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2006年03月09日
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カテゴリ: 露野
 開け放した御簾の下に、誰かの影が立っている。傍らには少し小さな影がもう一つ。

 大きな影は、小さな影を先に立て、音もさせずに部屋の中に入って来た。そして、そっと私の傍らに座ると、じっと私を見つめていた。物の怪だろうか。そう思ったが、何故か恐ろしくはなかった。

 影はしばらく私を見つめていたが、ふいに手を展ばして、私の髪に触れた。伽羅の良い薫りがする。こんな良い薫りのする物の怪ならば、魅入られてやってもよいか。そう思って、私はふっと微笑んだ。

 影は驚いたように、手を引いた。私はそれを逃さず、その細い手首を着物の袖ごと掴んで、はっきりと目を開けた。

 今度は私が驚く番だった。

 私が掴んだ袖は、柔らかな手触りの良い最高級のもので、とても並の女房ふぜいが身につけられるようなものではなかった。それに、月明かりに照らされたその重ねの色目は桜。

 その影は、なんと斎宮その人だったのである。

 私は驚いて手を離した。斎宮は小さな影に合図をして下がらせた。それは愛らしい女童であった。そして、二人だけになると、私をその濡れた瞳で見つめた。

 初めて見た斎宮は、臈たけて美しかった。すっきりと細面の白い顔に、額から艶やかな黒髪が零れ落ちている。やや切れ長な眼は、瞳が玻璃の玉のように清らかに透き通り、それでいて、その奥底に熱い炎のようなものを秘めていた。唇が薄くしっかりと結ばれているさまは、兄の皇子によく似ておいでだ。





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最終更新日  2006年03月09日 16時15分52秒
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