスポートとかは?」
 「あ。それ、ルシフェに教えてもらった」
 水瀬君は自信満々に言ってのけた。
 「不法入国っていうんだって」 


 そんな会話から2ヶ月後のお昼。
 『職員室より1年A組水瀬悠理、電話が入っています。至急、職員室へ』
 そんな放送が流れた。
 「僕に?」
 水瀬君は怪訝そうな顔で所員室に向かい、帰ってきた。
 しきりに首をかしげている。
 「どうしたの?」
 「友達からだったけど……。彼女があんなに慌てているの、初めてだよ。なんか、よくわかんないけど、『読まないで』って何度も」
 「何ソレ?」
 「わかないけど……」
 「あ、そうだ。水瀬君、知ってる?」
 「何を?」
 「ルシフェルさんが、自伝を出したんだよ?」
 「ルシフェが?」きょとんとする水瀬君。
 「結構、無口だから自伝出すなんて派手なことするように見えなかったけどなぁ……」
 「今日、世界4ヶ国同時発売なのよ。帰りに本屋で買っていかない?」
 「いいよ。僕も興味あるし。で、タイトルは?」
 「えっとね、確か、『長野での思い出』だった」
 「ふぅん……」


 翌日、朝寝坊。
 昨日、『長野での思い出』を遅くまで読み続けていたのが原因。
 一年戦争の生々しい戦場の様子が詳しく書かれているし、コンビを組んでいたY君との意外な凸凹コンビぶりが秀逸。読んでいてとてもおもしろかったけど、この朝のつらさはやっぱりイヤ。

 遅刻ぎりぎりで教室に入ったらなんか、水瀬君が沈んでいるし……。

 その時は、何かあったろう位の感じでしかなくて、まさか放課後までずっとそのままなんて思いもしなかった。
 「水瀬君、どうしたの?」
 本当は、瀬戸さんがいれば一番いいのに。なんでこういう時に限って、あの人いないんだろう。
 「……」
 うわっ。思わずひいちゃった位暗い。
 「どっ、どうしたの?」
 水瀬君が無言で机の上に出したのは『長野での思い出』
 「あっ、それ、私も読んだ。おもしろかった」
 「……ぐすっ」
 ……水瀬君、もしかして泣いてる!?
 「感動のあまり、ってわけじゃないみたいね」
 「……友達だと思っていたのに、こんな風に僕のこと見ていたなんて」
 「?」
 一瞬、意味がわからなかった。この本の中で時々、悪口書かれていたのって、確か。
 「もしかして、よく出てきたY君って……」
 「……僕のこと。いろんなこと考えても、僕のことでしかありえないよ」
 『外見は小柄な美少女。中身は浮世離れした男の子』って、酷評だけど、ある意味、かなりの正鵠を射ているわ。私でも水瀬君だってわかるもん。
 ただ、水瀬君からすればそりゃショックだろう。
 ルシフェルさんって、このY君に相当な恨みがあるとしか思えない書き方してたもんね。 ものすごくおもしろかったけど。
 本を開いて何行か読み上げてみる。
 「……えっと、『またY君にだまされた。いつか絶対しかえししてやる。私の青春を返せ』……『この頃、背中を見る度に斬り殺したくなっている自分に気づく』」
 確かに、友達への言葉じやないわね。これは。
 「でもさ。水瀬君だって、何か心当たりがあるんじゃない?」
 「ないもん!!」
 そんなムキにならなくてもいいけどさ。
 もう水瀬君、ボロボロ泣いてるし。何か可哀想。
 「初めて出来た友達だったもん!大切にしたいって思って、迷惑にならないように気を付けていたつもりだもん!」
 ……水瀬君って、ホント、怒ると子供がダタこねてるみたい。全然迫力ないない。
 思わず笑っちゃいそうになる。
 でも、水瀬君今、なんかヘンなこと言ったな。
 「――初めての、友達?」
 水瀬君は真顔で頷いた。
 「僕、いろいろあって、ずっと友達いなかったし、だから、同じ魔法騎士でしかも同い年って聞いたから、だから、だからね?友達になってほしくて、それで――」
 あーあ。さらに沈んじゃった。
 でも、そうか。
 水瀬君が地球半周してまでルシフェルさんの治療続けてた理由って、水瀬君にとってルシフェルさんが大切な友達だからだったんだ。
 そりゃショックだろう。
 だったら、私が一肌脱いであげましょう。
 「でも、悪いの水瀬君だからね」
 「わるくないもん!!」
 「悪い!」
 「わるくない!」
 「悪いったら悪いの!!」





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最終更新日  2005.11.07 20:56:14
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