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ピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスが母国ノルウェイの作曲家ガイル・トヴェイトの作品を取り上げた一枚。彼がこの作曲家を取り上げた理由は、重要でありながら演奏機会が少ないからだという。トヴェイトはグリーグの系譜にあり、バルトークやフランスのドビュッシー、ラヴェル、ロシアのストラヴィンスキー、プロコフィエフなどの影響を受けている。そのため親しみやすさはあるが、聴き手に寄り添う柔和な表情はあまり見せない。筆者自身まったく聴いたことのない作曲家だったが、AIに教わりながら聴いてみた。最も親しみやすい「ハルダンゲルの50の民謡」は、15曲が収録されている。短い曲が多く、同郷のグリーグとの親和性を感じさせるものもあるが、暗く厳しい表情の曲が目立つ。バルトークを思わせる瞬間も多い。フィヨルドで知られる西ノルウェーのハルダンゲル地方の民謡は、本来粗く唐突で時に荒々しく、トヴェイトはその生のエネルギーを持ち込もうとしているようだ。第11番のような強打が持続する曲にそれがよく表れている。そのため初めて聴く人にはなかなか馴染みにくいかもしれない。アルバム後半ではアンスネスの妹ソルヴェイグとの共演による歌曲が9曲収められている。ノルウェイの風土を背景にした硬質な叙情が魅力だ。ソルヴェイグの歌唱は透明でビブラートが少なく、まっすぐで伸びやかで心地よい。フォークやジャズとの親和性も感じさせる。トヴェイトの作品はシンプルで素朴な味わいと間の感覚を備えているところがユニークだ。メロディックで堅苦しさはないが、やや暗めの曲が多く、もう少し明るい作品も聴きたくなる。「Bera ei sorg」での突然のフォルテシモなどにトヴェイトの頑固な性格が表れているように思う。中ではMarskveld(三月の夕べ)のメロディックで静かな叙情が印象的だ。大曲ピアノ・ソナタ第29番「ソナテ・エテレ」は聴きごたえのある作品で、バルトークの影響が強い。「Sonate Etere(ソナテ・エテレ)」のエテレはエーテルを意味し、軽やかなソナタというニュアンスだ。しかし実際は重量感のある巨大な作品だ。このアルバムはヨーロッパおよび北米ツアーで本作を含むプログラムが好評を得たことから生まれたらしい。カーネギー・ホールでの演奏はニューヨーク・タイムズの「2025年のベスト・クラシック公演」に選ばれている。彼のピアノ・ソナタは30曲あったらしいが、この曲以外すべて火災で焼失した。この作品は出版のためNorsk Musikkforlagに送られていたため難を逃れた。アンスネスによれば、このソナタは「二つの単純な旋律を基に多くの変奏で築かれた巨大な作品」であり、「演奏は難しいが、その分大きな報いがある」という。この曲にもバルトークの影響が強く感じられる。演奏時間は約37分。第1楽章は不協和音を交えた東欧的旋律が現れるが、リズムは揺らぎ、時に加速や減速が生じる。力感に富む一方で、時折優しい表情ものぞかせる。強打が続く後半の持続力も見事だ。第2楽章は断片的でぶっきらぼうに聞こえる旋律から始まる。間を生かした音楽は東洋的な趣も感じさせる。第1楽章のクールさに比べ、温もりのある音楽だ。緩やかな部分と急速な細かいリズムが交互に現れる。形式感は希薄で、突然の盛り上がりや急な静寂が現れる気まぐれな楽章だ。終結部の途切れがちな響きが美しい。暗い表情で進む第3楽章「脈動のテンポ」は、鼓動のように伸縮するテンポを指す。この楽章も力強くピアニスティックだが、持続するエネルギーを表現するには大変な力業が必要だ。断続的に続く長い休符を伴う終結部も残響が美しい。残響を聴かせるユニークな作品。ピアノのサウンドは艶があり、低域の量感も十分で優れた録音だ。トゥッティでも混濁せず、余計なことを気にせず聴けるのもありがたい。初めて聴く作曲家だったが、やや硬質な響きの中にも思いのほか魅力があり、アンスネスの演奏の良さも相まって、この作曲家の個性が無理なく伝わってきた。Leif Ove Andsnes:Geirr Tveitt(Simax PSC 1429)24bit 96kHz FlacGeirr Tveitt(1908–81):1. ピアノ・ソナタ第29番 Op.129 第1楽章 In cerca di – Moderato(探求して/モデラート) 第2楽章 Tono etereo in variazioni(幽玄の旋律による変奏) 第3楽章 Tempo di pulsazione(脈動のテンポ)4. Fifty Folk Tunes from Hardanger, Op. 150 第25番 The Call of the Dairy Maid(乳搾り娘の呼び声) 第39番 Visiting Saturday in the Mountains(山の土曜の訪れ) 第10番 What Beer!(なんというビール!) 第41番 Stave Church-chant(スターヴ教会の聖歌) 第19番 Fare Thee Well(さらば) 第6番 Welcome in the Bridal Farm(花嫁の農家への歓迎) 第27番 Langeleik Tune(ランゲレイクの旋律) 第49番 Consecration of the New Beer(新しいビールの奉献) 第2番 Flute Sound(フルートの響き) 第11番 God’s Goodness and God’s Greatness(神の慈悲と偉大さ)14. Vi skal ikkje sova bort sumarnatta(夏の夜を眠って過ごしてはならない)15. Nordlysun(オーロラの太陽/北の光)16. Bera ei sorg(悲しみを背負う)17. Mjukt skjer åra(柔らかく櫂が水を切る)18. Det stusslege romet(みすぼらしい部屋)19. Svara meg, mi harpe(答えておくれ、わが竪琴よ)20. Kveld i sundet(海峡の夕べ)21. Marskveld(三月の夕べ)22. Knust korn(砕かれた穀物)Leif Ove Andsnes(p)Solveig Andsnes(s track14-22)Recorded 2023,Sofienberg Church, Oslo, Norway
2026年04月30日
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狭間美帆が音楽監督を務めているデンマークのビッグバンドを指揮した新作「Frames」を聴く。サドジョーンズを特集した前作はあまり聴きこんでいなかった。全6曲すべてが書き下ろしで、隙のない緻密な作品が並んでいる。このアルバムに付いて彼女はこう語っている。「このプロジェクトは、Danish Radio Big Bandと歴代の首席指揮者たちの遺産を振り返るものです。私は彼らの作品を研究し、その考え方を自分の作曲に取り入れることで、この歴史に静かに敬意を表す新しい組曲を書き上げました。直接的なオマージュではなく、コペンハーゲンに根ざしながら進化を続けるオーケストラの声の延長としての作品です。」とのこと。wikiに歴代の指揮者の名前が載っている。サド・ジョーンズやボブ・ブルクマイヤーなどの名前もある。狭間はこのビッグバンドの8代目の指揮者で、Ole Kock Hansenの9年に次いで、今年で7年目と長期にわたっている。それだけ評価されているということだろう。出来れば歴代指揮者の録音を聴き、どの曲が誰へのオマージュか分かればよいのだが、そこまでは出来ていない。曲毎のコメントは発表されていないようだが、分厚いハーモニーとノリの良い曲調で、自然に耳に入ってくる。前作「Live Life This Day: Celebrating Thad Jones」ではオーケストラも入っていて、響きがやや整理されない場面もあり、個人的には中途半端な印象があった。今回はビッグバンドのみなので、彼女の真価が発揮されていると思う。「And the Door Unsealed」はイントロに相応しい、溌溂として勢いのある演奏。ロック的なエレキ・ギター・ソロでムードが一変するのも鮮やかだ。3つの短い音符から始まる「Rodo」は、けだるい中近東的なムードを漂わせたリズムとヴォイシングで、砂漠の風景を想起させる。特にバスクラリネットが効果的だ。テーマは何故か日本を連想させる優しい曲想。ソプラノのソロを経て、トロンボーンのグリッサンドから一転してテンポアップ。トランペットの高域中心の豪快なソロ、音を割った荒々しいトロンボーン・ソロなどにより、前半ののどかな風景が一掃される見事な展開だ。くすんだチェレスタのようなサウンドから始まる「Lulu」。フルーゲル・ホーンのソロで安らぎに満ちた時間が流れる。ベースの重厚なソロも聴き物だ。いきなりテュッティから始まる「The Pioneer's Quest」。Pioneerは単数形なので、歴代の指揮者の誰かを指すのだろうか。速めのテンポでぐいぐいと進む推進力のあるアンサンブルが続く。このアルバムで目立つトロンボーン・セクションの柔らかなハーモニーも心地よい。トランペット・ソロのバックでのピアノとギターのユニゾンのコンピングも印象的だ。ドラムソロのあと、セクションが目まぐるしく変わる展開も聴きどころ。ただしエンディングが盛り上がらないまま終わる点はやや物足りない。「Aura II」は速めのテンポながら、このアルバムで唯一リリカルな曲調のナンバーだろう。ピアノのアルペジオに乗ってチューバがソロを繰り広げるのが印象的だ。アルペジオがギターに移り、フルーゲルのソロへと展開する。後半ではクラリネットのソロが大きくフィーチャーされ、エリントンを想起させる。終盤のクラリネット、バスクラリネット、フルートによる柔らかなアンサンブルも印象的だ。ピアノ単音によるエンディングも洒落ている。最後の「The First Notes」は軽快なテンポでコミカルなテーマが流れる。ソプラノ・サックスを中心としたヴォイシングも曲想に合っている。トロンボーンの柔らかなソロも充実している。続くフルート・ソロも熱演。短い間隔で楽器が目まぐるしく入れ替わる展開を楽しむべき曲だ。全体としては一つの組曲のような構成で、エリントンの組曲を思わせる重量級のアルバムである。構成が複雑な曲が多く、何度か聴くとそのたびに新たな発見がある。彼女が着実に発展している様子がうかがえ、非常に喜ばしい。現時点での彼女の最高傑作と言っても過言ではないと思う。なお、8/20にBBCのプロムスの一環としてマイルス・デイヴィスの生誕100周年記念のコンサートが、「Owl Song」などで知られるトランペットのアンブローズ・アキンムシーレのカルテットとBBCコンサート・オーケストラを迎え、狭間の指揮で開催されるようだ。BBC TVおよびBBC iPlayerで視聴できるようだが、対象はイギリスのみなので、日本からVPNで視聴するのは難しそうだ。音声のみであればインターネットラジオradio 3で聴くことができそうだ。狭間美帆:Frames(Edition Records EDN1296)24bit 96kHz Flac1. And the Door Unsealed2. Rondo3. LuLu4. The Pioneer's Quest5. Aura II6. The First Notesデンマークラジオ・ビッグ・バンド挾間美帆録音:2025年11月18日~21日、コペンハーゲン、ヴィレッジ・スタジオ
2026年04月27日
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アリソン・ロギンス・ハルAllison Loggins-Hull がクリーブランド管弦楽団のレジデント・コンポーザーを務めていた時代の作品を集めたアルバム。クリーブランド管が存命作曲家のポートレート盤を出すのは約100年ぶりという特別企画だそうだ。ポストミニマル風の語法に、コープランドやアイブズを思わせる響きが交じる、いかにもアメリカ的で分かりやすい音楽。管が優勢なオーケストレーションもあり、現代の吹奏楽を思わせ、なかなか楽しめる。アリソン・ロギンス・ハルはフルート奏者でもあり、ニューヨークを拠点に活動している。作曲だけでなく、教育やアウトリーチにも積極的だという。このアルバムの目玉「Grit. Grace. Glory.」は、レジデンシー最後の作品。タイトル通り、粘り強さ、品格、栄光という、クリーヴランドの人々と歴史に触発された音楽的物語だ。第1楽章「Steel(鋼)」は鉄を象徴に、地下鉄や産業を通じた強さ・自由・連帯を描く。第2楽章「Shoreline Shadows(湖岸の影)」は、クリーヴランド芸術学校の学生作品の視点を取り入れ、都市の影と再生を表現する。第3楽章「Quip」は、クリーヴランドの人々の謙虚さと機知を軽妙に示し、第4楽章「Ode」は原点回帰とロックンロール発祥の地へのオマージュとして、ロック的高揚で締めくくられる。※1952年、クリーヴランドで開催されたMoondog Coronation Ballが最初のロックコンサートと言われている。第1・第2楽章は切れ目なく演奏される。第1楽章は、地下鉄の情景や全米第3位の鉄鋼メーカーであるクリーブランド・クリフスの工場を思わせる要素が入り混じる。一方で、古きのどかなアメリカの風景を想起させる場面もある。トランペットのコラール風旋律が印象的だ。第2楽章は、遠くで何かが鳴っているような心象風景的サウンドが広がる、暗く不気味な音楽だ。ローブラスの4分音符と打楽器の8分音符2つの動機が不気味さを強める。木管のモチーフが浮遊感を与える、不思議な楽章だ。第3楽章は一転して、陽気で弾むリズムの音楽だ。弦とピッコロの掛け合いに続き、ホルンの持続音とトランペットの刻みが展開する。木管の細かく独特なリズムが印象的だ。明るいがどこか影を帯びている点が興味深い。第4楽章は、賛美歌を思わせる清新な弦合奏で始まる。全体として明るいとは言い難いが、次第に活気を帯び、スネアの細かいリズムから一気に盛り上がる。ただしクライマックスの作り方がやや弱く、不発気味に終わるのが惜しい。「Can You See?」は、ニュージャージー交響楽団の委嘱による小編成作品を大オーケストラ用に改作したもの。脈絡なく現れる太鼓が全体を支配する。暗い色調の中、海猫の鳴き声を思わせるクラリネットのグリッサンドや、反復される太鼓のリズムがコラージュ的に現れる。作曲者の心象風景のような、不思議な音楽だ。アメリカ国歌が用いられているようだが、筆者には判別できなかった。冒頭の「Legacy」は弦楽六重奏。レガシー継承のためのコミュニティ活動で用いられた音楽で、ウクライナの民族楽器バンドゥーラやブルース、現代的弦楽書法などの要素が取り入れられているという。ただし現時点では、具体的にどの部分に反映されているかは判別できない。演奏はいずれも高度にコントロールされており、クリーブランド管の精緻な響きが堪能できる。とりわけ木管のクリアなアンサンブルが印象的だ。この楽団特有のオーボエの音色も健在だ。Allison Loggins Hull:The Cleveland Residency(Cleveland Orchestra)24bit 96kHz FlacAllison Loggins-Hull :1. Legacy(2024)2. Can You See?(2023)3. Grit. Grace. Glory. I. Steel II. Shoreline Shadows III. Quip IV. OdeThe Cleveland OrchestraFranz Welser-MöstRecorded August 13, 2025(Legacy),May 4 & 6, 2023(Can You See?),May 8–10, 2025(Grit. Grace. Glory. )Mandel Concert Hall、Severance Music Center
2026年04月24日
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カナダのピアニスト、ブライアン・ディッケンソンによる秋を題材としたアルバム。spotifyでちょい聞きして気に入ったのでbandcampから購入。全てカナダのミュージシャンで固められていて、ドラムスが入っていないため、ジャズというよりはクラシックよりの室内楽という感じがする。ディッケンソンはビル・エヴァンス系のリリカルな演奏を特徴とするピアニストとのことだが、筆者は初めてお耳にかかった。序奏の「Autumn Glow」(秋)から「October Songs」を経て「Spring Sprung In」(春)へと季節の移り変わりが描かれている。気分が一貫していて、ストーリー展開も悪くない。こういうクラシックとジャズのミュージシャンが演奏するときに感じる気まずさはなく、その点は大変うまくいっていると思う。最後のウォルトンの「Touch Her Soft Lips and Part」が入っている意図はよくわからないが、曲想が秋を感じさせることから来ているのかもしれない。ウォルトンの音楽は「アジャンクールの戦い」前夜のイングランド兵士の心情をうかがわせる場面で使われており、このアルバムの気分とあっている。Jim Vivianのベースソロがいい。音楽がやや饒舌で、原曲の静かな気分が損なわれている印象は残る。総じて、弦がもう少し抑制されていれば、アルバムの“秋的・内省的な気分”はより純度高く出た可能性は高い。例えばクロノスカルテットだったら、大部分が異なっていたと思われる。 Kelly Jeffersonのアルトサックスも音が太く、曲想とはあまり合っていないように感じる。もう少し細くリリカルなサウンドの方がよりマッチしていた気がする。録音はトロントのインセプションサウンド。写真を見ると狭めの空間での近接マイク録音と思われ、リバーブは後付けだろう。そのため奥行きが感じられず、平面的なサウンドになっている。通常のホール録音であれば、このアルバムの意図はより明確に表れたはずで、惜しい。全体に歪みっぽいのも、印象が良くない。ということで、演奏は優れているが、録音がそれを妨げているという皮肉な結果になってしまった。ミキシングをやり直せば、印象は大きく変わると思うので、次回のリマスターに期待したい。結局いろいろ不満を書いてしまったが、音の状態を除けばアルバムとしての完成度は高い。小音量で聴くと、このアルバムの良さが引き出されると思う。Brian Dickenson:October Songs(Cellsr Live CM041026)24bit 96Hz FlacBrian Dickinson:Autumn GlowOctober Songs Pt. 1October Songs Pt. 2October Songs Pt. 3Spring Sprung InWilliam Walton:Touch Her Soft Lips and Part(映画『Henry V』より)Piano:Brian Dickinson(p)String Quartet:Penderecki String QuartetKelly Jefferson(sax)Jim Vivian(b)Recorded at Inception Sound, Toronto on May 6th and 7th 2025
2026年04月22日
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レ・メタボルズというフランスの合唱団がラヴェルの管弦楽や歌曲を無伴奏合唱で歌ったアルバム「Singing Ravel」を聴く。最初に聴いたときはとても面白く、すぐに入手した。ただ、何度か聴いているうちに、その押し出しの強さが少し気になるようになってきた。熱のこもった演奏ではあるのだが、クールなラヴェルの作風とは少し合わないようにも感じる。繊細さがやや後退し、場面によっては少し力みすぎているようにも思える。合唱としての実力は十分に感じられるが、表現意欲が前に出すぎて、作品本来の魅力が少し薄れてしまっている印象だ。もう少し肩の力を抜いてもいいのでは、と思う。各声部6人とのことだが、女声の圧がかなり強く、男声がやや控えめに聞こえるのも気になるところだ。ダイナミクスの幅もやや狭く感じられる。特に気になるのはフレージングの唐突さで、そこで音楽の流れが途切れてしまう。いちばんしっくりくるのは、原曲そのままの「ア・カペラ合唱のための3つの歌」だろうか。「ニコレット」と「ロンド」は彼らの音楽性にも合っていて、聴いていて自然と楽しくなってくる。編曲は4人が担当しているが、ラヴェルらしさをいちばん感じさせるのはクリトゥス・ゴットヴァルトで、次いでティエリー・マシュエル。ゴットヴァルトはクラスター的でビブラートを抑え、持続音を大切にしている。ラヴェル特有のひんやりとした響きもよく出ている。「マ・メール・ロア」の2曲を編曲したマシュエルは、音に透明感があって好印象だが、終曲「妖精の園」の終わり方は少し頑張りすぎのようにも感じる。そこまで強調しなくてもいいのでは、と思ってしまう。ラヴェルにはあまり汗っぽさは似合わない。これは編曲というより指揮者の解釈による部分かもしれない。歌劇『子供と魔法』の「さらば、羊飼いの娘たちよ」(ティボー・ペリーヌ編)は太鼓が入り、古風で牧歌的な雰囲気があって悪くない。イントロのフラッター・タンギングも効いている。「魔法の笛」や「鐘の谷」はあまりなじみがないせいか、違和感なく聴くことができた。いずれも素直に楽しめる出来だと思う。いくつかの曲ではソロもあり、とくにソプラノがよく目立つ。声量もあり、推進力のある見事な歌唱だが、バックとのバランスを含め、少し歌いすぎかなと感じるところもある。これも指揮者の解釈によるのかもしれない。「ボレロ」は楽器の音を模した工夫がいろいろあって面白いが、音楽そのものよりも演奏者の個性が強く出ているのが気になった。思い出すのは同じフランスの合唱団Accentusの「ボレロ」で、機械的な正確さを保った見事な演奏だった。やはり何事もやり過ぎはよくない、ということかもしれない。なお、「ア・カペラ合唱のための3つの歌」と「ボレロ」のあとには拍手が入っているので、少なくともこの2曲はライブ録音だと思われる。ほかの曲についてははっきりしない。録音はかなりオンマイクで迫ってくる感じで、それも違和感の一因かもしれない。ということで、不満もいろいろ書いてしまったが、意欲的なアルバムであることは間違いない。感じ方は人それぞれだと思うが、一度聴いてみる価値は十分にあると思う。Les Métaboles:Singing Ravel(B Records LBM091)24bit 96kHz Flac1. 亡き王女のためのパヴァーヌ(ティボー・ペリーヌ編)2. 組曲『マ・メール・ロワ』 眠れる森の美女のパヴァーヌ(ティエリー・マシュエル編) 妖精の園(ティエリー・マシュエル編)4. ロンサールの己が魂に(ジェラール・ペッソン編)5. ステファヌ・マラルメの3つの詩~ため息(クリトゥス・ゴットヴァルト編)6. 歌劇『子供と魔法』~薔薇の芯よ(クリトゥス・ゴットヴァルト編)7. ア・カペラ合唱のための3つの歌 ニコレット 天国の美しい三羽の鳥 ロンド10. 歌劇『子供と魔法』~さらば、羊飼いの娘たちよ(ティボー・ペリーヌ編)11. 鏡~鐘の谷(クリトゥス・ゴットヴァルト編)12. 歌曲集『シェエラザード』 魔法の笛(ジェラール・ペッソン編) つれない人(ジェラール・ペッソン編)14. ボレロ(ティボー・ペリーヌ編)レ・メタボール(混声合唱/SATB各6名)レオ・ヴァリンスキ(指揮)録音時期:2025年3月10日録音場所:ラ・シテ・ド・ラ・ミュジーク、フィラルモニー・ド・パリ
2026年04月19日
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先ごろお亡くなりになったドラマーのアル・フォスターの、今のところのラスト・レコーディング「Live At Smoke」を聴く。Smoke Jazz Clubでのフォスターの82歳の記念公演だった。一番目立っているのはクリス・ポッターの圧倒的なパフォーマンス。どの曲も甲乙つけがたい圧倒的なパフォーマンスを繰り広げている。最近の充実ぶりを感じさせる、太く逞しいサウンドで聴き手を有無を言わせず納得させてしまうのには恐れ入る。昔の切れかかった演奏ではないが、コントロールの効いた演奏で安心感がある。最後のジョー・マーチンのオリジナル「Malida」のみソプラノ・サックスでのプレイ。「Old Folks」と「Everything happens to me」という二つのバラードが含まれているが、甘さ控えめの硬派のテナー・ソロが聴くことが出来る。特に「Everything happens to me」はワイルドなテイストで、なかなか珍しいアプローチ。ついでメルドーのピアノ。最近の録音は円熟味を感じさせるプレイが多くなったが、引き換えにかつての先鋭さは失われて、個人的には寂しいと思っていた。ところが、ここでは周りに触発されたのか昔の尖った演奏を繰り広げていて、とても良い演奏だった。「Everything happens to me」では、ポッターのプレイに触発されたのか、メルドーも甘いイントロと打って変わって、硬派なソロを展開している。Sonny Rollinsの「Pent-Up House」での、メルドー特有のごつごつしたタイム感覚のソロが刺激的だ。リチャード・ロジャースの「回転木馬」の一節が引用されている。彼らにこのようなプレイをさせているのは、無論リーダーのフォスターのプレイによるところが大きい。特別前面に出て来るわけではないが、曲によって最適なアプローチで彼らをプッシュしている円熟の技が味わえる。また、ジョー・マーティンの骨太で安定感のあるベースが音楽の土台をしっかりと固めて、安定間がある。彼の「E.S.P」での骨太のベース・ソロも素晴らしい。どのナンバーも楽しめるが、コルトレーンの「Satellite」がジャズの王道を行くプレイで特に気に入った。このクラブは収容人員が70-100人程度だというが、音だけを聴いているともっと小さい規模なのかと思ってしまう。クラブの天井が低く、 マイクが近いことや室内の残響が少なめなので、その影響も大きいようだが、ジャズを録音する場所としては申し分のない環境だろう。フォスターのドラムスのサウンドがヴィヴィッドでドラムスの皮の存在を感じさせ、実演を聴いているような錯覚さえ覚える。ということで80歳のミュージシャンのリーダアルバムとは思えない積極的なアプローチとフレッシュな音楽が楽しめるアルバムだ。このアルバムを聴くと、82歳とはいえ、もっともっと長生きして、演奏を聴かせてほしかったと思わずはいられない。Al Foster:Live At Smoke(Smoke Sessions SSR2506CD)24bit 96kHz Flac1. Chris Potter:Amsterdam Blues2. Brad Mehldau:Unrequited3. Wayne Shorter:E.S.P.4. Willard Robison / Dedette Lee Hill:Old Folks5. Sonny Rollins:Pent-Up House6. Al Foster:Simone’s Dance7. Matt Dennis / Tom Adair:Everything Happens to Me8. John Coltrane:Satellite9. Joe Martin:MalidaAl Foster(ds)Chris Potter(ts, ss)Brad Mehldau(p)Joe Martin(b)Recorded 2025,Smoke Jazz Club
2026年04月17日
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中国系アメリカ人のクレア・ファンチ(1990-)の女性作曲家の作品を集めたアルバム「Piao Heroine」を聴く。「神童」として早くから注目を集める存在で、2018年のゲザ・アンダ国際ピアノコンクール 優勝で一躍有名になったそうだ。ファンチはこれまでにも10枚ほどのアルバムをリリースしていて、ロマン派が中心で現代とバロックが少々といった感じだ。今回のアルバムは女流作曲家として有名な作曲家の作品を集めている。有名な作品ではないところが、みそのようだ。どの作曲家も最近有名になり始めている作曲家で、筆者は名前は知っているが作品はあまり知らない。というか、聴いてはいるのだが、あまり印象に残っていない、といったほうが正しいかもしれない。このアルバムは最近のトレンドであるコンセプト・アルバムで、コンセプトは女性作曲家の隠れた名作の紹介だろう。ただ、軽い作品が多く、アピール度も低く、隠れている理由が納得できる作品たちだ。聞きごたえはそれほどあるとは思はないが、ながらで聴いている分には新たな発見が得られ、そこから彼女たちの作品を知るきっかけになるだろう。ホガンチのピアノは、無理のないテンポ設定とフレージングで、音い潤いがあるので、今回のアルバムに収められた作品に向いたピアズムだ。特にファニー・メンデルスゾーンやクララ・シューマンの抒情性には非常に合っていて、シャミナードのピアノ曲との近似性を感じてしまう。クレア・ファンチは一寸感情をこめすぎることもあるが、いやらしさはないのがいい。また、時にエキセントリックになることもある。フレージングが一本調子で、フレーズが混み合うと音が濁る傾向がある。AIによると、この原因は、ペダリングの“保ちすぎ”のため和声が変わっても前の響きがにじみとして残る、内声処理がやや甘いため声部が“層”ではなく“塊”として聞こえる、打鍵が重いため和音が厚くなったときに飽和する、などが考えられるようだ。なので、 和声が厚いAmy Beach、やリズム+和声が重なるFlorence Priceでは濁りが顕著になるという傾向があるそうだ。なるほど筆者の感じたのはこれだったのかと思った。まあ、作品自体が軽い曲ばかりなので、突っ込みを入れるのは野暮かもしれない。全編ロマン派的なメンデルスゾーンやシューマンだけだと飽きてしまうが、後半アメリカ人作曲家の作品が入っていて、ピリッとしたところもあって、変化を感じさせるプログラミングだった。作品自体はクララ・シューマンの品位とスケールが突出していて、そのあとにメンデルスゾーン、ビーチが続く。ビーチの「幻想フーガOp.87」はブラームス的な重厚なつくりだが、肝心の主題がいまいちで、前述のように響きが濁ることがあるのが惜しい。「4つのスケッチ」Op.15はなかなか聴かせる。ブラームスの間奏曲を思わせる「秋に」、ローベルト・シューマンを思わせる「幻影」、「夢想」もシューマン的だが、どんよりと暗いムードで、 曲想の変わる中間部以降がなかなか味わい深い。光の点滅を思わせる細かい音符が続く「蛍」も悪くない。この組曲は今後弾かれる機会が増える気がする。最近録音される機会が急増しているフローレンス・プライスだが、埋もれていた作品が大量に発見されたことや、そこに新しいネタを探していたレコード会社が飛びついたこと、社会的な要請などがプチブーム?の理由に挙げられているようだ。個人的には黒人霊歌など生の素材が提示されることや、展開力に乏しいことで、何回か聴いているが未だに馴染めていない。素材自体の美しさがあまりないことも原因の一つだろう。このアルバムでは5曲が取り上げられているが、最初の2曲では印象は変わらなかった。ところが、次の曲からだいぶ印象が変わった。軽やかでヨーロパ的な洗練が感じられる「春の乙女のワルツ」が良かったが、ファンチの演奏が落ち着きがなく、曲の品位を落としているように感じられた。「あなたの手を私の手に」も「私」の気持ちがよく分かるような、優しさに溢れた佳曲。リズミックで楽し気に踊る情景が浮かぶような「コットン・ダンス」も楽しいが、リズムが重いのが足を引っ張っている。ということで、最近のトレンドにあった企画だが、演奏にも原因があるが、肝心の曲が弱く、埋もれていていた理由が分かる気がする。クララ・シューマンのスケールの大きさが際立ってしまったのは意外だった。Clair Huanguci:Piao Heroine(Alpha ALPHA1231)24bit 96kHz FlacFanny Mendelssohn(1805–1847)カプリッチョ ロ短調 H.349 第1曲 Andanteカプリッチョ ロ短調 H.349 第2曲 Allegro molto《四季(Das Jahr)》より 第2曲「2月:スケルツォ」《四季(Das Jahr)》より 第5曲「5月:春の歌」《四季(Das Jahr)》より 第6曲「6月:セレナード」《四季(Das Jahr)》より 第9曲「9月:川辺で」Amy Beach(1867–1944)幻想フーガ Op.87 第1曲 Allegro vigoroso幻想フーガ Op.87 第2曲 フーガ Allegro moderato孤独な母の子守歌 Op.108《4つのスケッチ》Op.15 第1曲「秋に」《4つのスケッチ》Op.15 第2曲「幻影」《4つのスケッチ》Op.15 第3曲「夢想」《4つのスケッチ》Op.15 第4曲「蛍」Clara Schumann(1819–1896):《音楽の夜会》Op.6 第2曲「ノットゥルノ」《性格的小品集》Op.5 第2曲「ボレロ風カプリス」《性格的小品集》Op.5 第4曲「幻想的情景(亡霊のバレエ)」ピアノ協奏曲 イ短調 Op.7 第2楽章「ロマンス」《音楽の夜会》Op.6 第6曲「ポロネーズ」Florence Price(1887–1953):幻想曲第2番 ト短調(Fantasie Nègre No.2)メディテーション春の乙女のワルツあなたの手を私の手にコットン・ダンスRecorded July 2025,Leibniz Theater, Hannover, Germany
2026年04月15日
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去年の秋ごろから体のかゆみが取れず、薬を変えたりしているが、症状はほとんど改善されない。日によっては、寝ている間もかゆくて目が覚めてしまうことが度々ある。医師の診断は乾燥肌とのことだが、そうだとすると秋の段階ではどうだったのかと疑問も残る。医師やAIからさまざまなアドバイスを受け、何とか改善しようとしている。風呂の温度が高いのはよくないと言われ、現在は39度に設定しているが、家族からは低すぎると文句を言われてしまう始末だ。塗り薬をほぼ全身に塗っているため、白い下着に色が付いてしまい、妻からも文句を言われている。長年愛用していた薬用石けんも脂分を取りすぎるとのことで、普通の石けんに替えた。体を洗うのも全身ではなく、脇の下やお尻、足などに限定するよう指示されている。また、高齢者は毎日入浴しなくてもよいという妻の助言に従い、今週からは一日おきにしている。そうこうするうちに、先週突然蕁麻疹が出てしまった。風呂に入ると症状が悪化するし、体を冷やしても、あるいは寝ていても悪くなるため、就寝中も体を温めすぎないよう気をつけているが、なかなか改善しない。蕁麻疹は出たり引いたりするものらしく、少し症状が和らいできたので、一週間ぶりにプールに行ってみた。水温は体温より低く設定されているためか、蕁麻疹が悪化することもなく、かゆみもあまり出なかった。プールを休んでいたことを悔やんでも後の祭りだが、これからはできるだけプールに通い、体を適度に冷やすようにしたいと思う。AIに聞いたところ、「あなたの場合、プールはかなり理にかなった対処法の一つです」とのこと。ただし、プールから上がったら保湿をしなければならない。これで何とか良くなればと思う今日この頃だ。
2026年04月13日
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グレゴリー・ハッチンソン(1970-)というドラマーによる、マイルス生誕100周年を記念したMiles Davisの演奏を再構築したアルバム。サブタイトルの「Pulse(鼓動)」が示す通り、ドラマー主導のマイルス解釈というもので、大変意欲的なアルバムだ。方向としては徒にオリジナルをいじるのではなく、あくまでもオリジナルを踏襲したアレンジで、大方の聴き手には抵抗の少ないものだろう。ギターは曲によって異なり、2人の曲と1人の曲があるが、いずれも効果的なパフォーマンス。ギター2本は「Fall」,「Feio」,「Bitches Brew」,「Black Comedy」の4曲で、「Water Babies」と「Circle in the Round」はJakob BroとEmmanuel Michaelがそれぞれ単独で参加している。面白いのは「ビッチェズ・ブリュー」以降の、いわゆる電化マイルス時代の作品。他のミュージシャンがあまり取り上げないこともあり、その意欲がよく表れた興味深い演奏が多い。「Feio」は「ビッチェズ・ブリュー」の1992年リイシューで追加された曲のようだ。オリジナルはエレピのノイズが多く聴きづらいが、今回の録音は演奏時間がオリジナルの半分以下。テンポはやや速めだが、原曲の雰囲気はよく出ている。「ビッチェズ・ブリュー」は原曲の混沌とした雰囲気がよく出ており、Ron Blakeのバス・クラリネットが原曲のイメージを想起させる好編曲。エレキ・ギターも効果的で、宇宙的な広がりを感じさせる演奏だ。惜しむらくは演奏時間が短いことだろう。「Circle in the Round」は、熱いエレキ・ギターのソロとクールなピアノ、忙しなく動き回るドラムスの対照が聴きどころ。ハッチンソンのオリジナルは3曲で、ドラムスをフィーチャーした短いトラックだが、マイルスのナンバーに挟まれても違和感は少ない。5曲目の「The Masters」はドラムスと打ち込みによる、やや毛色の異なるトラック。最後の「I'm Done」はセッション後の短いアウトロ的なトラック。ハードバップ時代の再現も雰囲気たっぷりで、そつなくこなしている。この点ではクレイトンのピアノが当時のスタイルに沿ったプレイで違和感がない。特にクインテット時代のナンバーでは、ハンコックを思わせるクールなプレイが印象的だ。このアルバムの主役であるトランペットのAmbrose Akinmusireは、結構音を外したりしているが、それがかえってマイルスのプレイに酷似していて微笑ましい。ハッチンソンのスタイルはトニー・ウイリアムスやエルヴィン・ジョーンズの系譜だが、重くならず小気味よいリズムを叩き出している。参考までに「Miles Davis Quintet 1965-'68」に収録されたオリジナルを聴いたが、今でも古さを感じさせない。特に電化マイルス時代のナンバーは現代の演奏を先取りしているかのようで、マイルスの先進性を再認識させる。こうした作品こそ、創造性のあるアルバムというのだろう。Gregory Hutchinson's - KIND OF NOW- Live From Jazz Cultural リーダー以外はメンバーは異なるが4/10に行われたばかりのクラブギグ。Gregory Hutchinson:kind of Now(Blue Note 659 6974)24it96kHz Flac1. Charlie Parker:Ah-Leu-Cha2. Miles Davis:Fran-Dance3. Wayn Shorter:Fall4. Wayn Shorter:Orbits5. Gregory Hutchinson:The Masters(Interlude)6. Wayn Shorter:Feio7. Wayn Shorter:Water Babies8. Lynn Speakman & Miles Davis:Seven Steps to Heaven9. Miles Davis:Bitches Brew10. Anthony Tillmon Williams:Black Comedy11. Gregory Hutchinson:Ellehcem's Time12. Miles Davis:Circle in the Round13. Gregory Hutchinson:I'm DoneGregory Hutchinson (ds)Ambrose Akinmusire (tp track 1-4,6-10,12,13)Ron Blake (ts, bcl track 1-4,6-10)Jakob Bro (g track 3,6,7,9,10 )Emmanuel Michael (g track 3,6,9,10,12)Gerald Clayton (p track 1-4,6-10,12,13)Joe Sanders (b track 1-4,6-10,12,13)Recorded 2024,NY
2026年04月11日
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山田和樹がバーミンガム市立交響楽団を指揮したウォルトンの2曲の交響曲と戴冠行進曲「宝玉と勺杖」を収めた一枚。山田初のグラモフォンからのリリース。グラモフォンではイギリス音楽のカタログ整備が十分でなかったため、近年はそれを補う形で散発的なリリースが行われている。その時もバーミンガム市響で、指揮は音楽監督であるミルガ・グラジニーテ=ティーラだったので、今回もバーミンガム市響によるイギリス音楽のプロジェクトの一つなのかもしれない。交響曲は構成感が希薄で(特に第2番)、AIによると格付けのためとされるが、あえて交響曲とした理由はよく分からない。全体に明快なサウンドで、やや軽量級だが、ウォルトンに必要な重厚さも十分。筆者はウォルトンの交響曲にあまりなじみがない。第1番は数枚所持しているものの、第2番は初めて聴いた。どちらも交響曲らしい構成感が薄く、管弦楽曲のように感じられる。特に第2番第1楽章は、イントロからジョン・ウィリアムズの音楽のような宇宙的な響きを思わせ、躍動的な部分も含めて、終始その性格が続く。第2楽章の「Lent assai」は穏やかな曲調に変わるが、宇宙のようなひんやりした雰囲気は保たれるが、途中から雰囲気が一変してサスペンス風になる。このあたりも実に映画音楽的だ。ホルンのソロで音がひっくり返る箇所があり、昨今のプロオーケストラでは珍しい。怪獣でも出てきそうな荒々しい主題で始まる第3楽章も、ドラマ的で映画を思わせる。パッサカリアと名付けられたこの楽章は、テーマと10の変奏、コーダから成る。テーマが旋律ではなくコードが鳴っているようなもので、のっぺりとして分かりにくく、しかもほとんど聞こえないため、通常のパッサカリアを期待すると裏切られる。上声部の変奏が動きが多く、騒がしく感じられるのも、分かりにくさの一因である。ただ、後半のフガートからは熱を帯びたダイナミックな展開で、実に聞きごたえがある。第1番は久しく聴いておらず、ほとんど初めてのように感じた。第1楽章は暗くラプソディ的な性格を持ち、時折ボロディンを思わせるエキゾチックな旋律が現れる。第2楽章はPresto con malizia(悪意をもって)と指定された速いスケルツォ風楽章。推進力があり、静かな部分でのひんやりした雰囲気も魅力的だ。参考として聴いたジョン・ウィルソン盤はメリハリや切れでやや優るが、金管の厚みはバーミンガムに分がある。後半5分20秒過ぎのホルンのトリルはバーミンガムの方が凄味がある。第3楽章はAndante con malinconia(憂鬱なアンダンテ)と記された楽章。唯一の緩徐楽章で、木管が美しい淡い色彩を生む。この交響曲は長年関係のあった年上のパトロン、アリス・ウィンボーンとの別れが反映されていると言われる。弦の嘆きのような長い旋律が抒情と孤独を表すが、作曲者の生々しい感情が強く、やや過剰にも感じられる。それまでの楽章は1934年に完成していたが、精神的行き詰まりにより第4楽章のみ翌年の完成となった。ここには苦悩から解放されたウォルトンの快活な側面が表れている。堂々とした導入に続き、弦によるフガートや蓄積されたエネルギーを一気に放出する中間部など、躍動的で魅力的な瞬間が続く。エンディングのテュッティは聴きどころで、最後はシベリウスの交響曲第5番を思わせる休止を伴う展開となるが、個人的にはややもったいぶった印象で、よりすっきり終えてほしいところだ。戴冠行進曲「宝玉と勺杖」は同種の「王冠」に比べると知名度は低いが、中間部の荘厳さと優美さは「王冠」を上回る感動的な音楽だと思う。今回の演奏は過度に劇的な表現を避け、曲に語らせる指揮だが、細部の動きはよく出ている。後半のアチェレランドはやや速すぎる印象で、エンディングももう少し堂々とした表現が望まれる。バーミンガム市響は軽快さと重量感を兼ね備えていて、特に木管、とりわけファゴットが印象に残る。ということで、上々の仕上がりで、今後のこの組み合わせでの録音が大いに期待出来そうだ。また、筆者もウオルトンの交響曲の面白さが少しは分かったかもしれない。Walton: Symphonies Nos. 1 & 2; Orb and Sceptre(DGG 4868227)24bit 96kHz FlacWiliam Walton:1.Orb and Sceptre (1953)2.Symphony No. 1 in B flat minor (1935)6.Symphony No. 2 (1960)City of Birmingham Symphony OrchestraKazuki YamadaRecorded: 2024-12-04(track 1,6-9)2025-11-06(track 2-5)Symphony Hall, Birmingham
2026年04月09日
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チリ出身のテナー・サックスのメリッサ・アダルナのブルーノート移籍第2弾「Fílín」を聴く。アダルナたっての希望で、キューバ出身のピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバと共演したキューバ・ナンバーを特集したアルバムだそうだ。ゴンサロは最近キューバ色の強いアルバムばかりで、個人的には不満だったので、喝を癒すことが出来て良かった。キューバの音楽を中心とした選曲だが、それほどローカル臭は感じられない、洗練された音楽。タイトルのFílín(フィーリン) は、英語のfeelingが語源で、キューバではこれがスペイン語風に変化して「感情・情感を大切にする歌のスタイル」を指す言葉だそうだ。Fílínは1940〜50年代のハバナで発展したボレロをベースにジャズの和声やニュアンスを取り入れた演奏スタイルで、親密で内省的、ささやくような歌、恋愛や孤独など繊細な感情をあらわすとのこと。このアルバムではフィーリンの代表的な作曲家のナンバーに一部ブラジルの作曲家の作品が(カルトーラ/パスコアール)が含まれた選曲。その名の通り声高に叫ばない静かな叙情を感じさせる曲が揃っている。サルダナのテナーは寡黙だがネットリしすぎていて、個人的にはもう少しさらっとやれないものかと思ってしまう。ジョー・ロバーノ+チャールズ・ロイドの太いが、ささくれ立ったサウンドを思い出してしまう。最近はジャズと言えど音が汚いとがっかりしてしまうのだ。ゴンサロは音数が少ないが、味わい深いプレイで、聴き手の心に染み渡る演奏だった。セシル・マクローリン・サルバントが2曲で参加している。以前のアダルナのアルバムでも共演していた。2曲ともバラードで、情感豊かなヴォーカルにうっとりしてしまった。特にブラジル・サンバの巨匠カルトーラの「Las Rosas No Hablan」の後半、それまでのソフトな語り口から一転、絶叫に似た歌唱に変わり、聴き手の心が鷲掴みにさせられるような感動的な演奏だった。陳腐な言い方だが南米の哀愁を感じさせる以前ケニーバロンの「Songbook」での彼女の「Song For Abdullah」の感動的なヴォーカルを聴き、感動してしまったことを思い出した。サルバントは以前のちょっと変わったテイストが影を潜め、正統的なヴォーカリストとして変貌しつつあることが分かる歌唱だ。現在聴き手を感動させる女性ヴォーカリストとして彼女をおいて他にはいないだろうと思わせる歌唱だった。このアルバムは今の季節ではなく、熱帯夜にクーラーを付けずに、汗をかきながら聴くのが相応しい、クールなアルバムのような気がする。結果的にキューバとブラジルの音楽の良さを再認識した次第。ゴンサロの参加したヘイデンの諸アルバムを無性に聞きたくなった。Melissa Adalna:Filin(Blue Note B0038791-02)24bit 96kHz Flac1.Salvador Levi:La Sentencia2.César Portillo de la Luz:Dime Si Eres Tú3.Marta Valdés:No Te Empeñes Más4.Frank Domínguez:Imágenes5.Cartola:Las Rosas No Hablan6.Hermeto Pascoal:Little Church7.José Antonio Méndez:Ocaso8.Frank Domínguez:No Pidas ImposiblesMelissa Aldana(ts)Gonzalo Rubalcaba(p)Peter Washington(b)Kush Abadey(ds)Cécile McLorin Salvant(vo track3,5)Recorded 2023 atSear Sound,New York,USA
2026年04月07日
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最近好調のグスタヴォ・ヒメネ指揮トロント交響楽団のバルトーク集を聴く。「中国人の不思議な役人」の全曲と「管弦楽のための協奏曲」という豪華な組み合わせに、カナダのエミリー・セシリア・ルベルという作曲家の小品が収録されている。普通ならCD二枚組でもおかしくない内容。ただしCDの容量の関係で、CDには短縮版(約9分)、配信ではフル版(約15分)が収められている。ブックレットによるとヒメノは「中国人」について、全曲版が演奏されることは稀で、その結果、重要な部分を含む3分の1の音楽が聴かれていないため、今回は完全な形で提示したいと考えたという。筆者は今までストーリーをきちんと学習したことがなかったので、AIに詳しく教えてもらい試聴した。やはりストーリーを踏まえると、演奏の意図がおぼろげながら理解できたように感じる。響きは透明で低音が控えめなため、重量感に乏しく、ストーリーの理解前はジメジメした感じが薄く、暴力性も強調されていない印象だった。ところがストーリーを理解した後は舞台とされるベルリンまたはブダペストの、当時の退廃的な雰囲気を想像することで、この音楽の不気味さが身近に感じられたのは自分でも驚いている。劇的な表現には拘っていないので、さらっとした仕上がり。全曲版では合唱が用いられるが、都会の喧騒を描く冒頭では語りに近い扱いながら、オーケストラに埋もれてほとんど聴き取れない。録音上、意図的に音量を上げない限り聴こえにくいのかもしれない。一方、役人がベッドの枕の間から目をぎょろつかせる凍り付く場面でのハミングは比較的明瞭で効果的。この作品で重要な少女役のクラリネットも好演だ。参考に聴いたブーレーズ指揮シカゴ響でも合唱の扱いは同様だが、テュッティの音量はかなり大きい。なおブーレーズ盤はサウンドの厚みと馬力、劇的な解釈がトロント盤を大きく上回っていた。30年も前の録音だが、今でも十分に通用する録音だった。「管弦楽のための協奏曲」もサウンドの傾向は同様で、ヒメノの音作りが貫かれているが、もう少し重量感が欲しいところ。特別に強調はされないが、オーケストラの名技性は十分に発揮されている。第1楽章は遅めで、終結部近くの金管アンサンブルは緊迫感がやや不足。エンディングは加速してきっぱりと終わる。「対の遊び」はラプソディックな気分があり好印象。静かな「エレジー」は冷たい肌触りが心地よい。弦のフレージングには一部スタッカート処理が見られ、やや違和感があり、アンサンブルにもわずかな緩みを感じた。「間奏曲」は速めのテンポで、すっきりとした演奏。最終楽章はやや遅めに始まるが、徐々にテンポを上げ、高揚感が生まれる。ファゴット・ソロの後もテンポは緩まず、緊張感が維持される。弦合奏前のハープが埋もれず明瞭に響く点は印象的。終結部の混沌とした部分も細部まで鮮明で、聴き応えがある。他に、トロント交響楽団の委嘱作品であるカナダの作曲家エミリー・セシリア・ルベルの「the sediments(土砂・堆積)」が収録されている。作曲者自身の言葉によれば、『この作品は堆積物を通して人類の歴史の重なりと持続を思索し、それを砂利や岩、豪雨を想起させる音響で表現している』という。約15分の作品で、静かで瞑想的ながらバルトークに通じる雰囲気を持つ。時折現れるテュッティは恐ろしい響きを伴い、強いインパクトを与える。中間部の驟雨を思わせる場面、その後の沈黙、不協和音の中でのバスドラムの強打などが印象的。チャイムや鐘の使用により、一種宗教的な気分も感じられる。録音は透明度が高く、量感も適度で、ホールノイズの感じられない快適な音場。細部の解像度も高い。総じてどの曲も水準が高く楽しめるが、特に「中国人」の新録音がいい音で楽しめるのは有難い。Bartók: The Miraculous Mandarin; Concerto For Orchestra(Harmonia Mundi HMM905365)24bit 96kHz Flac1.Bartók: The Miraculous Mandarin, Op. 19, Sz. 73 (ballet) 9.Emilie Cecilia LeBel (1979-): the sediments(original concert version) 9 | the sediments (original con10.Bartók: Concerto for Orchestra, BB 123, Sz.116 Toronto Mendelssohn ChoirToronto Symphony OrchestraGustavo GimenoRecorded(live) 21-23 November,2024,Roy Thomson Hall(Canada)
2026年04月05日
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アメリカのドラマーであるユリシーズ・オーエンズ・ジュニア(1982-)による「Around The World With U」を聞く。彼はアメリカ・フロリダ州ジャクソンビル出身のドラマー、作曲家兼教育者だ。若くしてウイントン・マルサリスの Jazz at Lincoln Center Orchestra に参加。その後、有名ミュージシャンと多数共演しているポスト・ネオコンの中核的ドラマーだという。Generation Yは彼が主宰する若手ミュージシャン育成プロジェクトで、筆者の知るアルトサックス奏者Alexa Tarantinoもそのメンバーに含まれているらしい。ジャズ・メッセンジャーズのようにドラマーがリーダーで、メンバーが流動的なバンドのようだ。今回のアルバムではトランペットのAnthony Herveyがこのプロジェクトのコアメンバーとなっている。本作は伝統的なジャズサウンドをさらに洗練させた、メインストリームの作品。アルトの寺久保エレナ(1992-)、トロンボーンの治田七海(2001-)、ベースの中村恭士(1982-)という3人の日本人プレーヤーが参加している。典型的なハードバップ・セッションだが、冒頭の「Prodigal Son」からエンジン全開で迫る熱量の高い演奏が続き、聴き手を圧倒する。リーダーのユリシーズは、リムショットを多用したバッキングで強烈に煽る。フロントでは何と言っても寺久保の太く逞しいサウンドと饒舌なアルトが光る。次いでアソニー・ハーベイのトランペットだろうか。両者の相性は非常によく、音楽を生き生きとしたものにしている。個人的に評価が高くなかった治田のトロンボーンは出番こそ多くないが健闘している。ただし、気になっていた音の割れが改善されていない点は惜しい。タイラー・ブロックのピアノは端正な表情を見せるが、やや非力に感じられた。一方で中村恭士のベースは寡黙ながらも圧倒的な迫力を持つ。「Bebop」と「Confermation」のメドレーは猛烈なスピードでアルトとトランペットが迫り、バップ当時の熱気を伝える本作随一の聴きどころである。ピアノも健闘しており、コンピングでは独特のフレージングが光る。「Espresso」は軽快なラテン・タッチのグルーヴィーな楽曲で、ホーンのハーモニーが心地よい。「Morning Prayer」は哀愁を帯びた静かなバラードだが、一筋縄ではいかない演奏である。控えめながら忙しないドラムのシンバルワークが、独特の雰囲気を生んでいる。さらにエンディングでドラムが激しく展開する点も印象的だ。「Mo’ Betta Blues」は「Oh Happy Day」を思わせるゴスペルナンバーで、心が弾む。「New York」は猛烈なスピードで展開する熱い演奏で、バップに新風を吹き込むかのようだ。強力なウォーキング・ベースがバンドをプッシュする中、ピアノ、トランペット、アルトの熱いソロが繰り広げられる。「The Light that Grew Amongst Us」は寺久保をフィーチャーしたバラード。30代半ばとなった彼女は落ち着きを備え、やや粘りを感じさせつつも、フィル・ウッズを想起させる骨太な演奏を聴かせる。この年代の日本人女性アルト奏者としては、依然として抜きん出た存在に感じられる。個人的には久しくリーダーアルバムが出ていない点が唯一の不満。「Little Girl Power」はファンキー・テイスト満載の楽曲で、メンバーのショーケース的なナンバー。寺久保のゴスペル色豊かなソロが際立ち、治田も短いながら安定したソロを披露する。ファンキーなピアノのバッキングも聴きどころで、後半にはリーダーの力強いドラムソロが展開される。ハーベイがハーマン・ミュートを用いた「Stardust」は遊び心に富み、やややり過ぎ感はあるものの、異色のバラードとして楽しめる。前進するエネルギーに満ちた「Road Life」は、中村の力強いウォーキングベースとユリシーズの繊細なシンバルワークに乗り、ホーンが短いソロを回していく構成で、メンバー紹介を想起させる。ラストの「I’m Not So Sure」はジャズ・メッセンジャーズを洗練させたようなサウンドで、リー・モーガンを思わせるユーモラスなフレーズが印象的に響き、華やかに締めくくられる。総じてエネルギーに満ちた非常に充実した演奏だ。ソロの有無に関わらず、リーダーの多彩な技とメンバーを鼓舞するドラミングが際立ち、ドラマーがリーダーのアルバムの模範とも言えるアルバムだ。ぜひお聴きいただき、この熱気を味わってほしい。Ulysses Owens Jr. & Generation Y:Around The World With U(Cellar Live CM081825)24bit 96kHz Flac1.Ulysses Owens Jr. : Prodigal Son2.Dizzy Gillespie/Chalie Parker : Bebop & Confermation3.Benny Benack III : Espresso4.Anthony Hervey : Morning Prayer5.Bill Lee : Mo’ Betta Blues6.Luther Allison : New York7.Ulysses Owens Jr. : The Light that Grew Amongst Us8.Band member : Little Girl Power9.Hoagy Carmichael : Stardust10.Ulysses Owens Jr. : Road Life11.Band member : I’m Not So SureUlysses Owens Jr.(ds)寺久保エレナ(as)Anthony Hervey(Tp)治田七海(Tb)Tyler Bullock(p)中村恭士(b)Recorded 2022,Van Gelder Studio
2026年04月03日
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偶然見つけたシカゴ交響楽団の金管五重奏団のアルバム「Apex」を聴く。妙音舎のクラシックレーベルMClassicsからのリリース。特別な新鮮さはないが、明るく爽快なサウンドで理屈抜きに楽しめる。安定したテクニックが聴き手に安心感を与える。一方で、難所も難なく処理されるため、奏者の熱が伝わりにくいが、それは無理な注文というもんだろう。プログラムは保守的で目新しさは少ないが、ブラス・アンサンブルのアルバムとしてはトップ・クラスの出来だろう。タイトルチューンの「Apex Predators」が目新しい。この曲はウクライナ出身のカテリーナ・リフータによる、ダークなムードを持つ現代的で刺激的な作品。サスペンス映画を思わせるストーリー性を備え、フラッター・タンギングが効果的に用いられている。「金管五重奏のための組曲」から「行進曲」は、アメリカのホルン奏者でイーストマン音楽院で長く教鞭をとったヴァーン・レイノルズの作品。ファンファーレ的な行進曲で、アメリカ的な明快な曲想とサウンドが特徴。バッハの「トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564」はフレッド・ミルズ(1935–2009)の編曲。この曲を初めて聴いたが、「トッカータ」は穏やかな曲調でユーモアが感じられる。「アダージョ」はトランペットが朗々と歌う。厳かでありながらも楽天的な気分を伴う。「フーガ」も軽快で、終始まろやかなサウンドを保つ。振れ幅の大きい分散和音の部分は、難所だが滑らかに処理されている。チューバには負担の大きい書法だが、全曲を通じてメロウな響きが印象的。アーヴァインはカナダの作曲家兼チューバ奏者。「朝の歌」は穏やかな朝の情景を描いた作品で、ゆったりとした清々しさが感じられる。ハーモニーは美しく、エンディングに向かって次第に高揚していく様が静かな感動を呼ぶ。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第3番第3楽章がブラス・アンサンブルでは取り上げられるのは珍しい。技術的難度の高さに加え、第2次世界大戦直後の作品であるため、戦争の影を引きずり、抑圧された気分が感じられ、無理に明るく振る舞うショスタコお得意の作風だ。金管アンサンブルでは暴力的な側面は適しているが、開放的な響きのため、暗い表情は十分に出し切れないのは仕方がない。ヴェリディの「ナブッコ序曲」の演奏される機会が多いが、今回の録音は普通のでき。五重奏としては響きが豊かで、速い部分ではトランペットの名技が際立つ。ジャーマン・ブラスのクレスポの「Suite Americana No.1」は、ブラス・アンサンブルではポピュラーな作品で、エキゾチックな雰囲気を持つ旋律的で親しみやすい組曲だ。参考までに手持ちのSpanish Brassのデビューアルバム「No Comment」の録音も聴いた。サウンドの明瞭さと純度ではシカゴが優れるが、表現の個性ではスパニッシュ・ブラスに分がある。一般に常設アンサンブルのほうがエンターテインメント性で有利なのは否めない。それでも「ボサ・ノヴァ」でのメロウなトロンボーンや、「ペルー風ワルツ」の軽妙さと哀愁は聴きどころ。「メキシコの音」でアルバムは華やかに締めくくられる。このメンバーであればさらに攻めた演奏も可能だが、本盤は意外にも節度を保った演奏で統一されており、清潔感がある。録音は妙音舎の特徴である極端な近接マイクではなく、標準的なオンマイク。溶け合ったハーモニーが美しく、音響面の完成度は高い。ということで、完璧なアンサンブルと、豊かなハーモニー、各人の素晴らしいテクニック、フレッシュな選曲などいいことずくめの、ブラス・アンサンブルの新たな名盤が誕生したことを喜びたい。The Chicago Symphony Brass Quintet:Apex(MClassics MCD128)24bit 192kHz Flac1. Verne Reynolds(1926-2011):Suite for Brass Quintet – March2. Johann Sebastian Bach:Toccata, Adagio and Fugue in C major, BWV 564 Toccata Adagio Fugue5. J. Scott Irvine(1954-):Morning Song6. Dmitri Shostakovich:String Quartet No.3 Op.73 – III. Allegro non troppo7. Giuseppe Verdi:Nabucco – Overture8. Katerina Likhuta(1981-):Apex Predators9. Enrique Crespo(1941–2020):Suite Americana No.1 Ragtime Bossa Nova Vals Peruano Zamba Gaucha Son de MexicoChicago Symphony Brass Quintet:Esteban Batallán(tp)David Cooper(tp)David Cooper(Hr)Michael Mulcahy(Tb)Gene Pokorny(Tba)Recorded October 8 & 13, 2023, Kioi Hall, Tokyo, Japan
2026年04月01日
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