月夜茶会

月夜茶会

2009.11.29
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「お待たせしました」
 数分後。
 右手の甲をさすりながら、鼻を赤くした美奈子が言った。
 その真横では、水瀬が壁にめり込んでいた。
「目をつむっていますから、どうぞご自由に」

「……拳が顔にめり込んだの、初めて見ました」
 女のあきれ顔を後目に、美奈子は目をつむり、耳を塞いだ。
 その仕草にクスリと小さく笑った女は、つぶやくように言った。
「そういう律儀な性格は、嫌いではありません」

「―――水瀬様?」

「痛たたっ……はい?」
 美奈子の必殺技“めりこみパンチ”をモロに喰らった水瀬は、顔を押さえながらつぶやく。
「何で避けられないんだろう……」

「よろしいですか?」

「あ……戻った。どうぞ?」

「これを見ても―――」

 衣擦れの音がして、女の体から脱がされた衣服が床に落ちた。
 女が、自ら衣服を脱いだのだ。
 白い陶器のような艶めかしい、一糸まとわぬ肌が、水瀬の前にさらけ出される。
 突然の出来事に、水瀬の視線は、女の肌に釘付けだ。


 女がゆっくりと水瀬に近づく。

「あ……あの……」
 水瀬は目を見張って女を見続ける。

 ゴクリ

 水瀬の飲み込んだ生唾の音が妙に高く響く。


 女が自らを抱きしめるような仕草をする。
 その細い両腕の中で、豊かな双丘が、男を狂わせんばかりに歪む。
「あなただけに抱かれた……あなただけのものなのに……」

「だ、だから」
 自分が誘われていることはわかる。
 だが、女の言っている言葉の意味がわからない。
 女は、自分と肉体関係があったと。そう言っているのだ。
「僕は祷子さん以外の女の人は―――えっと」
 水瀬はどもりながら言った。
「ナターシャさん位しか……えっと」

「まぁ……」
 女の手が、そっと水瀬に伸びる。
「私達は……女の数に入らないのですか?」

「っ!」
 水瀬の喉が、自分でもびっくりした程素っ頓狂な声を上げた。

 女の手が伸びた先。
 そこは、水瀬の男性として最も弱い部分だったのだ。
 そこをはい回る女の手。
 それは、水瀬にとっては久しぶりに快楽であり、快楽に慣れていない水瀬という男の子には刺激が強すぎた。
 水瀬は、自分の体が、その手に正直に反応したことを、嫌が上にも悟った。
「……まぁ正直ですこと♪」
 水瀬の男性としての反応を楽しむように、女の手が艶めかしい動きを見せる。
「ご立派ですね……これが……」
 時に強く、時にいとおしむように動くその動きに、水瀬はもう動けなかった。

 ―――祷子さんだけ祷子さんだけ。

 水瀬は何かを呪文のようにつぶやくだけだ。
 ただ、それが決壊前の堤防に過ぎないことを、水瀬自身がもう悟っていた。

「私の……純血を……」

「あ……あの……」
 半分泣きそうなまでの水瀬の声に、女は楽しげに答えた。

「これは罰です」
 不意に、女の手が水瀬から離れた。
「私は、あなたに復讐します」

「へっ?―――んっ!?」
 水瀬は、不意に自分の唇がふさがれたことに驚いた。
 女の顔が、びっくりするくらい、近い。
 女に抱きしめられ、その体の柔らかさと、言いようのない香しい香りが、水瀬の男性としての本能を狂わせようとしていた。

 ―――祷子さん。ごめんなさい!

 水瀬は心の中で叫んだ。

 ―――ちょっとだけ!

 水瀬の腕がそっと女を抱きしめようと動く。
 だが、女はその手から逃れるように、水瀬から離れた。

「え?」

「……今晩は、ここまでです」
 いつの間にか床に落ちていた衣服を手にした女は、晴れやかに微笑んだ。
「お仕事がありますので」

「……へ?」
 お仕事。
 その言葉に、我に返った水瀬は、とっさに美奈子を見た。
 水瀬の目の前で、いつの間にか、女と同じスーツを着た別な勝ち気そうな黒髪の女が、まるで汚物を見るような眼で水瀬を睨んでいる。
 その腕の中に、ぐったりとした美奈子がいた。
「しまっ!」

 水瀬が腰の霊刃に手を伸ばした時には遅すぎた。

 フンッ。
 勝ち誇った様な視線を残し、美奈子を抱きかかえた女が水瀬の目の前から、かき消すように消えた。
 瞬間異動(テレポート)だ。

「私達は、まだしばらくこの国にいます」
 女の声に、水瀬は目を見開いた。
「ま、待って!」
「―――ではいずれ」
 優雅な仕草で挨拶する女の姿が、水瀬の前から消えようとしていた。
「こ、こんなの困るっ!」
 女は答えることなく、その姿を消した。
 後には、ガラスや家具が散乱する部屋と、風に揺れるカーテンだけが残された。
「ぼ……僕」
 テレビの音だけがむなしく響く部屋で、水瀬は悔しそうに、困ったように言った。
「……僕」
 その視線は現実を見ていない。
 水瀬が見ていたのは、脳裏に焼き付けられた、あの女のみせた胸であり、下半身の茂みであり、そこから連想した、女との、それこそ「小説家になろう」の通常版では表現出来ないレベルの激しい妄想だった。

「ぼ……僕……」

 はぁ……はぁ……。

 水瀬は、荒い息のまま、消えた女に救いを求めるように言った。



「ばっきんばっきんなんですけど……」


 その姿勢は、無様なほど前屈みだった。








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最終更新日  2009.11.29 19:39:50
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