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2015年01月05日
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カテゴリ: 国内「あ」の著者
深夜のバー。小学校のクラス会三次会。男女五人が、大雪で列車が遅れてクラス会に間に合わなかった同級生「田村」を待つ。各人の脳裏に浮かぶのは、過去に触れ合った印象深き人物たちのこと。それにつけても田村はまだか。来いよ、田村。そしてラストには怒涛の感動が待ち受ける。2009年、第30回吉川英治文学新人賞受賞作。傑作短編「おまえ、井上鏡子だろう」を特別収録。(「BOOK」データベースより)

■朝倉かすみ『田村はまだか』(光文社文庫)
あさ浅倉かすみ:田村はまだか.jpg

◎朝倉かすみは中島京子と並走中



 結婚したのは39歳のときであり。それを機会に創作教室で学びはじめます。つまり結婚という願望が現実となり、もうひとつの夢である「小説家になる」が頭をもたげてきたわけです。

 創作教室の先生が「藤堂(とうどう)志津子みたいになれ」といって彼女の背中を押してくれました。藤堂志津子も北海道出身の作家で、直木賞(1989年『熟れてゆく夏』文春文庫)を受賞しています。男女の微妙な心理を描くのに長けた作家です。創作教室の先生が与えた目標は、朝倉かすみの細やかなディテーリング力を評価してのものなのでしょう。

『田村はまだか』『ほかに誰かいる』(幻冬舎文庫)『夫婦一年生』(小学館文庫)をつづけて読んで、藤堂志津子というよりも、直木賞作家の中島京子(推薦作『FUTON』講談社文庫)と重なってしまいました。作品の奥行きはおよばないものの、朝倉かすみには中島京子よりも優れた登場人物の造形力がありました。

 2人の女流作家をならべてみます。

中島京子:1964年生まれ。2003年『FUTON』により野間文芸新人賞。2010年『小さなおうち』(文春文庫)で直木賞。

朝倉かすみ:1960年生まれ。2003年『コマドリさんのこと』(『肝、焼ける』講談社文庫所収)で北海道新聞文学賞、2009年『田村はまだか』で(吉川栄治文学新人賞)。

 朝倉かすみは中島京子と、ほぼ同様の作家履歴であることがわかります。私は近い将来、朝倉かすみも中島京子と肩をならべることになると信じていますし、すでにそうなりつつあります。ついでに前記の藤堂志津子についてもふれておきます。朝倉かすみとは15年のギャップはあるものの、北海道新聞文学賞受賞とスタートラインは同じです。しかも札幌在住の作家として活躍しています。

藤堂志津子:1949年生まれ。1988年『マドンナのごとく』(新風舎文庫、講談社文庫)で北海道新聞文学賞、1989年『熟れてゆく夏』で直木賞。

◎田村はこない

『田村はまだか』には、特別収録作を含めて6つの連作短編が所収されています。いずれも舞台は、札幌ススキノ場末の小さなスナック「チャオ!」です。主な登場人物は、小学校の同窓会から流れてきた40歳の男女5人とスナックの主人・花輪晴彦46歳です。男女5人の客は、ひたすら同窓会に欠席した同級生の田村を待っています。

 5人の客はかなり酔っています。「田村はまだか」とつぶやきながら、懐かしい過去と苛酷な現在を語りつつ飲み続けます。田村久志は悪天候のために、交通が寸断されてなかなかやってきません。時計は午前2時をまわり3時になります。田村はきません。

 ものがたりはそれぞれの登場人物を柱に、今と昔がパッチワークのようにつながります。この作品はストーリーにふれない方が賢明でしょう。あなたにはススキノの片隅で、偶然に隣り合わせた客の一人として、ものがたりに参画してもらいたいからです。

 待っている5人の時間は、一向に前には進みません。いっぽう待たれている田村は悪天候のなかを、必死にススキノを目指してもがき前進しています。そんな場面はいっさい書かれていませんが、その情景が自然に浮かびあがってきます。不思議な感じの作品なのです。

 舞台上にいない田村だけが、クラスメートの集う3次会という場へと匍匐(ほふく)前進しています。もはやアルコール浸けになった男たちの、のど仏は動いていません。女たちもテーブルに突っ伏して眠っていたり、思い出したようにグラスを持ちあげています。マスターはいつものように、客の会話をノートに書きとめています。グラスの氷が、解け落ちる音だけが響いています。

 朝倉かすみは平凡な柄と色の端切れを、張り合わせる名人です。未読のかたはどこからでもいいですから、1ページを立ち読みしてもらいたいと思います。単調な素材が張り合わされる華麗な技を、堪能できることでしょう。ただし間違っても、最終ページは開かないでください。松田哲夫らも、最後の大きな感動についてふれています。

――昔の思い出話の間に、それぞれの人生が語られていきます。そこに、合いの手のように「田村はまだか」という台詞がはさまれていく。それでも、田村はやってこない。しだいに酔っていくうちに、彼らが、どうして、こんなに田村に会いたがっているのかがわかってきます。そうして、思わぬ異変が起こるのですが、それでも、最後には、気持ちのいい感動が訪れる。(松田哲夫『王様のブランチのブックガイド200』小学館新書P93より)

――物語が進むと、田村の輪郭が浮かび上がってくるが、最終話「話は明日にしてくれないか」には、意表をつく結末が待ち受けているので、それは実際に読んで確認して欲しい。(『文蔵』2014.04「小説で味わう北海道」のP20より)

 朝倉かすみは、なんでもない世界をみごとなハーモニーにまとめあげました。『ほかに誰かいる』『夫婦一年生』も、同じような傾向の作品です。とりあえずは、『田村はまだか』にふれていただきたいと思います。きっと私が薦めなくても、あなたはつぎの作品も読んでみたくなるでしょう。
(山本藤光:2012.12.22初稿、2014.08.19改稿)





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最終更新日  2017年10月09日 04時16分18秒
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