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2015年05月16日
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カテゴリ: 国内「お」の著者
明治以来の文学史上、屈指の名編と称された表題作をはじめ、いのちの不思議な情熱を追究した著者の円熟期の名作9編を収録する。(文庫案内より)

岡本かの子『老妓抄』(新潮文庫)
おか岡本かの子:老妓抄.jpg

◎大母性であり童女であり巫女であった



――奔放で奇嬌な行動と常に噂の絶えることのなかった男性遍歴、また夫一平との世俗の常識を超えた異常の愛――。岡本かの子は童女だったのか、聖女だったのか。絢爛豪華な文学遺産と多くの伝説を残したまま火のような生涯を閉じたかの子の内面を快心の筆で抉る伝記文学の傑作!(講談社文庫カバーより)

 岡本かの子について、息子の岡本太郎の文章を紹介させてもらいます。講談社文庫カバーと、まったく同じようなかの子像となっています。

――彼女は大母性といわれたり童女といわれたり、また人によっては古代の巫女のようだとなどと言ったりする。まことに神秘的なほど複雑な面と、ひどく無邪気、むしろ幼稚な面が、異様な形で彼女の中に存在していた。それがとかく大人ぶった同時代の知識人たちには、不可解であり、そのナマな肌ざわりがどうも、やりきれなかったらしい。
(岡本太郎「童女の呪術」/「日本文学全集56・岡本かの子」新潮社、昭和38年7月付録より)

 もうひとつ歌人岡本かの子が、小説家になったころを眺めておきたいと思います。
――(岡本かの子は)たしかに歌人として知られていた。十代半ばで投稿して入選。はやばやと雑誌「明星」で頭角をあらわした。二十三歳のときに最初の歌集。ついで第二、第三歌集。/しかし、歌人かの子にもっとも不満だったのは、かの子自身である。四十歳のときの四冊目は『わが最終歌集』と名づけられた。歌はこれで打ち切りの宣言である。/岡本かの子が書きたかったのは小説だった。ひとりでせっせと勉強した。三年、五年たっても、思いどおりに書けない。(中略)昭和十一(一九三六)年六月、川端康成の推薦文つき『鶴の病みき』が「文学界」に掲載された。以後、堰を切ったようにして小説があふれ出る。(池内紀『文学フシギ帖・日本文学百年を読む』岩波新書P132より)

 小説デビュー作である『鶴の病みき』は、手元にある全集にも掲載されていません。芥川龍之介の晩年を描いた作品らしいのですが、まだ読んでいません。

◎パトロンとペット

『老妓抄』(新潮文庫)は、ひとりの老女のものがたりです。老妓「小その」は花柳界で苦労をして、一通りの蓄財を手にいれました。彼女は現代でいう定年後のサラリーマンのように、打ちこむべきものを失って、空虚感をいだいています。

 遠縁の娘・みち子を幼女に迎えたり、自ら稽古事をはじめたり、家に電化製品をそろえたりと、さまざまなことに熱中しはじめます。しかし老妓の心は満たされません。そんなとき電気屋の蒔田が、発明家志望の青年・柚木を連れてきます。老妓に新たな希望の火がともります。老妓は柚木のパトロンとなります。老妓は柚木の若い夢と情熱にほれこみ、生活の一切の面倒をみることを約束します。

 柚木は幸福な毎日を過ごすことになりますが、やがて老妓の期待にわずらわしさを覚えはじめます。次第に発明の夢がしぼみ、柚木は脱走を試みます。そのたびに老妓は、青年を連れ戻します。そして有名な歌を詠みます。

――年々にわが悲しみは深くして いよよ華やぐいのちなりけり

 この歌は、『老妓抄』の骨子ともいえます。さまざまな書評家が、この歌をとりあげています。老妓はペットのように青年を扱います。ひとつの人生の山を駆け上がった老妓は、山を下る寂しさを青年に託しました。それは岡本かの子、その人の人生そのままの世界でした。

『老妓抄』には、ほかに8篇が所収されています。岡本かの子作品の特徴として、なにかに没頭する人物へのこだわりがあります。『老妓抄』の柚木は発明、『金魚撩乱』の青年は最高の金魚作り、『家霊』の人妻は彫金に没頭しています。

 岡本かの子作品のもうひとつの特徴は、硬質な形容詞の多用です。『金魚撩乱』(「ちくま文学全集文庫037・岡本かの子」)には、つぎのような描写が登場します。

――万華鏡のやうな絢爛、波爛を重畳させつつ嬌艶に豪華に、また淑々として上品に

 この表現について石川淳は、「ふつうならばどうも、挨拶にこまるしろものである。しかし、それを他のどんな表現に置きかへて、より切実なることをうるか、初等技術批評を尻眼にかけて、何といっても、この一節は、精彩溌剌たる文章に相違ない」と記しています。(「国文学」昭和53年11月臨時増刊号より) 

 逃げる青年を追いかける老妓。それが喜びであり、生きがいでもあります。岡本かの子はあまり読まれていないようですが、『老妓抄』『金魚撩乱』『家霊』はぜひお読みいただきたいと思います。これらの作品を網羅しているのは、「ちくま日本文学037・岡本かの子」ちくま文庫)です。きっとすさまじい筆力に圧倒されることでしょう。
(山本藤光:2010.09.22初稿、2015.05.15改稿)





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最終更新日  2017年10月09日 03時09分22秒
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