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2015年05月18日
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カテゴリ: 国内「さ」の著者
日本人が忘れてしまった「日本」をその著作に刻みつづけた民俗学者、宮本常一。戦前から戦中、高度経済成長期からバブル前夜まで日本の津々浦々を歩き、人々の生活を記録、「旅する巨人」と呼ばれた宮本の足跡を求め、日本各地を取材。そのまなざしの行方と思想、行動の全容を綴った。宮本が作りあげ、そして失われた「精神の日本地図」をたどる異色ノンフィクション。(「BOOK」データベースより)

佐野眞一『宮本常一が見た日本』(ちくま文庫)
さの佐野眞一:宮本常一が見た日本.jpg

◎芋と海人に

 日本のノンフィクション作家の代表格といえば、佐野眞一というのが定番でした。ところが週刊朝日の橋下徹特集記事問題でミソをつけてしまいました。いつも楽しみに読んでいた「テレビ幻魔館」(「ちくま」2013年3月号)の連載55回には、「しばしのお休みを」とのタイトルがありました。そして次のように書かれていました。

――今回で休載としたのは、昨年秋の「週刊朝日」連載中止問題などのけじめをつけ、少しゆっくり考える時間を持ちたいと思ったからである。/返す返すも残念だが、開けない夜はない。それまでしばらくの休載をお許し願いたい。(本文より)

 休載は仕方がないとしても、それまでの業績をないがしろにするわけにはいきません。佐野眞一の著作の代表を、紹介させていただきます。

 宮本常一の代表作『忘れられた日本人』(岩波文庫)は、「山本藤光の文庫で読む500+α」で、別途紹介しています。佐野眞一は以前、『旅する巨人・宮本常一と渋沢敬三』(文春文庫)を上梓しています。今回紹介させていただく『宮本常一が見た日本』(ちくま文庫)は、そのなかから宮本常一の部分だけを抜き出し、大幅に筆を加えた著作です。

――宮本は七十三年の生涯に合計十六万キロ、地球をちょうど四周する気の遠くなるような行程を、ほとんど自分の足だけで歩きつづけた。(本文P11より)

――宮本は民俗学に軸足を置きつつも、「学問」の世界だけで自足できる男ではなかった。宮本はあるときは卓越した農業技術指導者であり、あるときは離島振興に情熱を傾ける傑出したオルガナイザーだった。(本文P11より)

 このように冒頭から、宮本常一像をくっきりと浮かびあがらせてくれます。佐野眞一の筆は熱い。『旅する巨人・宮本常一と渋沢敬三』を読んだときに、抑制をきかせた文章だと思いました。ところが本書には、ほとばしる情熱を感じました。宮本常一ブームが、ひそかにおきています。佐野は十分にそれを意識し、自らの足でさらなる宮本像に迫りました。

「ブリタニカ国際大百科事典」では、宮本常一と柳田國男についてこう書かれています。

――日本各地を広く調査してまわりおもに離島や山林に暮らす人々、定住しない人々など、表だって語られることのなかった庶民の生き方を対象に研究して、柳田の水田農作民中心の視点と対比された。(「ブリタニカ国際大百科事典」より)

 この点に関して、佐野眞一は次のように書いています。

――稲作と山人にこだわった柳田國男に対し、宮本は芋と海人に自分の学問的基礎を置いた。(本文P98より)

 実に簡単な記述ですが、この言葉のなかに本書のコンセプトが凝縮されています。宮本常一は、民俗学の先達である柳田國男(推薦作『口語訳・遠野物語』河出文庫、佐藤誠輔訳)とは、まったく異なるフィールドにせまります。宮本常一は自らの足で、新たな世界を構築してみせたのです。そのあたりについて、佐野眞一はさらに言葉を重ねます。

――柳田國男の民俗学は、個別の伝承者に頼りながら、「治者」のまなざしからくるヒエラルキーの序列によって結果的に個を消去し、具体的な土地にすがりつつ、それを日本一般に昇華し普遍化するのに急なあまり、個別の地域性をネグレクトする結果に終わった。これに対し、宮本民俗学は地域の生活と個のライフヒストリーを最重視した。(本文P302より)

 この文章は、宮本常一のすべてを物語っています。佐野眞一のノンフィクション著作は、旺盛なフィールドワークによってまとめあげられています。佐野が尊敬してやまない宮本常一の世界を、彼は具現化しているのです。

◎宮本常一ブームがおきている

 確かにいま、密かな宮本常一ブームがおきています。あの司馬遼太郎も、宮本常一を尊敬していた一人です。

――宮本を敬愛してやまなかった作家の司馬遼太郎は、宮本を称して次のように述べている、〈宮本さんは、地面を空気のように動きながら、歩いて、歩きさりました。日本の人と山河をこの人ほどたしかな目で見た人はすくないと思います〉(本文P12より)

 私の手元にある切り抜き「佐野眞一が柴田秀利を語る」のなかに、宮本常一についてふれている箇所があります。宮本常一と佐野眞一との出会いとして、きわめて重要な文章です。ただしこの切抜きには、日付が記されていません。

――私は13の時に宮本常一の『忘れられた日本人』を読んで感動したという話を何回もしたことがあります。私が13の時というと安保闘争、昭和35年、1960年でした。世の中物情騒然としている、政治の季節。それからもう一方では、同時に高度経済成長の時代が始まっている、家電製品がどんどん入ってくる、テレビがはいってくる、電気冷蔵庫、洗濯機が入ってくる、つまり政治と経済が一緒にやってきた季節だったわけです。世の中泡立つような時代だった。
 そうした時代に背を向けて四国の山奥でたった一人で盲目の博労の話を聞き取っているオヤジがいる。あるいは対馬の海っぺりにいて、開拓漁民といいますが、一つの漁村を開いたじいさんの話に耳を傾けているオヤジがいる……この姿に私は感動しました。非常に孤独な背中、その姿に感動したんだとおもいます。(東京国際ブックフェアでの講演採録より)

 佐野眞一の丹念な取材力には、いつも驚かされます。私は『旅する巨人・宮本常一と渋沢敬三』(大宅壮一ノンフィクション賞、文春文庫)を、「山本藤光の文庫で読む500+α」に選んで準備をしていました。しかし『宮本常一が見た日本』が待望の文庫化されましたので、迷うことなくこちらを推薦本とした次第です。

 まずは本書にふれ、未読の方はぜひ宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫)を手にしてもらいたいと思います。きっとあなたのなかで、なにかが動きだすはずです。
(山本藤光:2010.07.15初稿、2015.05.18改稿)





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最終更新日  2017年10月12日 03時26分42秒
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