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2015年05月17日
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ハーヴァード大の図像学者ラングドンはスイスの科学研究所長から電話を受け、ある紋章についての説明を求められる。それは十七世紀にガリレオが創設した科学者たちの秘密結社<イルミナティ>の伝説の紋章だった。紋章は男の死体の胸に焼印として押されていたのだという。殺された男は、最近極秘のうちに大量反物質の生成に成功した科学者だった。反物質はすでに殺人者に盗まれ、密かにヴァチカンに持込まれていた―。(「BOOK」データベースより)

ダン・ブラウン『天使と悪魔』(上中下巻、角川文庫、越前敏弥訳)
ブラウン・ダン:天使と悪魔.jpg

◎ラングドン・シリーズの第1弾

ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』(全3巻、角川文庫)は、世界で大ベストセラーになりました。もちろん私もたいへん楽しく読みました。しかしこの作品は、「ラングドン・シリーズ」の第2作にあたるものです。やはり順序よくシリーズの第1作から紹介すべきと思います。

ラングドン初登場の場面を、的確に紹介してくれている本があります。引用させていただきます。

――午前五時、宗教象徴学の専門家ロバート・ラングドンは電話で叩き起こされる。続いてファクシミリで送られてきた写真を見て、彼は一も二もなく出立を決めた。そこに写っていたのは、十六世紀に創設されたといわれる秘密結社イルミナティの紋章を胸に焼き印で刻まれた死体だったのである。差し回された専用機の行き先はスイスのジュネーヴにある欧州原子核研究機構(CERN)だった。そこで待ち受けていた物理学者マクシミリアン・コーラーは、ラングドンに驚くべき話を打ち明ける。(杉江松恋『海外ミステリーマストリード100』日経文芸文庫より)

ラングドンの専門である「宗教象徴学」について、解説が必要だと思います。引用させていただきます。

――絵画や彫刻、建造物などの芸術作品には、往々にして社会的な意味や宗教的なメッセージが隠されているといわれるが、20世紀の美術史では、それらを読み解くことにより作品を生み出した社会や文化との関係を明らかにしていく学問が発達を遂げた。それがラングドン教授の専門分野である宗教図像解釈学である。(ダン・ブラウン研究会『ダン・ブラウン徹底攻略』角川文庫より)

「ラングドン・シリーズ」の第1作『天使と悪魔』(全3巻、角川文庫、越前敏弥訳)は、『ダ・ヴィンチ・コード』以上に迫力があります。この作品をおさえておくとシリーズの進化がわかり、もっと楽しいものになります。シリーズは第3作『ロスト・シンボル』(全3巻、角川文庫)まで邦訳されました。第4作はアメリカでも、まだ上梓されていません。

『天使と悪魔』の舞台はローマです。行ったことがありません。ただし作品のなかに登場する建造物は、どれも写真で眺めたことのあるものばかりでした。ダン・ブラウンは、ヴァチカンの地図上に十文字の線を引き、それぞれに4つの事件を重ねて見せました。科学の4つの元素・「土」「空気」「火」「水」が、事件の舞台を解くキーワードになります。事件そのものには、まったくリアリティがありません。それは『ダ・ヴィンチ・コード』でも感じたことと同じです。

ダン・ブラウンの優れたところは、臆面もなく歴史の謎を重ねる技術にあります。『天使と悪魔』でもとうに壊滅したと思われていた、「イルミナティ」が忽然とよみがえりました。イルミナティは、カトリック教会(ヴァチカン市国)の壊滅をねらう秘密結社です。

ダン・ブラウンはさらにこれでもかというように、現存する古い慣習まで素材にしてしまいました。次期教皇を選ぶコンクラーベは、一切の例外を認めない厳粛な行事として紹介されています。

ストーリーの滑りだしは先に引用したとおり、欧州原子核研究機構(CERN)で化学者が殺害される場面からです。そこからはとてつもない破壊力を有する、「反物質」が盗まれていることがわかります。

『天使と悪魔』は、ミステリー・エンタテイメント作品です。読者はこじつけっぽい謎解きを共有し、主人公とともに知恵を総動員しなければなりません。私の手元には、2000年発行の『海外ミステリー事典』(新潮選書)があります。ダン・ブラウンの名前は掲載されていません。デビュー作『パズル・パレス』の発刊が1998年(邦訳初出は2006年角川書店)ですので、当然かもしれません。

伝統的な料理に、現代風な素材を加える。さらに強烈なスパイスを加え、豪華なメニューをそえる。それで、ダン・ブラウンの新たな料理の完成となります。途中までは、舞台を変えただけで『ダ・ヴィンチ・コード』と同じじゃないか、と突っこみながら読みました。こんな感想をいだくのは、シリーズ第2作(『ダ・ヴィンチ・コード』)を先に読んでしまったからです。

しかし、後半のスリルとどんでん返しの連続は、私の満足中枢を刺激してくれました。本書を読みながら頭のなかで、私は大好きな北海道の地図を広げました。その上に、雪の結晶を乗せてみます。事件は札幌、函館、釧路、襟裳岬で起きます。屯田兵とアイヌの末裔が、新しい結社を組織します。ターゲットは道庁の赤レンガです。

ちまちま考えないで、幅広い舞台を思い描く。そこに歴史のポールを立てる。ポールには謎がなければなりません。先端にジャガイモの男爵や夕張メロンを、つけるのもいいと思います。ダン・ブラウンは読者に、そんな楽しみを教えてくれました。

◎『ダ・ヴィンチ・コード』『ロスト・シンボル』について

「標茶六三の文庫で読む400+α」では、『ダ・ヴィンチ・コード』をリストアップしていました。それを『天使と悪魔』に変更することにしました。やはり、ロバート・ラングドンは、第1作から読むべきなのです。これは角川文庫の責任でもあります。文庫化された年次をならべてみます。カッコ内はアメリカでの初出年です。私は『ダ・ヴィンチ・コード』を先に読んでしまったことを後悔しています。

2006.3『ダ・ヴィンチ・コード』(2003)
2006.6『天使と悪魔』(2000)
2009.3『パズル・パレス』(1998)
2012.8『ロスト・シンボル』(2009)
2012.12『デセプション・ポイント』(2001)

私は『ダ・ヴィンチ・コード・ヴィジュアル愛蔵版』(角川書店、2005年、4500円+税)を買い求めたほど、はじめて読んだダン・ブラウンにほれこみました。ヴィジュアル愛蔵版には、大好きなパリやロンドンの写真が豊富についていました。自分の目で見た建造物を思い出すのには、格好の「旅の案内書」でもあったのです。

『ダ・ヴィンチ・コード』の舞台はパリ。ルーヴル美術館館長の殺人事件から幕があきます。館長は孫娘にメッセージをのこしています。そこには「ロバート・ラングドンを探せ」と書かれています。警察に追われながら、真相にせまるラングドンは、やがて「聖杯」にたどりつきます。「聖杯伝説」については、あらかじめ予備知識があった方がよいと思います。引用しておきます。

――聖杯伝説:キリストが最後の晩餐に用い、アリマタヤのヨセフが十字架のキリストの血をうけブリタニアにもたらしたという聖杯を、騎士たちが求める物語。(「広辞苑」より)

『ロスト・シンボル』は、ラングドンの友人が誘拐されるストーリーです。彼は友人の身柄と交換に、フリーメースンの秘密を解明するようもとめられます。タイムリミットは12時間です。フリーメースンについては、すこしだけ説明が必要でしょう。

――フリーメーソン:アメリカ・ヨーロッパを中心にして、世界中に組織を持つ慈善・親睦団体。起源には諸説があるが、18世紀初頭ロンドンから広まる。貴族・上層市民・知識人・芸術家などが主な会員で、理神論に基づく参入儀礼や徒弟・職人・親方の三階級組織がその特色。普遍的な人類共同体の完成を目指す。モーツアルトの歌劇「魔笛」などで知られる。(「広辞苑」より)

とにかく「ラングドン・シリーズ」を、むさぼるように3作ペロリとたいらげてしまいました。先に引用した杉江松恋にいわせれば、『デセプション・ポイント』(上下巻、角川文庫)はとてつもなくおもしろいようです。第4作の上梓までに、こちらも読んでみようと思っています。
(標茶六三:2008.06.01初稿、2015.05.16改稿)






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最終更新日  2015年11月02日 06時02分13秒
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