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レスピーギの初期の大規模な管弦楽曲「Sinfonia Dramatica」を聴く。ロバート・トレヴィーノ指揮、RAI国立交響楽団による昨年の録音。トレヴィーノ(1984-)は、アメリカ・テキサス州生まれのメキシコ系アメリカ人。名前は知っていたが、今回初めて聴くと思っていたところ、以前にバスク国立管弦楽団との「AMERICASCAPES」というアメリカの作曲家の作品を集めたアルバムを聴いていたことが分かった。久しく聴いていないが、シャープな演奏だったと記憶している。トレヴィーノは現在この楽団の首席客演指揮者を務めており、本盤は「ローマ三部作」に続くレスピーギ録音だ。彼は「《シンフォニア・ドラマティカ》(1914)はローマ三部作のような描写音楽ではなく、『愛』や『死』といった普遍的な主題を扱う純粋な交響曲であり、ローマ三部作が深みを持つなら、この作品は深みそのものだ」と語っている。それだけこの作品にほれ込んでいるということなのだろう。編成は3管編成でホルンは6本という大規模なもので、演奏時間は50分を超える。第一次世界大戦直前の不安な時代の空気を感じさせる、悲劇色の濃い作品だ。いい曲なのだが、実演や録音にあまり恵まれていないのは、知名度の低さに加え、大編成ゆえの演奏コストが大きな要因なのだろう。第1楽章は25分弱に及ぶソナタ形式で、ラフマニノフの交響曲第2番第1楽章を思わせるほの暗い雰囲気を持ち、冒頭から悲劇色の濃い主題で始まる。巨大な建築物を思わせるスケールを持つが、全体を通してムードは大きく変化しない。第2主題は穏やかではあるものの、悲劇的な色調は変わらない。展開部は勢いよく突き進むのかと思えば意外に穏やかで、作曲者の意図がやや見えにくい点は惜しまれる。緩徐楽章である第2楽章は熱気を帯びながらも透明感のある響きを保っており、本作中で最も感銘を受けた。レスピーギ特有の「夜の音楽」の魅力がよく表れた楽章だ。第3楽章も闘争的な性格を持つが、悲劇的な要素が色濃く、何らかの物語を思わせるスケールの大きな音楽である。終結部で人々が足を引きずりながらゆっくり歩いているように感じられる音楽は、聴き手の心に深く突き刺さる。全く関係ないことだが、ニーノ・ロータの「道」のザンパーノの音楽(組曲「Solitudine e pianto di Zampanò」)を思い出した。同じイタリア人作曲家ならではの感性によるものなのだろうか。RAI国立交響楽団は、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団やスカラ座管弦楽団に次ぐ評価を受けるオーケストラだが、商業録音は多くない。トレヴィーノとのレスピーギ録音の成功を機に、今後さらに録音が増えることを期待したい。今回の演奏を聴くと、指揮者の影響も大きいと思われるが、イタリアの歌劇場オーケストラに特徴的な強靭なカンタービレがあまり感じられない点は、やや物足りなく思えないこともない。しかし、この作品の巨大な構成や複雑な和声は、このオーケストラの透明感のあるサウンドによって明瞭に浮かび上がっている。結局、レスピーギはローマ三部作のような絢爛豪華な管弦楽作品の方向へ進んでいった。しかし、ヒットするかどうかは別として、この作品と同じ方向性をさらに追求していても、優れた作品を残したに違いない。録音は解像度が際立って高いわけではなく、低音の量感も控えめだが、標準的な出来。Robert Trevino Respighi:Sinfonia Drammatica(ONDINE ODE1477)24bit 96kHz Flac1. I. Allegro energico2. II. Andante sostenuto, con grande espressione3.III. Allegro impetuosoOrchestra Sinfonica Nazionale della RAIRobert TrevinoRecorded on 2–4 July 2025 at the Auditorium Rai “A. Toscanini”, Turin, Italy
2026年07月30日
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セシル・マクローリン・サルバント初のオーケストラとの共演作。最初のヴァイオリン・ソロから惹きつけられる。多くの曲が遅めのテンポでしっとりと歌われ、時折訪れる空白も味わい深い。「Send in the Clowns」や「Lush Life」のスケールの大きな歌唱も魅力的だが、特に気に入ったのはワイルの三文オペラからの「Barbara Song」。物語仕立ての楽曲で、彼女のストーリー・テラーとしての才能が感じられる名唱だ。映画を見ているような劇的な展開も素晴らしい。いつものチャイルディッシュな歌い方やデフォルメした発声はあまり目立たない。あくまでも正統的なアプローチで好感が持てる。曲によって表情は異なるが、全体を通して抑制の利いた歌唱が印象的で、デリケートなニュアンスを大切にした丁寧な表現が光る。バックがトュッティになると表情は大きくなるが、その丁寧さは変わらない。通常、ポピュラー音楽におけるオーケストラ・アレンジは画一的で面白みに欠けることが多いが、アーギューの弦を中心とした編曲はオリジナリティに富み、退屈さを感じさせない。サウンドの多彩さと静けさが共存し、実にしっとりとした響きを生み出している。いたずらにブラスを強奏して煽ることもなく、全体の品位が保たれている点にも好感が持てる。マクローリン唯一のオリジナルは「Left Over」だが、これも素晴らしい出来だ。この曲は2015年のアルバム『For One to Love』に収録されており、今回は再録となる。彼女は、このアルバムに収めたスタンダードはいずれも「トーチ・ソング(失恋や切ない愛を歌う歌)」と考えているという。そのため、報われない恋を歌ったこのオリジナルも同じ系譜に位置付けているようだ。曲の出来が良く、他のスタンダードと並べても引けを取らないすぐれた演奏だ。ルグランの「シェルブールの雨傘」も、しっとりとした歌唱が意外で新鮮だった。この曲ではイントロやベース・ソロに寄り添う木管の扱いが実に巧みで、思わず耳をそばだててしまった。エンディングで深々と雪が降るように響くグロッケンの使い方も見事である。ノエル・カワードの「I'll See You Again」は派手さはないものの、ジャジーで洗練された編曲が魅力で、再会を願う心情が自然に伝わってくる。ソンドハイムの「Being Alive」はモノローグのような控えめな編曲だが、次第に心を開いていく様子が感動的だ。惜しむらくはエンディングで、彼女特有の歌い回しが少し顔をのぞかせることくらいだろうか。このアルバムの成功の半分は、ダーシー・ジェームズ・アーギューの編曲によるものだ。スケールが大きく、格調高いシンフォニックなサウンドが実に素晴らしい。また、木管の扱いが巧みで、木管アンサンブルの響きにも卓越したセンスを感じる。メトロポール・オーケストラはこの種の作品への適応力には秀でているが、「格調の高さ」や「音色の洗練」という点では、さらなる向上を期待したくなる。ということで、実に素晴らしいヴォーカル・アルバムであり、ジャズ・ファンだけでなく、ポピュラー音楽を愛する方々にもぜひ聴いていただきたい。official videoCécile McLorin Salvant:With Every Breath I Take(Nonesuch 7559-78961-2)24bit 96kHz Flac1.Cy Coleman / David Zippel:With Every Breath I Take2.Duke Ellington / Mitchell Parish / Irving Mills:Sophisticated Lady3.Stephen Sondheim:Send in the Clowns4.Kurt Weill / Bertolt Brecht:Barbara Song5.Cécile McLorin Salvant:Left Over6.Buddy Johnson:Ever Since the One I Love's Been Gone7.Michel Legrand / Jacques Demy:Les Parapluies de Cherbourg8.Noël Coward:I'll See You Again9.Stephen Sondheim:Being Alive10.Billy Strayhorn:Lush LifeDarcy James Argue(arr.)Cécile McLorin Salvant(vo)Sullivan Fortner(p)David Wong(b)Kush Abadey(ds)Metropole OrkestJules Buckley(cond)Recorded December 9–10, 2025,MCO Studio 1, Hilversum, The Netherlands
2026年07月28日
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presto musicで紹介されていたイギリスの作曲家John McCabe(1939–2015)の交響曲ほかを収めたアルバムを聴く。マッケイブはハイドン、ニールセン、ハヴァーガル・ブライアンの影響を受けた作曲家とされる。イギリスの作曲家ながら、典型的なイギリス音楽に見られる田園風景を思わせる作風ではない。母親がドイツ人、父親が主としてアイルランド系の家系であったことも関係しているのかもしれない。ピアニストとしては、ハイドンやニールセンの鍵盤作品の録音で名高い。作曲でも彼らの影響を認めているようだ。二つの交響曲はいずれも切れ目なく演奏される。交響曲第2番は全体にひんやりとした雰囲気が感じられる。短いモチーフを積み重ね、それが巨大な壁となって立ち上がるようなポスト・ミニマル的な側面もある。個人的にはデュティユーのサウンドを思い浮かべる。そのため終始シリアスな表情が支配し、聴き手は緊張感を持続させられる音楽だ。交響曲第3番「Hommages」は、ハイドンとニールセンへのオマージュとして書かれた作品だ。ハイドンの弦楽四重奏曲の主題と関係があるとされるテーマや、ニールセン「ピアノ組曲」第4曲「Den Luciferiske(ルシファー的な)」から採られた二つの和音が、執拗なリズムとともに挿入される。第2番とはかなり異なる作風で、旋律が長くなり、第2番の冷たい肌触りを残しながらも、明らかに温度感の増した音楽となっている。そのため、第2番ほど緊張を強いられる作品ではない。第1楽章にはシマノフスキーを思わせる妖しい雰囲気が漂う。マッケイブ自身も、「オーケストラの響きのいくつかはシマノフスキーに由来している」と語っている。トゥッティは少なく、木管のソロが多用され、室内楽的な響きの中でオーケストラの妙技が際立つ。第2楽章、第3楽章では珍しくチューバが目立つ。第3楽章冒頭のフルート・アンサンブルも美しい。終盤では第2番を思わせる短いモチーフが執拗に現れ、トゥッティの混沌の中から小太鼓のリズムをきっかけに栄光に満ちたクライマックスを迎えるが、その頂点はすぐに静寂へと消えてしまう。この終結部は、聴き手によっては肩透かしを食らったように感じるかもしれない。チェロ協奏曲は約25分の作品で、第2楽章が約15分を占め、両端の楽章はいずれも5分に満たない。協奏曲とはいえ、チェロの超絶技巧を前面に押し出す作品ではなく、全体に軽やかな仕上がりだ。晩年の作品だけに、人生を振り返るような趣が感じられる。交響曲と共通する冷たい肌触りはこの作品でも健在であり、癖になりそうなサウンドだ。第2楽章「Adagio」は、ゆったりとしたテンポの中でチェロのモノローグを中心に進む。チェロの周囲でさまざまな楽器が明滅するように現れ、味わい深い楽章となっている。この作品でもチューバが単独で現れる場面が多く、マッケイブならではのこだわりが感じられる。チェロのラファエル・ウォルフィッシュ(1953-)は、ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール(1977)の優勝者であり、100枚以上の録音を残しているという。筆者はこれまで聴く機会がなかったが、作品によっては自己主張を抑え、音楽に寄り添った演奏を聴かせる奏者であり、この作品にもふさわしい。70歳を過ぎても音程の乱れや技術的な不安定さをほとんど感じさせない点も見事である。ということで、これまで知らなかった作曲家であったが、大変興味深い作風であり、他の作品も聴いてみたくなった。静的な部分の多いアルバムではあるが、ピアニシモの美しさが際立っており、音楽そのものを味わうという点で不満はまったくない。Kenneth Woods John McCabe: Symphonies 2 & 3 and Cello Concerto(Signum SIGCD 1007)24bit 96kHz FlacJohn McCabe (1939–2015):Symphony No. 2 (1971) 1. I. Vivo 2. II. Andante 3. III. Allegrissimo 4. IV. Lento 5. V. VivoCello Concerto "Songline" (2007) 6. I. Allegro vivace 7. II. Adagio 8. III. AllegroSymphony No. 3 "Hommages" (1978) 9. I. Flessible 10. II. Adagio (Fantasia) 11. III. Moderato (Fugue-Variations)Raphael Wallfisch(vc track 6-8)BBC Scottish Symphony OrchestraKenneth WoodsRecorded in City Halls, Glasgow on 9–11 June 2025
2026年07月26日
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ドイツ・デュッセルドルフ出身の歌手Elsa Johanna Mohr(エルザ・ヨハンナ・モーア、1990-)とギターのFlávio Nunes(フラーヴィオ・ヌーネス)によるデュオアルバム「Em Julho」(七月に)を聴く。モーアはブラジル文学を学び、ブラジル文化を研究し、ブラジルの作曲家兼歌手ドリヴァル・カイミについての論文を執筆したという、ジャズの世界では珍しい学究肌の演奏家だ。ディストリビューターによると、このアルバムは『ブラジルの名曲とオリジナル曲を、ジャズの洗練された和声で解釈。親密な歌声と洗練されたギターの精緻な掛け合いで綴る上質なMPBジャズ!』とのこと。モーアのポルトガル語はネイティブかと思うほど自然で、とてもドイツ人とは思えない。現地では「リオのコルコバードで育ったかのように歌う」と評されているようだ。フラーヴィオ・ヌーネスはブラジル・サンパウロ出身で、20年以上のプロ経験を持つギタリストだ。現在はドイツ・デュッセルドルフを拠点に活動している。彼はポルトガル語圏で使われる伝統的なカヴァキーニョと7弦ギター(セッチ・コルダス)を得意としている。彼らはモーアのデビュー作でも共演しており、息の合ったアンサンブルを聴かせる。プログラムはモーアのオリジナル3曲と、ジョビン、ジャヴァン、イヴァン・リンス、マルコス・ヴァーリ、ロ・ボルジェスら、MPBやボサノヴァを代表する作曲家たちの作品で構成されている。モーアの歌唱は抑制が効いているが、伸びやかな歌声が印象的で、カナダの歌手ダイアナ・パントンを思い出させる。派手さはないものの、音程は確かでフレージングも清潔だ。一見すると素朴に聴こえるが、実際には高度なテクニックに支えられた歌唱であり、相当鍛えられていることが分かる。時折聴かせるスキャットも鮮やかだ。ヌーネスの7弦ギターは低音弦が1本多い分、演奏技術の難易度が高い。それにもかかわらず演奏ノイズはほとんど聞こえず、彼の卓越したテクニックと美しいサウンドが堪能できる。オリジナル曲は3曲で、いずれもモーアの作品だ。残りはブラジル音楽の名曲が並び、ジョビン、ジャヴァン、イヴァン・リンス、マルコス・ヴァーリ、ロ・ボルジェスら、MPBやボサノヴァを代表する作曲家の作品が収められている。1曲目と5曲目では低音の打楽器のような音が頻繁に聞こえる。スルド(大太鼓)を模したように、7弦ギターの最低音弦を親指で強く弾き、直後にミュートする奏法によるものと思われる。最後のイヴァン・リンスの「マダレーナ」では、それまでの抑制された雰囲気が解き放たれ、喜びに満ちた歌唱を聴かせる。全体にブラジルの熱い空気を感じさせながらも、爽やかな風が吹き抜けるような趣があり、この季節にまことにふさわしいアルバム。MPBやボサノヴァがお好きな方には是非お聴きいただきたい、地味だが味わい深いアルバムだ。Elsa Johanna Mohr & Flávio Nunes :Em Julho (Double Moon Records DMCHR 71484)24bit 96kHz Flac1. Paul Sergio Valle:Água de Coco ココナッツウォーター2. Elsa Johanna Mohr:Beijo da Lua 月の口づけ3. Mariozinho Rocha, Marcos Valle, Paul Sergio Valle:Que Bandeira なんて素晴らしい!4. Ênio Flávio Mol, Marcelo Ferreira:Colo de Rio 川の抱擁5. Elsa Johanna Mohr:Jaguar ジャガー6. Lô Borges, Márcio Borges:Tudo O Que Você Podia Ser あなたがなれたはずのすべて7. Elsa Johanna Mohr:Em Julho 七月に8. Haroldo Barbosa, Geraldo Jacques:Joãozinho Boa Pinta 伊達男ジョアンジーニョ9. Djavan:Nem Um Dia たった一日たりとも…ない10. Antônio Carlos Jobim:Corcovado コルコバード11. Zequinha de Abreu:Tico-Tico no Fubá トウモロコシ粉の中のティコティコ12. Ivan Lins, Ronaldo Monteiro de Souza:Madalena マダレーナElsa Johanna Mohr(vo)Flávio Nunes(7 string g)Recorded in August 2025 in Bonn, Germany. Released on 17 July 2026
2026年07月24日
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イブラギモヴァとティベルギアンによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集第1集を聴く。イブラギモヴァは2009~2010年にティベルギアンとウィグモア・ホールでのライヴ録音による全集をリリースしている(未聴)。その時はモダン・ピアノによる録音で、今回はそれから15年ほどを経た再録音である。音楽的な方向性は旧録音と変わらず、さらに成熟した演奏になっているようだ。一聴して感じるのは、ヴァイオリンがさらさらと流れ、ことさら力みを感じさせないことである。従来のベートーヴェン演奏では、ときおり作品の中に剛直さが顔をのぞかせ、それがベートーヴェンらしさとして受け取られてきたように思う。しかし、ここで聴かれる音楽からは、青年期の溌剌とした明るさやユーモアが随所に感じられ、作品が書かれた時代に即したアプローチに思えた。参考までに聴いたクレーメル=アルゲリッチ盤やファウスト=メルニコフ盤でも、従来のイメージ通りの演奏だった。なお、ファウスト盤はフォルテピアノによる録音だと思い込んでいたので、モダン・ピアノだったことを知り驚いた。今回のアルバムでは、フォルテピアノがいわゆる「フォルテピアノらしさ」を過度に主張せず、歯切れがよく反応も鋭敏で、モダン・ピアノに近い印象を受ける。これは18世紀末から19世紀初頭の楽器をモデルとした復元楽器の改良や、録音技術の進歩によるところも大きいのだろう。また、イブラギモヴァが前面に出てこない一方で、フォルテピアノの存在感はかなり強く感じられる。そのため、両者の関係はヴァイオリン主導ではなく、対等な室内楽として成立しているように思う。緩徐楽章でもフォルテピアノの活躍が目立ち、とりわけ第3番第2楽章の深い表現には感銘を受けた。第2番第2楽章のしっとりとした表情も印象的である。速い楽章では、両者の活気あふれる表現とアンサンブルの喜びが存分に伝わってくる。《春》ソナタも、後年の英雄的ベートーヴェンの予兆としてではなく、青年の明るく屈託のない笑顔を思わせる演奏で、作品のみずみずしさがよく表れていた。アルバム全体では、第3番が最も充実した演奏だった。この路線が初期作品の性格によるものなのか、それとも全集全体を貫く解釈なのかは、今後の続編によって明らかになるだろう。録音はバランスに優れた自然なサウンドで、終始快適に聴くことができる。Alina Ibragimova,Cedric Tiberghien Ludwig van Beethoven: The Violin Sonatas I(BIS BIS-2724)24bit 192kHz FlacLudwig van Beethoven:1.ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ長調 Op.12-1(1797–98)2. ヴァイオリン・ソナタ第3番 変ホ長調 Op.12-3(1797–98)3. ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.12-2(1797–98)4. ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 Op.24《春》(1800–01)Alina Ibragimova – violin(1570 Andrea Amati)Cédric Tiberghien – fortepiano(Paul McNulty製、1794年製 Anton Walter をモデルとした楽器)Recorded 21–25 July 2025,Wyastone Concert Hall, Monmouth, UK
2026年07月22日
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デイブ・ホーラー(1943-)というトロンボーン奏者がWDR Big Bandと共演した『Chrissie』というアルバムを聴く。Bandcampの新譜案内で知ったアルバムだが、なかなか出来が良かったので、最も安価だったProStudioMastersのカナダサイトからダウンロードした。ホーラーのオリジナル5曲にスタンダード3曲という構成だ。所々に拍手が入っているので、スタジオ・ライブ録音なのだろう。ホーラーは1943年、イギリス・ハンプシャー州リミントン生まれ。1963~1966年にRoyal Academy of Musicで学び、卒業後はBBC Radio Orchestra(1967~1970年)で活動した。その後ロンドンのスタジオ・ミュージシャンとして活躍し、1980年にドイツのケルンへ移り、名門WDR Big Bandのメンバーとなった。2008年に退団(定年退職)し、本作ではゲスト・ソリストとして迎えられ、現メンバーと共演している。そのため、アルバム全体からは、元同僚たちが長年の仲間を祝福しているような温かい雰囲気が伝わってくる。この録音は昨年行われたものだが、ホーラーの演奏はタンギングが明瞭で、余計な雑音のない柔らかなサウンドが印象的である。とても80歳を超えた奏者の演奏とは思えない。曲は「Big Bad G」「Bogey Blues」「Live, Love and Learn」など、スインギーでパワフルなナンバーもあるが、その他の曲で聴かれる淡いパステルカラーのような色調のサウンドが実に心地よい。珍しいのは「Angel Eyes」で、アップテンポかつスインギーな解釈が新鮮だ。WDR Big Bandは時にやり過ぎと思える演奏をすることもあるが、本作ではパワフルな曲でも穏やかな曲でも、その実力を十二分に発揮している。次々と登場するソロも充実している。ソロイストの中では、「Live, Love and Learn」におけるオリヴィエ・ピーターズのスインギーなソプラノ・サックスが気に入った。「Big Bad G」では、ルートヴィヒ・ナスとのトロンボーン二重奏を聴くことができる。また、ブラスが情け容赦なく迫ってくるようなパワフルなサウンドは、いかにもドイツのビッグバンドらしい。ということで、デイブ・ホーラーの作編曲家としての実力と、とりわけ80歳を超えてなお健在なトロンボーンの豊かな響きには恐れ入った。Dave Horler、WDR Big Band:Chrissie(Bass Lion BLM024)24bit 48kHz Flac1.Dave Horler:Live, Love and Learn (feat. Mark Nightingale, Olivier Peters)2.Richard Rodgers / Lorenz Hart:My Romance(feat. Billy Test, Andy Haderer, John Goldsby)3.Dave Horler:Tying the Knot (feat. Ruud Breuls, Jens Neufang, Billy Test, Alec Harper, Hans Dekker, Mattis Cederberg)4.Josef Myrow / Mack Gordon:You Make Me Feel So Young(feat. Frank Chastenier)5.Dave Horler:Chrissie(feat. John Marshall)6.Dave Horler:Big Bad G(feat. Ludwig Nuss, Frank Chastenier, Hans Dekker, Paul Shigihara)7.Matt Dennis / Earl Brent:Angel Eyes(feat.Billy Test, Rolf Marx, Johan Hörlén, Ruud Breuls, John Goldsby)8.Dave Horler:Bogey Blues(feat. Klaus Osterloh, Bernt Laukamp, Mike Smith)Arranged by Dave HorlerDave Horler(tb)WDR Big BandRecorded live in Studio 4, WDR Funkhaus, Cologne, Germany, 2025
2026年07月19日
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スティング(1951-)の新作Night Watch (Live at Rijksmuseum)を聴く。長年の付き合いであるドミニク・ミラー(1960-)との共演で、アムステルダム国立美術館の「名誉の間」とされる展示室において、レンブラントの《夜警》をバックに行われたコンサートのライヴだ。スティングがこの場所を選んだのは、アルバムのテーマである芸術・歴史・物語性と、オランダ絵画を象徴する《夜警》を重ね合わせる意図があったためとされる。選曲は、ポリス時代(1978~1983)から4曲、初期ソロ時代(1987~1993)から5曲、『The Last Ship』時代(2013)から3曲で構成され、スティングとドミニク・ミラーの二人だけで再解釈されている。「Fields of Gold」や「Fragile」では、スティング自身が17世紀のギターを演奏し、ドミニク・ミラーが現代のアコースティックギターで支えている。彼らはさまざまな場所でデュオ演奏を行ってきたが、正式な録音作品はこのアルバムが初めてだそうだ。スティングは10月に75歳を迎えるが、声の張りや艶はほとんど衰えていない。ピーンと張りつめたような独特の緊張感も健在である。そぎ落とされたシンプルな音楽だが深みがあり、男の美学が聴き手にダイレクトに伝わってくる。動画を見ると、絵画に囲まれた空間の中央に円形のステージが設置され、その周囲を聴衆が取り囲んでいる。そうした環境だからこそ、特別に意識することなく自身の心情を吐露できるのだと思う。曲順は作曲年代順ではなく、コンサートとしての流れを意識したものなのだろう。しかし、その流れは極めて自然で、ミュージシャンとしての根幹が変わっていないことを感じさせる。演奏の多くは語りに近く、ドミニク・ミラーのオブリガートも濡れたように美しい響きを聴かせる。動画を見ると、静謐な環境の中で最高の音楽が奏でられるという贅沢な空間を体験できた人々に、嫉妬を覚えるほどだった。録音は、石材や硬い壁面に囲まれた広い空間の特性と巧みな録音技術により、まるで教会での演奏を思わせるような自然な残響を獲得している。スティングが「夜警」の中に溶け込んでいるようなジャケットも秀逸だ。Sting:Night Watch(Live at Rijksmuseum)(A&M 5754647)24bit 96kHz FlacSting:Message in a Bottle(1979)Sting:The Last Ship(2013)Sting:The Night the Pugilist Learned How to Dance(2013)Sting:Island of Souls(1991)Sting:All This Time(1991)Sting:What Say You, Meg?(2013)Sting:Roxanne(1978)Sting, Dominic Miller:Shape of My Heart(1993)Sting:Every Little Thing She Does Is Magic(1981)Sting:Fields of Gold(1993)Sting:Fragile(1987)Sting:Every Breath You Take(1983)Recorded live at the Gallery of Honour, Rijksmuseum, Amsterdam, Netherlands, May 2025
2026年07月17日
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サックス奏者のチャド・スミスの凄まじいタンギング・スピードに驚いて購入した1枚。このアルバムは彼が企画を立ち上げたプロジェクトで、1920年代のサックスのパイオニアであるルディ・ウィードフト(Rudy Wiedoeft、1893-1940)の音楽とサイレント映画を組み合わせた「SAX-O-PHILM」という企画を発展させ、1920年代のサックス界のスーパースターだったルディ・ウィードフトの音楽を本格的なオーケストラ伴奏でよみがえらせたものだそうだ。サックスの基礎を築いた人物としてはマルセル・ミュールなどが有名だが、ウィードフトはそれに先駆けてサクソフォンという楽器の可能性を世に知らしめた最大の功労者の一人だという。このアルバムは1920年代を中心としたサクソフォンの知られざるレパートリー18曲を収録している。1920年代初頭、それまで「軍楽隊の楽器」や「珍しい楽器」という位置づけだったサックスを、非常に速いパッセージ、滑らかなヴィブラート、クラリネットのような柔らかな音色、歌うような旋律性によって、一躍「技巧を披露できるソロ楽器」に押し上げた人物とのことだ。当時、彼の人気によって若者の間ではサックスを習うことが流行したという。彼の音楽はジャンル分けが難しいが、個人的にはボードビル音楽の系譜に属するように思う。基本的には超絶技巧を披露する音楽で、後年のピアノの神様アート・テイタムにも通じるようなスタイルだ。とにかくダブル・タンギングやトリプル・タンギングのスピードが半端なく、しかも音の粒が揃っていて、往年のクラシックの巨匠並みの凄味を感じる。超絶的なタンギング・スピードだけでなく、グリッサンドやスラップタンギングも駆使しており、当時は並ぶ者のいないサックス奏者だったようだ。アルバムは、クラシックとジャズの境界がまだはっきり分かれていなかった1920年代アメリカの大衆音楽を再現したもので、ノスタルジーに満ちている。タイトル曲はルディ・ウィードフト自身による1920年の録音がYouTubeにアップされているので、今回チャド・スミスの演奏と比較してみた。ウィードフトのほうが音が太く、グリッサンドを多用している印象を受ける。それに対してチャド・スミスの演奏はやや細身の音色で、クラシック畑の奏者らしさが感じられる。アルバムの音楽は1920年代のポピュラー音楽なので、クラシック作品のような深みを求めても意味がない。むしろウィードフトの音楽を通じて、当時のポピュラー音楽やサロン音楽がどのようなものだったかを知るためのアルバムだろう。曲調が似通っているだけに、編成は曲によってオーケストラ、ピアノ、ハープ、バンジョーなど変化に富んでおり悪くない。デキシー調の「Gloria」や「Canary Cottage – One Step」なども楽しい。ハープが入った曲は、クラシックのブラヴーラを思わせるような技巧誇示型の作品だ。その中でも、ツィゴイネルワイゼンのような展開を見せる「Danse Hongroise」では高速タンギングが披露される。軽快な音楽が多いのは仕方がないが、その中にゆったりとした曲が何曲かあり、そうした曲が現れるとほっとしてしまう。夢見るような「Cloudy Days」や、同系統の曲調ながら高速タンギングが炸裂する「Valse Vanité」などにはノスタルジーが感じられ、往年のサイレント映画を思い起こさせる。カナダのソプラノ歌手ミカエラ・ベネットが歌う曲も2曲収録されている。サックスのオブリガートを伴った歌唱がノスタルジーを誘う。最後にはスクラッチノイズが盛大に入ったモノラル録音風のライブ仕立てによる「Saxophobia」が演奏される。1920年代を偲んでもらいたいという試みなのだろう。映画でもこうした工夫は見かけるが悪くないと思う。ということで、内容は盛り沢山で、昔のポピュラー音楽が好きな方にとっては絶好の聴きものだろう。一方で、クラシック作品のような構成美や深みを求めるリスナーには、ややとっつきにくいかもしれない。【SAX-O-PHILM】【Saxophobia 1920】ルディ・ウィードフト自身の演奏Saxophobia - Celebrating the Sax Craze of the 1920's(Chandos CHSA 5390)1. Rudy Wiedoeft / Domenico Savino : Sax-O-Trix2. Rudy Wiedoeft : Valse Mazanette3. Rudy Wiedoeft : Saxophobia4. Rudy Wiedoeft / Domenico Savino : Dans l’Orient5. Rudy Wiedoeft : Valse Llewellyn6. Victor Herbert : Kiss Me Again7. Rudy Wiedoeft : Sax-O-Phun8. Rudy Wiedoeft / Hugo Frey : Rubenola9. Rudy Wiedoeft : Cloudy Days10. Frederick Hager / Justin Ring : Gloria11. Earl Carroll : Canary Cottage – One Step12. Frederick Hager : Danse Hongroise13. Irving Berlin : You Forgot to Remember14. Rudy Wiedoeft : Saxema15. Rudy Wiedoeft / Hugo Frey : Valse Sonia16. Rudy Wiedoeft : Saxarella17. Rudy Wiedoeft : Valse Vanité18. Rudy Wiedoeft : Saxophobia (Bonus Track – Live)arranged by Lanny Meyers(track 1. 2. 3. 7. 8. 9. 16. 17. ),Lynette Wardle(track 4. 15.),Dan Higgins(track 5),Dan Levinson(track 11),Andrew Cottee(track 12,13)Chad Smith(sax)Lynette Wardle(track 4,15)Dalton Ridenhour(p track 8、10、11、14、18)Mikaela Bennett(vo track 6、13)John Mills(vn) track 11)Justin Quinn(Banj. track 10,11)Andy Wood(tb track 11)Matt Skelton(ds track 11)Sinfonia of LondonJohn WilsonRecorded 2025,St Augustine's Church, Kilburn, London, England, United Kingdom
2026年07月14日
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以前、自費出版したクレア・マーティンとのアルバムを取り上げたことのあるイギリスのトロンボーン奏者、カルム・オーの「Sing Seven Seas – Volume 1」(七つの海を歌う)を聴く。スイング・バンドから民族音楽や映画音楽まで、さまざまな要素が盛り込まれた力作だ。彼の意欲は十分にうかがえるが、言いたいことが多すぎて、まだ十分にこなれていない部分も感じられる。オーケストラとビッグバンドを合体させたような大編成の音楽で、ソリストもイギリスの一流どころが参加している。イギリス的なノスタルジアを感じさせる作風で、刺激を求める向きには少々物足りないかもしれない。金管が活躍する曲が多く、クラシック・ファンにも気に入られると思う。聴き物は「Si Vis Pacem Para Carnyx」(平和を望むなら、カルニュクスを備えよ)だ。タイトルはラテン語の「平和を望むなら戦いに備えよ」と、古代ケルトの戦争ラッパ「カルニュクス」を掛け合わせたもの。カルニュクスは、全長約1.8〜2mのS字またはC字型に湾曲した金属製の管で、上部にはイノシシや龍などの動物の頭部が付いているという。編成は2本のカルニュクスをはじめ、ピッコロ、ホイッスル、アコーディオン、ヴァイオリンなどがフィーチャーされており、ケルト色の強い作品だ。古代ヨーロッパの戦士や儀式を思わせる壮大な作品で、映画音楽を思わせる巨大なスケールが感じられる。カルニュクスは単独では登場せず、冒頭のファンファーレで聴ける荒々しく歪んだような音がそれらしい。テンポが上がると、それまでのテーマにヴァイオリンやピッコロによるケルト音楽風の要素が重なっていく。大変な力作ではあるが、全体に重量感が不足しており、素材を消化し切れていない印象が残るのは惜しいところだ。大編成の曲が多い中、「Tethys(テテュス)」は弦楽器を用いない比較的小編成の作品である。これはギリシャ神話の海の女神テテュスを題材にした作品で、ハープやヴィブラフォン、ピアノなどを用いた繊細なオーケストレーションが美しい。特にオーボエが現れる場面には、雨上がりの爽やかさが感じられる。また、フリューゲルホルンの柔らかなソロは途中で大きな盛り上がりを見せ、胸を打つ。1曲めの「Swipe Right!」は、マッチングアプリで相手に「いいね!」を送るため、指で右にスワイプする動作を指すとのことだそうだ。スイングやバップのテイストが感じられるアップテンポのビッグバンド・ナンバーだ。Duncan Hemstockのスインギーなクラリネットがいい味を出している。「Galt's Motor」は、アイン・ランドの小説『肩をすくめるアトラス』に登場する架空のエネルギー装置から着想を得た作品。オフビートのリズムが、機械が回転し続けるような推進力を表している。弦楽器は使われておらず、ビッグバンド編成によるダイナミックでジャズ色の強い曲だ。色彩豊かな木管と鍵盤の涼やかなサウンドが印象的で、スケールも大きい。ギターとテナーサックスのソロも見事である。「Murmurations(鳥の群舞)」は、ムクドリなどの鳥が群れで形を変えながら描く巨大な飛行パターン、いわゆるマーマレーションを描写した曲。雄大なテーマと打楽器の活躍がスケール感を生み出しており、温かみもあって聴き手の心を熱くする。オーの落ち着いた滑らかなトロンボーン・ソロと、チャド・レフコウィッツ=ブラウンの切れ味鋭いテナーソロとの対比も面白い。「The Weaver」(機織りをする人)は、多くの旋律やリズムが絡み合いながら一つの織物を作り上げていくような作品だ。重厚さよりも繊細なオーケストレーションが際立ち、雨上がりのような爽やかさを感じさせる。最後の「jazz.ai」は、AIとジャズの関係をテーマにした音楽物語。ナレーターはカナダの歌手マット・フォーブス。クルーナーらしい落ち着いた語り口が絶妙だ。作曲者によると、ディズニーの『ファンタジア』の「魔法使いの弟子」を、子供たちが楽しめるジャズ版として語り直した作品とのこと。物語の主人公はジャズ学生のSonny Fontaine(フリューゲルホルン)と、大規模言語モデルAIのSweep(テナーサックス)。あらすじは、「ソニーがSweepというAIを作るが、Sweepはどんどん賢くなり、ビバップやジャズ理論を吸収して、やがて人間の制御を超えてジャズ界を支配し始める」というものだ。最後は混沌の末に破滅を迎えるような結末となる。音楽はオーソドックスなビッグバンド・スタイルで、プランジャーミュートを使ったトロンボーンやトランペットの掛け合いも楽しい。最後にソニーが「Stop」と叫び、暴走が止まるという筋書き。対訳が付いていないので細部までは分からないが、『ファンタジア』のテイストを感じさせる楽しい聴き物だった。ということで、アルバム自体の出来は非常によく、スケールも十分で、今年聴いたアルバムの中でも抜きん出た存在だ。一方で消化不良気味な面もあり、今後さらなる成長を期待したい。なお、同時発売のVol.2はビッグバンド中心とのことで、こちらも今後聴いていきたい。Callum Au:Sing Seven Seas – Volume 1(Chairman Music in association with ECN Music CABBDIG003)24bit 48kHz Flac1.Swipe Right!(右にスワイプ!)2.Galt's Motor(ガルトのモーター)3.Si Vis Pacem Para Carnyx(平和を望むなら、カルニュクスを備えよ)4.Tethys(テテュス)5.Murmurations(鳥の群舞)6.The Weaver(機織りをする人)7.jazz.aiAll composed & arranged by Callum Aufeaturing:track 1. Sam Watts(p)、Duncan Hemstock(cl)track 2. Jake Willson(g)、Nadim Teimoori(ts)track 3. Andy Wood(carnyx)、Callum Au(carnyx)、Gareth Lockrane(picc.)、Kay Au(vn/va)、Jessie Grimes(whistle)、Karen Street(accordion)track 4. Tom Walsh(flh)、Andy Wood(tb)、Lauren Weavers(ob/Cor Ang.)track 5. Chad Lefkowitz-Brown(ts)、Callum Au(tb)track 6. Nadim Teimoori(ts)、Anthony Kerr(vib)、John Mills(vn)track 7. Matt Forbes(narration)、Emma Rawicz(ts)、James Davison(flh)、Callum Au(tb)Recorded at Lightship 95 Recording Studios, London, England
2026年07月13日
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以前Presto Musicを見ていたら、指揮者のマイケル・ティルソン・トーマス氏(1944-2026、以下MTT)がお亡くなりになったことが報じられていた。最近の写真を見て随分と老けたなとは思っていたが、亡くなるとは思っていなかった。MTTは2021年にグリオブラストーマ(悪性脳腫瘍)で手術を受け、その後2025年に再発を公表し、闘病を続けながら活動するも、2026年4月22日に自宅で亡くなったそうだ。グリオブラストーマとは、脳内のグリア細胞から発生する最も悪性度の高い原発性脳腫瘍で、増殖が非常に速く、周囲の正常な脳組織に浸潤するため、極めて治療が難しい病気として知られている。WHO分類では最も高いグレード4に分類される。ちなみにMTTはゲイで、夫のジョシュア・ロビソンも今年亡くなっている。筆者はアダムズ、アイブズ、コープランドなどを聴いているだけで、それほど氏の録音を多く聴いているわけではない。印象としては、アメリカ音楽やマーラーで明晰な演奏を行う指揮者であり、ジャズなどのポピュラー音楽にも造詣が深い人物というものだ。個人的にはKeeping Scoreシリーズ(DVD)で楽曲の奥深さを教えてもらったことが懐かしく思い出される。それでSpotifyで彼の録音をチェックしたところ、以前からペンディングになっていた自作曲「アンネの日記から」の録音がProStudioMastersで比較的安価だったので、ダウンロードして聴いているところだ。ディストリビューターのコメントによると、サンフランシスコ交響楽団の音楽監督としての25年と、その最後のシーズンを記念した録音とのこと。因みにこのアルバムは2021年のグラミー賞を受賞している。「リルケの瞑想」(2019)は、オーストリアの詩人ライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke)(1875-1926)による6つの詩をテキストにした作品で、その詩の叙情的な広がりにふさわしい感情豊かな旅へと聴き手を誘う。MTTによると、「私が長年育んできた音楽的動機や和声をもとにした作品で、共通の動機が変奏・再構成され、伝統的な音楽語法を用いて、加齢と孤独を描いたリルケの世界を郷愁に満ちた響きで表現している」とのこと。耽美的な側面も多少感じられるが、全体に清々しく気持ちの良い作品だ。マーラーからの影響も感じられ、MTT独特の優しい肌触りがある。オーケストラのテュッティは少なく、さまざまな楽器が印象的に登場する。MTTのペンの冴えが感じられる作品だ。第1曲「秋の日」は、ノスタルジックな酒場を思わせるピアノやクラリネットが遠くから聞こえてくる。そこからオーケストラのテュッティとなり、MTTの世界が広がる。全体的に晩秋の雰囲気を持つ味わい深い曲だ。中には第3曲「酒飲みの歌」のようなシニカルな歌もある。この曲は酒が擬人化され、主人公が酒と付き合っているうちにすっかり酒浸りになるという内容で、マーラーを思わせる瞬間がある。メゾソプラノで歌われる「私は広がりゆく環の中で生きる」は比較的明るい歌で、青空を鳥が舞うようなのどかで清々しい情景が浮かんでくる。「何度でも」は前半3分ほどがトランペットやホルンの美しいソロを中心とした、悲しみを帯びながらも安らぎに満ちた心温まる長い前奏となっている。声楽が加わると、「何度死んでもまた会いましょう」という内容とともに、にわかに劇的な表情を見せる。「秋」で初めて二人の歌手が揃って登場する。速めのテンポで躍動的な主題が流れ、劇的で映画音楽的な展開を見せる一編だ。後半はやや失速するものの、バス・バリトンの歌唱は語りに近い表現から時に劇的な歌唱まで聴かせ、この曲最大の聴きどころだろう。ハープに支えられながら「Fallen」を何度も繰り返すエンディングは、マーラーの「大地の歌」終楽章「告別」で「ewig(永遠に)」を繰り返す終結部を思い出させる。そこには同じような諦念が感じられ、まるでリルケとマーラーが響き合っているかのようだ。この曲ではバスバリトンのライアン・マキニー(1980-)とメゾソプラノのサーシャ・クック(2018-)が共演している。マキニーは深みのある声で、重力感がありながら重くなり過ぎないところが魅力だ。時に朗々とした歌唱を展開するところも申し分ない。サーシャ・クックは輪郭のはっきりした明るめの声質で好印象だ。「アンネのも日記より」は4部に分かれており、MTTの解説によると、アンネ・フランクと同い年だったオードリー・ヘップバーンに捧げられたメロドラマだそうだ。MTTはアシュケナージ系ユダヤ人であり、主題はユダヤの伝統音楽、とりわけ生命への賛歌であるカディッシュの語法から導き出されている。短いモチーフながら愛らしく爽やかで、強い印象を残す音楽だ。第1部では日記をつける理由が語られ、最後に対話の相手としてキティという架空の友人の名が登場する。第2部ではナチスによる迫害、隠れ家での生活、戦争への恐怖、そしてアンネの内面的成長が描かれる。隠れ家生活を描いた部分では不協和音が不穏な空気を醸し出し、その後バーンスタインばりの変拍子によるリズミックな音楽が展開される。ここでは、ナチスによって「世界全体がひっくり返ってしまった」かのような感覚と、日常生活が徐々に崩壊していく様子が描かれているようだ。第2部の最後は語りがなく、トロンボーンのソロを中心とした音楽となる。ショスタコーヴィチを思わせる圧迫感と恐怖を感じさせる、実に恐ろしい音楽だ。第3部では一転して、自然、恋、自己発見など彼女の幸福な時間が楽しげな楽想とともに描かれ、生きる喜びに満ちている。第4部とされている部分はブックレットの記載によるもので、このアルバムのトラック・データでは第3部の最後に含まれている。浄化されるような気分と晩秋のような雰囲気がある。「人間は本当は心の中では善良なのだ」という有名な言葉とともに手記は終わるが、その後どす黒い感情を呼び起こすような大太鼓のロールが鳴り響き、彼女のその後の運命を暗示しているようだ。全体に暗い題材なのだが、なぜか清々しさが感じられるのは、彼女の無垢な精神に触発されているのかもしれない。ナレーターのイザベル・レナードはアメリカのメゾソプラノ歌手。発音が明瞭で、少女の心情を豊かに表現しており申し分ない。ということで、MTT円熟の筆による力作だったが、難解なところは皆無で、大いに楽しめる作品だった。アメリカ音楽やMTTが好きな方なら、きっと気に入ってもらえると思う。Tilson Thomas: From the Diary of Anne Frank & Meditations on Rilke(SFS Media)24bit 96kHz FlacMichael Tilson Thomas:1.From the Diary of Anne Frank(1990) 1.Part I:The Capture Foretold(捕らえられる予感) 5.Part II: The Final Entry(最後の記述) 9.Part III: Aftermath(その後)13.Meditations on Rilke 13. 秋の日 14. 私は広がりゆく環の中で生きる 15. 酒飲みの歌 bs-br 16. 何度でも inst 17. 想像上の履歴書 bs-br、ms 18. 秋Isabel Leonard(narrator track 1-12)Sasha Cooke(ms track )Ryan McKinny(b-br)San Francisco SymphonyMichael Tilson Thomas Recorded November 15–18, 2018 From the Diary of Anne FrankJanuary 9–12, 2020 Meditations on Rilke at Davies Symphony Hall San Francisco War ,SF
2026年07月11日
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この前Spotifyを聴いていたら、アントニオ・サンチェスのアルバムがお薦めに出てきた。最近は新譜が出ていなかったので、映画音楽の仕事が忙しいのかと思っていた。調べてみると、最新作はテレビ番組の音楽で、その前の2作はラテン色の強いアルバムだった。少し聴いてみたところ、どちらも素晴らしく、思わずダウンロードしてしまった。その中でも、今年リリースされた「Elipsis」を取り上げたい。Elipsisとは、スナーキー・パピーのマイケル・リーグが結成した新グループ「エリプシス」の名前だ。ディストリビューターのコメントによると、『サウンドはアフロ・キューバン音楽をベースにしつつも、マイケル・リーグ的なキーボードとベースの音像、コーラス、ジャズのボキャブラリーなどが混じり合い、現代性が高い解像度で表現されている。』とのことだ。実際、大地から湧き上がってくるような原初的エネルギーが噴出する、凄まじくもダイナミズムに満ちた音楽だった。サウンドデザインも凝っていて、エレキギターやヴォーカルが強く歪んでいるのに対し、ドラムスだけはすっきりとした音作りになっているのも面白い。最初はペドリート・マルティネスの、呪文や儀式を思わせる粗野で圧倒的なヴォーカルに注意を奪われていたが、そのうちリーグによる荒々しいギターやクールなシンセサウンドにも気付いた。このブレンドが何ともいえない味を生み出している。また、時折聞こえるマルティネスのオーバーダブによるバックコーラスも、リーグのミキシングによって呪術的な雰囲気を醸し出しており、実に効果的だ。サンチェスは持続するエネルギーに満ちた重量級のドラミングで、マルティネスのコンガや全6曲で30分ほどのアルバムだが、演奏は濃密な演奏と暴力的なまでの大迫力に満ちており、短さはまったく感じられない。ただ、どの曲も同じ方向性で押し切るため、もう少し変化があればとも思った。ところで、このグループは小規模ながらライブ活動も行っており、その際にはGlenda del E(ピアノ、キーボード、ヴォーカル)が加わっているようだ。バルセロナでのライブ映像がYouTubeに上がっているが、彼女の参加によって音楽の厚みが増していることが分かる。次回はぜひ、彼女を加えたカルテット編成でレコーディングしてもらいたいものだ。録音はニューヨークでドラム、パーカッション、ヴォーカルの基本セッションを行い、そのデータをリーグのスペイン・カタルーニャ州の自宅スタジオへ送り、多数のベース、ギター、キーボード、民族楽器などをオーバーダビングしたものだそうだ。Michael League, Pedrito Martínez, Antonio Sánchez:Elipsis(GroundUP Music RPOZ-10102)24bit8 96kHz Flac1. Michael League、Pedrito Martínez、Antonio Sánchez:Obbakoso2. Pedrito Martínez、Antonio Sánchez:Caminando(歩きながら)3. Michael League、Pedrito Martínez、Antonio Sánchez:Variant(変異)4. Michael League、Pedrito Martínez、Antonio Sánchez:Mi Tambor(私の太鼓)5. Michael League、Pedrito Martínez、Antonio Sánchez:Suuru6. Michael League、Antonio Sánchez:Congo No Calla(コンゴは沈黙しない)Tracks 1, 3–5: Arranged by Michael LeagueTracks 2, 6: Arranged by Michael League & Antonio SánchezMichael League(b,key,g)Pedrito Martínez (conga,Bata drum,vo)Antonio Sánchez (ds)Basic tracks recorded in New York, USA. Additional overdubs recorded in Catalonia, Spain, in 2025
2026年07月08日
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筆者が結構贔屓にしているドイツのソプラノのアンナ・ルチア・リヒター(1990-)のマーラー歌曲集を聴く。以前から気になっていたが、購入するまでには至っていなかった。ところが、BBC Music Magazineのヴォーカル部門賞にノミネートされていることを知り、早速ダウンロードした。気に入らないところも2、3あったが、水準は高い。伴奏も満足度は高かった。彼女はもともとリリック・ソプラノだったが、近年は本人がレパートリー拡張のために声域を下げ、現在は「メゾソプラノ」として活動することも増えているらしい。このアルバムでは声質自体はソプラノだろうが、サウンドはかなりメゾ寄りで、それが落ち着いた雰囲気を生み、マーラーに相応しい歌唱になっていると思う。プログラムは「少年の魔法の角笛」から8曲と、「亡き子をしのぶ歌」全曲という構成だ。「少年の魔法の角笛」は、曲によって不自然だと感じる箇所があった。レガートではなく、一語一語を念押しするような歌い方になったり、感情を出し過ぎていると思われる場面があるのだ。例えば「ラインの小さな伝説」では、感情表現を控えめにし、曲そのものに語らせるようなアプローチが欲しかった。もっとも、この曲集は場面設定や登場人物が多岐にわたり、曲ごとにアプローチを変える必要があるだけに、それだけ難しい作品なのだろう。筆者のデフォルトは全曲ではないが、イボンヌ・ミントンがショルティの指揮で歌ったアルバムだ。言葉のニュアンス付けと交響的な流れがうまく両立した好例だと思う。今回のこのアルバムで特に上手くいっているのは「美しいラッパが鳴り響くところ」と「原光」だ。ただし、「美しいラッパが鳴り響くところ」はまだ感情移入が過多で、少し大げさなクレッシェンドには何が起こったのかと思わされる。一方、「亡き子をしのぶ歌」は解釈の幅が比較的狭く、内省的な作品であり、全曲を通して一貫した感情で歌うことができるため、現在のリヒターには適したレパートリーだろう。あまり感情移入し過ぎないフラットな感覚なので違和感はなく、演奏を楽しむことができた。バックはカナダ出身のジョルダン・デ・ソウザ指揮、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団。歌手との距離感が絶妙で、申し分のないサポートぶりだった。普段は録音の細部が気になるものだが、今回は録音についてあれこれ考えることもなく、快適に聴くことができたのは精神衛生上大変良かった。今回の場合は演奏のほうに気を取られていたという面もあるが、スケール感こそ大きくないものの、透明度の高い録音だったことは間違いない。ヴォーカル作品で時折気になる声の崩れもなかった。ということで、期待した割には不満が先に出てしまうという展開になった。それだけ「少年の魔法の角笛」が音楽的に難しい作品であることが、今更ながら感じさせられた。Anna Lucia Richter:Songs Of Fate(Myrios Classics MYR036)24bit 128kHz FlacGustav Mahler:Des Knaben Wunderhorn(少年の魔法の角笛)より1. Wer hat dies Liedlein erdacht?(この歌を作ったのは誰?)2. Rheinlegendchen(ラインの小さな伝説)3. Das irdische Leben(この世の人生)4. Verlorne Müh'(無駄な骨折り)5. Des Antonius von Padua Fischpredigt(パドヴァの聖アントニウスの魚への説教)6. Lob des hohen Verstandes(高き知性への賛歌)7. Wo die schönen Trompeten blasen(美しいラッパが鳴り響くところ)8. Urlicht(原光)Kindertotenlieder(亡き子をしのぶ歌)9. Nun will die Sonn' so hell aufgeh'n!(いま太陽は明るく昇ろうとしている)10. Nun seh' ich wohl, warum so dunkle Flammen(いま私はわかる、なぜあのように暗い炎だったのか)11. Wenn dein Mütterlein(おまえのお母さんが)12. Oft denk' ich, sie sind nur ausgegangen!(私はよく思う、あの子たちはただ出かけただけなのだと)13. In diesem Wetter!(この嵐の中で!)Anna Lucia Richter (ms)Gürzenich-Orchester KölnJordan de SouzaRecorded: 2025, Studio Stolberger Strasse, Köln, Germany
2026年07月05日
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ランディ・ナポレオン(1978-)というギタリストの企画した、エレクトリック・ギターの五重奏(ギター・クワイア)にピアノ・トリオが加わるという珍しい編成によるアルバム『Waking Dream』を聴く。同種の録音は他にあまり例がないと思われるが、本作は非常に成功した試みだ。この録音の肝は、エレキ・ギターの特性を巧みに生かしている点にある。特にサスティン(音の伸び)の長さや音量を揃えやすいことが効果的に作用しており、アコースティック・ギターではなかなか得られないサウンドを実現している。そのため、楽曲もギター・クワイアの特性を生かしたゆったりとしたテンポのものが中心で、そのまろやかな響きに身を委ねるのが実に心地よい。また、ピアノが加わることで、ギターだけでは単調になりがちなサウンドに適度な変化を与えている。本作はギター・アンサンブルの響きを味わうことに主眼が置かれているため、技巧を誇示するようなアドリブはほとんど登場しないが、それがかえって作品の魅力を高めている。曲目はナポレオンの作品が4曲、アメリカの作曲家・プロデューサーであるGregg Hillの作品が6曲という構成だ。しかし、アレンジはすべてナポレオンが手がけているため、全曲がナポレオンのオリジナルと言われても違和感はない。気に入ったのはラテン・フレーバーあふれる「The Speckled Frog」で、クインシー・デイビスのラテン色豊かなプレイが光る。聴いていると南国の空気を感じさせる一曲だ。タイトル・チューンの「Waking Dream」も印象的で、ゆったりとした流れの中にアメリカ西海岸の穏やかな風を思わせる優しさが漂う。「Cafe Brasilia」も題名どおり爽やかなナンバーだ。硬質なリリシズムを感じさせるピアノや、全編を通じて積極的に楽曲を推進するドラムスなど、リズム・セクションも好演している。テンポの速いハードバップ・ナンバー「The Singer」では、ぐいぐいと迫ってくるギター・ソロが実にご機嫌だ。曲によってはゲストのホーン奏者が加わり、サウンドが単調になることを防いでいる。「Riverside Blossoms」で聴かれるマイケル・ディースの温かみのあるトロンボーンも魅力的だ。アルバムは賑やかな「Boom Boom」で締めくくられる。この曲では五人のギタリストにまんべんなくソロが割り振られているようだが、音場の広がりがそれほど大きくないため、各人のプレイを聴き分けにくいのが惜しい。録音は温かみのある音色が印象的で、Troubadour Recording Studiosの音響特性によるところが大きいようだ。ただし、ギター・クワイアの音像が他の楽器に比べてやや大きく、長時間聴いていると少々疲れを感じる。とはいえ、エレクトリック・ギター・クワイアという新しい領域に挑んだ本作は、見事な成果を収めた一枚だ。続編も期待したい。Randy Napoleon:Waking Dream(OA2 Records OA2 22241)24bit 96kHz Flac1.Randy Napoleon : Super Moon2.Gregg Hill : The Speckled Frog3.Gregg Hill : Waking Dream4.Randy Napoleon : Two Thoughts5.Gregg Hill : Cafe Brasilia6.Gregg Hill : The Singer7.Gregg Hill : 52 Pickup8.Randy Napoleon : Riverside Blossoms9.Gregg Hill : Jo Jo Jo10.Randy Napoleon : Boom Boomall arranged by Randy NapoleonRandy Napoleon(g)Luke Sittard(g)Chris Minami(g)Jocelyn Gould(g)Ben Turner(g)Rick Roe(p)Rodney Whitaker(b except track6,7)Quincy Davis(ds except track6,7)Anthony Stanco(tp track 2)Michael Dease(tb track8)Walter Blanding(ts track10)Langston Kitchen(b track 6,7):⑥⑦Michael J. Reed(ds track 6,7)Lynne Brown(guiro track2)Recorded November 18–19, 2024,Troubadour Recording Studios, Lansing, Michigan, USA
2026年07月03日
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