松阪市の学習塾・双葉

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2006.11.27
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カテゴリ: 保護者&生徒へ
れいめい塾の日記から転載(一部改変)

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Aはとりあえず合格した。しかし彼女がウチの塾で過ごした約9ケ月は彼女にとっても俺にとっても、決して安閑としていられる一瞬はなかった。まず、彼女の高校は進学校ではないことがあり、どうしても高校のカリキュラムとは別にウチの塾の課題をこなす必要があった。次に、やはり彼女が推薦で高校に合格している経緯もあり、今イチ「努力する」という行為が彼女の行動とは遊離していた。分かりやすく言えば、彼女の努力とは所詮ウチの中3の努力と同等かそれ以下のものであり、こんな彼女に「努力する」というお題目を垂れるのは甚だ説得力に欠けていた。「あの時のようにやればいい」には過去の体験に基づく具体性があるが、「こんなふうにやるんや」では心意気は伝わるものの具体性に欠けていた。説教されればしおらしく頭を垂れるが、その賞味期限もたかがしれていた。

そんなAが当初の本命ではなかったにせよ、医科大学に合格したのは単なる僥倖ではなかった。確かに彼女は努力した。今までの人生では想像だにできなかった世界に足を踏み込んだと思う。しかし、その過程において彼女の本質を垣間見てしまうのだ。講師の授業をよく休む。そして、そのことに対して悪気が感じられない。無垢の馬鹿・・・。ゆえに言った、「オマエはさ、講師の先輩連中をすっぽかして平気なんや。そんなオマエが看護なんて職業を選ぶってのが俺、許せへんねん。患者さんを、人間を看取るだけの器量が今のオマエにはないんや」 そんな時の彼女は泣くだけだった。なぜ泣く? 心底相手に申し訳ないと思っているんだろうか。俺には、自分が怒られているから泣いているとしか思えなかった。それからも講師たちは待ちぼうけを食らうことになった。しかしそれ以上Aの人間性に言及する暇はなかった。なにしろ受験が迫っていたのだ。

Aが合格を母親と報告しに来た時に素直に喜べなかったことを覚えている。俺としてはまだ旅の続きだった。ひと段落がつき俺は提案した。どうしてのこだわっちまう旅の続きだった。「とりあえず良かったら明日からウチでバイトしてくれ」「えっ! ・・・何を教えれるかな、数1か数Aなら・・・」「アホ、俺はそんなに自暴自棄じゃねえよ。実はさ、ウチの小6でセントを受ける生徒がおるんや。こいつがおとなしくて中3と話もしないし質問もしない。先輩として『何か分からん問題ないの』なんて感じで中3からアプローチしてほしいけど、中3もそこまで頼りがいがあるわけじゃない。そこでな、オマエが小6の担当をする。どうや、少なくとも高校数学よりは簡単や。だけどな、高校数学より遥かに難しい。それはな、生徒に対する愛が要求されるからや」

Aはその小6が何曜日に来るのか尋ねた。その頃は毎日のように来ていたが、とりあえず火曜・木曜・土曜でAに振ってみた。「分かりました、じゃあ木曜日に来ます」 俺は旅の続きをやらかすことになった。Aは合格したが、人格的に俺の基準を到底満たしていなかった。勝負はこれからだった。Aは高3からウチの塾に入ったこともあって、人格形勢よりも実力形勢の方が優先された。しかし大学に合格したことで残るは人格、先輩を先輩とも思わない、自分だけの気分で自分の都合のいいように解釈していく性格を叩き潰さなければならなかった。

俺は小6に嬉々として喧伝した。「明日から大学に合格した姉ちゃんがオマエの面倒を見てくれるからな。分からないことは何でも聞け」 小6の生徒はいつものように静かに頷いた。そして12月18日、小6は珍しく午後11時まで塾に残っていた。たまに視線が教室内を彷徨っていた。それを見るにつけ、俺は申し訳なくて唇をかみ締めていた。Aは来なかった。高校生のころ、授業を欠席した時と同じように一切の連絡もなかった。

「お久しぶりです」と言ったAに俺は二の句が告げなかった。男だったらノータイムでぶん殴っていたはずだ。「ああ」と曖昧に返事をする俺にAはたたみかけた。「先生、年末は来れなくてすいませんでした。あの小学生の子は?」「ああ、合格したよ。今日が合格発表や」「それはおめでとうございます」 なにしろ階段での会話、俺は適当な話をでっち上げその場を離れた。塾をやっていて一番落ち込むのがこんな時、正真正銘の馬鹿を育てた時だ。成績が悪くとも人間的に賢い奴はたくさんいる。しかし成績はそこそこ良かっても、大学に合格しても、人間的な意味で馬鹿を育てちまうと俺は自分の商売にプライドが持てなくなる。Aは午後11時まで自分を待っていた小6の女の子の気持ちを考えたことがあるんだろうか。人の気持ちが斟酌できなくて、看護なんて職業ができるんだろうか。

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Last updated  2006.11.27 18:18:06
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