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December 7, 2009
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カテゴリ: ミステリ(日本)

火の路(上)新装版

火の路(下)新装版
松本清張
文春文庫
☆☆☆☆◎
 これ結末読むまでは☆☆☆☆☆◎でも良かったんだけどね…。
 上下巻の長編で、初出は1973年の朝日新聞に一年以上に渡って連載された新聞小説。奈良県の飛鳥地方の酒船石や他の用途が謎の石造物について、拝火教との繋がりを推理した歴史の謎に挑みつつ、現実の贋作疑惑や象牙の塔内部のイザコザなどにも触れた小説。
 とはいえ、全体の半分以上が論文に費やされているといっても過言ではないほど、内容が学問的。巻末解説によると、この小説が発表された当時は高松塚古墳の発掘で考古学ブームだったというが、この内容で新聞連載小説…?と思っていたら、やっぱり「内容が難しすぎる」という抗議が随分あったそうだ。だろうね。だが著者は「この作品は論文が主人公」と言っているそうだから、確信犯だろうなあ。
 もっとも歴史ミステリー、特に古代史は大好きなので、私は楽しく読めた。(論文部分にはかなりてこずったけど)しかも、冒頭はず~っと飛鳥・奈良市の風物の描写だ。それも観光地だけではなく、ちょっとわき道に入ったような描写も細かくて読んでいて堪えられないほど楽しかった。更に、重要人物の一人にカメラマンがいるため、装備の重さやレンズの焦点距離などの描写も良かった。この小説が気に入った理由にこのカメラマン板根要助の登場を楽しみに読めたことがある。(実は最近ハマった毒ガス映画の主人公の一人に「背は高くないががっちり体型でヒゲあり」という描写が重なり、その俳優さんの声で台詞が聞こえたせいもあったりして…)今まで3作くらい清張作品を読んだが、どれも登場人物に感情移入できなかったのだが、この小説は板根と主人公の高洲通子にも割合感情移入しやすかったので、読みやすかった。また、学界を追放されたが学識深い海津信六がご意見番みたいな感じで登場するのだが、この高洲通子、板根要助(あと通子のアルバイト先の高校の教師糸原もちょっと含み)、海津信六の三人の関係は、とある民俗学ミステリーの登場人物設定に似てるといえなくもない。特に通子と海津の設定は。また、これは個人的な推測だが、通子より少し年下で30歳、それなりに名前も知られているカメラマンで、仕事の時の耳学問としつつ、結構博識な設定になっている板根に、著者は自分を少し重ねているんじゃないかと思う。板根はMary Sue ならぬGary Stuなんじゃないかな。また通子も史学専攻の女子学生に実際に取材し、その学生の様子をそのまま写しているそうだ。モデルになった学生さんを気に入られたんだろう。全体を通してこの小説の登場人物の描写は、今まで私が読んだ作品に較べて「キャラが立っている」ように感じる。
 話は戻るが、場所の描写も奈良だけでなく、海津の家は大阪の堺や羽曳野の近くらしく、昨年古墳めぐりをした私には描写が懐かしかった。さらに、通子が調査旅行の赴くイランの拝火教遺跡の描写や町の描写、現地の人々の描写も興味深い。著者が実際に経験したこともエピソードに含まれているそうだ。そして、肝心の拝火教の影響と石造物に関する論考は現代の研究で否定されたところもあるそうだが、斉明天皇への考察などは示唆に富んでいるように感じた。でも難しかったんでよく分からん…。ただ、神戸にも巨石の遺構があるそうなので、見に行ってみたいな。ついでにルミナリエの写真撮るとかね…。

以下はネタバレになるので、背景色と同色になっています。





2. 二つ目に「姪」と名乗っていた倶子(ともこ)の自殺の真の原因
3. 増田亮子と海津、倶子の関係、及び海津が学界を追放され学問も捨てた理由
4. 通子、糸原、板根の三人の関係のその後 (糸原と板根はどーも通子に気があったっぽい)
 以上の4つが
はっきり小説中で説明されていれば、読了後、「読み終わった~」という実感が強くなるのだが、これらが仄めかしや登場人物の推測を書いただけの書き逃げ(失礼!)という状態で終わっているのだ。まあこれ書いたら、あと100ページくらい増えそうだけど…。もしかしたら2巻じゃなくて3巻になったかもしれないけど、それでもいいからハッキリ書いて欲しかった。
 そして、この1973年頃という時代背景、皆が海外旅行に手が届きそうになって「機会があれば自分も」という感じで書かれているのだが、この年あたりは日本史の教科書によると第四時中東戦争とオイルショックがあった。が作中にその描写はなく、更に隔世の感を感じたのは、革命前のイランが平和な国として描かれ、街の通りの名に「パーレビ通り」と書いてあったとか「王妃がいらした」という一文がさらりと書いてある上、ガイドの現地女子学生はチャドルも着ずに欧米風のいでたちという描写、さらに気軽に「イランに調査旅行に行ったら?」みたいな台詞があることだ。今、学術調査のためとはいえ女性一人旅になりそうと分かっていて、気軽に「イランに行ったら?」などと言える時代ではない…
 まあ、とにかく、読み応えある大作だった。途中で飽きもこず、集中して読めたと思う。





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Last updated  December 8, 2009 03:10:50 AM
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