エルトン・ジョンは1970年から現在2000年代に至るまでコンスタントにヒットを飛ばしてきた、イギリス出身のシンガーソングライター、ピアニスト。「僕の歌は君の歌」(1970年)、「ダニエル」(1972年)、「キャンドル・イン・ザ・ウィンド1997」(1997年、故ダイアナ元皇太子妃への追悼曲)などのヒットで知られる。 エルトンにとって、1980年代は、アルバムをコンスタントに発表し、それなりにヒットチャートを賑わせてはいたが、70年代に比べてシングルの大ヒットが少ないため(とはいってもチャートインした曲は多数なのだが)、あまり注目されない時期に当たる。とはいえ、1988年発表の本作『REG-ストライクス・バック』はもっと聴かれていいアルバムだと筆者は考えている。 ちなみにアルバム・タイトルの"REG"とは、彼の本名レジナルド・ケネス・ドワイト(Reginald Kenneth Dwight、ただし正式には1967年にエルトン・ジョンの本名に改名済み)に由来する。したがって、本作のタイトルを直訳すれば『REGの逆襲』といった意味になる。このアルバムが出た1988年は、エルトンが離婚をした時期で執拗なマスコミ取材もあり、また、70年代に比べればアーティストとしても停滞期にあった。さらに前年には喉の手術も行なっている。そんなエルトンが、スーパースターとしての復活、あるいは"逆襲"を目論んで、このアルバム制作に気合を入れた証がこのタイトルだったのではないかと思われる。 楽曲を見ても、そのような意気込みが感じられる。1.「タウン・オブ・プレンティ」のノリがよいポップなナンバー(ちなみにゲスト参加のギタリストは、ザ・フーのピート・タウンゼント)で幕を開け、2.「ワード・イン・スパニッシュ」のようなバラード、そして、80年代のエルトンにとって数少ない大ヒット・シングル(全米2位、ただしイギリスでは30位どまり)である4.「アイ・ドント・ワナ・ゴー・オン」。ポップな曲からスローな曲、軽快なロックチューンまで実にバランスよく収録されている。 ついでに付け加えれば、5.「古都の追想(The Japanese Hands)」は、私たち日本人にとって興味深い。京都の夏を歌ったもので、来日時に祇園祭でも見て、その後は祇園の老舗にでも行ったのであろうか?という歌詞である。何か誤解を含んだ日本観のようで、日本人としては微妙だが、曲調は抜群に素晴らしい。 『ピアニストを撃つな』や『黄昏のレンガ路』(ともに1973年)は、エルトンの一つの大きなピークであったように思う。したがって、総合点をつけるのなら、これら諸作の方が上位に来るだろう。けれども、本作『REG-ストライクス・バック』は、上で述べたように楽曲のバランスも配置もきわめてよく、ノリのいいエルトン節からバラードまでがうまく1枚にまとめ上げられている。エルトンのアルバムは枚数も多く、筆者もその半数ほどを聴いたことがあるに過ぎない。けれども、上のような理由から、まだ聴いていない人にはぜひ試してもらいたいし、初めてエルトンを聴くと言う人にもわかりやすい入口として好適ではないかと思う。
[収録曲] 1. Town Of Plenty ←おすすめ!
3. Mona Lisas And Mad Hatters (Part II) 4. I Don't Wanna Go On With You Like That 5. Japanese Hands ←おすすめ! 6. Goodbye Marlon Brando 7. The Camera Never Lies 8. Heavy Traffic 9. Poor Cow 10. Since God Invented Girls