月夜茶会

月夜茶会

2005.11.07
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 途中で止めに入った秋篠君によると、私たち、かなりの時間言い合っていたらしい。
 『保母さんがダダこねてる園児を叱ってるみたい』って表現が気になったけど。
 「……じゃあ、桜井さんの言い分、聞いてみればいいじゃないか。水瀬」
 秋篠君がそういって私に続きを促してくれた。
水瀬君の眼は「絶対違う」って言い張ってるけどね。
 「あのね?きちんと読めばわかるのよ。ルシフェルさんが怒っている時って、水瀬君がルシフェルさんに失礼なことした時ばかりじゃない」
 「……してないもん」
 水瀬君たら、頬を膨らませてすねてしまうし。
 「してるのよ。だいたいね?ルシフェルさんのこと、友達って見ていたことはなんとなくわかる。だけど、ルシフェルさんが「女の子」だってこと、どれ位意識していたの?」

 きょとんとしないでよ!!うわっ。これほど鈍いとは思わなかった!
 水瀬君、全然わかってない!
 「――水瀬君、たとえばね?ルシフェルさんの服を洗濯してあげるのはいいことしたと思う。でもね。下着まで人目につくところに一緒に干しておくっての、ダメなのよ」
 「なんで?」
 「女の子って、自分の下着を人目につく所にさらされるの嫌がるのよ」
 「……だから、なんで?」
 「そういうものなの!!」
 「……そうなんだ。」
 「よくわかんないけど、わかりました」って顔に書いてあるよ。水瀬君。
 私は一気にたたき込んだ。
 「いい?悪口書いてある所って、ほとんどルシフェルさんが女の子として恥ずかしい思いした所ばっかりなの。同じ女の子として、私はルシフェルさんの方が正しいって思うわ」

 「あのさ。この本、俺も読んだけどさ――あった」
 横から秋篠君が本を取り上げて、あるページを開いてから言った。
 「このY君って、ルシフェルさんにとっても初めての友達だったんだな。で、彼女も彼女で、彼のこと、大切に思っていたらしいぞ」
 「そうよ」それは私も認める。
 ただ、水瀬君、あまりの酷評の羅列のせいで、それに気づいていないだけ。

 「……よくわかんない」
 「水瀬君、忘れちゃいなさいよ」
 「?」
 「水瀬君、酷いこと言われたってことだけ傷ついているんでしょ。だったら、言われたことだけ忘れちゃいなさいよ。そうすれば、今まで通り、友達でいられるんだから。それじゃダメなの?」
 「……そう、だね。うん。そうする」
 ようやく、水瀬君に笑顔が浮かんだ。
 「ありがとね。二人とも。」
 「帰りにラーメン一杯でいいわよ」わざと軽く受け流す私と、
 「俺たちだって友達だろうが」と真顔でしかる秋篠君。
 うん。やっぱり青春って、こういうもんだ。
 「……しまった!!」
 秋篠君が慌てて水瀬君に言った。
 「すまん水瀬!お前に会いたいって女の子が校門に来てるんだ。つれてくるって引き受けたの、忘れてた!」
 「僕に?」
 「ああ。いや、今まであんな美人に出会ったことはないってくらいのきれいな人でな。髪の長い、どこかで見たような気がするんだけど……」
 秋篠君は「誰だっけ」としきりに首をかしげる。
 「髪の長いって、こんな感じ?」
 私は冗談半分で本に載せられていたルシフェルさんの写真を見せたら、「あっ!」って、秋篠君、びっくりしてた。
 「水瀬、そう、ルシフェルさんにそっくりな子なんだよ!いや。本人かと思ったほどだ!」
 「そんな知り合い、いたかなぁ?」
 水瀬が席を立って下駄箱へ向かおうとしたから、私と秋篠君もついて行くことにした。

 いた。
 校門の脇でまるでさっきまでの水瀬君みたいにしょんぼりしている髪の長い女の子。
 背は高い方。多分170センチ以上はあるし、白いワンピースがよく似合う、かなり綺麗系。知的な美人って感じかな。
 当然、目立つ。
 何人もの男子生徒が遠巻きに見ている。彼女自身はその視線にまったく気づく余裕もない程、思い詰めているみたいだけど。
 彼女を見つけた水瀬君、彼女の所まで慌てて走っていくと、二言三言かわした後、腕をつかんで校舎の裏までひっぱって、しばらくそこでなにやら話し込んでいた。
 さすがに何が語られているかは聞こえないけど、どうも女の子が水瀬君に何かを謝っている様子。水瀬君はそれを穏やかに許しているけど。あ。終わったみたい。
 うわ。近くでみるとホントに美人。腰まで伸ばした髪もつややかで色白。胸もかなり大きい。
 「彼女、日本語しゃべれるから大丈夫だよ」
 「え?」
 「国籍、一応イギリスだから。あ、ルシフェ、見学の許可もらってくるから、少し待ってて。桜井さん、すこし面倒みてもらっていい?後でラーメンおごるから」
 「いいけど。この人、誰?」
 「はじめまして。ルシフェル・ナナリといいます」
 「あっ。桜井美奈子です。って――ええっ!?」
 礼儀正しく挨拶されて思わず返しちゃったけど、びっくりした。さっきまで話の渦中にいた人物、しかも超有名人が目の前に!!
 「ほっ。本人!?」
 「はい」
 少しほほえんだだけ。それでもほんと絵になるわ。この人。
 「じゃ、まぁ、立ち話もなんだから、おい水瀬、食堂にいるぞ」
 「うん」
 水瀬君は職員室へ、私たちは食堂へ移った。
 ルシフェルさん。珍しいものばかりらしくてあたりをきょろきょろしてて、なんども角を曲がり間違えていた。とても魔法騎士とは思えない辺り、水瀬君の同類っぽい。
 「さて」
 放課後だから、人気が少ない食堂で、私たちは言葉に詰まっている自分たちに気づいた。
 「あの。日本には」
 秋篠君がなんとか切り出してくれたのには正直、助かった。
 「私のミスでみんなに迷惑かけてしまって」
 「あの本のこと?」
 「はい。私、病院で日記を盗まれてしまって。どういうわけか、それが本として出版されてしまいまして」
 そうか。だからあれほど歯に衣着せない言い方だったんだ。
 「失礼かも知れませんけどね。結構、おもしろかったですよ。水瀬君、泣いていたけど」
 「……ですよね」
 「でも大丈夫。水瀬君にとってはいい薬ですから」
 「……薬?」
 「ええ。本人、なんであなたに怒られたのかなんて、何もわかってないんだから」
 「……やっぱり、そうですよね」
 「そう。鈍いの」
 「鈍いですよね」
 「そう」
 「鈍いですから」
 私、ルシフェルさんと一緒に思わず笑ってしまった。


 ルシフェルさん、本当に礼儀正しいし、普通に接していると、どこかのお嬢様みたい。
 世界最強の魔法騎士なんて肩書き、本当はふさわしくない。
 彼女は、一人の女の子として、立派な存在だ。
 会話を交わした時間は短かった。
 でも、そう感じたことは今でも間違いじゃないと思う。

 ルシフェルさん、このまま英国に戻ると言った後で、水瀬君にポツリと呟いた。
 「やっぱり、学校って、通ってみたかったな」
 「言うと思って」
 水瀬君が取りだしたのは何と明光学園の学校案内。
 「転校時に必要な願書も入ってるよ。次来るときは制服買いに行こうね」
 「水瀬君……」
 「一緒に学校に行こうっていうあの時の約束、忘れてないからね」
 「うん……」
 何とか作り笑いを浮かべようとするルシフェルさんの頬を涙がこぼれ落ちる。
 「……自分の道は自分で決めるから」
 「応援するよ。それがどんな道でもね」
 「私達も、出来る事があれば何でも言ってね。あ、メアド教えてあげるから」
 「あ、ありがとう」
 私はメモ帳にアドレスを書き込んで手渡した。
 何だか、このまま、ルシフェルさんを黙って返したら、とんでもないことになりそうで怖かったから。


 一週間後、朝のニュースで各局がトップニュースで報じていたのは一つ。

 ルシフェルさんの神聖国教騎士団からの退団。

 「自分の道を、自分の足で歩きたい」

 その言葉が、何だか痛々しく感じたけど、それでも、その決断に私は心から敬意を持つ。
 彼女は、やはり、世界最強だ。




 でっち水瀬より
 新キャラ登場です。
 元ネタは……好きです。あのキャラ(^_^)










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最終更新日  2005.11.07 20:56:58
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