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故・安倍晋三氏の言葉だ。第2次政権の船出直後の2013年2月、ワシントンの戦略国際問題研究所での演説。
「強い日本を取り戻します。世界により一層の善を為すため-」。だが拉致問題は今日に至るも進展していない。ストックホルム合意(北朝鮮の再調査と日本の一部制裁解除のバーター)も事実上崩壊した。
必ず救い出すと誓った割には、政府の動きは奇怪に過ぎた。 北朝鮮の悪質さとは異なるが、「善」とも乖離した人事や演出、情報操作。前記の自己アピールを記憶していた評者は、本書で初めて事の実態を理解できたように思う。
著者も書いている。「北朝鮮の脅威を背景に強硬路線を取ることは、自らの政治路線の正当性を示す有効な手段となり」、「拉致問題は柔軟な解決を探る外交課題から、政治的正当性を支える資源へと性格を変えていった」。
この記述に辿り着くのは、ただし下巻の結び近くだ。そこまでの間に読者は、あまりに不気味で根深い拉致問題のほぼ全容を知ることになる。横田めぐみさんの人生と「遺骨」の深層、日朝交渉の裏側、拉致の手口、前史、そもそもの目的、実行犯らの実像・・・。
著者の拉致取材歴は約30年にも及んでいる。余人には入手不能の極秘文書が活かされているのも本書の魅力だ。
後の大韓航空機爆破事件の実行犯・金賢姫が、拉致被害者李恩恵こと田口八重子さんに初めて会った際、こう考えた。「わが民族の分断に重大な責任のある日本人が、統一のために一人くらい犠牲になることは甘受すべきだ」。
彼女だけの感覚ではないだろう。そう思わせてしまったら最後、ツケを払わされるのは市井の人間だ。現在の日本もまた、米国の尻馬にばかり乗っていたら、新たな"北朝鮮"を世界中に生み出すことになりかねない。
<高世仁 ジャーナリスト。NK917 ジャーナリストによる匿名ユニット>
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