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やがて、アンドレスがこの地を訪れて2度目の春が過ぎた。
この時、既にアンドレスは17歳。
アパサの厳しい鍛錬のもと、彼は見違えるように逞しい若者に成長していた。
そして、その年の夏も過ぎる頃、アパサの指導はそれまでとはやや趣を変えたものとなっていた。
実際、ここにきてアンドレスの成長は目覚しかった。
1年半に及ぶ過酷なトレーニングの継続により基礎的な身体能力は高められ、アパサが徹底的に基本を叩き込んだ成果も実を結び、今や彼は棍棒をまるでサーベルのごとく軽々と自在に裁きながら、複数の相手を同時に圧倒するまでになっていた。
アパサが心理戦に持ち込もうとも、アンドレスはそれほど動揺することも、もはや無い。
円陣訓練で、アパサの部下たちをまとめて片付け、丁寧に汗の処理をしながら呼吸を整えているアンドレスの傍に行くと、アパサはおもむろに言った。
「これからは、美しく、ということを念頭に置いてやってみろ。」
アンドレスは一瞬、耳を疑った。
どちらかと言えば、いかに泥臭く、血生臭くとも、何が何でも敵を倒す、ということを叩き込まれてきたのだ。
ましてや、「美しい」という単語がアパサの口から出たことに、まずアンドレスは驚いたし、決して嫌味な意味ではなく、意外でもあった。
「美しく、ですか?」
余計な質問をすることで、これまで幾度と無くアパサの罵声を浴びてきたアンドレスだが、この時は思わず口をついて、そんな言葉が出てきてしまった。
アパサは、まじめな顔のまま「そうだ。美しく、戦え。」と繰り返した。
「おまえは、ただ敵を倒せればいいのではない。
美しく倒さねばならい。
あのギリギリの泥沼の戦場の真っ只中でもだ。
何故なら、おまえは、偶像にならねばならぬからだ。」
二人の間を、砂の混じった一陣の風が吹き抜けていく。
そろそろ夏の終わりも近い。
既に冷気を帯びた風が、再びこの乾いた高地を吹き渡る季節になっていた。
アンドレスは汗を拭く手を止めたまま、アパサの言葉の意味を何とか咀嚼しようとした。
しかし、その意味がよく分からない。
アパサは、「おまえの察しの悪さは相変わらずだな。」と嘯(うそぶく)くと、改めて真正面からアンドレスを見据えた。
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