2020.07.22
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その人と僕はただのテニス友達だったが、二人は仕事帰りのシングルスで死闘を演じた後、時に車の中で話し込むこともあり、ある時その人が「男の人は、女をobjectifyするのよね」と、腹立たしそうに呟いた、ことが記憶に残っている。文脈はまるで覚えていないが、男女関係の一つの問題点に不平を唱えていたのだった。

Objectifyという言葉、対象化するとか客体として捉える、という必ずしも否定的ではない意味で使われることもあるが、社会学や心理学の用法では、他者をまるでモノのように見做す、取り扱うことを指すようだ。特に、フェミニストの間では、sexual objectification論というのがあり、男性が女性の身体をモノとして見做すことのさまざまな社会的影響を分析している(たとえば、女性が容貌や身体的な美を気にし過ぎるようになること)。これが彼女の言葉の意味だろう、美的性的欲求を満たすためだけのモノとして女性を見做す男性への非難。

意味を拡げて、一般的に他者をモノと見做す場合のいくつかを見てみよう。

小椋佳の作詞した「白い一日」にこんな部分があった、「真っ白な陶磁器を眺めては飽きもせず、かといって触れもせず、そんな風にキミのまわりで僕の一日が過ぎてゆく」。主人公の男はその女のことをモノ(陶磁器)として眺めている。この手の片思いは昔からよくあるもので、極度に恥ずかしがり屋の男がある女に憧れる余り、触れることも話しかけることもできずただ見ている状況。僕たちが他者と関係を結ぶときには多かれ少なかれイメージを介在させる、(後で触れるように)これを避けることはできない。ただこの歌詞の男の場合は、作り上げたイメージがあまりに独りよがりなので、実際に存在する女から遠く離れてしまっている。一歩間違えばストーカーになりそうなイメージを独り弄ぶ行為だ。

かって取り上げたことのあるフェティシズムという性癖も、他者のモノ化のひとつだろう( ブログ )。人間関係でもモノとの関係でも見られるこの性癖は、その元々の性質、使用価値、有益性全体性などから離れたところに成立する心の執着、と要約することができる。最近TVジャパンで見た「凪のお暇」というドラマで、凪のストレートの長い髪が好きだった元カレが、会社を辞めて変身した彼女の短い縮れ髪を詰る場面がある。元カレは、恋人関係だった時にはフェティシズムに囚われていて、凪という他者そのものを見ていなかったことは明白だ。凪自身がそれを受け入れていた(望んでいた?)、ある意味相互依存の状況にあったのも事実だが。

人種、性別、国籍など、他者をその所属するグループで一括りにすることを、僕たちはしがちだ。おそらく、生物はみんな敵と味方を区別するためにいわゆるプロファイリングをしてきたのだろう。その頃の名残が他者をある特徴でまとめることではないだろうか。別の見方をすると、物事を幾つかの特徴でグループに分けるのは、人間が概念化や抽象化をするのに欠かせない能力で、他者のグループ化もそのひとつの派生かも知れない。だとしても、この他者のグループ化は、現代社会ではあまり褒められない性癖だ。グループに括ることも他者のモノ化の一つのタイプだと思う。

他者から遊離した独りよがりのイメージを作る、他者をある属性でグループ化する、これらよりもっと残酷な他者のモノ化が、宗教戦争やホロコーストなどで発生する大量殺戮だ。その時、僕たちは「優秀な」兵隊や役人になっているか、あるいはイデオロギー(宗派、思想主義)にずっぽりと嵌ってしまっている。個人性を跡形もなく剥ぎ取られた他者は、(たとえば、ユダヤ人という)レッテルを張られた生き物、または敵対する宗派・主義を信奉する群れ、と化している。他者のモノ化の極地にいると言える。

これらの例で共通しているのは、他者そのもの、その性格、感情、声、容貌、身体などの統合された全体性が、そしてその他者が一人の独立した存在であることが、忘れられていることだ。どうしてこうなってしまうのだろう?





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最終更新日  2020.07.27 05:59:21
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