音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年07月05日
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 トッド・ラングレン(Todd Rundgren)が『サムシング/エニシング?』(1972年)以来の一人マルチレコーディングに臨み、1978年に発表したのがこの『ミンク・ホロウの世捨て人(Hermit of Mink Hollow)』である。トッド・ラングレンという人は作品ごとに(さらには同一アルバム内でも曲ごとに)結構作風が変わったりする。そのせいなのかもしれないが、日本では一定のイメージで超有名になることもなく、結果的には正当に評価されていない感じがする。あるいは、本人のキャラにマニアックな部分が強いから一般受けしないのだろうかとも思ったりする。けれども、メロディメイカーとしても、演奏者としても、歌い手としても、プロデューサーとしても、本当にマルチな才能を備えたミュージシャンなのだ。

 決して悪い意味で言うのではないが、この人は本当にマニアックである。ソロとしてメジャーになる以前にはジャニス・ジョップリンのプロデューサーに抜擢されたこともあるが、ジャニスと折り合いがつかず降板したという拘りを感じさせるエピソードもある。また、本盤がそうであるように、一人でマルチレコーディングという作業を根気強くこなして名作を作り上げる。70年代に自宅に専用スタジオを作っているほか、80年代にはMIDIを駆使してワンマン・コンサートも行っている。作品のところどころには60年代ポップ・ミュージックへの偏愛が見られ、さらに私生活では古くからのマッキントッシュ・マニアであるらしい。こんな事実関係いくつかを通観しただけでもトッドのマニアぶりが感じ取られるだろう。“職人”というよりも“マニア”。繰り返し言うが、マニアが悪いと言っているのではない。それどころか、こうしたマニアックさが本盤のような秀作を生み出す原動力そのものではないかと思う。

 おまけに本作に関しては、ジャケットが“怖い”。面長で長髪の男(もちろんトッド自身)が暗~い写真の中でまっすぐにこちらを見つめている。ふつうのリスナーなら、この写真から美しくかつ創造的な音楽(とりわけ2.「キャン・ウィー・スティル・ビー・フレンズ(友達でいさせて)」のごときナンバー)が流れてくるとは思わないだろう。おまけにアルバム表題が“世捨て人”ときたものだ。原語ではHermit(隠遁者)であり、一人でこつこつ録音・編集作業している姿を想像しやすいタイトルとは思うが、直截的なイメージが抱きにくいのも事実だ。

 アナログ盤ではA面(1.~6.)が“イージー・サイド(The Easy Side)”、B面(7.~12.)が“ディフィカルト・サイド(The Difficult Side)”と命名されていた。けれども、今になってCDで通して聴くと、なぜか全編通して違和感なく続いているように思うのだが、どこが“簡単(イージー)”で、どこが“難しい(ディフィカルト)”だったのだろうか。全編一人で作曲から編曲・演奏・多重録音の編集までしただけあって、確かにどの曲も凝っていて、その意味では“ディフィカルト”たり得る。5.「擬声(Onomatopoeia)」などはその最たるもので、“これがなぜイージー・サイドに入っているのか?”と普通なら疑問を持つ。逆に、8.「バッグ・レディ」みたいな美しい曲が“ディフィカルト”側に収録というのも自然な疑問だろう。

 以下は聴き手側の勝手な想像である。もしかして、この“イージー”と“ディフィカルト”という区分は、トッド自身にとっての区分だったのではなかったろうか。もしそうだとすれば、たとえ凝った複雑なことをやっていても、作者にとっては“イージー”だった曲もあり得る。また、出来上がった結果だけを聴いて“ディフィカルト”との印象はなくとも、実は作者にとっては“ディフィカルト”だった曲も逆にあり得ただろう。そう考えると、1.や2.に典型的に表れているように、前半(アナログA面)の曲は流れるように進んでいるのも納得できるし、後半(同B面)では曲調の波幅が大きいのも頷ける。つまるところ、作者トッドから見た“安産”がイージー、“難産”がディフィカルトだったのではないだろうか。筆者のこの想像が当たっているとするならば、やっぱりトッドはどこまでもマニアックな人物だということか…。



[収録曲]

1. All the Children Sing
2. Can We Still Be Friends

4. Too Far Gone
5. Onomatopoeia
6. Determination
7. Bread
8. Bag Lady
9. You Cried Wolf
10. Lucky Guy
11. Out of Control
12. Fade Away

1978年リリース。






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Last updated  2013年02月09日 09時36分34秒 コメントを書く
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