月夜茶会

月夜茶会

2008.11.15
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未亜は水瀬の腕を掴む手に力を込めながら、水瀬に話した。

 最近、未亜が本気で収集、発表した「明光学園七不思議」の一つに『C棟のカタカナ落書き』がある。

 C棟は4階建て。女子トイレは各階に1つずつ。
 そのどこかにカタカナで書かれた落書きがある。
 普通なら見逃すか、清掃の時に消される程度。
 ただ、それが七不思議に数えられる理由がある。
 それは―――

「何それ」
「だから、本当なんだって!」

「わかんないけど。用務員のシゲさんから聞いたもん!過去にやって精神病院から出て来なくなった女子生徒が何人かいたって!」
「……」


 水瀬と未亜は、1階から女子トイレを虱潰しに探した。
 授業中に使われるトイレは少ない。
 ふさがっていたのはたった一つ。
 3階の一番奥の個室だ。

「美奈子ちゃん?美奈子ちゃんっ!」
 カギのかかったドアを未亜が叩く。
 返事はない。
「人の気配はするけど……」
 水瀬は懐から呪符を取り出し、未亜に手渡した。

「何か見えるの?」
「これ……ちょっとマズい」
 スカートの内側に隠していた霊刃を取り出しながら、水瀬は未亜に説明した。
「建物の中にも霊が溜まりやすい場所ってあるんだ。それがここ」
「個室の中に?」

「わ、悪さって!?」
「……落書き」
 ―――下がって。
 水瀬は霊刃を抜いた。

 霊刃の切っ先がカギを貫通した。
「……防火シャッター以来だよね……学校壊したの」
「あの時は、大目玉だったけど―――」
 未亜は言った。
「今度は私も一緒に謝ってあげるから!」
「……ありがと」
 水瀬はクスリと笑うと、ドアを押した。

 ギイッ

 木製ドアが軋んだ音を立てて開く。

「―――っ!?」
 おっかなびっくり中をのぞき込んだ未亜は、口元を抑えて2、3歩後ずさった。

 明光学園のトイレは白い。
 清潔感を出すためだろうが、それがどうだ?
 少なくとも、未亜はこんなトイレを見たことはない。

 トイレの中は―――真っ黒だった。

 床には美奈子が持ち込んだんだろう。
 サインペンが何本も転がっている。

「……成る程?」
 水瀬は感心した様子で壁を見た。
 黒いタイルを使ったんじゃない。
 白いタイルに幾度もサインペンで書き込んだ結果、真っ黒になったんだ。
「お掃除……大変なんだけどね」
 マジックなら大事だよ?
 水瀬は一人呟くと、便座に座った美奈子を見た。
「桜井さん、大丈夫?」
 その呼びかけに返事はない。
「……」
 美奈子は、焦点の合わない眼で、壁を見つめていた。
 サインペンのインクで真っ黒に汚れた手に構うことさえない。
 壁に書き込むことを止めようとしない。
「……」
 水瀬は、ポケットに入っていたウェットテッシュでタイルを拭いた。
 美奈子が何を書いているか知るためだ。

 タイル一枚が白さを取り戻した途端、美奈子の手が動き、先のつぶれかかったサインペンがタイルに言葉を紡ぎ始めた。

「……」
 水瀬は、その一文を見た途端、美奈子からサインペンを奪った。
 そして、何事かを書き込んだ。
「水瀬君―――ひゃっ!?」
 グゥォォォォォォォォッ!
 ビャァァァァァァァァッ!
 苦しみ
 無念
 憎悪
 ―――様々な叫び声がトイレの中に響き渡ったのは、その時だった。

 思わずその場にへたり込んだ未亜が、再び水瀬に声をかけられるまでには、しばらくの時間が必要だった。

「み、水瀬君?」
 震える体を励起して立ち上がった未亜の目の前。
 サインペンを奪われた美奈子がぐったりとして便器に寄りかかっている。
 用を終えたサインペンを床に落とすと、水瀬は美奈子の脈を取っていた。
「……眠っているだけ。すぐに戻るよ」
「ど、どうなったの?」 
「追い出した」
「何を?」
「霊」
「はぁっ!?」


 水瀬が指さしたのは、先程、水瀬がふき取った一枚のタイル。

 そこには、水瀬の字でこう書かれていた。

「落書きした人には、校長先生のお説教が待っています」

「……ねぇ」
 未亜は半ばしらけた声で訊ねた。
「これで、本当に、霊を追い出せたの?」
「うん」
 未亜はマジマジとタイルを見つめた。
 水瀬の書き込みの横には、美奈子の字で

 私は水     です。

 そう、書かれていた。
 “水”と“です”の間はふき取られて判読出来ない。
 消したのは間違いなく水瀬だ。
 水瀬はその書き込みを読んだ。
 読んだ上で消した。
 何故?
 私に見られたくなかったから?
 未亜は水瀬の横顔を見ながら首を傾げるしかなかった。

「……んっ」
 美奈子の眉がピクリと動いた。
「ん?」
「気が付いた?」
「……水瀬君?」
「うん」
「……ここ、どこ?」
 美奈子はぼんやりとした顔でそう訊ねた。
「女子トイレ」
「女……子?」
 ようやく美奈子の頭が回転を始めた。
 ここは女子トイレ。
 そして目の前には水瀬君。
 女子トイレは女の子しか入れない。
 水瀬君は男の子だ。
 つまり―――?

「キャァァァァァァァァァァッッッ!!」

 一体、どこから声を出しているのか。
 美奈子はC棟全体に響き渡った程の悲鳴を上げた。

「何考えてんのよ!このHスケッチワンタッチっ!」

「桜井さん、意味わかんない」
「み、美奈子ちゃん落ち着いて!」
「未亜っ!?ま、まさかあんたが手引きしたの!?」
「だからっ!」
 仁王立ちになった美奈子を前に、未亜は何故か、水瀬の目を両手で覆いながら言った。
「水瀬君、見ちゃダメだよ!美奈子ちゃん、パンツ、ついでにスカートめくれちゃってるよ!」
「……へ?」
 美奈子が恐る恐る見た足元。
 スカートは完全にめくりあげられ、お気に入りの下着は膝下だった。
 つまり、美奈子の下半身は今―――

「―――っ!つっっっっっ!」
 美奈子が再び悲鳴を上げようとしたその瞬間―――

 バンッ!
「これは何の騒ぎですかっ!?」
 トイレのドアが荒々しく開けられ、トイレに踏み込んできたのは、水瀬達にはイヤでも見覚えのある人物。
 出武(いでたけ)校長だった。

「先程の悲鳴は何ですか!」
 そう怒鳴る校長の目の前。

 パンツを膝まで下げ、スカートをたくし上げた女子生徒と、尻餅ついたまま、後ろから目隠しされた女子生徒、目隠しをする女子生徒の三人がいた。
 校長はその三人を全員知っていた。
「1年A組の桜井さんに信楽さんですね!?桜井さん、何ですかっ!そのはしたないにも程がある格好は!そして信楽さんと―――」

 問題は、その最後の一人だった。


 翌日の学校掲示板

『告知
 以下の者、女子トイレ侵入の罪により卒業まで女装の罰に処す。

 1年A組 水瀬悠理』


「ねぇ聞いた?」
「うん。1年の水瀬君、桜井って女の子と、C棟のトイレでHしようとして、校長にバレたって」
「そうそう!それで、水瀬君が男として責任とったって!」
「かっこいいよねぇ!」
 掲示板の前で、女子生徒達の無責任な会話が交わされる。
 その横を歩くのは綾乃だ。
 その顔は何故か血走っていて、髪が逆立っていないのが不思議なくらいだ。
 綾乃は携帯電話で誰かとしきりに話している。

「水瀬君が登校しているのは分かってるんです。お金に糸目は付けません。探してください。見つけたら?決まってます」
 綾乃は背負ったバッグを軽く揺らした。
 ガシャッ!
 バッグからはそんな音がした。

「―――二度と桜井さんとそんなマネ出来ないように、“教育”してあげるんです。同罪に処されたくなければ、何をすべきかは、わかっていますね?……未亜ちゃん?」





 ●猫小屋より
 ご無沙汰していました!
 ネタ切れで書けませんでした……。
 リハビリがてらの作品です。どうぞ楽しんでいただければうれしいです!





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最終更新日  2008.11.15 22:33:05
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